MSが競合AIを”くさす”訓練|狙いは10倍安いMAI

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Microsoftが営業チームに、OpenAIやAnthropicの製品を「けなす」トークを訓練していると報じられました。
  • 狙いは、自社開発のAI「MAI」モデルを売り込むこと。「最大10倍のコスト効率」をうたっています。
  • すでにExcelやOutlookの内部処理が、こっそりMAIモデルに切り替わり始めています。
  • 背景には、2026年4月にMicrosoftとOpenAIの「独占契約」が終わったことがあります。
  • 日本企業もMicrosoft 365 Copilotを多く使っており、無関係ではいられない話です。

いつも使っているExcelやOutlook。その裏側で動くAIが、知らないうちに別のものに入れ替わっていたら、あなたはどう感じますか?いま、Microsoftがまさにその大転換を進めています。しかも社員には「ライバルのAIをけなす」訓練までしているというのです。何が起きているのか、やさしく整理します。

何が起きた?MSが営業に「競合けなし」を指示

ことの発端は、2026年7月15日にBloomberg(ブルームバーグ、米国の大手経済メディア)が報じたニュースです。

報道によると、Microsoftは社内の戦略会議で、営業担当者に向けてある方針を打ち出しました。

それは、OpenAI・Google・AnthropicといったライバルのAIを、自社製品と比べて「見劣りする」と顧客に説明するという内容です。

会議では幹部のジェイ・パリック氏がこう語ったとされます。「他社は部品を売っているだけ。私たちは端から端まで全部そろったシステムを売っている」。

さらにCopilot担当の幹部は、AnthropicのAI「Claude(クロード)」を名指しで比較しました。

Officeアプリの中で使うと「動作が遅く、正確さも足りず、セキュリティの連携も不十分だ」と説明したというのです。

ライバルを持ち上げるのではなく、はっきり「うちの方が上」と言わせる。かなり踏み込んだ営業戦略と言えます。

「10倍安い」自社AI・MAIモデルとは

今回の主役は、Microsoftが自分たちで作ったAI「MAIモデル」です。

MAIは2026年の開発者向けイベント「Build 2026」で発表された、7つのAIモデルの集まりです。

その中心が「MAI-Thinking-1」という推論(じっくり考えて答えを出す)タイプのモデルです。

数字で見るMAIの実力

MAI-Thinking-1は、35億の「アクティブパラメータ」(AIの賢さを支える部品の数)を持ちます。

一度に読み込める文章量は最大25万6000トークン(英単語およそ20万語ぶん)と、とても大きいのが特徴です。

Microsoftが強調するのは、なんといってもコストの安さです。

企業向けに調整した使い方では、ライバルのモデルと比べて最大10倍もコスト効率が良いと主張しています。

たとえばExcel用に調整したMAIは、OpenAIの「GPT-5.4」と同じくらいの性能を、10分の1に近いコストで出せるといいます。

プログラミングの腕前を試す非公開テストでは、AnthropicのClaude Opus 4.6と互角だったという報告もあります。

なぜ今、OpenAIと距離を置くの?

