熊本地震に政府AI投入|源内を3週間緊急提供

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • デジタル庁が7月29日11時、熊本地震の被災自治体にガバメントAI「源内」を緊急提供しました
  • 提供期間は約3週間。対話型チャットと一部のAIアプリ、災害向けのプロンプト例がセットです
  • 通知文の作成、資料の要約、法制度の調査、翻訳、音声の文字起こしなどに使えます
  • 同じ日に「D-CERT」の先遣班5名が熊本県庁に入り、人とAIの両面で支援が始まりました
  • 源内は政府職員18万人規模の実証が進む内製AI基盤。2026年4月にはソースコードも公開されています

震度7の揺れから、およそ19時間後のことでした。国が被災地に送り込んだのは、人だけではありません。デジタル庁は2026年7月29日、政府職員が使う生成AI「源内(げんない)」を被災自治体に開放しました。行政のAIは災害の現場で本当に役に立つのでしょうか。提供の中身から確かめていきます。

7月29日11時、政府AIが被災地に開放された

デジタル庁は2026年7月29日、令和8年熊本地震の被災自治体などに対し、ガバメントAI「源内」を臨時提供すると発表しました。

提供開始は同日の11時です。対象は被災自治体、関係する自治体、そして災害対策機関です。

地震が起きたのは前日の7月28日16時27分。マグニチュード7.1、震源の深さは10kmでした。熊本県の宇城市と氷川町で最大震度7を観測しています。

熊本市南区、八代市、宇土市、美里町、益城町では震度6強。九州自動車道の八代インターチェンジ付近では、ランプ橋が崩落しました。

提供されるのは「チャット+AIアプリ+プロンプト例」

今回開放されたのは、源内のすべてではありません。中身は3点セットです。

  • 対話型チャット(ChatGPTのようにAIと会話できる画面)
  • 一部のAIアプリ(特定の業務に特化した機能)
  • プロンプト例(AIへの指示文のお手本)

使える機能として挙げられているのは、通知文の作成、資料の要約、Web検索と組み合わせた最新情報の調査、法制度の調査、翻訳、音声の文字起こしなどです。

災害対応の現場は、この6つとほぼ丸ごと重なります。避難所の掲示物、県への報告書、外国人住民への案内、対策会議の議事録。どれも「文字を作る仕事」だからです。

期間は約3週間、データ保存機能はあえて外した

提供期間は約3週間とされています。発災直後の混乱期に絞った、期間限定の支援です。

注目したいのは、含まれていない機能のほうです。データストレージ(ファイルを預けておく機能)とデータ共有機能は、今回の提供対象から外されました。

被災者の個人情報がやり取りされる現場で、いきなりデータを預かる仕組みまで開放するのは危険です。「文章を作る道具」だけを、素早く、限定的に渡す。この線引きが今回の設計の肝と言えます。

そもそもガバメントAI「源内」とは何か

政府職員18万人を目指す内製のAI基盤

源内は、デジタル庁が自分たちで開発した生成AIの利用環境です。2025年5月から庁内で運用が始まりました。

2026年度には、全府省庁39機関・約18万人の政府職員を対象にした大規模実証が進んでいます。国家公務員がまとめてAIを使う、日本では前例のない規模の取り組みです。

自治体への広がりも早い段階から始まっていました。実証環境には全国872の自治体と104社が関わるコミュニティがあり、参加する職員は1万7000人を超えると言われています。

つまり今回の緊急提供は、ゼロから配ったわけではありません。すでに走っていた仕組みの蛇口を、被災地に向けてひねったという表現が近いでしょう。

中身は「AIを取り替えられる箱」

源内の特徴は、特定のAIに縛られていない点にあります。

ChatGPTやGeminiのような1つのサービスを配るのではなく、複数のAIモデルをAPI(プログラム同士をつなぐ窓口)でつなぎ替えられる作りです。実際にAnthropicのClaude Haiku 4.5やClaude Sonnet 4.5、AWSのNova Liteなどが選べるとされています。国産LLM(日本語で開発された大規模AI)も7モデルが試用対象に選ばれました。

行政に特化したAIアプリも載っています。代表例が「国会答弁検索AI」で、国会議事録から特定テーマの政府答弁を探し出せます。

さらに2026年4月24日、デジタル庁は源内の一部をオープンソースとして公開しました。GitHubの「digital-go-jp/genai-web」「digital-go-jp/genai-ai-api」で、商用利用も可能なライセンスです。

災害現場で、源内は具体的に何をするのか

機能の一覧だけでは、現場のイメージがわきません。3つの場面を想像してみてください。

ひとつ目は、避難所を担当する町の職員です。断水と停電の情報、給水車の到着時刻、ペット同伴の可否。バラバラに届く情報を、掲示用の1枚に整えなければなりません。ここで資料の要約と通知文の作成が効きます。手書きのメモを渡せば、読みやすい貼り紙の下書きが数十秒で返ってきます。

ふたつ目は、災害対策本部の記録係です。1日に何度も開かれる会議の議事録は、いつも翌日以降にずれ込みます。音声の文字起こしがあれば、録音から下書きが自動で起こされ、確認と修正だけで済みます。

3つ目は、外国人住民への対応です。熊本には技能実習生や留学生も暮らしています。避難情報や罹災証明の案内を、ベトナム語や英語に直す作業は本来なら外注案件です。翻訳機能があれば、その場で下書きが作れます。

