- 2026年6月1日、メルカリとSansanが同日に「AI×人事」一体化の新体制を発表
- メルカリはCTOの木村俊也氏がCHRO兼CAIO(最高AI責任者)に就任、Sansanは「CAXO」を新設しCHROの大間祐太氏が就任
- 「AI戦略と人事戦略の分離」が組織変革の最大の壁だったという反省が背景にある
- メルカリは2025年7月に「AI-Native Company」を宣言、すでに100名規模のAI Task Forceが稼働中
- 日本企業全体ではCAIO(最高AI責任者)設置率が約6割に到達。次の主戦場は「AI前提の組織設計」へ
「AIツールを導入しても、現場の働き方や評価制度が古いままで成果が出ない」——そんな悩みを抱える企業は少なくありません。2026年6月1日、メルカリとSansanという日本のAI先進企業2社が、同日に同じ方向の答えを出しました。AI戦略と人事戦略を、同じ人が責任を持って動かす。新しい役職が一気に2社で誕生した、衝撃的なニュースです。
何が発表されたのか:2社同時のAI×人事一体化
2026年6月1日、メルカリとSansanが偶然にも同じ日に新体制を発表しました。狙いはどちらも「AI戦略と人事戦略の責任者を一体化する」というものです。
メルカリ:CTOがCHRO兼CAIOに就任
メルカリは執行役員CTO Japan Businessの木村俊也氏が、同日付でCHRO(最高人事責任者)とCAIO(最高AI責任者)を兼任すると発表しました。
新たな役職名は「CHRO 兼 CAIO 兼 CTO Japan Business」。技術・AI・人事のトップを1人が同時に担う異例の体制です。
掲げるビジョンは「HR for an AI-Native Company」。AIを前提とした会社のために人事を設計する、という意味です。
Sansan:「CAXO」という新しい肩書きを発明
同じ日にSansanは「Chief AI Transformation Officer(CAXO)」という新役職を新設しました。取締役/執行役員/CHROの大間祐太氏が就任します。
「CAXO」は耳慣れない言葉ですが、「AIによる変革(AI Transformation)」を全社で統括する責任者という意味です。X(変革)はDX(デジタル変革)のXと同じ使い方ですね。
大間氏はもともとCHRO(人事責任者)です。つまり人事のトップがAI変革のトップを兼任する形になりました。
なぜ「同日発表」なのか
2社が示し合わせたわけではないようですが、同じ日に同じ方向の発表が出たのは偶然ではありません。日本のAI先進企業の間で「AI戦略と人事戦略はもう分けられない」という共通認識が広がっていることの表れです。
なぜ「AI責任者」と「人事責任者」を統合するのか
多くの企業ではAIの責任者と人事の責任者は別の人です。メルカリのプレスリリースは、その分業がうまくいかなかった理由を率直に書いています。
「組織変革」と「AI導入」が構造的に分断されていた
メルカリの発表文では、これまでの状況をこう説明しています。
「AI戦略と人事戦略はそれぞれ別の責任者が担っており、組織の仕組みの変革とAI活用の推進が構造的に分かれた状態にあった」
つまり、AIを使って何ができるかを考える人と、社員の働き方を決める人が別々で、両者の橋渡しがうまくいかなかったということです。
これは多くの企業に当てはまる課題でしょう。AIツールは導入したけれど、評価制度や承認フローが旧来のままで、結局AIの力が発揮できないという話はよく聞きます。
AIで変えるべきは「人と組織の運営基盤」
メルカリが新体制で再設計すると宣言しているのは、次の4つです。
- 働き方
- 意思決定・承認プロセス
- 組織構造
- リソース配分
どれも人事と密接に関わる領域です。AIをツールとして使うだけでなく、会社の意思決定の仕組みそのものをAI前提で作り直すという方針が読み取れます。
Sansanの狙いは「カルチャー」と「収益創造」
Sansanの大間氏のミッションも似ています。Sansanはプレスリリースで、CAXOの役割を「生産性向上にとどまらず、AIを前提とした組織カルチャーの構築、収益創造をけん引する」と定義しました。
「生産性向上にとどまらず」という言い回しに本気度が見えます。AIで効率化するだけでは足りない、文化や事業そのものを変えるという姿勢です。
メルカリの実績:100名タスクフォースと利用率100%
今回の新体制は、メルカリが2025年7月から進めてきた「AI-Native Company」化の延長線上にあります。すでに具体的な成果が出ています。
2025年7月の「AI-Native Company」宣言から始まった
メルカリグループは2025年7月に「AI-Native Companyの実現」を宣言し、グループ全体でAIを基盤として組織とプロダクトを抜本的に変える方針を打ち出しました。
その推進母体が「AI Task Force」と呼ばれる横断組織です。全社約2000名から100名を選抜し、3つの役割を定義しました。
