- 京都府舞鶴市が全職員のPCをWindowsからChromebookに切り替え、5年間の経費を約21億円の見積もりから約5億円に圧縮した
- もともとの予算枠11億円と比べても約6億円の削減。職員1人あたり1日平均82.1分の業務時間短縮も実現した
- 導入直後は1日30件超の問い合わせが殺到したが、kintoneとNotebookLMを組み合わせたチャットbotで10件程度まで減らした
- 一方の東京都千代田区はMicrosoft 365のまま「Copilot」を全庁展開し、月間約2000時間の削減に成功している
- 2つの事例が示すのは「どちらのツールが正解か」ではなく、定着の仕掛けをどう作るかという共通の答えだ
「システムの更新費用を見積もったら、予算の2倍だった」。もしあなたが担当者なら、どうしますか。京都府舞鶴市はこの絶望的な状況から、5年間で約16億円を削り、職員1人が1日82分を取り戻しました。しかも同じ時期、東京都千代田区は正反対の選択で月2000時間を削減しています。両者の違いと共通点を見ていきます。
舞鶴市が「脱Windows」を決断した理由
きっかけは、事務用パソコンの更新時期に立ちはだかった「予算の壁」でした。
舞鶴市が従来どおりオンプレミス(自分たちの建物内にサーバーを置く方式)で今後5年間の更新費用を見積もったところ、もともとの予算枠約11億円を大きく超える約21億円にふくらんでしまいました。
そこで情報管理係の中山雅之係長らが選んだのは、削れるところを削る発想ではありません。「働き方を根本から変えて、なおかつ予算内に収める方法」をゼロから考え直すという道でした。
浮かび上がったのが、Google WorkspaceとChromebookを中心に業務環境を組み直す案です。事前の見積もりでは、費用を約9億円まで抑えられる見通しが立ちました。
コスト以外にも狙いがあった
魅力はお金だけではありませんでした。自治体のシステムには「三層分離」という強いセキュリティの仕組みがあり、その影響で動作が遅くなる悩みを抱えていたのです。クラウドに移せば、サーバーの容量制限からも解放されます。
セキュリティ面の期待も後押しになりました。ChromebookにはEDR(端末の不審な動きを見張る仕組み)が最初から入っており、「Chrome Enterprise Premium」と組み合わせて守りを固められます。データを端末本体に保存させない設定なら、紛失しても情報は漏れません。
中山氏は、働き方が民間企業と離れ続けていることへの危機感も語っています。Google環境でも業務が回るかを徹底的に検証したうえで、上層部を説得したといいます。
5年で21億円が5億円に 削減額の中身
結果は、当初の見込みをさらに上回りました。
値引きや、2025年1月に生成AI「Gemini」のライセンスがGoogle Workspaceへ統合されたこと(追加費用が不要になった)などが重なり、5年間の総経費は最終的に約5億円まで圧縮されました。数字を整理すると、こうなります。
- 当初のMicrosoftベースの見積もり:約21億円
- もともとの情報更新予算枠:約11億円
- Google環境での事前見積もり:約9億円
- 最終的な5年間の総経費:約5億円
つまり最初の見積もりと比べると約16億円の削減、予算枠から見ても約6億円の削減という計算です。
ちなみに端末は1台約6万5000円のChromebookを採用し、2024年9月末までに950台を用意しました。Google Workspaceのライセンスは約1100人分です。
おまけの効果もありました。ペーパーレス化が全庁で進んだため、ちょうど更新時期を迎えていた認証印刷システム(5年間で6000万円)をまるごと廃止できたのです。紙の使用量そのものも、2016年と2024年の比較で約38%減っています。
1人1日82分 何が時短されたのか
舞鶴市が2025年11月に全職員約1100人を対象に実施したアンケート(回答300人)では、1人あたり1日平均82.1分の業務時間削減が報告されました。1日1時間半近くが浮いた計算です。
削減の中身は、主に3つに集約されます。
日程調整が一瞬で終わる
Googleカレンダーで関係者全員の予定を重ねて表示できるようになりました。空いている時間が一目でわかるため、「いつなら空いていますか」というメールの往復が消えます。
ファイルの「バケツリレー」が消えた
これまでは、資料をメールに添付して次の人に送り、直してもらってまた送り返す流れが当たり前でした。「最終版_修正2_確定.xlsx」のようなファイルが増え続けた経験は、役所に限らず多くの職場にあるはずです。
クラウド上のファイルを複数人で同時に編集できるようになり、この面倒な版の管理そのものが不要になりました。
議事録づくりが7〜8割減った
会議ではそれぞれが端末を持ち込み、紙の資料を廃止しました。さらにAIによる自動文字起こしで議事録に関わる作業時間を7〜8割削減しています。録音を聞き返す作業が、ほぼなくなったということです。
