- 元OpenAI CTOのミラ・ムラティ氏が立ち上げた新会社が、初のAIモデル「Inkling」を2026年7月15日に公開
- 総パラメータ9750億の巨大モデルを、誰でも中身を使える「オープンウェイト」で無料公開
- 「一番強いAI」ではなく「自分好みに育てられるAI」という新しい方向性を打ち出した
- 米国のオープンAIとしては最高クラスの知能スコア(41)を記録
- 日本企業が自社データで日本語特化に鍛え直せる、実用性の高い土台になる可能性
「元OpenAIの幹部が作ったAIって、どれくらいすごいの?」と気になったことはありませんか。ChatGPTの開発を技術面で率いた人物が、独立して初めて世に出したモデルが「Inkling(インクリング)」です。この記事を読むと、Inklingが何者で、他のAIと何が違い、私たちの仕事や日本企業にどう関わるのかがわかります。
Inklingとは?2026年7月に公開された話題の新AI
Inklingは、2026年7月15日に公開された新しい大規模言語モデル(人間のように文章を扱えるAI)です。
開発したのは「Thinking Machines Lab(シンキング・マシンズ・ラボ)」という米国のスタートアップです。
この会社を率いるのは、ミラ・ムラティ氏。ChatGPTを生んだOpenAIで、技術のトップである最高技術責任者(CTO)を務めていた人物です。
ムラティ氏がOpenAIを離れてから、およそ22か月。ようやく形になった「初めての作品」がInklingです。
注目されたのは性能だけではありません。モデルの中身(重みデータ)を誰でもダウンロードして使える「オープンウェイト」として無料公開された点が大きな話題になりました。
開発元「Thinking Machines Lab」ってどんな会社?
Thinking Machines Labは、2025年2月に設立されたばかりの若い会社です。
創業メンバーがとにかく豪華です。ムラティ氏に加え、ジョン・シュルマン氏やバレット・ゾフ氏など、OpenAIの中核を担っていた研究者たちが集まりました。
資金集めも桁違いでした。設立からわずかな期間で、約20億ドル(約3000億円)という記録的な資金を調達。会社の評価額はおよそ120億ドル(約1兆8000億円)に達しました。
出資者には、著名投資会社のa16zや、半導体大手のNVIDIA・AMDなどが名を連ねています。
実はこの会社、Inklingが初めての製品ではありません。2025年10月に「Tinker(ティンカー)」という、AIを手軽に微調整(ファインチューニング)できる開発者向けサービスを出しています。
つまり「AIを一から作る力」と「AIを鍛え直す力」の両方を持っている会社なのです。
Inklingの中身をやさしく解説
Inklingの性能を、数字で見ていきましょう。専門用語が多いので、ひとつずつ説明します。
巨大だけど「賢く手を抜く」設計
総パラメータ数は9750億。パラメータとは、AIの賢さを支える「脳のスイッチ」のようなものです。数が多いほど複雑なことを覚えられます。
ただし、質問のたびに全部を使うわけではありません。実際に働くのは約410億だけです。
これは「MoE(混合エキスパート)」という仕組みのおかげです。たくさんの専門家の中から、必要な担当者だけを呼び出して答えるイメージです。おかげで、巨大なのに動作は軽く済みます。
大量の学習量と長い記憶
学習に使ったデータは、45兆トークン(トークンは単語や文字のかたまり)にのぼります。文章だけでなく、画像・音声・動画からも学びました。
一度に読み込める文章の長さ(コンテキストウィンドウ)は、最大100万トークン。分厚い本を丸ごと渡しても、内容を覚えたまま会話できる長さです。
さらに、より小さくて扱いやすい「Inkling-Small」(総パラメータ2760億)も公開が予定されています。
「一番強い」ではなく「自分のものにできる」AI
ここがInkling最大の特徴です。Thinking Machines Labは、はっきりとこう言っています。「これは今使える最強のモデルではありません」と。
ふつう新しいAIは「うちが一番賢い」と競い合うものです。あえてそこを狙わない姿勢は、少し意外に感じませんか。
その代わり同社が掲げたのは、「自分のものにできる土台」というコンセプトです。
Inklingには「自己ファインチューニング」という機能があります。使う人が、自分の目的に合わせてAIを鍛え直しやすくする工夫です。
また「思考労力(thinking effort)」を調整できます。じっくり考えさせて賢く答えるか、素早く安く答えるか。用途に応じてバランスを選べるのです。
ある企業の法務担当者が、契約書チェック専用のAIを社内で育てる場面を想像してみてください。汎用の賢さより、自社ルールを覚えた「専属AI」のほうが役に立ちます。Inklingはそうした使い方を後押しする設計なのです。
