リクルート研修13本が無料|AI時代の生き残り方

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • リクルートが2026年8月5日、新卒エンジニア向けの研修資料13本を無料公開しました
  • 目玉は和田卓人(t_wada)氏による全41枚の「ソフトウェアエンジニア人生サバイバルガイド」です
  • 大規模言語モデル入門は113枚、セキュリティ演習は208枚という圧倒的なボリュームです
  • 「AIは増幅器であり、組織の能力を映す鏡」という考え方が研修全体を貫いています
  • MIXIも7月に12科目を公開済み。2026年は新卒研修の公開ラッシュが起きています

大企業が新入社員に何を教えているか、のぞいてみたいと思ったことはありませんか。リクルートがその中身を、13本まるごと無料で公開しました。しかも1本は208枚。AI時代にエンジニアがどう生き残るかまで踏み込んだ内容を、この記事で丸ごと解説します。

リクルートが新卒エンジニア研修資料13本を無料公開

リクルートは2026年8月5日、同社のテックブログで2026年度の新卒エンジニア研修資料を公開しました。

対象は、株式会社リクルートおよびインディードリクルートテクノロジーズに配属予定の新卒エンジニアです。研修は約4カ月間の「BootCamp」として実施されました。

そのうち13本の講義資料がSpeaker Deckで無料公開されています。会員登録もログインも不要です。誰でも今すぐ読めます。

公開された13本のラインアップ

中身を一覧にすると、その幅広さがよくわかります。

講座名テーマ
エンジニアの心構えソフトウェアエンジニア人生サバイバルガイド
大規模言語モデル入門つくって納得、つかって実感!大規模言語モデルことはじめ
テスト駆動開発TDD in AI Era
ブラウザ研修ブラウザ研修 2026
開発プロセス事業価値と Engineering
制約理論入門制約理論(ToC)入門 2026版
トヨタ生産方式入門トヨタ生産方式(TPS)入門
JavaScript研修JavaScript 研修(2026)
TypeScript研修TypeScript入門 2026
モダンフロントエンドモダンフロントエンド開発研修
WebアクセシビリティWebアクセシビリティ入門 2026
プロダクトセキュリティ攻撃と防御で学ぶAI時代のプロダクトセキュリティ演習
モバイルアプリ開発モバイルアプリ開発概論2026

注目したいのは、プログラミング以外の科目が混ざっている点です。

制約理論(ToC)は「全体の流れを止めている一番の弱点はどこか」を見つける考え方です。トヨタ生産方式(TPS)は工場の生産管理から生まれた、ムダをなくすための手法です。

どちらも一見、コードとは無関係に見えます。ですがAIがコードを速く書けるようになったいま、ボトルネックは「書く速さ」から別の場所へ移りました。その移った先を見抜く力こそ、この2科目が鍛えようとしているものです。

目玉は「ソフトウェアエンジニア人生サバイバルガイド」

13本のなかでもっとも話題になったのが、この1本です。

講師は和田卓人(t_wada)氏。タワーズ・クエスト株式会社の取締役社長で、日本にテスト駆動開発を広めてきた人物として知られています。

資料は全41枚。2026年4月6日の講義で使われたものです。テーマは、ずばり「エンジニアとして長く生き残るには」。

まず突きつけられる「2つの現実」

資料の前半は、かなり厳しい話から始まります。

1つめの現実は、技術の変化が速すぎること。トレンドは振り子のように行ったり来たりします。処理を手元でやるか、サーバー側でやるか。システムを1カ所に集めるか、分散させるか。

そのうえで十数年に一度、流れそのものを変える「ゲームチェンジャー」が現れます。インターネット、クラウド、そして現在のLLM(人間のように文章を書けるAI)とエージェントコーディングです。

2つめの現実は、勉強できる時間が減っていくこと。キャリアが進むと責任も裁量も増えます。結婚、子育て、親の介護。ライフステージが変わるたび、自由に使える時間は削られます。

つまり「変化は加速するのに、追いかける時間は減る」。この板挟みが出発点です。

対策は4つ、最後がAIの使い方

では、どうするか。資料は4つの対策を示します。

対策1は、リスクを分散すること。名著『達人プログラマー』の「知識ポートフォリオに定期的に投資せよ」という言葉を引きます。1本の専門性に賭けるのではなく、柱を複数立てておく発想です。

対策2は、打率を高めること。技術は同じ場所に戻る「振り子」ではなく、少しずつ上がる「らせん」だと捉えます。若手への助言は明快で、「その技術がどんな問題を解決するために出てきたのかを覚える」こと。そうすれば次の波が来たときに見極められます。

対策3は、学習の効率を上げること。ここでは脳の仕組みに沿った3つの方法が紹介されます。思い出す作業を挟むアクティブリコール、間隔をあけて復習する分散学習、自分の言葉で説明し直す精緻化です。やる気に頼らず「しくみ」で続けよ、というのが結論です。