デジタル推進係の瀬野公哉係長によると、2025年8月にGoogle Workspace内でGeminiの機能が広がり、作業中の文書やスライドから直接AIを呼び出せるようになったことで、利用率が一気に伸びた印象があるといいます。
問い合わせ30件を10件に減らしたAIの使い方
もちろん、最初から順調だったわけではありません。2025年2月にChromebookを配ったあと、デジタル推進課には1日30件を超える問い合わせの電話が殺到しました。
同課がとった対策は、人を増やすことではありません。まずkintoneで問い合わせフォームを作り、現場からの疑問と回答を1か所に集めます。そして2025年2月中旬から、たまったナレッジをNotebookLM(資料を読み込ませて質問できるAI)に読ませ、チャットbotとして職員に開放しました。
職員はまずbotに聞き、解決しなければフォームから問い合わせる。新しい問い合わせは随時botに反映して精度を上げる。この循環で、問い合わせは10件程度まで減りました。
配布時には「受講しなければ端末を渡さない」という1時間のハンズオン研修も徹底し、初期の脱落者を最小限に抑えています。
千代田区は「Microsoftのまま」で月2000時間削減
対照的な事例も見てみます。東京都千代田区は、舞鶴市とは逆にMicrosoft環境を選び続けました。
同区は2023年ごろからChatGPTを使い始めていましたが、職員の日常業務は2022年3月に導入したMicrosoft 365が中心です。そのため必要な情報や回答をいちいちコピー&ペーストする手間が発生していました。
そこで目をつけたのが「Microsoft 365 Copilot」です。デジタル政策係の岡本翼係長は、区の専用テナント内でデータが管理され、入力した情報が外部に流出したりAIの学習に使われたりしないことを確認したうえで導入を決めたと語ります。
150人→300→900の段階的な拡大
千代田区は一気に全庁展開はしませんでした。
- 2024年8月:約150人が参加する実証実験を開始
- 2025年4月:ライセンスを300に拡充
- 2025年10月:900ライセンスで全庁展開
実証実験の段階で、月平均300時間の削減効果を確認しています。アクティブユーザー率は97%、「今後も使い続けたい」と答えた割合は91%に達しました。
そして全庁展開後、2026年3月時点で月間約2000時間の削減を達成しています。
若手にとっての「気兼ねしない相談相手」
活用例として定着したのが、Teamsで会議を録音して要点を抜き出し、そのままWordやPowerPointの下書きをCopilotに作らせる使い方です。職員は真っ白な画面ではなく、下書きを直すところから始められます。
国や東京都から届く長くて複雑な調査依頼も、まず要約させて提出期限ややるべきことを把握し、庁内向けの依頼文作成までつなげています。
岡本氏が挙げる効果は時間だけではありません。忙しい先輩に質問するのを遠慮しがちな若手にとって、時間を気にせず聞けるCopilotは頼れる相談相手であり、心理的な安心感につながっているといいます。
定着の工夫として、2025年から2か月に1回「Copilot Lab」を開催しています。当初は参加者が10人程度にとどまることもありましたが、2026年の初回には約100人が自主的に集まりました。
GoogleとMicrosoft、どちらを選ぶべきか
ここまで読むと「結局どっちがいいの?」と思うかもしれません。2つの事例を並べて整理します。
- 舞鶴市(Google Workspace+Chromebook):端末更新のタイミングと重なり、環境ごと入れ替えた。M365 E5相当の環境と比べてコストは約5割。削減インパクトが大きい反面、移行直後の混乱と学び直しのコストが発生する
- 千代田区(Microsoft 365+Copilot):既に使っている環境の上にAIを乗せた。職員は操作を覚え直す必要がなく、抵抗感が小さい。ただし既存ライセンス費用はそのまま残る
判断の分かれ目は、端末やライセンスの更新時期が近いかどうかです。舞鶴市のように大きな更新の山が来ているなら環境ごと見直す価値があり、更新が当分来ないなら千代田区のようにAIを上に乗せるほうが現実的です。
ここで見落としてはいけないのは、両市区とも「ツールを配って終わり」にしていないという点です。舞鶴市は強制力のある研修とAIチャットbot、千代田区は勉強会と相談会。定着の仕掛けを作った点は完全に共通しています。
実際、舞鶴市には課題も残っています。内勤の事務職員が効果を実感する一方で、市民課など窓口担当職員の利用率は伸び悩んでいるのです。同市は職員が現場に数時間から半日滞在し、業務の流れを見ながら改善策を提案する出張相談を検討しています。
日本の自治体と企業に何が起きるのか
