- Microsoftが文字起こしAI「MAI-Transcribe-2」を2026年9月3日にプレビュー公開しました
- 音声1時間あたり0.10ドル(約15.6円)と、競合の3分の1以下の価格です
- GPT-Transcribe比10倍、Gemini 3.5 Transcribe比5倍の処理速度をうたっています
- 60言語に対応し、日本語(ja)も正式にサポート対象です
- 話者分離・単語単位のタイムスタンプ・専門用語の指定など実務向け機能が追加されました
1時間の会議を録音したのに、文字起こしが終わるまで待たされた経験はありませんか。その待ち時間と料金が、同時に大きく下がろうとしています。Microsoftが公開した新モデルは、1時間分の音声をわずか15円ほどで処理します。何がどう変わるのか、数字で見ていきます。
MAI-Transcribe-2とは?1時間15円の文字起こしAI
MAI-Transcribe-2(エムエーアイ・トランスクライブ・ツー)は、Microsoftの社内AI部門「Microsoft AI」が自社開発した音声認識モデルです。
音声認識とは、しゃべった言葉を文字に変換する技術のこと。会議の議事録づくりや動画の字幕づけで使われています。
公開は2026年9月3日。開発者向けの基盤であるMicrosoft Foundry(マイクロソフトのAI開発プラットフォーム)で、パブリックプレビューとして提供が始まりました。
注目されているのは料金です。音声1時間あたり0.10ドル(約15.6円)。ただしこれは2026年12月31日までの期間限定価格です。
リリースのペースも速いです。2026年4月にMAI-Transcribe-1、6月に1.5、そして9月に2。わずか5カ月で3世代が世に出ました。初代のMAI-Transcribe-1は2026年8月20日にすでに非推奨(サポート終了予定)となっています。
「10倍速い」の中身|速度と精度を数字で確認
競合3社より5〜10倍速い
Microsoftが公表した速度の比較は次の通りです。第三者の評価機関Artificial Analysisの計測が基準になっています。
- OpenAIのGPT-Transcribeより10倍高速
- ElevenLabsのScribe v2より7倍高速
- GoogleのGemini 3.5 Transcribeより5倍高速
とくに差が出るのは、1時間を超える長い音声だと説明されています。3時間のセミナー録音を丸ごと投げるような使い方で効いてくる数字です。
誤り率5.2%はどのくらいの精度か
精度の指標には単語誤り率(WER)が使われます。100語しゃべったうち何語を間違えたかを示す数字で、小さいほど優秀です。
MAI-Transcribe-2は、多言語の標準ベンチマーク「FLEURS」の60言語平均で5.2%を記録し、1位になりました。100語のうち約5語がずれる計算です。
Artificial AnalysisのWERランキングでは、Alibabaのモデルに次ぐ2位。ただし「精度と速さの両立」という軸では首位に立っています。
ここで一つ注意があります。5.2%はあくまで60言語の平均値です。英語のようにデータが豊富な言語ではもっと良く、話者数の少ない言語では悪くなります。日本語が平均通りかどうかは、公表されていません。
実務で効く4つの新機能
前の世代から、業務利用を意識した機能がまとめて追加されました。
1. 話者分離(ダイアライゼーション)。誰がどこをしゃべったかを区別し、「話者A」「話者B」とラベルを付けて返します。5人が入り乱れる会議でも、発言者ごとに整理された形で出てきます。
2. 単語単位のタイムスタンプ。1語ずつに開始時刻と長さが付きます。動画編集ソフトで「この単語から切りたい」という操作がやりやすくなります。
3. キーワードバイアス。社名・商品名・専門用語をあらかじめリストで渡すと、その言葉を優先的に拾ってくれます。「弊社のサービス名がいつも誤変換される」という悩みへの答えです。
4. 出力スタイルの切り替え。「えー」「あの」といったつなぎ言葉まで全部残すverbatim(逐語)モードと、それらを消して読みやすく整えるcleanモードを選べます。法務やコンプライアンスの記録には前者、公開用の字幕には後者、という使い分けができます。
ほかにも、言語を指定しなくても自動で判別する機能や、文の途中で言語が切り替わる会話(英語とヒンディー語が混じる「ヒングリッシュ」など)への対応も入っています。
料金を比較|海外モデル・国内ツールとの違い
海外の同種モデルとの価格差
音声1時間あたりの料金を並べると、差の大きさがはっきりします。
- MAI-Transcribe-2:0.10ドル(約16円)
- GPT-Transcribe:約0.27ドル(約42円)
- Gemini 3.5 Transcribe:約0.30ドル(約47円)
- 前世代のMAI-Transcribe-1:0.36ドル(約56円)
自社の前モデルからも72%の値下げです。年間10万時間を処理する規模なら、3万6000ドル(約561万円)が1万ドル(約156万円)に下がる計算になります。
国内の文字起こしサービスとは土俵が違う
日本ではNottaやRimo Voice(リモボイス)が広く使われています。Nottaは月額1,980円から、Rimo Voiceは個人向けが月1,650円から、AI要約付きのプランが月4,950円からです。
ただし、この2つとMAI-Transcribe-2は比べる土俵が違います。NottaやRimo Voiceは、録音・編集・要約・共有までそろった完成品のサービスです。
一方のMAI-Transcribe-2は、開発者がプログラムから呼び出す部品です。画面もアプリもありません。自社システムに組み込む前提の技術で、そのまま業務担当者が使えるものではない点は押さえておきたいところです。
日本での使い道|日本語対応と3つのシーン
