MSが初のセキュリティAI|96%でAnthropic超え

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Microsoftが初のサイバーセキュリティ特化AI「MAI-Cyber-1-Flash」を2026年7月27日に発表
  • 脆弱性発見の難関ベンチマーク「CyberGym」で95.95%を記録し、Anthropicの85.6%を約12ポイント上回った
  • タスクの9割を自社モデルで処理し、難所だけOpenAIのGPT-5.4に回すことで運用コストを半減
  • 新プラットフォーム「Project Perception」は2026年8月3日から世界でプレビュー提供
  • 「能動的サイバー防御」が動き出す日本企業にとっても、無関係ではない発表

自社のシステムに潜むセキュリティの穴を、AIが勝手に見つけて勝手に直してくれる。そんな話は「まだ数年先」だと思っていませんか。Microsoftは2026年7月27日、その実力を数字で示しました。難関テストで96%。しかもコストは従来の半分だといいます。

Microsoftが「初」のサイバーセキュリティAIを発表

サンフランシスコで明かされた2つの新製品

Microsoftは2026年7月27日、サンフランシスコで開いた小規模なイベントで2つの発表をしました。

1つ目が「MAI-Cyber-1-Flash」。同社にとって初の、サイバーセキュリティ専用に作られたAIモデルです。

2つ目が「Project Perception」。多数のAIエージェント(自分で判断して作業を進めるAI)が連携し、企業を守るプラットフォームです。

Microsoft AIのCEOであるMustafa Suleyman氏は、この構成を「MDASHという枠組みの中で、MAI-Cyber-1-FlashとGPT-5.4を組み合わせている」と説明しました。自社製AIとOpenAI製AIの合わせ技です。

MAI-Cyber-1-Flashの中身

公開されているモデルカードによると、スペックはかなり変わっています。

総パラメータ数は1370億、そのうち実際に動くのは50億だけ。MoE(Mixture-of-Experts=たくさんの専門家AIから必要な人だけ呼び出す仕組み)を採用しているためです。

大きな会社に例えるなら、社員1370人のうち、案件ごとに最適な5人だけを会議室に呼ぶようなもの。全員を動かさないので、速くて安く済みます。

コンテキスト長(一度に読み込める情報量)は25万6000トークン。中規模のソースコード全体を一気に読ませても余裕がある量です。

ベースになったのは「MAI-Code-1-Flash」。GitHub CopilotやVS Codeにすでに組み込まれているコーディング用AIです。それをセキュリティ専用に鍛え直したものが今回のモデルになります。

100体以上のAIが動く「MDASH」という土台

MDASHは、脆弱性(システムの弱点)を見つけて直すためのマルチエージェント基盤です。

100以上のセキュリティエージェントが動き、複数の異なるAIモデルを使い分けます。バグを探す係、それが本当に危険か検証する係、修正コードを書く係、といった分業体制です。

企業向けの安全対策も入っています。権限管理、テナント分離、暗号化、監査ログ、そしてインターネットに接続しないサンドボックス環境での実行です。危険なコードを試す作業は、外界から切り離した箱の中で行われます。

「96%」という数字の意味──CyberGymとは何か

1507件の本物の脆弱性で試すテスト

CyberGymは、カリフォルニア大学バークレー校が作った評価用のテストです。

特徴は「本物」であること。188のソフトウェアプロジェクトから集めた1507件の実在する脆弱性が題材です。GoogleのOSS-Fuzz(オープンソースの弱点を自動で探し続ける仕組み)が過去に見つけたものが元ネタになっています。

AIに課される仕事はシンプルですが難しい。「このコードのどこかに穴がある」という状態から、実際にその穴を突く再現コードを書き上げることが求められます。

難易度は4段階。レベル0ではソースコードだけが渡され、ヒントは一切ありません。

1年前は「20%」が限界だった

ここが重要なところです。

CyberGymが公開された2025年時点では、どんなAIの組み合わせでも成功率はおよそ20%が上限でした。それだけ難しいテストだったのです。

それが今回、MDASH+MAI-Cyber-1-Flash+GPT-5.4の構成で95.95%。約1年で桁違いの伸びを見せたことになります。

ちなみにCyberGymは、テストの過程で34件のゼロデイ脆弱性(誰にも知られていなかった穴)と、18件の「直したつもりで直っていなかった修正」を実際に発見しています。単なる練習問題ではなく、社会的に意味のある課題が並んでいるわけです。

