- 2026年7月28日、熊本県で最大震度7の地震が発生。同じ日の夜にファクトチェック団体が「生成AIや過去画像の偽情報に注意」と緊急の呼びかけを出しました
- 2024年の能登半島地震では、発災24時間の救助要請のうち約1割がデマと推定されました
- AI偽画像を見抜くコツは「出所をたどる」「細部を拡大する」「電子的な指紋を確かめる」の3つです
- C2PAやSynthIDなど、AIが作った印をファイルに埋め込む仕組みが広がりつつあります
- 日本では2025年4月に情プラ法が施行され、大手SNSの削除対応が義務化されました
地震のニュースを見たあと、SNSで衝撃的な被害写真が流れてきたら、あなたはどうしますか。「知らせなきゃ」と思って拡散したその1枚が、AIの作り物だったとしたら。2026年7月28日、熊本県で最大震度7の地震が起きました。そして同じ日の夜、ファクトチェック団体が異例の速さで警告を出しています。
熊本で震度7 地震発生からの数時間
まず何が起きたのかを整理します。
2026年7月28日16時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生しました。震源の深さは約10kmです。
宇城市と氷川町で最大震度7を観測しました。熊本市南区、八代市、宇土市、美里町、益城町では震度6強。合志市や大津町、西原村、御船町、上天草市、芦北町などでも震度6弱の強い揺れがありました。
発生直後、有明・八代海に津波注意報が発表されます。注意報は同日18時10分に解除されました。
JR九州は九州内の全線区で列車の運行を見合わせました。嘉島町のイオンモール熊本では地震後に爆発が起き、2階部分が崩落したと報じられています。
気象庁は「1週間程度、特に今後2、3日は強い揺れに注意してほしい」と呼びかけています。地盤が緩んでいるため、少しの雨でも土砂災害への警戒が必要な状況です。
ファクトチェック団体が当日夜に出した警告
地震から約3時間後の同日19時36分。ITmedia NEWSが、ある注意喚起を報じました。
発信元はファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)です。2017年6月に立ち上がり、2018年1月にNPO法人となった、日本でファクトチェックを広める団体です。
FIJが指摘したのは、災害が起きたときに流れやすい情報の型でした。「過去の地震の画像」「AIが生成した画像」「AIが生成した動画」——この3つが、いま起きていることのように装って出回るというのです。
呼びかけの内容はシンプルでした。「著名人や友人・知人からの情報でも、再拡散する前に立ち止まり、正しい情報か確認してください」。
ここが重要なポイントです。悪意ある投稿者だけが問題なのではありません。信頼している人から回ってきた情報こそ、私たちは疑わずに広めてしまいます。善意のリレーが、結果としてデマの高速道路になるのです。
実際、日本経済新聞の調査では、災害デマを「見抜く自信がない」と答えた人が8割にのぼりました。つまり、ほとんどの人が丸腰でタイムラインに向き合っているということです。
AI偽画像を見抜く3つのコツ
では、どうやって身を守ればいいのでしょうか。専門家でなくてもできる確認方法を、3つの手順にまとめます。
コツ1:まず「誰が最初に出したか」をたどる
画像そのものを見る前に、投稿したアカウントを見てください。
チェックするのは3点です。過去の投稿がその地域や災害と関係あるか、アカウントの作成時期が最近すぎないか、同じ文面を大量に投稿していないか。
災害のたびに湧いてくる「インプレゾンビ」と呼ばれるアカウントは、閲覧数を稼ぐことだけが目的です。内容の真偽には関心がありません。
もうひとつ有効なのが逆画像検索です。画像を保存してGoogleレンズなどにかけると、同じ写真が何年も前から存在していないかがわかります。過去の災害写真の使い回しは、これでかなり見破れます。
コツ2:拡大して「細部の破綻」を探す
AIが作った画像は、全体の印象はそれらしくても、細かい部分でつじつまが合わなくなります。
