中国AIが2.78兆規模|米国は130B止まり

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Hugging Faceが2026年8月14日に公開した最新レポート「State of Open Models: Summer 2026」の中身
  • 中国のAI研究所は月ごとの最大2.78兆パラメータ、米国勢は130B未満という規模の開き
  • ダウンロードの83%は「1Bパラメータ未満」の小さなモデルが占めるという意外な実態
  • Qwenの派生モデルは151,448件でMetaの2.6倍、事実上の標準土台に
  • 日本の企業やユーザーがオープンモデルを選ぶときに見るべきポイント

AIの主役は、もう「一番大きなモデル」ではないのかもしれません。世界最大のAI共有サイトが公開した最新の統計は、話題性と実際の利用がまったく別物であることを数字で示しました。今の勢力図と、日本のユーザーに関係する変化を整理します。

Hugging Faceの「Summer 2026」レポートとは

2026年8月14日、Hugging Faceが「State of Open Models: Summer 2026」というレポートを公開しました。

Hugging Faceは、AIモデルを誰でも公開・ダウンロードできる共有サイトです。プログラムの世界でいうGitHubのAI版だと思ってください。

執筆したのは同社のAdina Yakefu氏、Apolinário氏、Irene Solaiman氏の3名です。自社サイトに実際に集まったアクセスログをもとに書かれた、一次データのレポートになります。

サイトの規模は半年で2割増えた

まず全体の数字から見ていきます。

公開モデルの数は243万から296万へ、21.5%増えました。データセットは71.1万から100万、Spaces(AIを動かせるデモ置き場)は100万から144万に増えています。

新しいリポジトリ(モデルやデータの置き場)は、およそ7秒に1つのペースで生まれている計算です。

ただし、その中身は極端に偏っています。全モデルの85.6%は、公開されてから一度も200回すらダウンロードされていません。逆に、上位1.5%のリポジトリが全アクセスの99.2%を集めています。

中国勢は2.78兆、米国勢は130B|広がるサイズ差

レポートで最も目を引くのが、モデルの大きさの差です。

ここでいう「パラメータ」とは、AIの中にある調整つまみの数のことです。多いほど複雑なことを覚えられますが、動かすのに必要な計算機も大きくなります。

月ごとの最大サイズで20倍以上の開き

2026年に入ってから、中国のAI研究所が出したモデルの月間最大サイズは754B(7540億)から2.78兆パラメータまで伸びました

いっぽう米国勢の月間最大は、多くの月で130B未満にとどまっています。

例外もあります。NVIDIAのNemotron 3 Ultraが561B、Thinking Machinesが公開したInklingが952Bと、大型の公開に踏み切った例です。

それでも桁がひとつ違う状態が続いています。米国の大手は、大きなモデルを非公開のまま自社サービスで提供する方針を選んでいるためです。

研究所ごとに戦略が分かれている

中国側も一枚岩ではありません。

Moonshot、MiniMax、Xiaomiの3社は、70B超の大型モデルだけを公開する「フロンティア特化型」です。MoonshotのKimi-K3は約2.8兆パラメータという規模になりました。

対してQwen(アリババ)やTencentは、小型から超大型まで全サイズをそろえる戦略を取っています。DeepSeekも284BのV4-Flashなど、実用サイズを厚く出しています。

実際に使われているのは、驚くほど小さなモデル

大きなモデルの話題ばかりが流れてきますが、実際のダウンロード数はまったく違う絵を描いていました。

「いいね」とダウンロードはほぼ重ならない

ダウンロード数トップ25と、「いいね」数トップ25。この2つのリストに両方入っていたモデルは、たった1件だけでした

象徴的なのがall-MiniLM-L6-v2という文章検索用のモデルです。パラメータはわずか2270万個。それでも累計15.5億回ダウンロードされています。

ところが「いいね」は5,156件しかありません。誰も話題にしないのに、世界中の検索機能を静かに支えている縁の下の力持ちです。

1Bパラメータ未満のモデルが、全期間のダウンロードの83%を占めます。100Bを超える大型モデルは、わずか1%です。2026年に限っても、70B超のフロンティアモデルは全体の3%にすぎません。

伸びているのは「動かすための道具」

もうひとつの変化が、周辺ツールの急成長です。

手元のパソコンでAIを動かすための形式であるGGUF関連のリポジトリは464%増。ロボット学習用のLeRobotが194%増、Mac向けのMLXが148%増と続きます。

いっぽう従来型の開発ライブラリは、Transformersが16%増、Diffusersが21%増と穏やかです。

研究のためにモデルを作る段階から、手元で実際に走らせる段階へ、関心が移っているということです。llama.cppの進化により、2026年7月の時点で2.8兆パラメータ級のKimi-K3すら圧縮形式で配布されています。

Qwenが事実上の「標準の土台」になった

オープンモデルの世界には、みんなが改造のベースにする「土台モデル」があります。かつてはMetaのLlamaがその座にいました。

今回のレポートによれば、その座は完全に入れ替わっています。

Qwenをベースに作られた派生リポジトリは151,448件。Meta全体の2.6倍、Llama単体で見れば4.7倍という差です。

2位はGoogleの82,506件でした。しかもQwen派生は、1日あたり180〜210件のペースで今も増え続けています。

ローカル実行用のGGUF形式に限ると差はさらに鮮明です。Qwen系の月間ダウンロードは3,960万回。Gemmaの2,080万回のほぼ2倍、Llamaの750万回の5倍以上にあたります。

ある地方の製造業で、社内マニュアルを検索できるAIを作る場面を想像してみてください。ネットで見つかる解説記事も、動作確認済みの設定ファイルも、今はQwen前提のものが圧倒的に多いのです。技術的な優劣より前に、この「情報の量」が採用を決めてしまいます。