そして対策4が、AIをスキル形成に使うこと。ここが本資料の核心です。

「AIは増幅器であり、組織の能力を映す鏡」

資料はDORAレポート2025の一節を引用します。「AIは増幅器であり、組織の能力を映す鏡」という言葉です。

能力の高いチームがAIを使えば、その強さがさらに増幅されます。逆に弱いチームが使えば、弱さが増幅されて表に出ます。AIは実力を底上げする魔法ではない、という指摘です。

だから使い方も変わります。答えを出させる道具ではなく、厳しいレビュアーとして、議論の相手として、学習の伴走者として使う。

その根拠として置かれているのが、この一文です。「わからないものはレビューもデバッグもできない」。AIが書いたコードが正しいかどうかは、結局こちらの理解度でしか判断できません。だから自分の能力を上げる必要がある、という筋道です。

資料はさらに「アマラの法則」にも触れます。人は技術の短期的な効果を過大評価し、長期的な効果を過小評価する、という法則です。AIに飛びつきすぎるのも、無視しすぎるのも危うい。だから「両にらみ」でいこう、と締めくくられます。

113枚でLLMを学ぶ「大規模言語モデルことはじめ」

2026年度から新しく開講されたのが、この講座です。

講師はリクルート データ推進室 データテクノロジーラボ部の桐生佳介氏。資料は全113枚と、入門講座としてはかなりの厚みがあります。

お笑いコンテストから始まる導入

驚くのは冒頭です。Part 0はなんと「LLMを使ったお笑いコンテスト」。まず触って遊ばせる、というつくりになっています。

そこから一気に理論へ入ります。Part 1では言語モデルの定義、対数尤度、パープレキシティ(AIがどれだけ言葉を予測できているかの指標)、そしてスケーリング則を扱います。

Transformerから評価手法まで

Part 2は深掘りパートです。

誰でも使えるオープンモデルと、企業が中身を公開しないクローズドモデルの違い。文章を細かく区切るトークナイザの役割。Transformer(いまのAIの基本構造)がどう動くかの可視化。

さらに、事前学習・指示チューニング・人間アラインメントという3段階の開発プロセスまで踏み込みます。

後半ではマルチモーダル化、ロングコンテキスト、推論モデル、エージェント開発と、2026年時点のトピックが並びます。性能評価の章にはLLM-as-a-Judge(AIにAIの出力を採点させる手法)も含まれています。

RAGを6ステップで自作するハンズオン

Part 3は手を動かす時間です。

1つめの課題はStructured Output。対話の記録から必要な情報だけを、決まった形式で取り出させます。

2つめが簡易RAGシステムの実装です。RAGとは、AIに社内文書などを参照させて答えさせる仕組みのこと。文書の準備、ベクトル化、質問の受け取り、関連文書の検索、プロンプトの組み立て、回答生成という6ステップで組み上げます。

受講後のゴールは「言語モデルを説明できる」「使いどころを判断できる」「APIを使って簡単なアプリを作れる」の3点。新人研修としては、かなり実務寄りの到達目標です。

208枚の「AI時代のプロダクトセキュリティ演習」

13本のなかで最大のボリュームがこの資料です。全208枚、2日間の講義。担当はリクルートのRED TEAMに所属する山田快氏と仲西朋也氏です。

扱う脆弱性は7種類

演習で扱うのは次の7つです。

  • XSS(悪意あるスクリプトを埋め込まれる)
  • IDOR(他人のデータを勝手に見られる)
  • CSRF(利用者になりすまして操作される)
  • SQLインジェクション(データベースを不正操作される)
  • パストラバーサル(見せてはいけないファイルを読まれる)
  • DoS(大量アクセスでサービスを止められる)
  • OSコマンドインジェクション(サーバー上で任意の命令を実行される)

攻める側と守る側の両方を体験させる構成になっています。

「AIが書いたコード」の落とし穴を体で覚える

この演習が2026年らしいのは、AIに書かせたコードそのものを題材にしている点です。

仕様書をそのままAIに渡してコードを生成させる。動く。要件も満たしている。ところが中身には穴が開いている、という体験をさせます。

資料で挙げられている具体例は2つ。ひとつは割引機能の欠陥で、無料の商品にまで割引が適用できてしまいます。もうひとつは整数オーバーフローで、在庫制限を外したうえで大量購入すると残高がマイナスになります。

どちらも、テストを通すだけでは気づけません。

研修が掲げる目標は「一歩外側までの思考」と「脆弱性の知識」の両輪です。実装者が「何を作るか」だけでなく「何のために作るか」まで考える習慣をつける。AIが書いた200行を10秒で受け入れてしまわないための訓練だといえます。

MIXIと比較|2026年は新卒研修の公開ラッシュ

実は今年、研修資料を公開したのはリクルートだけではありません。

MIXIは2026年7月27日、新卒エンジニア向けの技術研修資料とアーカイブ動画を公開しました。全12科目です。

リクルートMIXI
公開日2026年8月5日2026年7月27日
本数13本12科目
形式資料(Speaker Deck)資料+動画(YouTube)
AI関連LLM入門・TDD・セキュリティに分散AI研修を2日間に拡充
特色キャリア論・制約理論・TPSまで全科目でAI活用の実務例を解説

