- DeepSeekが2026年7月31日に「V4-Flash-0731」を公開し、重みをMITライセンスで無料配布した
- モデルの大きさは前バージョンと同じまま、後訓練だけでTerminal Bench 2.1が61.8→82.7に上昇した
- 総パラメータが5倍以上ある上位版「V4-Pro」のプレビュー版に、エージェント系9項目すべてで勝利した
- Claude Opus 4.8との差は同ベンチで2.3ポイント。一方で出力料金は約89分の1
- 日本からもAPIで使えるが、個人情報保護委員会などは機密情報の入力を避けるよう促している
AIを賢くするには、モデルを大きくするしかない——そう思っていませんか。DeepSeekが7月31日に公開した新モデルは、サイズを1バイトも増やさずにスコアを2割以上伸ばしました。何が起きたのか、価格と実力を具体的な数字で見ていきます。
7月31日に公開された「V4-Flash-0731」とは
中国のAI企業DeepSeek(ディープシーク)が、2026年7月31日(日本時間)に新しいモデルを公開しました。
名前はDeepSeek-V4-Flash-0731です。末尾の「0731」は、そのまま公開日を表しています。
同時にAPI(外部のソフトから呼び出す窓口)も公開ベータになりました。今回更新されたのはV4-Flash系のAPIだけで、上位版V4-ProのAPIやスマホアプリ・Web版の中身は変わっていません。
大きな話題になったのは、モデルの中身(重み)がMITライセンスで無料公開された点です。MITライセンスは、商用利用も改変も再配布も認めるゆるいルールを指します。つまり企業が自社サーバーに置いて、そのまま製品に組み込んでも構いません。
DeepSeekは2025年1月、安さと性能を両立したモデルで米国株式市場を急落させた「DeepSeekショック」の当事者です。今回もまた、価格の常識に殴り込みをかけた形になります。
サイズはそのまま、学習のやり方だけを変えた
パラメータ数も構造も前バージョンと同じ
今回いちばん驚かれているのは、性能の上げ方です。
V4-Flash-0731の総パラメータ数は2,840億。実際に計算に使われるのは、そのうち約130億だけです。MoE(専門家の集まりのように、必要な部分だけ動かす仕組み)を採用しているためです。
扱える文章の長さは最大100万トークン。この数字は、6月に出たプレビュー版とまったく同じです。
つまりモデルの設計図には一切手を入れていません。変えたのは「後訓練(post-training)」だけでした。
後訓練とは何をすることなのか
AIの学習は、大きく2段階に分かれます。
1段階目が事前学習です。ネット上の膨大な文章を読ませて、言葉のつながりを丸ごと覚えさせます。ここでモデルのサイズと基礎体力が決まります。
2段階目が後訓練です。すでに知識を持ったモデルに対し、「こういう場面ではこう振る舞ってほしい」を教え込む仕上げの工程を指します。
採用試験に受かった新入社員が、実際の現場で仕事の進め方を叩き込まれる期間に近いものです。頭の良さは変わらなくても、仕事の成果は劇的に変わります。
DeepSeekは今回、この2段階目をエージェント作業(AIが自分で手を動かして課題を最後までやり切る使い方)向けにやり直しました。それだけで、以下のようなスコア変化が起きています。
9項目すべてで、5倍大きい上位版に勝った
公開されたベンチマーク結果は、かなり衝撃的な内容でした。
V4-Flash-0731は、エージェント系の9項目すべてで上位版「V4-Pro」のプレビュー版を上回りました。V4-Proの総パラメータは1.6兆で、Flashの5倍以上あります。弟が兄を全種目で追い抜いた形です。
| ベンチマーク | V4-Flash-0731 | V4-Proプレビュー |
|---|---|---|
| Terminal Bench 2.1 | 82.7 | 72.1 |
| Cybergym | 76.7 | 52.7 |
| NL2Repo | 54.2 | 38.5 |
| Toolathlon-Verified | 70.3 | 55.9 |
| DeepSWE | 54.4 | 12.8 |