中国モデルと米国モデル、ライセンスを比較する

実務でいちばん効いてくるのが、実はライセンス(利用条件)の違いです。

レポートは20Bを超えるモデルに絞って両者を比べています。

中国勢は8割が自由に商用利用できる

中国から公開された178件のうち、59%がApache 2.0、22%がMITライセンスでした。どちらも商用利用や改造をほぼ自由に認める条件です。

注目すべきは、非商用に限定したモデルがゼロだった点です。

対する米国勢は、Apache/MITが29%にとどまります。独自の利用条項が41%、ライセンスが明記されていないものが30%を占めました。

選ぶ側から見た違い

観点中国系オープンモデル米国系オープンモデル
主なライセンスApache 2.0(59%)/MIT(22%)独自条項(41%)/未記載(30%)
公開サイズ最大2.78兆パラメータ多くは130B未満
商用利用制限なしが大半条項の確認が必要
派生モデルの数Qwenが151,448件で最多Googleが82,506件

ライセンスが未記載というのは、企業にとっては実質「使えない」に近い状態です。法務部門が判断できないためです。この差が、そのまま採用実績の差につながっています。

AIエージェントが新しい「ユーザー」になった

今回のレポートで初めて登場したのが、AIエージェントの利用統計です。

Hugging Faceは2026年7月に「agent-usage」というデータセットを公開しました。人間ではなくAIが自律的にサイトへアクセスした記録です。

7月のアクセスでは、Claude Codeが44.4%で最大のシェアを占めました。2位はCodexの20.8%です。

ただし数字の読み方には注意が必要です。Claude Codeは4月に67.8%、5月には6.4%と激しく上下しています。

Hugging Faceが公開しているのは相対シェアだけで、実際の件数ではありません。割合が下がっても利用が減ったとは限らないのです。

さらに、7月のアクセスのうち約25%は、どのツールから来たのか判別できない未登録の経路でした。AIが勝手にネットを歩き回る時代に、統計そのものが追いつききれていない状況がうかがえます。

日本のユーザーと企業に何が起きるか

この勢力図は、日本の現場にも直結します。

ローカル運用が現実的な選択肢になった

クラウドのAPIを使わず、自社のパソコンやサーバーだけでAIを動かす方式をローカルLLMと呼びます。

個人情報や設計図を外部に出したくない現場では、以前から需要がありました。問題は「実用に足る性能のモデルが自由に使えるか」でした。

Apache 2.0やMITのモデルが大量にそろい、GGUF形式での配布も整った今、その壁はかなり下がっています。

たとえば地方の病院が、患者の問診メモを要約するAIを院内サーバーだけで動かす。あるいは法律事務所が、契約書のドラフトを外部に一切送らずに下読みさせる。数年前は絵空事だった構成が、今は普通に組めます。

「中国製の土台」をどう扱うか

一方で、判断が必要な論点も生まれます。

国内でもSakana AIが日本語モデルのAPIを開始した際、基盤に中国製のKimiを使っていたことが話題になりました。日本語対応のモデルを追っていくと、土台が中国系というケースは珍しくありません。

オープンウェイトである以上、重み(AIの中身)は手元で検証できます。ただし学習データの中身までは公開されていないことが大半です。

官公庁や金融のように調達要件が厳しい分野では、この点が今後の論点になっていくと言われています。ライセンスの自由さと、供給元をどう評価するかは別問題だと整理しておくのが安全です。

よくある質問(FAQ)

Q. オープンモデルは無料で使えますか?

モデル自体のダウンロードは無料です。ただし動かすためのパソコンやサーバーの費用はかかります。Apache 2.0やMITライセンスであれば、商用サービスへの組み込みも基本的に自由です。

Q. 大きいモデルほど性能が良いのですか?

用途次第です。文章の検索や分類なら、2270万パラメータのall-MiniLM-L6-v2が15.5億回使われている通り、小さなモデルで十分な場面が多くあります。全ダウンロードの83%が1B未満という数字が、その実態を表しています。

Q. 中国製モデルを業務で使っても大丈夫ですか?

ライセンス上は、Apache 2.0やMITなら商用利用に制限はありません。ローカルで動かせば通信も発生しません。ただし学習データの詳細が非公開である点は、社内で評価基準を決めておくのが望ましいでしょう。

Q. 個人のパソコンでも動きますか?

1B〜8B程度のモデルなら、一般的なノートパソコンでも動きます。GGUFという圧縮形式とllama.cppを組み合わせるのが定番です。Macの場合はMLXという専用の仕組みもあり、こちらも148%成長しています。

Q. Llamaはもう使われていないのですか?

使われてはいますが、勢いは明確に落ちています。派生リポジトリはQwenの4.7分の1、GGUF月間ダウンロードは5分の1以下です。新規プロジェクトの土台としては、Qwen系が選ばれる傾向が強まっています。

まとめ

  • Hugging Faceが2026年8月14日に「State of Open Models: Summer 2026」を公開した
  • 中国勢の公開モデルは月間最大2.78兆パラメータ、米国勢は多くが130B未満
  • 実際のダウンロードは1B未満の小型モデルが83%を占め、100B超はわずか1%
  • Qwenの派生リポジトリは151,448件でMetaの2.6倍、事実上の標準土台になった
  • 中国系20B超モデルの81%がApache 2.0かMITで、非商用限定はゼロ
  • 米国系は独自条項41%・ライセンス未記載30%で、企業が採用しにくい構造
  • GGUF関連が464%成長し、手元でAIを動かす流れが加速している

自社で扱いたいデータの機密度を書き出したうえで、1B〜8B級の小型モデルをローカルで一度試してみることをおすすめします。

参考文献