- モノタロウが自社製の「購買AIエージェント」をわずか4ヶ月で開発・公開しました
- 建設業の人が「ねこ」と検索すると一輪車が出る。業種や購買履歴から答えを変える仕組みが強みです
- 汎用AIに商品探しを任せると、顧客データが取れなくなる。そのリスクを避けるための内製でした
- 2024年導入のベクトル検索で、これまで0件だった検索でも約70%の確率で正解を出せるように
- 約2800万点の商品から、過去に買った物を自然な言葉で再注文できる機能が特に人気です
ネットショッピングで「欲しい物がなかなか見つからない」と感じたことはありませんか。工具や資材を扱う通販大手モノタロウが、その悩みに生成AIで挑みました。しかも同社は、話題のChatGPTなどに検索を丸投げしませんでした。なぜ自分たちでAIを作ったのか。そこには「顧客データを守る」という強い意志があります。この記事では、その裏側と私たちへの影響をやさしく解説します。
何が起きた?モノタロウが自社製の購買AIを公開
2026年7月、あるニュースが話題になりました。工業用間接資材の通販大手モノタロウが、独自の「購買AIエージェント(買い物を手伝うAI)」を開発したのです。
発表の場は「AWS Summit Japan 2026」でした。6月25日から26日に幕張メッセで開かれた、クラウド技術の大きなイベントです。
モノタロウが扱う商品は、なんと約2800万点。工具やネジ、作業服など、その種類はぼう大です。
これだけ多いと、目的の商品を探すのは大変です。そこで同社は、検索を賢くするAIをわずか4ヶ月で作り上げ、自社のECサイトに組み込みました。
ポイントは「自社開発」という部分です。多くの企業がChatGPTのような外部のAIを使う中で、モノタロウはあえて自分たちで作る道を選びました。その理由は後ほど詳しく説明します。
「ねこ」で一輪車が出る?モノタロウ検索の秘密
今回いちばん注目を集めたのが、「ねこ」というキーワードの話です。
建設現場で働く人がモノタロウで「ねこ」と検索すると、動物の猫ではなく手押しの一輪車が表示されます。不思議に思うかもしれません。
実は建設業界では、荷物を運ぶ一輪車のことを「ネコ車」と呼びます。現場の人にとっては、ねこ=一輪車が当たり前なのです。
モノタロウのAIは、こうした業種ごとの言葉づかいを理解します。さらに、その人の過去の購買履歴も見ています。
つまり、同じ「ねこ」でも、建設業の人には一輪車を、ペット用品をよく買う人には猫グッズを出す。相手に合わせて答えを変えているのです。
この「相手に合わせる力」こそ、汎用的なAIチャットにはまねしにくい、モノタロウならではの武器です。
なぜ汎用AIに任せなかったのか
ここで大きな疑問がわきます。「ChatGPTに任せれば楽なのに、なぜ自分たちで作ったの?」ということです。
答えは「顧客データを守るため」です。
もし多くの人が汎用AIチャットで商品を探すようになると、どうなるでしょうか。モノタロウのサイトを直接使う人が減ってしまいます。
すると、同社の一番の強みである「お客さんがどう探し、何を買ったか」という行動データが集まらなくなります。
CTO(技術のトップ)の普川泰如氏は、この危機感をはっきり語っています。データを使ってサービスを良くしたい会社にとって、データが取れなくなることは大きなリスクだ、という考えです。
そこで同社が目指したのは、はっきりしたゴールでした。「BtoB(企業間取引)の商品探しなら、うちのエージェントが世界で一番うまい」という状態です。
4ヶ月で作った購買AIエージェントの中身
では、このAIは具体的にどう賢いのでしょうか。土台になっているのが「ベクトル検索」という技術です。
ベクトル検索とは、言葉の意味の近さで商品を探す仕組みです。単語がぴったり一致しなくても、意味が近ければ見つけてくれます。
モノタロウは2024年にこれを導入しました。その結果、これまでキーワード検索で結果が0件だったケースでも、約70%の確率で正しい商品を出せるようになりました。