競合との差は12ポイント

Microsoftが公開した比較表では、他社との差がはっきり出ています。

  • MDASH + MAI-Cyber-1-Flash + GPT-5.4:95.95%
  • Anthropic「Mythos」:85.6%
  • Google「Gemini」:約84〜85%
  • OpenAI「GPT」系:約83.2%

2位のAnthropicとの差は約12ポイント。セキュリティの世界では、見逃した1割が致命傷になり得ます。この差は数字の見た目以上に大きいといえます。

ただし注意点もあります。CyberGym以外のベンチマークでは、CVEBenchが0.314、マルウェア解析が0.33、実際に攻撃コードを完成させるExploitGymでは3項目すべて0点でした。万能なセキュリティAIが誕生した、という話ではありません。

コスト半減のからくり──「9割は自社、1割はOpenAI」

今回いちばん実務に効くのは、性能よりコストの話かもしれません。

Microsoftによると、この構成は従来のMDASH最良構成(GPT-5.4+GPT-5.4 mini+GPT-5.3 codex)と比べてコストが50%削減されるとのことです。

仕組みはシンプルです。作業の約90%を安価なMAI-Cyber-1-Flashが処理し、本当に難しい残り10%だけをGPT-5.4に回します。普通の問い合わせは新人が処理し、こじれた案件だけベテランに回す。人間の職場でもよくあるやり方です。

興味深いのは、自社モデルを作ってもなおMicrosoftがOpenAIから離れていない点です。難しい推論はGPT-5.4に任せ続けています。

「モデルを自前で全部揃える会社」から「最適なモデルを組み合わせて配る会社」へ。Microsoftの立ち位置がオーケストレーター(指揮者)役に変わりつつあることを示す構成です。

Project Perceptionと、1日100兆件のシグナル

もう1つの発表がProject Perceptionです。

Microsoft Securityは、1日あたり100兆件を超えるシグナル(通信ログや不審な挙動の記録)を扱っています。守る対象は160万社の顧客、10億件のID、240億回のCopilot対話です。

100兆件をそのままAIに読ませることは物理的に不可能です。そこでMicrosoftは、膨大なシグナルをグラフ構造に圧縮し、AIエージェントが歩き回れる地図に変換しました。そのうえで、脅威ごとに最も得意なモデルへ割り振ります。

Perceptionでは、レッドチーム(攻める役)、ブルーチーム(守る役)、グリーンチーム(直す役)といったエージェントの集団が動きます。開発を率いるDave Weston氏は「数分で、これら全部の修正が手に入る」と述べました。

Microsoft SecurityのEVPであるHayete Gallot氏が語った狙いは「攻撃者と同じ規模とスピードで、AIをAIで防ぐ」。そのうえで「機械の速度で推論し、優先順位をつけ、実行する。それでいて人間が主導権を握り続ける」と付け加えました。

Project Perceptionは2026年8月3日から、MDASHを試用中の法人顧客向けに世界でプレビュー提供が始まります。

実際、どんな場面で効いてくるのか

抽象的な話が続いたので、具体的な場面を3つ想像してみましょう。

ケース1:金曜の夜にオープンソースの脆弱性が公表された。 情シス担当者は、自社の何十というシステムのどこにその部品が使われているかを洗い出さねばなりません。従来なら週末返上の作業です。エージェント群が並行してコードを走査すれば、この棚卸しは大幅に短縮されます。

ケース2:社内の古い業務システムを引き継いだ。 作った人はすでに退職済み、ドキュメントもほぼ無い。25万6000トークンという長いコンテキストは、こうした「誰も全体像を知らないコード」をまるごと読ませる用途に向いています。

ケース3:セキュリティ担当が1人しかいない企業。 アラートは毎日何十件も鳴りますが、どれが本当に危ないのかを見極める時間がありません。優先順位づけを自動化できれば、その1人が見るべき案件だけに集中できます。