気になる日本語対応ですが、Microsoftの公式ドキュメントの対応言語表に日本語(ja)が明記されています。60言語のうちの1つとして、正式なサポート対象です。
では、どんな場面で効いてくるのでしょうか。
たとえば、社員30人の建設会社を考えてみます。毎朝の現場ミーティングをスマホで録音していますが、担当者が手打ちで清書するため、共有は翌日になっていました。1時間15円なら、全現場・全日程を丸ごと処理しても月数百円です。翌日ではなく昼前に共有できるようになります。
自治体の議事録も相性が良さそうです。市議会の音声は数時間単位で、専門用語も多い。キーワードバイアスに議員名や条例名を登録しておけば、固有名詞の誤変換をかなり減らせます。長い音声ほど速度差が効くという特性ともかみ合います。
個人の動画制作でも使えます。YouTubeに週2本アップしている人が、単語単位のタイムスタンプを使って字幕ファイルを自動生成する。10分の動画なら、かかる費用は1円未満です。
ただし、日本のユーザーが今日から気軽に触れるかというと、そこは慎重に見る必要があります。Azureの契約とプログラミングが前提だからです。実際に多くの人が恩恵を受けるのは、国内の議事録サービスがこのモデルを裏側に採用したときでしょう。原価が3分の1になれば、値下げや無料枠の拡大という形で返ってくる可能性があります。
使う前に知っておきたい5つの注意点
華々しい数字の裏で、まだ確定していないことも多くあります。
プレビュー版です。Microsoft自身が「SLA(サービス品質の保証)なし、本番環境での利用は非推奨」と明記しています。業務の基幹に据えるのは時期尚早です。
価格は期間限定です。0.10ドルは2026年末まで。通常価格がいくらになるかは公表されていません。この安さを前提に事業計画を立てるのは危険です。
ファイルに制限があります。扱えるのは300MB未満のWAV・MP3・FLACのみ。利用できるAzureのリージョン(データセンターの場所)も限られています。
データの扱いが不透明です。診療記録や財務情報を通す場合、音声データがどれだけ保持されるかのポリシーが公開されていません。機微な情報を扱うなら、確認が必須です。
話者分離の精度は別問題です。誤り率5.2%は文字の正しさの指標であり、「誰の発言か」の正確さは含まれていません。話者の取り違えがどれくらい起きるかは、自分で試すしかありません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 今日から無料で試せますか?
いいえ。Azureのアカウントと、Microsoft FoundryのSpeechリソースが必要です。利用自体は従量課金で、1時間あたり0.10ドルがかかります。ただしAzureには無料アカウントの枠があるため、少量の検証なら実質無料で試せる場合があります。
Q2. リアルタイムの同時通訳のような使い方はできますか?
録音済みファイルの処理が基本です。ただしMicrosoftの「Voice Live API」という音声対話の仕組みでも入力の文字起こしに指定でき、音声エージェント用途が想定されています。
Q3. Whisper(ウィスパー)とどちらが良いですか?
Whisperは無料で自分のパソコンでも動かせるのが強みです。MAI-Transcribe-2は有料ですが、速度・多言語精度・話者分離で上回るとされています。手元で完結させたいならWhisper、量を速くさばきたいならMAI-Transcribe-2、という選び方になります。
Q4. 日本語の精度はNottaより高いですか?
現時点では判断できません。公表されているのは60言語の平均値だけで、日本語単体の数字は出ていません。国内ツールは日本語に特化した調整をしているため、日本語だけを見れば互角以上の可能性もあります。
Q5. 個人事業主でも使う価値はありますか?
プログラムを書ける人なら、大量の音声を扱う場合に効果があります。そうでなければ、既存の文字起こしサービスがこのモデルを採用するのを待つほうが現実的です。
まとめ
- MAI-Transcribe-2はMicrosoftが2026年9月3日に公開した音声認識モデルです
- 料金は音声1時間あたり0.10ドル(約15.6円)で、2026年末までの限定価格です
- GPT-Transcribe比10倍、Gemini 3.5 Transcribe比5倍の速度をうたっています
- FLEURSベンチマークの60言語平均で単語誤り率5.2%を記録し1位になりました
- 話者分離・単語単位のタイムスタンプ・キーワード指定・出力スタイル選択が追加されました
- 日本語は正式対応ですが、日本語単体の精度は非公開です
- プレビュー版のため本番利用は非推奨で、通常価格も未定です
まずはAzureの無料枠で自分の会議音声を1本流し、日本語の精度を自分の耳で確かめるところから始めてみてください。
参考文献
- Microsoftが文字起こしAI「MAI-Transcribe-2」をリリース – GIGAZINE
- MAI-Transcribe-2 is the fastest, most accurate and cheapest speech recognition model in the world – Microsoft AI
- MAI-Transcribe-2 – Speech Service – Microsoft Learn
- MAI-Transcribe-2: Highest quality transcription, at the fastest speed and lowest cost – Microsoft Community Hub
- Microsoft AI’s MAI-Transcribe-2 undercuts OpenAI, Google and ElevenLabs on price and speed – VentureBeat