利用シーンは大きく3つ
同社はお客さんの使い方を3つに分けて分析しています。
- 指名検索:型番や商品名がはっきり決まっている場合
- 用途検索:「油汚れを落としたい」など目的から探す場合
- リピート購買:前に買った物を、また注文する場合
この中で特に成果が高いのがリピート購買です。注文につながる率が、他とくらべてダントツに高いといいます。
ある工場の資材担当者を想像してみてください。毎月同じ手袋や潤滑油を発注します。型番を覚えるのは面倒です。
そんなとき「先月頼んだ耐油手袋をもう一度」と話しかけるだけで注文できたら、どれだけ楽でしょうか。AIエージェントは、まさにこれを実現します。
従来の検索や汎用AIとの違い
モノタロウのやり方は、これまでの検索や他社のAIと何が違うのでしょうか。整理してみます。
- 昔のキーワード検索:言葉が一致しないと0件になりがち。「ねこ」では一輪車を出せません
- 汎用AIチャット(ChatGPTなど):会話は得意でも、その会社独自の商品データや購買履歴は持っていません
- モノタロウの購買AI:2800万点の商品データと、お客さんの行動履歴をかけ合わせて答えます
いちばんの差は「専門性」と「自社データ」です。汎用AIは広く浅く答えます。モノタロウのAIは、BtoBの資材探しに狭く深く特化しています。
加えて同社は、コストを下げる工夫も進めています。全ユーザーに広げるとAIの利用料がかさむため、この用途に特化した小型の言語モデル(SLM)を自前で動かす検討をしています。
日本のユーザーや企業への影響
この話は、遠い大企業だけの出来事ではありません。私たち日本の消費者や企業にも関係します。
まず消費者としては、ネット通販の「探しにくさ」が今後どんどん減っていく可能性があります。曖昧な言葉でも欲しい物にたどり着けるようになります。
次に企業にとっては、大事な教訓があります。自社の顧客データは、AI時代の最大の資産だということです。
安易に検索を外部AIへ丸投げすると、お客さんとの接点やデータを失いかねません。モノタロウの決断は、その危険をいち早く見抜いたものといえます。
国内のECサイトや小売業にとって、「自社の強みをどうAIに乗せるか」を考える良いお手本になりそうです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 購買AIエージェントとは何ですか?
買い物を手伝ってくれるAIのことです。ほしい商品を会話や短い言葉から探し出し、注文までを助けてくれます。
Q2. なぜ「ねこ」で一輪車が出るのですか?
建設業界では一輪車を「ネコ車」と呼ぶからです。AIが業種や過去の買い物を見て、その人向けの答えを出しています。
Q3. モノタロウは誰でも使えますか?
モノタロウは主に企業や事業者向けの通販ですが、個人事業主や一般の人も購入できます。工具やDIY用品も豊富です。
Q4. ChatGPTで買い物すればいいのでは?
汎用AIは会話は得意ですが、特定の店の全商品データや購買履歴は持ちません。専門店の中では自社AIの方が正確に探せる場合が多いのです。
Q5. ベクトル検索とは何ですか?
言葉の「意味の近さ」で商品を探す技術です。単語が完全に一致しなくても、近い意味の商品を見つけられます。
まとめ
モノタロウの取り組みから見えたポイントを振り返ります。
- 自社製の購買AIエージェントを、わずか4ヶ月で開発・公開した
- 「ねこ」で一輪車を出すように、業種や履歴に合わせて答えを変える
- 汎用AIに任せず内製したのは、顧客データという資産を守るため
- ベクトル検索で、0件だった検索も約70%が正解にたどり着けるように
- 特にリピート購買との相性が良く、コスト削減へ小型AIも検討中
次のアクションとして、あなたの会社や仕事で「自社にしかないデータは何か」を一度書き出してみてください。それがAI時代の武器になります。

