経営幹部99%『2年でAIリストラ』|Mercer調査の中身

AIによる雇用削減と組織再編をイメージしたサムネイル

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Mercerの2026年版人材動向調査で、経営幹部の99%が「2年以内にAI関連の人員削減」を予想したことが判明しました。
  • 調査は16地域16業界、約1万2000人が対象で、C-suite(経営幹部)825人がほぼ全員「ヘッドカウント削減」を見込んでいます。
  • 従業員の「いきいき度」は2024年の66%から2026年は44%へ急落し、コロナ禍より低い水準に落ち込みました。
  • 影響を受けやすいのはエントリー層・顧客サポート・QAテスト・コンテンツ制作。一方でAIエンジニア需要は急増しています。
  • 日本では解雇規制が厳しく、欧米型の一括解雇ではなく「採用抑制」「配置転換」「リスキリング」が現実解です。

「AIで仕事がなくなる」は、もはやSF映画の話ではありません。2026年5月、世界最大級の人事コンサルティング会社Mercer(マーサー)が公表した最新調査で、なんと経営幹部の99%が「2年以内にAI関連の人員削減が起こる」と回答したのです。1人や2人ではなく、ほぼ全員。これが何を意味するのか、調査の中身と日本企業への影響をやさしく解きほぐします。

99%という数字の重み|Mercer調査の正体

調査主体は世界トップクラスの人事コンサル

調査を行ったのはMercer(マーサー)。マーシュ・マクレナン傘下で、人材・組織コンサルの分野では世界最大級です。日本でもトヨタやソニーなど大企業の人事戦略を支援してきた実績があります。

つまり、「AIブームに乗っただけの怪しい調査」ではなく、人事のプロが本気で集計した一級資料ということです。

対象は約1万2000人、16地域16業界

レポートの名前は「Global Talent Trends 2026(世界の人材動向2026)」。データ収集期間は2025年9月〜10月で、対象は次の4グループです。

  • 経営幹部(C-suite executives)約825人
  • 人事責任者(HRリーダー)
  • 機関投資家
  • 従業員(一般社員)

合計でおよそ1万2000人。北米・欧州・アジア・中南米まで含むため、ある特定の国だけの偏りではありません。

99%の正体は「2年以内のヘッドカウント削減見込み」

具体的に何を聞いたのか。「今後2年間で、AIや自動化を理由に何らかの人員削減が起こると思いますか?」という質問に対し、ほぼ全員(99%)が「Yes」と答えた、という構図です。

もう少し踏み込むと、65%の幹部は「今後2年で、自社の11〜30%の従業員が再配置(リデプロイ)か再教育(リスキル)の対象になる」とも答えています。10人の職場なら、1〜3人が今の仕事を続けられない計算です。

数字で見るAI雇用ショック|従業員の不安が急上昇

「いきいき度」は66%→44%に急落

従業員側のデータも衝撃的です。Mercerが追跡している「いきいきと働けていると感じる従業員の割合(thriving at work)」は、2024年の66%から2026年は44%まで22ポイント下落しました。

これは2018年の調査開始以来の最低水準で、コロナ禍真っ只中の数字すら下回っています。「会社に行くのが楽しい」と思える人が、過去最少になっているわけです。

AIで職を失う不安は2年で1.4倍

もうひとつ象徴的な数字があります。「AIで自分の仕事を失う不安がある」と答えた従業員の割合は、2024年の28%から2026年には40%へ12ポイント増。働き手のおよそ2.5人に1人が、現実的なリスクとして受け止め始めています。

62%の従業員は「経営者はAI導入の精神的な影響を過小評価している」と感じている一方、人事担当者のたった19%しかそれを戦略に組み込めていないというギャップも露呈しました。

AIアクセス格差が離職の引き金に

注目すべきは、AIツールへのアクセスが「不公平だ」と感じた従業員の59%が転職を検討しているという数字。生成AIを使える同僚と使えない自分、という温度差が、新しい離職要因になり始めています。

経営層と人事のズレ|認識のすれ違いが組織を壊す

経営幹部の優先順位はAI、人事は従業員体験

レポートで浮き彫りになったのは、経営層と人事部門が見ている方向のズレです。

  • 経営幹部のトップ3: AI・自動化を組み込んだ業務再設計/タレント・アナリティクス強化/統合的なワークフォース管理
  • 人事リーダーのトップ3: 従業員価値提案の強化/スキルベース人事プロセス/HRテック導入

ざっくり言うと、経営層は「AIで効率化する話」、人事は「人を大切にする話」をしているのです。同じ会社なのに、向いている先がちぐはぐ。

81%のリーダーが「自分でも難しい」と認めた

ただ、経営層が無能というわけではありません。リーダーの81%が「この変化への対応に苦労している」と正直に認めています。彼らも答えを持っていない、というのが正直な現状です。

人事部門が「戦略に組み込まれている」と感じる経営幹部はわずか8%。多くの企業で、人事はまだ「コスト管理部署」のままで、AI時代の組織設計には食い込めていないのです。

影響を受ける職種|エントリー層と定型業務が直撃

最も削減対象になるのは新人層

2026年に実際に行われたAI関連レイオフのデータでは、影響職種に明確な傾向が出ています。

  • エントリーレベル(新人層): 約3人に1人の人事担当者が「最も影響大」と回答
  • ミッドレベル(中堅): 15.6%が「最も影響大」
  • 具体的な業務: カスタマーサポート、コンテンツ制作、QAテスト、基本的なプロジェクト管理

