Gemini 3.6 Flashのおバカ回答は直った?

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Gemini 3.6 Flashが公開直後に「9.11のほうが9.3より大きい」と誤答して話題になった経緯
  • 公開から1週間後の実地検証で、初期の単純ミスの多くが再現しなくなっていたこと
  • それでもハルシネーション(AIがもっともらしいウソを作る現象)は残っているという現実
  • 出力トークン17%削減と値下げという、性能面での確かな進化
  • 日本のユーザーや企業が今日から使える、誤答を減らす4つの具体策

「AIが小学生でも解ける問題をまちがえた」というニュースを見て、がっかりしたことはありませんか。2026年7月に公開されたGoogleの新しいAIが、まさにその状況に置かれました。ところが1週間後に同じ質問をぶつけると、結果は変わっていたのです。何が直り、何が残ったのかを整理します。

「9.11より9.3が小さい」?公開直後に何が起きたのか

Googleは2026年7月21日、新しいAIモデル「Gemini 3.6 Flash」を一般公開しました。Flashは「速くて安い」ことを売りにしたシリーズです。

ところが公開直後、X(旧Twitter)に驚きの報告が並びました。

もっとも拡散したのが小数の大小比較です。「9.11と9.3、どっちが大きい?」と聞くと、「9.11のほうが大きいです」と答えてしまったという報告でした。

さらに厄介な例もあります。「9.3と9.13ではどちらが大きい?」という質問に対し、結論では「9.13の方が大きい」と誤答しながら、その下の説明文では「9.3の方が大きくなります」と書く。自分で自分に矛盾していたのです。

存在しない生き物をめぐるやりとりも注目を集めました。あるユーザーが「ミクイロオナガハナダイ」という架空の魚をでっち上げて質問したところ、AIは学名や生息域、特徴まですらすらと解説し、画像まで示したといいます。

ユーザーが「それ、私が作った架空の魚です」と指摘すると、AIは「それっぽい解説をでっち上げてしまいました」と謝罪しました。ITmedia NEWSの記事タイトルにある「痺れるほどにミスを繰り返す」という表現は、こうした当時の空気をよく表しています。

1週間後、同じ質問をぶつけたらどうなったか

ITmedia NEWSは2026年7月28日、公開から約1週間が経ったタイミングで、話題になった質問を実際に投げ直す検証記事を公開しました。

再現しなかったもの

結論から言うと、初期に見られた単純な誤答の多くは再現しませんでした

小数の比較は、8桁の数値どうしの比較まで試したうえで、検証した範囲ではすべて正答したとされています。

架空の生き物についても同様です。「ミクイロオナガハナダイ」に加え、「アオホシオナガハゼ」「ベニホシトゲカサゴ」といった別の架空名で試しても、AIは「実在しません」と正しく判断しました。

それでも残っている問題

一方で、すべてが解決したわけではありません。

検証記事では、ハルシネーションそのものは続いていると報告されています。コーディング中に同じ修正を何度も繰り返す、画像やグラフを読みまちがえる、プロンプト(AIへの指示文)で指定した条件を無視する、といった声も残りました。

実装作業で「大丈夫です」と請け合っておきながら、あとになって「ハルシネーションを行ってしまいました」と謝るケースも報告されています。

ちなみに否定的な声ばかりでもありません。「回答が高速なので、タスクを選べば十分使える」「創造的な用途には向いている」という評価も同時に出ています。速さと引き換えに何を諦めるか、という選択の問題になってきた、と言えそうです。

なぜAIは小数の大小をまちがえるのか

そもそも、なぜ最先端のAIが小学生レベルの比較でつまずくのでしょうか。

鍵はトークナイザー(文章を細かい単位に切り分ける仕組み)にあると言われています。

AIは「9.11」をひとつの数値として見ているわけではありません。「9」「.」「11」という3つの断片として処理している可能性が高いのです。すると小数点の後ろにある「11」と「3」を整数どうしで比べてしまい、11のほうが大きいから9.11が大きい、という結論に至ります。

学習データの偏りも指摘されています。インターネット上には、バージョン番号や日付のように「後ろの数字が大きいほど新しい・大きい」という文脈が大量にあります。ソフトウェアのバージョン9.11は9.3より新しい、というのが世の中の常識です。

つまりAIは計算しているのではなく、過去に見た大量の文章から「それらしい答え」を思い出しているだけ、という側面があります。9.11という並びが同時多発テロの日付や聖書の章番号として強く記憶されている影響も指摘されています。

この現象はGeminiに限りません。他社の大規模言語モデル(人間のように文章を書けるAI)でも同じ誤答が長く報告されてきた、業界共通の弱点です。

性能と価格:出力17%減で値下げも実現

誤答が目立った一方で、Gemini 3.6 Flash自体は明確に進化しています。

ベンチマークは全面的に向上

前世代の3.5 Flashと比べた主な数値は次のとおりです。

  • コーディング能力を測るDeepSWE:37% → 49%
  • 機械学習タスクのMLE Bench:49.7% → 63.9%
  • パソコン操作を任せるOSWorld-Verified:78% → 83.0%

特にDeepSWEの伸びは大きく、コードを書かせる用途での実力が上がったことを示しています。

「短く答える」ことで実質的に安くなる

価格面の変化も見逃せません。入力は100万トークンあたり1.50ドルで据え置き、出力は9.00ドルから7.50ドルへ約17%値下げされました。

加えて、Artificial Analysis Indexの計測では出力トークンの使用量そのものが平均17%減っています。Datacurveのベンチマークでは最大65%削減した例もあるとのことです。

