ベゾス出資|材料探索AIに700億円集まる訳

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • イギリスのAI企業「CuspAI」が4.5億ドル(約700億円)を調達したことがわかります
  • ベゾス氏やNVIDIA、イギリス政府がお金を出した理由がわかります
  • 「材料を探すAI」がどんな仕組みで動くのかがわかります
  • 半導体や脱炭素など、私たちの暮らしにどうつながるかがわかります
  • 富士フイルムや東京エレクトロンなど、日本企業との関係がわかります

「新しい材料を見つけるのに、10年かかる」。素材の研究では、こんな話がよくあります。ところが、その時間を一気に縮めるAIに、いま巨額のお金が集まっています。あのジェフ・ベゾス氏も出資したそのAIとは、いったい何者なのでしょうか。この記事を読むと、話題の「材料探索AI」の正体と、私たちの生活へのつながりがわかります。

CuspAIとは?700億円調達のニュースを整理

まず、今回のニュースの中身を整理します。

イギリスのケンブリッジで生まれたAI企業「CuspAI(カスプエーアイ)」が、4.5億ドル(約700億円)の資金調達を発表しました。2026年7月20日のことです。

この調達で、会社の値段(企業価値)は26億ドル(約4000億円)になりました。設立は2024年なので、まだ2年ほどの若い会社です。

お金を出した顔ぶれがすごいです。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏の投資会社「ベゾス・エクスペディションズ」、半導体大手のNVIDIA、そしてイギリス政府まで名を連ねました。

今回の調達をまとめると次のようになります。

  • 調達額:4.5億ドル(約700億円)のシリーズB
  • 企業価値:26億ドル(約4000億円)
  • 主導した投資会社:Kleiner PerkinsとNEA
  • 累計の調達額:6.5億ドル超(約1000億円)

2024年にできたばかりの会社に、これだけのお金が集まる。それだけ「材料を探すAI」への期待が大きい、ということです。

「材料を探すAI」はどう動くのか

そもそも「材料を探すAI」とは、何をするものなのでしょうか。

ChatGPTの「材料版」だと考える

CuspAIのやっていることは、ChatGPTの材料版だと考えるとわかりやすいです。

ChatGPTは、大量の文章を学んで「次に来る言葉」を予想します。CuspAIのAIは、大量の化学のデータを学んで「次に来る材料の形」を予想します。

使う人は、ほしい性質を伝えるだけです。たとえば「軽くて丈夫」「熱に強い」といった注文を出します。するとAIが、その条件に合う新しい材料の候補を作り出してくれます。

10倍の速さで候補を出す

この仕組みのすごさは、スピードにあります。

従来の材料開発は、研究者が何千通りもの組み合わせを1つずつ試す「総当たり」でした。だから何年もかかったのです。

CuspAIは、この候補さがしを最大10倍の速さで進められると説明しています。「MIRA(ミラ)」と呼ぶ独自のAIプラットフォームが、その中心にあります。

しかも、ただ候補を出すだけではありません。「実際に工場で作れるかどうか」まで考えて提案します。絵に描いた餅で終わらせない工夫です。

なぜベゾスやNVIDIAが出資したのか

では、なぜ大物たちがこぞってお金を出したのでしょうか。

理由は、材料があらゆる産業の土台だからです。半導体も、電池も、太陽光パネルも、すべては「良い材料」があって初めて進化します。

NVIDIAにとっては、半導体(コンピューターの頭脳になる部品)の新しい材料は、自社のビジネスに直結します。より速く、より省エネなチップを作るヒントになるからです。

ベゾス氏は、気候変動に強い関心を持つ投資家として知られます。CuspAIは、空気中の二酸化炭素を吸い取る「炭素回収」の材料開発にも取り組んでいます。ここに未来を感じたのでしょう。

イギリス政府が「主権AI基金」から出資したのも象徴的です。国として、材料AIを産業の切り札と見ている証拠だといえます。

具体的にどんな場面で役立つ?