MicrosoftとOpenAIといえば、これまで「AIの二人三脚」のような関係でした。

Microsoftは合計130億ドル(約2兆円)ものお金をOpenAIに出し、独占的なパートナーだったのです。

ところが2026年4月27日、この関係が大きく変わります。

両社は独占契約を終わらせる、と発表しました。

その翌日には、OpenAIの新モデル「GPT-5.5」がライバルのAmazon(AWS)のサービスでも使えるようになりました。

つまりOpenAIは、Microsoft以外にも自由にAIを売れるようになったわけです。

Microsoftから見れば、大金を払って支えてきた相手が、ライバルにも回り始めた形になります。

ならば自分たちのAIを育て、コストも下げてしまおう——。今回の方針転換には、そんな事情がありそうです。

実際、2026年7月7日ごろからWord・Excel・Outlookの内部処理を、少しずつMAIに切り替える動きが報じられています。

MicrosoftはExcelやOutlookで発生する毎週数万件もの指示(プロンプト)を、自社のMAIに回し始めているといいます。

競合比較|MAI・GPT・Claudeの違い

ここで、今回登場する3つのAIの立ち位置を整理しておきましょう。

  • MAI(Microsoft):とにかく安さ重視。ExcelやOutlookなどOffice製品との連携が売り。「全部そろったシステム」を強調。
  • GPT(OpenAI):知名度No.1のChatGPTの中身。汎用的で幅広く使える。今はAWSなど他社でも利用可能に。
  • Claude(Anthropic):文章の丁寧さやプログラミングに定評。安全性の高さもウリ。企業ファンが多い。

大きな違いは「売り方」です。

OpenAIやAnthropicは、優れたAIモデル「単体」を提供する会社です。

一方Microsoftは、WindowsやOfficeというすでに世界中が使っている土台に、自社AIを組み込んで売れます。

性能の勝負だけでなく、「いつものアプリにそのまま入っている」という強みで戦おうとしているのです。

日本のユーザー・企業への影響は?

「これはアメリカの話でしょう?」と思ったかもしれません。実は、日本にも深く関わってきます。

日本の多くの企業が、Microsoft 365やその中のAI「Copilot」を業務に使っています。

ExcelやOutlookは、日本のオフィスでほぼ標準の道具ですよね。

その裏側のAIがMAIに切り替われば、私たちが使うCopilotの答え方や精度も少しずつ変わる可能性があります。

ある日本の中小企業の総務担当者を思い浮かべてください。毎日Outlookでメールの下書きをAIに手伝ってもらっているとします。

ある朝、返信の文章のクセが前と少し違う。それは中身のAIがこっそり入れ替わったサインかもしれません。

コスト面ではメリットもあります。MAIが安ければ、Copilotの料金が将来的に下がる、あるいは機能が増える可能性もあるからです。

一方で、「どのAIが自分のデータを処理しているのか分かりにくい」という不安も残ります。

日本ではデジタル庁が国産AIの整備を進めるなど、「AIの主権(どこの誰が管理するか)」への関心も高まっています。使うAIを自分で選びたい企業には、悩ましい話でもあります。

よくある質問(FAQ)

Q1. MAIモデルは、私も自分で使えますか?

いまのところMAIは、主にMicrosoftのCopilotやOffice製品の「裏側」で動くAIです。多くの人は、Copilotを通じて間接的に使う形になります。

Q2. ChatGPTはもうMicrosoftで使えなくなるの?

すぐに消えるわけではありません。ただしMicrosoftは、Office内部の処理を自社MAIへ切り替えつつあります。表向きの選択肢としてGPTが残る場面もありますが、比重は変わっていく見込みです。

Q3. 「けなす訓練」は本当にあったのですか?

これはBloombergの報道にもとづく内容で、Microsoftが公式に全文を認めたものではありません。「〜と報じられています」という段階の情報として受け取るのが安全です。

Q4. 性能は本当にGPTやClaudeに追いついているの?

Microsoftは「Excel向けの調整版はGPT-5.4並み」「Claude Opus 4.6と互角の場面もある」と主張しています。ただし、これは自社発表の数字です。実際の使い勝手は、今後の第三者テストを見る必要があります。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • Microsoftが営業に、OpenAI・Anthropicなど競合AIを「けなす」トークを訓練していると報じられた。
  • 狙いは自社AI「MAI」の拡販。「最大10倍のコスト効率」を武器にする。
  • すでにExcel・Outlookの内部処理がMAIへ切り替わり始めている。
  • 背景に、2026年4月のMicrosoft・OpenAIの独占契約終了がある。
  • Copilotを多用する日本企業にも、精度・料金・データ処理の面で影響する可能性がある。

まずは自社が使うCopilotの設定や利用規約を一度見直し、「どのAIが処理しているか」を意識することから始めてみましょう。

参考文献

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