共通点は「手順が決まっている」「結果を客観的に評価できる」「繰り返し作業が多い」こと。皮肉なことに、これは新人がスキルを身につけるための入り口でもあった仕事です。

一方で需要急増中のAI関連職

削減が進む裏で、爆発的に需要が伸びている職種もあります。

  • AIエンジニア
  • プロンプトエンジニア(AIへの指示を設計する人)
  • MLOps(機械学習システム運用)スペシャリスト
  • AI安全性リサーチャー
  • データインフラアーキテクト

つまり、「仕事の数」が減るのではなく「仕事の形」が変わるのが本質。問題は、エントリー職を失った人がいきなりAIエンジニアにはなれない、というキャリアの断絶です。

日本市場への影響|「静かなリストラ」が始まっている

解雇規制が厚い日本で起きていること

日本は欧米と異なり、整理解雇に「4要件」という高いハードルがあります。「Meta(メタ)が8000人解雇」のような一括レイオフは、日本企業では基本的にできません。

では何も起きていないのか?答えはノーです。日本企業では今、「静かなリストラ」とも呼ばれる3つの変化が進行中です。

  • 採用抑制: 新卒・中途の枠を絞り、自然減で人員を圧縮
  • 配置転換: 既存業務がAIで吸収された人を、新部署や子会社へ異動
  • 早期退職プログラム: 割増退職金を出して自主的な離職を促す

表向きは穏やかですが、結果として「会社の中に居場所がなくなる」現象は静かに広がっています。

経団連も動いた|9割超の企業がHRでAIを活用

経団連は2026年4月14日、「HR部門におけるAI等の活用に関する報告書」を公表しました。注目すべきは、調査対象企業の9割超が、採用・人材配置・人材育成・労務管理のいずれかでAIをすでに使っていると回答した点です。

「うちは日本企業だからAIなんて関係ない」と思っている人事担当者は、もはや少数派ということになります。

政府もリスキリング・データ基盤を整備中

2026年1月から、日本政府は各省庁が持つ職業情報サイト(厚生労働省のjob tagなど)を統合し、AIで産業別の必要スキルを体系化する取り組みを始めました。リスキリング講座と求人情報が一気通貫でつながる仕組みです。

個人ができる準備は、まず「自分の仕事の中で、AIに代替されにくい価値はどこか」を棚卸しすること。次に、AIを「敵」ではなく「強力な後輩」として使いこなすスキルを身につけることです。

類似調査との比較|McKinsey・Goldman SachsとMercerの違い

AI雇用に関する大型調査はMercerだけではありません。それぞれの調査の立ち位置を整理しておきます。

  • Mercer(人事コンサル視点): 経営幹部・人事・従業員の認識ギャップに焦点。今回紹介の「99%」が代表値
  • McKinsey(戦略コンサル視点): 2030年までに3億の業務が自動化可能と試算。タスク単位の分析が強み
  • Goldman Sachs(投資銀行視点): 米欧で3億人分の労働が影響を受ける可能性を提示。マクロ経済への波及効果を重視

3者に共通するのは「AIによる労働市場の変化は不可避」という点。違いは切り口で、Mercerは経営の現場感覚、McKinseyは業務分解、Goldmanはマクロ経済です。Mercerが「99%」と言い切れたのは、人事の最前線にいるからこそ得られる温度感が反映されているからでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 99%という数字は誇張ではないですか?

誇張ではありません。Mercerの調査では、825人の経営幹部のほぼ全員が「2年以内に何らかのAI関連の人員削減が起こる」と回答しました。「大規模リストラ」だけでなく、採用抑制や配置転換まで含めた幅広い定義であることに注意してください。

Q2. どんな職種がいちばん危ないですか?

最も影響を受けやすいのは、エントリー層と、手順が決まっている定型業務(カスタマーサポート、QAテスト、コンテンツ制作、基本的なプロジェクト管理など)です。逆にAIエンジニア、プロンプトエンジニア、MLOpsエンジニアの需要は急増しています。

Q3. 日本でも欧米のような大量解雇は起きますか?

同じ形では起きにくいと考えられます。日本には整理解雇の4要件があり、欧米型の一括レイオフは法的にハードルが高いためです。代わりに、採用抑制・配置転換・早期退職といった「静かなリストラ」が中心になります。

Q4. 自分にできる準備はありますか?

3ステップで考えると整理しやすいです。①自分の業務のうち定型部分を洗い出す ②生成AIを実際に使って業務を再設計してみる ③AIを使いこなしたうえで残る「人間の判断・関係構築・創造性」を強化する。経済産業省や厚労省のリスキリング講座も活用できます。

Q5. 経営者は何をすべきですか?

Mercerが指摘するのは、人事部門を「コスト管理」から「戦略パートナー」へ位置づけ直すこと。AIの導入計画と、従業員の感情・キャリアへの影響を同時に設計できる組織が、競争優位を生むとしています。

まとめ|AI時代の労働市場は「待ったなし」のフェーズへ

  • Mercer調査で経営幹部の99%が「2年以内のAI関連人員削減」を予想
  • 従業員の「いきいき度」は66%→44%へ急落、AI失業への不安は28%→40%へ上昇
  • 影響大はエントリー層と定型業務、需要急増はAIエンジニア系職種
  • 日本は「採用抑制・配置転換・早期退職」の静かなリストラがすでに進行中
  • 経団連はHR領域でのAI活用率9割超を確認、政府もリスキリング基盤を整備中

明日からできる第一歩は、自分の仕事をAIに任せたらどこまで再現できるか、一度試してみることです。脅威の正体を知ることが、いちばんの備えになります。

参考文献

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