- イネーブラー:各部門のAI推進役
- オーナー:業務改善の意思決定者
- PGM:全体の調整役
業務プロセスを細かく分解し、どこにAIを差し込めるかを可視化する作業を1年近く続けてきました。
数字で見る成果
メルカリが公表している成果は具体的です。
- 従業員のAI利用率:100%に到達
- エンジニア1人あたりの開発量:前年比1.9倍
- 業務プロセスの可視化が完了し、AI化の重点領域を特定済み
利用率100%というのは、社員全員が日常的にAIを使っている状態です。「使える人だけが使う」ツールから、全員が前提として使うインフラへと位置づけが変わっています。
次のフェーズが「人事の再設計」
こうした個人レベルのAI活用は浸透しました。しかし「組織レベル」でのAI活用、つまり評価・配置・意思決定の仕組みまで変えるのは別の課題です。今回のCHRO兼CAIO就任は、その次の壁に正面から向き合うための布陣といえます。
日本企業の現在地:CAIO設置率は約6割
メルカリとSansanの動きは特殊なのでしょうか。実は日本全体でも同じ流れが進んでいます。
CAIO設置はもう珍しくない
PwCジャパンが2025年6月に売上高500億円以上の企業を対象に行った調査では、全体の約6割がCAIO(最高AI責任者)を設置済みでした。AI導入が経営課題となるなかで、専任の責任者を置く動きが急速に広がっています。
調査では、AI活用の効果が高いと回答した企業の約6割がCAIOを配置しており、組織レベルでの戦略的な活用と相関があることも示されました。
「CHRO兼任」が次のトレンドに
これまでのCAIOは、CTOやCDO(最高デジタル責任者)が兼任するケースが主流でした。技術部門の延長として位置づけられていたわけです。
今回のメルカリとSansanの発表は、CAIOをCHROと兼任させる新しいパターンを示しました。AIを「技術導入」ではなく「組織変革」として位置づけ直す動きです。
「文化」が最後の壁
日本企業のAI活用研究では、ツールやスキルではなく「文化」が最後の壁だと指摘されています。失敗を恐れる減点主義、前例踏襲を重んじる風土、稟議の多さ。これらは人事制度や組織設計の問題であり、AI担当者だけでは変えられません。
だからこそ、CHROがAIの責任を兼任する意義があります。
他のパターンとの違い:CTO兼任やCDO兼任との比較
AI責任者の置き方は会社によってさまざまです。代表的なパターンを整理します。
CTO兼任型:技術中心のアプローチ
「CTOがCAIOを兼任する」のは最も多いパターンです。AIを技術選定や開発プロセスの一部として扱います。エンジニアリングの効率化には向きますが、営業や経理など非技術部門への浸透は難しい場合があります。
CDO兼任型:データ・デジタル戦略の延長
CDO(Chief Digital Officer)がCAIOを兼任するケースもあります。DX推進と地続きで進めやすい一方、人事制度や評価との連動には別途調整が必要です。
CHRO兼任型:今回の新パターン
メルカリとSansanが示したCHRO兼任型は、AIを「組織と人の設計問題」として扱います。評価・配置・承認プロセスまで含めてAI前提で再設計できる強みがあります。一方で、技術的な深さの確保には別途CTOやエンジニアリング部門との連携が欠かせません。
メルカリの木村氏はCTO Japan Businessを兼任することでこの問題を解決しています。技術と人事の両方を同じ人が見るという、かなり攻めた人事配置です。
日本市場への影響:中堅・中小企業はどう動くか
大企業の動きは中堅・中小企業にも波及します。AI×人事の一体化は、規模を問わず重要なテーマになりそうです。
「専任CAIO」を置けない企業はどうする
従業員数100人程度の中小企業で、CAIOやCAXOを専任で置くのは現実的ではありません。ただし、AI活用の責任者を明確に決めることは規模に関係なく重要です。
たとえば、人事責任者や経営企画責任者にAI推進の権限を明示的に与え、評価制度の見直しと同時にAI導入を進めるアプローチは中小企業でも実行可能です。
採用市場への影響
「AI Native人材」の採用競争は激化しそうです。メルカリは今回の発表で「AI-Native人材の採用も本格的に強化する」と明言しました。Sansanも2026年4月に新卒初任給を引き上げ、手当込みで年収640万円とする発表をしています。
AIを使いこなせる人材への投資はさらに広がるでしょう。一方、AIに置き換えられる業務に集中している人材の市場価値は相対的に下がる可能性があります。
既存社員のリスキリングが課題に
AI前提の組織に移行すると、社員に求められるスキルも変わります。日本企業全体でリスキリング(学び直し)の重要性が高まっており、人事部門が研修プログラムをどう設計するかが問われます。
AIの責任者が人事を兼任することで、こうした研修と評価制度を同時に設計できるのがCHRO兼任型の強みです。
よくある質問(FAQ)
Q1. CAIOとCAXOの違いは何ですか?