そして「法制度の調査」も見逃せません。災害救助法の適用範囲、応急仮設住宅の要件、支援金の条件。制度に詳しい職員が被災して出勤できないことも、現実には起こります。

「人」も同時に送り込んだD-CERTとの二段構え

同じ7月29日、デジタル庁はもうひとつ動いています。

D-CERT(災害派遣デジタル支援チーム)の先遣班を熊本県庁に派遣しました。構成はデジタル庁職員2名と民間事業者3名の計5名です。

D-CERTは、被災した都道府県に入り、必要なデジタル支援メニューを提案して具体化するチームです。デジタル庁と防災DX官民共創協議会が協働して作りました。

生まれたきっかけは、令和6年能登半島地震です。あのとき民間のデジタル人材が発災直後に現地入りし、石川県のニーズに合わせて避難者の状況を把握するシステムをその場で構築しました。この動きを、毎回の善意任せにせず制度にしたのがD-CERTです。

AIを渡すだけでは、現場は使いこなせません。「使い方を一緒に考える人」と「作業を肩代わりするAI」をセットで送るのが、今回の支援の形です。

ちなみにデジタル庁は7月28日18時20分に災害対策本部を設置し、同日23時時点で政府情報システムが正常稼働していることを確認しています。動きの速さは記録として残しておく価値があります。

他の自治体向け生成AIと何が違うのか

自治体が使える生成AIは、源内だけではありません。むしろ選択肢は年々増えています。

  • exaBase 生成AI for 自治体:LGWAN(自治体専用の閉じたネットワーク)に対応した運用パッケージ。兵庫県三木市などが導入
  • Microsoft 365 Copilot:WordやExcelに溶け込む形で使える。一般法人向けは1人あたり月額30ドル。神戸市の1万2000人規模の運用が知られる
  • 自治体AI zevo / LoGoAIアシスタント:自治体向けに特化した国内サービス群

これらと源内の違いは、大きく3つあります。

1つ目はコストと調達です。民間サービスは契約と予算が要ります。今回のような緊急提供は、国が持つ基盤だからこそ翌日に実行できました。

2つ目は行政特化のアプリです。国会答弁検索のような機能は、汎用チャットには載りません。

3つ目はソースコードが公開されている点です。自治体や企業が自前で似た環境を建てられます。ベンダーに囲い込まれにくい、という意味では長期的に効いてくる違いです。

一方で弱点もあります。今回はデータ保存機能が外され、期間も3週間限定です。日常業務の基盤として腰を据えて使うなら、LGWAN対応の商用サービスのほうが向く場面は残ります。

日本の私たちにとって、何が変わるのか

この一件が示すのは、災害対応の道具箱にAIが正式に加わったという事実です。

これまで自治体の生成AI活用は、議事録作成や文書の下書きといった平時の効率化が中心でした。年間1000時間規模の削減を報告する自治体も出ています。

今回はそこから一歩進み、非常時の運用が実地で試されます。約3週間の記録は、次の災害での標準手順を決める材料になります。

お住まいの自治体にとっても他人事ではありません。源内はOSSとして公開済みなので、「うちも同じ環境を用意しておく」という選択が現実的に取れます。

そして忘れてはいけない論点があります。熊本地震ではAIで作られた偽の被災画像がSNSで拡散し、注意が呼びかけられました。AIは災害対応を助ける側にも、混乱を広げる側にも回ります。行政が正確な情報を早く出す力を持つことは、その意味でも防御になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 一般の人も源内を使えますか?

いいえ。今回の緊急提供の対象は被災自治体、関係自治体、災害対策機関です。住民が直接使うサービスではありません。ただしソースコードは公開されているため、技術者が自分で同じ仕組みを構築することは可能です。

Q. 個人情報をAIに入力しても大丈夫なのですか?

今回はデータストレージとデータ共有機能が提供対象から外されています。情報を蓄積せず、文章作成の支援に用途を絞る設計です。とはいえ入力内容の取り扱いは各機関のルールに従う必要があります。

Q. 3週間を過ぎたらどうなりますか?

臨時提供として約3週間と案内されています。延長や恒常化については、現時点で明確な発表はありません。今後の運用実績しだいと見るのが自然です。

Q. 源内はどのAIを使っているのですか?

特定の1社に固定されていません。Anthropic、OpenAI、Googleなどのモデルを切り替えて利用できる設計で、AWSのNova LiteやClaude Sonnet 4.5などが選択肢として挙げられています。国産LLMも7モデルが試用対象に選ばれました。

Q. 自分の自治体も源内を導入できますか?

源内の実証環境には全国872自治体が関わるコミュニティがあります。またWebインターフェースやAIアプリのテンプレートがGitHubで公開されているため、独自に構築する道もあります。

まとめ

  • デジタル庁が2026年7月29日11時、熊本地震の被災自治体などにガバメントAI「源内」を約3週間の期限付きで緊急提供した
  • 提供内容は対話型チャット、一部AIアプリ、プロンプト例。データストレージと共有機能は含まれない
  • 通知文作成、資料要約、法制度調査、翻訳、音声文字起こしなど、災害現場の文書業務と直結する機能がそろう
  • 同日にD-CERT先遣班5名が熊本県庁入り。人とAIの二段構えで支援している
  • 源内は18万人規模の実証が進む内製基盤で、2026年4月にOSS公開済み。自治体が自前で建てる道も開かれている

まずはお住まいの自治体が生成AIをどう使っているか、公式サイトの防災・DX関連ページを一度のぞいてみてください。

参考文献