- 日本漫画家協会が「自作をAIに学習・改変されないための契約文」を公開しました
- 「目的外に使わない」だけの契約ではAI学習を防げない可能性があります
- カギは著作権法30条の4(AI学習を原則OKとするルール)への対応です
- 協会推奨の契約文をそのまま使える形でやさしく解説します
- 契約以外にGlazeやNightshadeといった技術的な自衛策もあります
「自分の絵が、知らないうちにAIに学習されていたらどうしよう」。そう不安に思う人は多いはずです。2026年6月5日、日本漫画家協会が会員からのこんな質問に答えました。テーマは「自作のAI学習・改変を防ぐ契約はどう書けばいい?」。この記事を読むと、実際に使える契約文と、その背景にある法律のしくみがわかります。
何があった?漫画家協会が「AI学習を防ぐ契約文」を公開
日本漫画家協会は2026年6月5日、会員向けのQ&A(質問と回答集)を新たに16件公開しました。
そのなかで注目されたのが、AI学習に関する質問への回答です。
協会は2024年5月に「会員向けの相談フォーム」を設置しています。漫画家が抱える悩みに、専門家が答えるしくみです。
今回の質問はシンプルでした。「自分の作品をAIに学習されたくない。改変もされたくない。契約書にどう書けばいい?」というものです。
つまり、出版社や取引先に作品を渡すとき、契約書のどこにどんな一文を入れればAI利用を止められるのか、という実務的な相談です。
なぜ普通の契約では防げないの?著作権法30条の4の壁
意外かもしれませんが、「この作品は本件の目的以外に使いません」と書くだけでは不十分です。
その理由が、著作権法第30条の4という法律にあります。
これは「AIの学習のように、作品を“鑑賞して楽しむ”目的ではない使い方なら、原則として権利者の許可なく行ってよい」と定めたルールです。
少しむずかしい言葉では「非享受利用(ひきょうじゅりよう)」と呼びます。作品を味わうためではない利用、という意味です。
この法律があるため、AI学習は「目的外の利用」とは見なされにくいのです。
だから「目的外に使わない」とだけ書いても、AI学習をすり抜けられてしまう可能性があります。
ここが、多くのクリエイターが見落としがちな落とし穴です。
協会が推奨する契約文をやさしく解説
では、どう書けばいいのでしょうか。協会が示した推奨文がこちらです。
「甲は、乙の事前の書面による承諾なく、本著作物を人工知能(AI)の機械学習のためのデータとして利用(著作権法第30条の4に基づく利用を含む)すること、及び人工知能(AI)を用いて本著作物を改変することを禁ずる」
少し長いので、ポイントを分けて見てみましょう。
1つ目は「事前の書面による承諾なく」。口約束ではなく、文書での許可が必要だと明確にしています。
2つ目は「30条の4に基づく利用を含む」という部分です。ここが最大のポイントです。
わざわざ法律の条文名を書くことで、「あの法律があるからOK」という言い逃れを封じています。
3つ目は「AIを用いて改変することを禁ずる」。学習だけでなく、AIで絵柄をいじる行為もまとめて禁止しています。
協会は、当事者どうしの契約でAI学習を禁止する合意をすることは有効だと指摘しています。法律が原則OKでも、契約で上書きできるわけです。
契約以外の自衛策|GlazeやNightshadeとの違い
契約は「取引相手」を縛る方法です。でも、ネットに公開した絵を勝手に集められる相手には届きません。
そこで役立つのが、技術的な自衛ツールです。代表的な2つを比べてみましょう。
- Glaze(グレイズ):シカゴ大学が開発。絵に人の目では気づかない特殊なノイズを加え、AIが画風を正確にマネできないようにする「防御」ツールです。無料で使えます。
- Nightshade(ナイトシェイド):同じくシカゴ大学製。AIにわざと間違った情報を覚えさせる「攻撃」型。たとえば犬の絵を猫と誤認させ、無断学習したAIをわざと混乱させます。
契約とこれらのツールは、役割がちがいます。
契約は「信頼できる相手との約束」を守る盾です。GlazeやNightshadeは「見えない相手」への備えです。
両方を組み合わせることで、守りはぐっと厚くなります。
背景にある業界の動き|Sora2と19団体の共同声明
今回の回答は、急に出てきたものではありません。出版業界全体の危機感が背景にあります。
2025年10月、OpenAIの動画生成AI「Sora2」が公開されました。
すると、有名な作品にそっくりな映像が次々と作られ、大きな問題になりました。
Sora2は「権利者が拒否(オプトアウト)を申請しない限り、作品が使われる」しくみだったためです。
これに対し、2025年10月31日、日本漫画家協会と講談社・小学館・集英社・KADOKAWAなど出版17社、日本動画協会が共同声明を出しました。
声明は「学習の段階でも権利者の許可を得るべき」と主張。拒否されない限り使ってよい考え方に、はっきり反対しました。
つまり今回の契約文の公開は、こうした「クリエイターの権利を守ろう」という大きな流れの一部なのです。
日本のクリエイターへの影響は?
この動きは、プロの漫画家だけの話ではありません。
イラストレーター、デザイナー、同人作家、写真家など、作品をつくるすべての人に関わります。
ある駆け出しのイラストレーターを想像してみてください。SNSで仕事を受け、クライアントにデータを納品します。
このとき契約書がないと、納品した絵がAI学習に使われても文句を言いにくくなります。
今回の推奨文は、そんな個人クリエイターがコピーして使える「お守り」になります。
一方で注意も必要です。契約文を入れても、相手が同意しなければ契約は成立しません。
強い立場のクライアントだと、「その条項は外してほしい」と言われることもあるでしょう。
それでも、まず一文を提案できること自体が、交渉の第一歩になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. この契約文は誰でも使っていいの?
はい。協会が公開した推奨例なので、個人のクリエイターが自分の契約書に取り入れて問題ありません。ただし不安なときは弁護士に相談すると安心です。
Q2. 「甲」と「乙」って何ですか?
契約書でよく使う呼び名です。ふつう「甲」が依頼する側(クライアント)、「乙」が作品をつくる側(あなた)を指します。立場で入れ替わるので注意しましょう。
Q3. 契約を結べばAIに絶対学習されない?
いいえ。契約は「相手」を縛るものです。契約していない第三者がネット上の絵を集める場合は防げません。GlazeなどのツールやSNSの設定も合わせて使いましょう。
Q4. すでに納品した過去の作品はどうなる?
すでに結んだ契約にこの条項がなければ、さかのぼって適用するのは難しいです。今後の新しい契約から少しずつ入れていくのが現実的です。
まとめ
今回のポイントを振り返ります。
- 日本漫画家協会が2026年6月5日、AI学習・改変を防ぐ契約文を公開した
- 「目的外に使わない」だけでは、著作権法30条の4の壁で防げない可能性がある
- 推奨文は「30条の4に基づく利用を含む」と明記して言い逃れを封じている
- 契約は取引相手向け、GlazeやNightshadeは見えない相手向けの自衛策
- 背景にはSora2問題と、出版19団体の共同声明という大きな流れがある
まずは自分の契約書を見直し、AI利用に関する一文が入っているか確認してみましょう。