日本ファクトチェックセンターが2025年12月に公開した検証記事では、具体的な着眼点が挙げられています。手や指の本数、髪の生え際、歯の並び、背景にある看板の文字。このあたりが崩れやすいポイントです。
動画ならさらに手がかりが増えます。物が不自然に現れたり消えたりする、輪郭がぼやける、影の向きがバラバラ、まっすぐなはずの直線が歪む、動きがカクつく。
ひとつだけでは判断できません。複数の違和感が重なったときに「これは怪しい」と考えるのが安全な使い方です。
コツ3:AIの「電子的な指紋」を確認する
3つめは、目ではなくデータを見る方法です。
OpenAIの動画生成AI「Sora」で作られた動画には、画面上に「Sora」という透かし文字が表示されます。TikTokでは、AI生成コンテンツと判定されると「AI生成メディアを含む」というラベルが自動で付くことがあります。
ただし、この印は消せてしまう場合があります。透かし部分を切り取られた動画は、ラベルなしで出回ります。印がないこと=本物の証拠、にはならない点は覚えておいてください。
なぜ災害のたびにAI偽情報が増えるのか
この問題は今回が初めてではありません。数字で見ると、深刻さがはっきりします。
2024年1月1日の能登半島地震。総務省所管の情報通信研究機構(NICT)が、発災後24時間の投稿を分析しました。
Xに投稿された日本語の救助要請1,091件のうち、254件で内容の矛盾が検出され、104件がデマと推定されました。つまり救助要請のおよそ1割が偽物だったことになります。
さらに、X社の報告では偽の寄付や支援を募る投稿が約350件。2024年2月27日に総務省の検討会へ提出された資料では、海外から投稿された複製投稿が約4千件にのぼったとされています。
2025年12月8日、青森県八戸市で震度6強の地震があったときも同じでした。TikTokなどで、津波の高さを誤って伝える動画や、建物の崩落・地面のひび割れを描いた生成AI動画が拡散しています。
被害は「なんとなく気持ち悪い」では済みません。ある自治体の災害対応を想像してみてください。限られた職員が、SNSに上がった救助要請を1件ずつ確認していきます。そのうち1割が架空の住所だったら、本当に助けを待っている人への到着が遅れます。
熊本に祖母が住む会社員が、崩落したビルの写真を見て電話をかけ続けるかもしれません。回線が混み合い、必要な連絡が通らなくなります。
高校生がタイムラインで「10m級の津波」という偽動画を見て、避難所で不安になることもあるでしょう。偽情報のコストは、いつも現場の誰かが払っています。
判定手段のくらべ方 目視・検出AI・来歴情報
「AIが作った画像はAIで見破れないの?」と思った方もいるはずです。現在ある3つの手段を整理します。
1つめは目視のチェック。誰でも今すぐできて、費用もかかりません。弱点は、画像生成AIの品質が上がるほど通用しなくなることです。数年前なら指の本数で見破れましたが、今のモデルはそこを克服しつつあります。
2つめはAI検出ツール。画像を解析して生成物かどうかを判定します。手軽ですが、判定はあくまで確率です。加工やスクリーンショットを重ねた画像では精度が落ちます。「99%本物」と出ても鵜呑みにはできません。
3つめが来歴(プロヴェナンス)の記録です。いま最も期待されているのがこの方向です。
代表格がC2PA。Adobe、Microsoft、Intel、Armなどが2021年に立ち上げた業界標準で、2026年時点で約380の企業・団体が参加しています。画像ファイルの中に「誰が、いつ、どうやって作ったか」を書き込み、暗号の署名を付ける仕組みです。改ざんすると署名が壊れるので、後からバレます。
Google DeepMindのSynthIDは別のアプローチです。人間の目には見えない透かしを画素そのものに埋め込みます。ただし対象はGoogleのモデルで作られたコンテンツに限られ、他社の生成AIで作った画像は検出できません。
動きは加速しています。2026年5月19日、OpenAIがC2PAへの対応、SynthIDによる不可視ウォーターマーク、そして自社の生成画像を確認できる公開検証ツールのプレビューを発表しました。
