この記事でわかること
- AMD と Microsoft が発表した「Helios」の詳細
- NVIDIA 独占市場への影響
- 具体的な性能と技術的な特徴
- OpenAI など大手企業の動き
- 日本企業への影響
AMD と Microsoft が発表した「Helios」とは
2026年7月20日、AMD(エーエムディー)と Microsoft が共同で、新しいAIシステム「Helios(ヘリオス)」を発表しました。Helios は、AI の計算に必要なすべての部品を1つのラックにまとめた「ラックスケール型」と呼ばれるシステムです。
従来は GPU(画像処理装置で、AI の計算にも使われる)だけを買って、自分でサーバーを組み立てる必要がありました。しかし Helios では、GPU、CPU(中央処理装置)、ネットワーク機器、冷却装置、ソフトウェアがすべて最初から統合されています。つまり、企業は届いたその日からすぐに AI の開発を始められるのです。
Microsoft は、この Helios を自社のクラウドサービス「Azure(アジュール)」に 2026年下半期から導入すると発表しました。これにより、Azure を使う世界中の企業や開発者が、Helios の高性能な計算能力を利用できるようになります。
NVIDIA 一強への挑戦
現在、AI 用の GPU 市場は NVIDIA(エヌビディア)がほぼ独占しています。2026年時点で、NVIDIA は AI GPU 市場の 70〜86% を占めていると言われています。ただし、これは 2024年の 87% からは少し下がっており、AMD などの競合企業が徐々にシェアを奪い始めています。
AMD の市場シェアは現在 5〜7% ほどですが、成長のスピードが非常に速いのが特徴です。AMD のデータセンター向け GPU の売上は、2026年に前年比 114% 成長して 150億ドル(約2兆円)に達すると予測されています。
NVIDIA の強さの理由は、高性能な GPU だけでなく、CUDA(クーダ)というソフトウェア環境にあります。多くの AI 開発者が CUDA に慣れているため、他社製品への乗り換えが難しいのです。しかし AMD は、今回の Helios で「すべてを統合したシステム」として提供することで、この壁を乗り越えようとしています。
技術的な特徴と性能
Helios の性能は驚異的です。1つのラックに以下の部品が詰め込まれています。
- GPU:AMD Instinct MI455X を 72基搭載
- CPU:AMD EPYC 第6世代(コードネーム Venice)
- メモリ:合計 31TB の HBM4(高速メモリ)
- ネットワーク:Pensando(ペンサンド)社の DPU を使用
- ソフトウェア:ROCm(ロックエム)というオープンソースのソフト
計算能力は、FP8(8ビット浮動小数点演算)で 1ラックあたり 1.4 エクサフロップス(1秒間に140京回の計算)、FP4(4ビット演算)では 2.9 エクサフロップスに達します。これは、従来の GPU サーバー数十台分に相当する性能です。
また、Helios は液冷システム(水で冷やす仕組み)を採用しています。AI の計算は大量の熱を発生させるため、従来の空冷(ファンで冷やす方法)では限界がありました。液冷にすることで、より高い性能を安定して発揮できるようになります。
重要なのは、Helios が「オープンな設計」を採用している点です。これは、特定の企業の技術に縛られず、様々な企業が参加しやすい設計という意味です。NVIDIA のように1社で全てを囲い込むのではなく、業界全体で協力して AI インフラを作ろうという AMD の戦略が表れています。
OpenAI など大手企業も採用
Microsoft 以外にも、多くの大手企業が AMD の GPU を採用し始めています。特に注目されているのが、ChatGPT を開発する OpenAI です。
OpenAI は 2025年10月に AMD と戦略的パートナーシップを結び、最大 6ギガワット分の AMD GPU を導入することを発表しました。まず 2026年下半期から 1ギガワット分の AMD Instinct MI450 シリーズの展開を開始します。6ギガワットという規模は、データセンター約 3〜5 施設分に相当する巨大なものです。
この契約の総額は数百億ドル(数兆円)に達すると見られており、AMD にとって OpenAI は最重要顧客の1つとなります。さらに AMD は、OpenAI に対して最大 1.6億株の新株予約権(株を安く買える権利)を発行しました。これは、単なる取引先ではなく、お互いの成功を共有する深い関係を築こうとしていることを示しています。
他にも、Meta(Facebook の親会社)、Oracle(オラクル)、xAI(イーロン・マスク氏の AI 企業)なども AMD の GPU を大規模に採用しています。これらの企業は、NVIDIA だけに依存するリスクを減らすため、AMD という「第2の選択肢」を確保しようとしているのです。
日本企業への影響
この動きは、日本企業にも大きな影響を与える可能性があります。
まず、Azure を使っている日本企業は、2026年下半期以降、Helios を利用できるようになります。これにより、NVIDIA の GPU が品薄で手に入らない場合でも、高性能な AI 計算環境を利用できる選択肢が増えます。
また、GPU の価格競争が激しくなることで、AI 開発のコストが下がる可能性があります。NVIDIA の独占状態では、GPU の価格が高騰していましたが、AMD という競合が力をつけることで、価格が適正化されると期待されています。
日本のクラウド事業者やデータセンター運営企業にとっても、Helios のような統合型システムは魅力的です。従来は GPU、CPU、ネットワーク機器を別々に調達して組み立てる必要がありましたが、Helios なら導入の手間とコストを大幅に削減できます。
さらに、AMD は日本市場への投資を強化しています。日本の AI スタートアップや研究機関が AMD の技術を採用すれば、NVIDIA 以外の選択肢を持つことで、より柔軟な AI 開発が可能になるでしょう。
まとめ
- AMD と Microsoft が統合型 AI システム「Helios」を 2026年下半期から Azure に展開
- 1ラックで 1.4〜2.9 エクサフロップスの計算能力を実現
- NVIDIA 独占の AI GPU 市場に AMD が本格参入、シェア拡大中
- OpenAI が最大 6ギガワット分の AMD GPU を導入する契約を締結
- 日本企業も Azure を通じて Helios を利用可能になり、選択肢が広がる
AI 開発の競争が激化する中、GPU やクラウドインフラの選択肢が増えることは、業界全体にとって良いニュースです。今後の AMD と Microsoft の動きに注目が集まります。