他のオープンAIと何が違う?比較で整理
中身を公開するAIは、Inklingが初めてではありません。代表的なライバルと比べてみましょう。
- Meta「Llama(ラマ)」:オープンAIの草分け。企業の微調整用の土台として広く使われています。
- 中国「DeepSeek(ディープシーク)」:低コストと高い自由度が魅力。個人のパソコンでも改造しやすいのが強みです。
- OpenAI「gpt-oss」:ChatGPTの会社が出した公開モデル。
知能を測る第三者評価(Artificial Analysisの指数)では、Inklingは41点を記録し、米国のオープンAIとしては最高クラス。gpt-oss-120b(24点)などを上回りました。
一方で、正直な弱点もあります。中国のDeepSeek V4 ProやKimiなどは、プログラミングや推論の一部でInklingより上と報じられています。
ただしInklingには「省エネ」という武器があります。難しい問題を解くとき、ライバルより少ない計算量で答えを出せるとの測定結果が出ています。使うほど電気代やコストが効いてくる企業には、うれしいポイントです。
日本のユーザー・企業にどう関係する?
「海外の話でしょ」と思うかもしれません。しかし、Inklingの公開は日本にとっても見逃せません。
理由は、ライセンスが「Apache 2.0」だからです。これは商用利用も改造も、かなり自由に認めるルールです。
つまり日本企業が、Inklingを自社のサーバーに置いて、日本語や自社業務に特化させて使えるということです。
これはデータを外に出したくない企業に向いています。顧客情報を海外のAPI(外部サービスの窓口)に送らず、社内で完結できるからです。
日本では今、デジタル庁が政府AI「源内」を進めるなど、自国で管理できるAI(ソブリンAI)への関心が高まっています。Inklingのような高性能なオープンAIは、こうした国産の取り組みを補う選択肢にもなり得ます。
個人にとっても無関係ではありません。日本語対応を強めた派生モデルが登場すれば、無料で使える高性能AIの幅がさらに広がるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. Inklingは無料で使えますか?
はい。モデルの中身がオープンウェイトとして公開されており、Apache 2.0ライセンスの範囲で無料で利用・改造できます。ただし動かすには相応の計算環境が必要です。
Q2. スマホで動きますか?
本体は9750億パラメータと巨大なので、そのままスマホで動かすのは難しいです。軽量版「Inkling-Small」や、圧縮した派生モデルなら将来的に選択肢が広がる可能性があります。
Q3. ChatGPTのように誰でもすぐ会話できますか?
ChatGPTのような手軽なアプリではなく、開発者や企業が自分で組み込んで使う「土台」です。一般ユーザーが直接触るには、対応サービスの登場を待つ形になります。
Q4. 画像や音声も作れますか?
学習には画像・音声・動画も使われていますが、現時点での出力は文章が中心と説明されています。マルチモーダル(複数種類の情報を扱う)対応は今後の拡張が期待されます。
まとめ
Inklingのポイントを振り返ります。
- 元OpenAI CTOのムラティ氏率いる新会社が、初のAI「Inkling」を2026年7月15日に公開
- 総パラメータ9750億の巨大モデルを、無料の「オープンウェイト」で提供
- 狙いは「最強」ではなく「自分好みに育てられる土台」
- 米国オープンAIとして最高クラスの知能スコア(41)と、高い省エネ性が強み
- 日本企業が自社データで鍛え直せる、実用性の高い選択肢になり得る
まずは自分の仕事で「AIに任せたい作業」を一つ書き出し、専用に鍛えたAIなら解決できないか考えてみましょう。
参考文献
- ITmedia AI+「ミラ・ムラティ氏のThinking Machines、初のAIモデル『Inkling』を公開」
- TechCrunch「Thinking Machines amps up its bet against one-size-fits-all AI with Inkling」
- Axios「Mira Murati’s Thinking Machines debuts its first AI model」
- Fortune「Murati’s Thinking Machines releases first AI model for broad use」
- VentureBeat「Thinking Machines open sources first multimodal language model, Inkling」