同じ答えをより少ない言葉で返せば、単価が同じでも請求額は下がります。値下げと省トークンの両方が効くので、実際のコストはかなり軽くなる計算です。

競合と比べるとどうか

同時に発表された「Gemini 3.5 Flash-Lite」は入力0.30ドル・出力2.50ドルと格安で、毎秒350トークンという速度が持ち味です。文書処理や検索エージェント向けと位置づけられています。

競合ではClaude Haiku 4.5が入力1ドル・出力5ドルで、トークン単価だけ見ればGemini 3.6 Flashより3割ほど安くなります。ただし使える機能や周辺ツールの充実度は別問題です。

なお本命のGemini 3.5 Proはパートナーとのテスト段階にとどまっています。「サイレントなコードエラー」や「高頻度のハルシネーション」が公開延期の理由として挙がったと伝えられており、Flashが主力を務めざるを得ない状況が続いています。Googleは「Gemini 4」の事前学習開始も明かしました。

日本のユーザーと企業にどう関係するか

Gemini 3.6 Flashは日本からもすぐ使えます。Google AI Studio、Gemini API、Vertex AIに加え、開発支援エージェント「Antigravity」では標準モデルとして採用されています。Google AI Studioには一定のリクエスト枠内で無料試用できる枠もあります。

身近な場面で考えてみましょう。

ある通販会社のカスタマーサポートで、AIが問い合わせメールの下書きを作っているとします。返答が速いのは大歓迎ですが、存在しない返品期限を勝手に書かれたら、そのまま送信するわけにはいきません。

経理の現場も同じです。請求書の金額を読み取らせるとき、9.11と9.3を取り違えるようなミスが混ざれば、月末の締め作業が余計に増えるだけになります。

学校の先生が授業プリントを作る場面も想像してみてください。存在しない魚を実在するかのように解説されたら、そのまま配るわけにはいきません。生徒が信じてしまうからです。

日本語での利用でも事情は変わりません。ハルシネーションは言語に関係なく起きる課題として扱われており、日本語だから安全ということはないのです。

逆に言えば、下書きの生成、アイデア出し、要約といった「人が最後に目を通す前提」の作業なら、速くて安いFlash系は相性が良いということになります。

ハルシネーションを減らす4つの実践策

モデル側の改善を待つだけでなく、使う側でできる工夫もあります。

1. 検索グラウンディングを有効にする。API経由で使うときは検索ツールを併用します。AIが記憶だけで答えるのではなく、実際のWeb情報を参照してから答える仕組みです。

2. 生成したコードは必ず動かす。存在しないパッケージやAPIメソッドを作り出すのは、Flash系でよく報告される失敗パターンです。実行して初めて分かります。

3. 構造化出力を使う。JSONモードとスキーマ定義(データの形をあらかじめ決めておく指定)を組み合わせると、自由作文の余地が減り、余計な創作が入りにくくなります。

4. 正確性が命の領域では上位モデルを使う。法律や医療のように誤りが許されない分野では、速さより確実さを優先したモデル選びが必要です。

実際、Gemini 3.6 Flashのモデルカード(公式の仕様説明書)にも、ハルシネーションは既知の制約として明記されています。メーカー自身が「検証して使ってください」と言っているわけです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 今のGemini 3.6 Flashは「9.11と9.3」を正しく答えられますか?

2026年7月28日時点の検証では、確認された範囲で正答しています。8桁の数値比較まで試して問題は再現しませんでした。ただしAIの回答は毎回同じとは限らないため、重要な計算をそのまま信じるのは避けたほうが安全です。

Q2. Googleが修正したから直ったのですか?

Googleが「この誤答を修正した」と個別に公表した事実は確認されていません。モデルの更新か、回答のばらつきの範囲か、はっきりしていない状況です。検証結果は「再現しなかった」という事実にとどまります。

Q3. 無料で試せますか?

Google AI Studioで一定のリクエスト枠内なら無料で試用できます。まず自分の業務で使う質問を投げて、精度を自分の目で確かめるのがおすすめです。

Q4. 3.6 Flashと3.5 Flash-Lite、どちらを選べばいいですか?

コーディングや複雑な判断を任せるなら3.6 Flashです。大量の文書をさばく、検索して要約するといった軽い処理が中心なら、出力2.50ドルの3.5 Flash-Liteのほうがコストは抑えられます。

Q5. 業務システムに組み込んでも大丈夫ですか?

人の確認が入る工程なら現実的です。AIの出力がそのまま顧客に届いたり、金額の確定に使われたりする設計は避け、検証の仕組みをセットで作ることが前提になります。

まとめ

  • Gemini 3.6 Flashは2026年7月21日公開。直後に小数比較の誤答や架空の魚の解説が話題になった
  • 1週間後の検証では、これらの単純な誤答は確認範囲で再現しなかった
  • 一方でハルシネーション、コーディング時のエラー、画像誤読などの報告は続いている
  • 性能はDeepSWE 49%、MLE Bench 63.9%など全面向上。出力は7.50ドルへ値下げ、トークン使用量も平均17%減
  • 誤答対策は「検索グラウンディング」「コードの実行検証」「構造化出力」「用途別のモデル使い分け」の4点が基本

まずはGoogle AI Studioの無料枠で、自分の業務で本当に使う質問を10個ほど投げてみてください。ベンチマークの数字より、その結果のほうがずっと参考になります。

参考文献