両社の違いははっきりしています。

MIXIは動画つきが強みです。スライドだけでは伝わりにくいニュアンスを、講師の説明ごと追体験できます。AI研修も2日間に拡充されました。

対するリクルートは1本あたりの密度が特徴です。113枚、208枚といった資料が並び、さらにキャリア論や制約理論、トヨタ生産方式まで守備範囲に入っています。

ちなみにリクルートは2025年度、17種類の資料を公開していました。本数は減りましたが、AI関連の比重は明らかに上がっています。

日本のエンジニアにとって、これは何を意味するのか

この公開が持つ意味は、単なる「無料の教材が増えた」以上のものです。

背景にある「ジュニア不要論」

2026年の日本では、新卒エンジニア採用を絞る企業が増えています。育成にコストがかかること、そしてAIが定型的なコードを書けるようになったことが理由です。

スキル需要は二極化しつつあります。機械学習エンジニアなど高い専門性を持つ層の需要は伸びる一方、汎用的なスキルしか持たない若手の市場価値は相対的に下がっている、と指摘されています。

そんな時期に大手2社が「若手をこう育てている」を公開した意味は小さくありません。育成をあきらめていない企業の教材が、外から丸見えになったからです。

こんな場面で使えます

具体的に、誰がどう使えるのかを考えてみましょう。

地方の受託開発会社で、新人教育を任された中堅エンジニアを想像してください。今年の新人は2人。研修プログラムを作る時間も予算もありません。そこでリクルートのセキュリティ演習208枚を教材にし、週1回2時間の勉強会を組みます。自分でスライドを作る手間はゼロ。しかも内容は大手の現役エンジニアが監修したものです。

独学でエンジニア転職を目指している社会人にとっても価値があります。市販の入門書は文法の説明で終わりがちです。しかし「事業価値とEngineering」や制約理論の資料を読めば、企業が新人に何を期待しているかが直接わかります。面接で語れる視点が増えます。

社内でAI導入を検討している非エンジニアの企画職にも使えます。「大規模言語モデルことはじめ」のPart 1とPart 2を読めば、RAGとファインチューニングの違いや、なぜハルシネーション(AIがもっともらしい嘘を言う現象)が起きるかを、日本語の資料で理解できます。ベンダーとの打ち合わせで話が通じるようになります。

そしてすでに現場にいる若手エンジニアにとっては、サバイバルガイドの41枚が効きます。AIをどう使うと自分が伸びて、どう使うと伸びなくなるのか。その線引きが具体的に書かれています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 本当に無料で全部読めますか?

はい。13本すべてSpeaker Deckで公開されており、会員登録もログインも不要です。リクルートのテックブログ(article-7222)に各資料へのリンクがまとまっています。

Q2. プログラミング未経験でも読めますか?

資料によります。「ソフトウェアエンジニア人生サバイバルガイド」はキャリアと学び方の話なので、未経験でも十分に読めます。「大規模言語モデルことはじめ」もPart 1とPart 2までなら概念の理解が中心です。一方、JavaScriptやTypeScriptの研修資料はコードが前提になります。

Q3. なぜリクルートは無料で公開するのですか?

リクルートは毎年、新卒研修資料の一部を公開してきました。2025年度は17種類を公開しています。エンジニア採用における認知向上や、技術コミュニティへの貢献が背景にあると考えられます。学生から見れば「入社後に何を学べるか」が事前にわかる材料にもなります。

Q4. 動画はありますか?

リクルートの13本は資料のみの公開です。動画も見たい場合は、MIXIが7月に公開した研修がYouTubeの「MIXI TECH&DESIGN」チャンネルでアーカイブ配信されています。合わせて使うと理解が進みます。

Q5. 社内研修の教材として使ってもいいですか?

閲覧は自由ですが、二次利用の可否は資料ごとの権利表記に従ってください。勉強会で全員がリンクを開いて一緒に読む使い方なら問題は起きにくいでしょう。

まとめ

  • リクルートが2026年8月5日、新卒エンジニア研修資料13本を無料公開しました
  • 研修は約4カ月のBootCampで、対象はリクルートとインディードリクルートテクノロジーズの新卒エンジニアです
  • 和田卓人氏の「ソフトウェアエンジニア人生サバイバルガイド」は全41枚。2つの現実と4つの対策を提示しています
  • 核となるメッセージは「AIは増幅器であり、組織の能力を映す鏡」「わからないものはレビューもデバッグもできない」です
  • 「大規模言語モデルことはじめ」は113枚。簡易RAGを6ステップで自作するハンズオンつきです
  • セキュリティ演習は208枚。AIが生成したコードに潜む割引欠陥や整数オーバーフローを体験させます
  • MIXIも7月に12科目を公開済み。動画つきのMIXIと、密度のリクルートで補完関係にあります

まずは41枚の「ソフトウェアエンジニア人生サバイバルガイド」から開いてみてください。30分あれば読み切れて、AIとの付き合い方が確実に変わります。

参考文献