共通しているのは、「人手が足りず見て見ぬふりをしていた領域」がターゲットになっている点です。

競合はどう動いているか

セキュリティ特化AIの競争は、この1年で一気に激しくなりました。

Anthropicは2026年2月に「Claude Code Security」を発表。何十年も見つからなかったゼロデイ脆弱性を自律的に発見できるとしています。さらに4月には、フロンティアモデル「Claude Mythos」を軸にした「Project Glasswing」を公表しました。OpenAIも5月に「Daybreak」を投入しています。

一方のGoogleは方針が異なります。セキュリティ専用モデルを作らず、汎用のGeminiで対応する路線です。専用に振るか汎用で押すか、思想が分かれているのが今の状況です。

日本勢では、Sakana AIが2026年7月にオーケストレーションモデル「Fugu-Cyber」を発表し、CyberGymで86.9%を主張しました。ただしこの数値には第三者検証で疑問が出ています。

ここは冷静に見ておきたいところです。ベンチマークの数字は、測り方の条件次第で大きく変わります。Microsoftの95.95%も、同社の環境で同社が測った値である点は覚えておいて損はありません。

日本市場への影響

日本の企業にとって、これは遠い海の向こうの話ではありません。

2025年5月に成立したサイバー対処能力強化法(いわゆる能動的サイバー防御法)が、2026年中の施行に向けて動いています。基幹インフラ事業者には、重要システムの届出やインシデント報告といった新しい義務が課されます。

背景にあるのは実害です。2022年の大阪急性期・総合医療センター、2023年の名古屋港と、国内でも業務停止に追い込まれる事例が続きました。

一方で、日本のセキュリティ人材不足は長く指摘されてきた課題です。守るべき対象は増え、報告義務も増え、しかし人は増えない。この構図の中で、「人手をAIで埋める」という選択肢は現実味を帯びてきます

Microsoft 365やAzureをすでに使っている会社なら、Perceptionはつなぎ込みやすい位置にあります。日本語対応や国内リージョンでの提供条件は、8月3日のプレビュー開始以降の発表待ちです。

よくある質問(FAQ)

Q1. MAI-Cyber-1-Flashは誰でも使えますか?
現時点では利用は制限されており、MDASHの内部で動く形になっています。単体のAPIとして一般公開されているわけではありません。Project Perceptionのプレビューが2026年8月3日から始まるので、まずはそちらが入り口になります。

Q2. 96%という数字は「9割6分のバグを見つけられる」という意味ですか?
やや違います。CyberGymという特定のテストにおける成功率です。しかも成績はMDASHという枠組み全体(MAI-Cyber-1-Flash+GPT-5.4)での数値であり、モデル単体の性能ではありません。実際の現場ではまた別の結果になる可能性があります。

Q3. 攻撃側にも使われてしまうのでは?
その懸念はあります。ただし今回のモデルは実際に攻撃コードを完成させるExploitGymで3項目とも0点でした。防御寄りに調整されている様子がうかがえます。とはいえ、脆弱性を見つける能力そのものは攻守どちらにも使えるため、業界全体で議論が続いているテーマです。

Q4. コストが半分になると、実際いくら安くなりますか?
Microsoftが示した「50%削減」は、従来のMDASH最良構成との比較です。絶対額は公表されていません。自社規模での試算には、プレビュー開始後の価格情報が必要です。

Q5. 中小企業でも導入できますか?
プレビューはMDASHを試用中の法人顧客が対象なので、当面は大企業中心とみられます。ただしSecurity Copilotのように、段階的に対象が広がる可能性はあります。

まとめ

  • Microsoftが初のセキュリティ特化AI「MAI-Cyber-1-Flash」を2026年7月27日に発表した
  • 総パラメータ1370億・アクティブ50億のMoEモデルで、コンテキストは25万6000トークン
  • CyberGymで95.95%を記録し、Anthropic(85.6%)に約12ポイント差をつけた
  • タスクの9割を自社モデルで処理し、難所だけGPT-5.4に回すことでコストは半分に
  • ExploitGymでは0点など、万能ではないことも数字が示している
  • Project Perceptionは2026年8月3日から世界でプレビュー提供が始まる

Microsoft 365やAzureを使っている企業の担当者は、まず8月3日のプレビュー開始情報と、自社が対象になるかどうかを確認してみてください。

参考文献