CAIO(Chief AI Officer)は最高AI責任者で、AIの戦略・導入・ガバナンスを統括します。CAXO(Chief AI Transformation Officer)はSansanが新設した名称で、AIによる「変革(X)」全般を統括する役割です。CAXOはAI技術の導入だけでなく、組織カルチャーや収益創造まで広く扱うニュアンスがあります。
Q2. なぜメルカリのCTOがCHROを兼任するのですか?
これまでメルカリでCTOがAI推進をリードしてきたものの、組織制度の変革は人事の領域だったため、両者が分かれていたという反省があります。同じ人がCTOとCHROを兼ねることで、技術導入と人事制度の改革を同時に進められるという狙いです。
Q3. 中小企業でもCAIOを置くべきですか?
専任のCAIOを置く必要は必ずしもありません。ただしAI推進の責任者を社内で明確にすることは規模を問わず重要です。経営者や人事責任者がAI推進の権限を兼任する形でも十分機能します。
Q4. AI-Native Companyとは何ですか?
AIを基盤として組織・プロダクト・業務プロセスを設計している会社を指します。AIを後から導入する「AI活用企業」とは異なり、最初からAI前提で意思決定や働き方を組み立てる発想です。メルカリは2025年7月にこの方針を宣言しました。
Q5. この動きは他の日本企業にも広がりますか?
すでに広がっています。PwCジャパンの調査では、売上高500億円以上の日本企業の約6割がCAIOを設置済みです。今後は「CHRO兼任型」「CDO兼任型」など、企業の特性に応じた選択が進むと予想されます。
まとめ
- 2026年6月1日、メルカリとSansanが同日に「AI×人事」一体化の新体制を発表した
- メルカリは木村俊也CTOがCHRO兼CAIO兼CTO Japan Businessに就任、Sansanは「CAXO」を新設し大間祐太CHROが就任
- 狙いは「AI戦略と人事戦略の分離」を解消し、組織制度ごとAI前提で再設計すること
- メルカリはすでに100名のAI Task Forceで社内AI利用率100%・開発量1.9倍を実現済み
- 日本企業全体ではCAIO設置率が約6割。次の焦点は「組織と人事制度のAI再設計」へ
まずは自社の「AI責任者」と「人事責任者」が同じ方向を見ているか、確認してみてはいかがでしょうか。両者の連携の薄さこそが、AI活用の成果が出ない最大の理由かもしれません。
参考文献
- 「AI×人事戦略」が加速? メルカリやSansanが相次ぎ新体制に “AI前提の組織”目指す(ITmedia AI+, 2026年6月1日)
- メルカリ、CTOの木村俊也がCHRO兼CAIOに就任(株式会社メルカリ プレスリリース, 2026年6月1日)
- Sansan、「Chief AI Transformation Officer(CAXO)」を新設。取締役/CHRO 大間祐太が就任(PR TIMES, 2026年6月1日)
- 100人で始めたAIタスクフォースの100日後──33領域のロードマップからみる生産性向上ポテンシャル(mercan)
- 国内大手企業の6割がCAIO設置済み:最高AI責任者が企業競争力を左右する時代(生成AIビジネス活用研究所)