背景にはルールの変化もあります。EU AI法第50条が2025年8月に適用され、AI生成コンテンツへのラベル付けが法的な要件になりました。「やったほうがいい」から「やらなければならない」に変わったのです。
とはいえ、この3つはどれも単独では不十分です。出所をたどり、細部を見て、来歴を確かめる。3つを重ねることが現実的な自衛策になります。
日本の対策はどこまで進んだか
日本国内でも制度づくりは進んでいます。
大きな変化が情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)です。2024年5月に成立し、2025年4月1日に施行されました。もとはプロバイダ責任制限法という名前でしたが、改正にあわせて名称も変わっています。
この法律は、大規模プラットフォーム事業者に2つの義務を課しました。一定期間内に削除の申し出へ対応すること、そして削除の基準を作って公表することです。
実際に動いた例もあります。2025年5月、兵庫県が情プラ法にもとづいて、不適切な投稿が掲載されていた大規模プラットフォーム事業者2社へ削除要請を行いました。
技術面ではNICTの取り組みが目を引きます。同機構の災害状況要約システムは、SNS上の救助要請を自動で抽出し、内容の矛盾を検出します。能登半島地震での分析は、まさにこの仕組みが使われた成果でした。
ただし、課題も残ります。削除には申し出と審査の時間が必要です。災害の初動である最初の数時間、偽情報は事実上ノーガードで走り抜けます。
だからこそFIJは、地震から3時間後という速さで呼びかけを出したのでしょう。制度が追いつく前の空白を埋められるのは、受け取る側の一呼吸だけだからです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 拡散する前に確認する時間がありません。どうすればいいですか?
A. 迷ったら拡散しない、が最も安全です。本当に重要な情報なら、自治体や気象庁、報道機関が数十分以内に発信します。あなたが最速で広める必要はありません。
Q2. すでに偽情報を拡散してしまいました。どうしたらいいですか?
A. 投稿を削除し、可能なら「先ほどの投稿は誤りでした」と訂正を出してください。訂正は元の投稿ほど広がりませんが、フォロワーの誤解を減らす効果はあります。責めすぎず、静かに直すのが大切です。
Q3. AI検出ツールの結果はどこまで信じていいですか?
A. 参考のひとつと考えてください。判定は確率であり、スクリーンショットや加工を経た画像では精度が下がります。ツールの結果だけを根拠に「本物だ」と断言するのは避けたほうが無難です。
Q4. 家族が偽情報を信じています。どう伝えればいいですか?
A. 「デマだよ」と否定から入ると反発を招きやすくなります。逆画像検索の結果や、公的機関の発表ページを一緒に見るのが有効です。判断を押しつけず、確認の手順を共有する形にしてください。
Q5. AIが作った画像だと明記されていれば問題ないのでは?
A. 発信者が明記していても、引用や切り抜きの過程で表示が失われることがあります。転載されるうちに「本物の被害映像」として扱われるケースは珍しくありません。
まとめ
- 2026年7月28日16時27分ごろ、熊本県でM7.1、最大震度7の地震が発生しました
- 約3時間後、ファクトチェック・イニシアティブが生成AI・過去画像による偽情報への注意を呼びかけました
- 能登半島地震では救助要請1,091件のうち104件がデマと推定され、被害は現実の救助活動に及びます
- 見抜く3つのコツは「出所をたどる」「細部を拡大する」「電子的な指紋を確かめる」です
- C2PAやSynthIDによる来歴記録が広がる一方、単独で万能な判定手段はまだありません
- 日本では2025年4月施行の情プラ法で削除対応が義務化されましたが、初動の数時間は空白のままです
まずは、いま自分のタイムラインに流れている災害写真を1枚選び、逆画像検索にかけてみてください。5分で身につく習慣が、次の災害であなたと誰かを守ります。