少し先の未来を想像してみてください。材料AIは、こんな場面で活躍します。

ある半導体メーカーの技術者が、より発熱しにくいチップ用の素材を探しているとします。これまでなら候補を1つずつ試し、数年がかりの仕事でした。材料AIなら、条件を入力するだけで有望な候補が数日で並びます。

別の場面も考えてみましょう。電池メーカーの開発者が、長持ちする電気自動車用のバッテリー材料を探しています。AIが「作りやすくて性能の高い」組み合わせを提案し、試作の回数をぐっと減らせます。

環境分野でも同じです。ある工場が、煙突から出る二酸化炭素を効率よく吸着する素材を必要としています。材料AIは、脱炭素に役立つ新素材の発見を後押しします。

このように、半導体・エネルギー・環境という、いま最も注目される分野を一気にカバーできるのが強みです。

競合・類似サービスとの違い

実は、材料をAIで探す動きはCuspAIだけではありません。世界の巨大IT企業も参入しています。

GoogleのAI部門ディープマインドは「GNoME(ジノーム)」という仕組みで、220万種類もの新しい結晶構造を見つけたと発表しました。マイクロソフトも「MatterGen(マターゲン)」という生成AIを公開しています。

これらとCuspAIの違いは、「作れること」への強いこだわりです。GoogleやマイクロソフトのAIは、理論上の新材料を大量に見つけます。しかし、その多くは実際には合成が難しいものも含まれます。

CuspAIは「合成できるかどうか」を最初から重視した設計です。研究の成果を、すぐ現場で使える形にする点で一歩踏み込んでいます。

さらにCuspAIは、45社以上が参加する連合体「AIマテリアルズ・ファウンドリ」を立ち上げました。NVIDIAやMeta、サムスンなどが名を連ねます。1社で抱え込まず、業界みんなで開発を加速させる作戦です。

日本市場への影響は?

ここまで海外の話が続きましたが、日本にも深い関わりがあります。

まず、CuspAIは東京にも拠点を構えています。今回の調達で、日本のチームをさらに拡大する方針です。ケンブリッジやベルリンと並ぶ活動地に、東京が入っているのです。

連合体の創立メンバーには、富士フイルムや東京エレクトロンといった日本企業も参加しています。どちらも半導体材料や高機能素材で世界的に強い会社です。

もともと日本は、材料開発の実力国です。半導体をつくるのに欠かせないシリコンウエハーや感光材(フォトレジスト)は、日本企業が世界シェアの多くを握っています。

日本でも「マテリアルズ・インフォマティクス」と呼ばれる、データやAIで材料を探す研究が国を挙げて進んでいます。CuspAIの登場は、日本企業にとって刺激であり、協力相手にもなり得ます。競争と連携、その両面で見ておく価値があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. CuspAIのサービスは、私たち個人が使えますか?

いいえ。CuspAIは企業や研究機関向けのサービスです。個人がChatGPTのように直接使うものではありません。ただし、生まれた新素材が製品となって、私たちの生活に届く形になります。

Q2. AIが材料を見つけたら、研究者はいらなくなりますか?

そうではありません。AIはあくまで「候補を絞り込む道具」です。実際に材料を作り、性能を確かめるのは人間の研究者です。仕事の中身が「試す」から「見極める」へ変わっていくイメージです。

Q3. 新しい材料が実用化されるまで、どのくらいかかりますか?

候補さがしは速くなっても、量産や安全性の確認には時間がかかります。数年単位のものも多いです。ただ、最初の一歩が10倍速くなる意味は大きいといえます。

Q4. なぜイギリスの会社がこんなに注目されるのですか?

共同創業者のマックス・ウェリング氏が、AIの世界で有名な研究者だからです。深層学習(人間の脳をまねた学習方法)の分野で高い評価を受けており、その技術力に期待が集まっています。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • CuspAIが4.5億ドル(約700億円)を調達し、企業価値は約4000億円になりました
  • ベゾス氏・NVIDIA・イギリス政府など、大物が続々と出資しました
  • 「材料を探すAI」は、ほしい性質を伝えると候補を10倍速で出してくれます
  • 半導体・電池・脱炭素という重要分野を一気にカバーできます
  • 富士フイルムや東京エレクトロンなど、日本企業も連合に参加しています

まずは、身のまわりの製品が「AIの見つけた新素材」でできる未来を想像してみてください。次に半導体や電気自動車のニュースを見たとき、その裏にある材料の進化にも目を向けてみましょう。

参考文献

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