この2つの事例は、日本全体の動きの一部です。Google Workspaceを全庁導入する自治体は増えています。
秋田県は都道府県として初めて全庁導入し、Chromebook280台での実証を経て5000ライセンスを契約しました。高崎市も2025年10月1日から「ハイブリッド方式」で導入し、GeminiやNotebookLMを活用しています。
舞鶴市には2026年度に入ってから、他自治体からの視察や問い合わせが相次いでいるといいます。中山氏は成果やナレッジをオープンに発信し、「Google仲間」を増やしたいと語っています。
民間企業にも当てはまる3つの教訓
「うちは役所じゃないから関係ない」と思った方こそ、注目してほしいポイントが3つあります。
1つ目は、更新時期は環境を見直す最大のチャンスだということ。同じ構成で更新すると決めた瞬間に、選択肢は消えます。
2つ目は、問い合わせ対応そのものをAIに任せる発想です。舞鶴市のkintone×NotebookLMは、社内ヘルプデスクを抱える企業ならそのまま真似できます。
3つ目は、段階的に広げること。千代田区は150人→300→900と3段階を踏みました。いきなり全社展開して失敗するより、はるかに確実です。
両市区とも、次はAIエージェント(人の代わりに一連の作業をこなすAI)に向かっています。千代田区はCopilot StudioやAgent Builderで部署ごとの専用エージェントを作る計画で、異動したての職員でも質問するだけでベテラン並みの知識で窓口に立てる環境を目指しています。舞鶴市も2027年度をめどに研修を始める予定です。
よくある質問(FAQ)
Q. 6億円削減と16億円削減、どちらが正しいのですか?
どちらも同じ事実を別の基準で表した数字です。最初のMicrosoftベースの見積もり約21億円と比べると約16億円の削減、もともとの予算枠約11億円と比べると約6億円の削減になります。最終的な5年間の総経費が約5億円だったという点は共通しています。
Q. Chromebookで自治体の業務は本当に回るのですか?
舞鶴市の中山氏は、外的な要因によるWindows依存は避けられない面があるとしつつ、普段の業務についてはGoogle環境で全く問題がないと述べています。実際に同市は各課に1台ずつWindows端末を残し、Chromebookと併用する構成をとっています。
Q. AIに行政の情報を入れて、セキュリティは大丈夫なのですか?
千代田区は、区の専用テナント内でデータが管理され、入力情報が外部に流出したりAIモデルの学習に使われたりしないことを契約上確認してから導入しました。舞鶴市もChrome Enterprise Premiumによるゼロトラストアクセスや、端末本体への保存禁止といった対策を組み合わせています。
Q. 導入すれば自動的に業務時間は減りますか?
減りません。舞鶴市は導入直後に1日30件超の問い合わせが殺到し、千代田区も職員によって活用度合いに差が出ています。両市区が成果を出せたのは、研修・チャットbot・勉強会といった定着の仕掛けを継続したからです。
まとめ
- 舞鶴市は5年間の更新費用が予算11億円に対し約21億円と見積もられ、Google Workspace+Chromebookへの移行で最終的に約5億円まで圧縮した
- 予算枠比で約6億円、当初見積もり比で約16億円の削減。職員1人あたり1日平均82.1分の時短も実現した
- 時短の中身は日程調整・ファイル共同編集・議事録自動化の3つで、議事録関連業務は7〜8割減った
- 千代田区はMicrosoft 365のままCopilotを150人→300→900と段階展開し、月間約2000時間を削減した
- 成否を分けたのはツールの銘柄ではなく、定着の仕掛けを作り続けたかどうかだった
まずは自分の職場で、次にパソコンやライセンスの更新時期がいつ来るのかを確認してみてください。そこが環境を見直せる唯一のタイミングになります。
参考文献
- 「MicrosoftよりGoogle」で6億円削減も? 舞鶴市、千代田区が明かすIT刷新とAI活用の成功法則 – ITmedia エンタープライズ
- 舞鶴市「脱Windows」で6億円削減 1人1日82分を時短したGoogleツールの使い方 – キーマンズネット
- 千代田区、Copilot全庁導入で月2000時間削減 10カ月でAIを根付かせた定着の仕掛け – キーマンズネット
- 舞鶴市、「日本一働きやすい市役所」実現に向けてChromeOS、Google Workspace、Gemini を全庁採用 – Google Workspace ブログ
- 千代田区が職員の「考える時間」を生み出すために Microsoft 365 Copilot を採用 – Microsoft Customer Stories
- 舞鶴市がChromebook+Google Workspaceで全庁DX!コストは従来の約5割 – Chromebookジャーナル