特に目を引くのがTerminal Bench 2.1です。これはAIがターミナル(黒い画面でコマンドを打つ操作環境)で作業をやり遂げられるかを測るテストです。
V4-Flashのプレビュー版は61.8点でした。それが今回82.7点まで伸びています。20.9ポイント、率にして約34%の改善です。
DeepSWEの伸びはさらに極端で、12.8から54.4へと4倍以上になりました。ソフトウェア開発の課題を自力で解く力が、別物のレベルに変わっています。
総合的な知性を測るArtificial Analysis Intelligence Indexでも、スコアは40から50へ10ポイント上昇しました。
Claude Opus 4.8・GLM-5.2との比較
性能差はわずか、値段差は桁違い
気になるのは、世界最高クラスの有料モデルとの距離です。
比較対象になるのがAnthropicのClaude Opus 4.8です。Terminal Bench 2.1では85.0点で、V4-Flash-0731の82.7点をまだ上回っています。
ただし、その差は2.3ポイントしかありません。Agents’ Last Exam(AIエージェントの難関試験)でも25.7対25.2と、ほぼ横並びです。
差がはっきり出るのは料金のほうでした。
| 項目 | V4-Flash-0731 | Claude Opus 4.8 |
|---|---|---|
| 入力100万トークン | 0.14ドル(約22円) | 5ドル(約775円) |
| 出力100万トークン | 0.28ドル(約43円) | 25ドル(約3,875円) |
出力側で比べると、価格差は約89分の1です(1ドル155円換算)。しかも同じ内容を再度送る「キャッシュヒット」時の入力は0.0028ドルまで下がります。
もちろんOpus 4.8は、DeepSeekが公表したベンチマークのほぼ全項目で首位を保っています。DSBench-Hardでは71.7対59.6と、12ポイント以上の開きが残りました。難しい仕事ほど差は出ます。
オープンモデル同士の勝負も接戦
2026年7月は、無料で重みが配られるモデルの発表が集中した月でした。
ライバルは中国勢が中心です。GLM-5.2、Kimi K3、Qwen系が同じ時期に更新されています。
Artificial Analysis Intelligence Indexで見ると、GLM-5.2が51、V4-Flash-0731が50。その差はたった1ポイントです。
エージェント評価のGDPval-AA v2では、V4-Flash-0731のEloが1559。Kimi K3の1687には届きませんが、GLM-5.2の1510は上回り、オープンモデル2位につけています。
用途で選び分けるなら、長い文章のコーディングはGLM-5.2、マルチモーダル(画像なども扱う)ならKimi、コストを抑えたAPI利用ならV4-Flashという住み分けになりそうです。
167GBを無料配布、自分の環境で動かせる
APIを使わず、手元で動かす選択肢もあります。
Hugging Face(AIモデルの配布サイト)で公開された公式版のサイズは約167GBです。DeepSeekが推奨する構成は、NVIDIAのデータセンター向けAIチップGB300を4基積んだノード1台とされています。個人が用意できる規模ではありません。
そこで登場するのが量子化版です。量子化とは、数値の精度をあえて落としてファイルを小さくする技術を指します。
Unslothによる量子化版なら、最小の1bit版「UD-IQ1_S」が約82.5GB、3bit版が約103GBまで縮みます。大容量メモリを積んだワークステーションなら、現実的な射程に入ってきます。
推論の強さはlow・high・maxの3段階から選べます。難しい問題ではmaxを選び、最大384Kトークンまで考えを書き出させる使い方が想定されています。
API側では新たにResponses APIに対応し、Codex(コーディング用のAIツール)からも呼び出せるよう調整されました。
日本のユーザーと企業にとって何が変わるか
開発コストの計算式が変わる
ある日本のスタートアップが、社内文書を検索するAIエージェントを作る場面を考えてみます。
1日あたり出力1,000万トークンを使うとしましょう。Opus 4.8なら1日約3万8,750円、月に116万円かかります。同じ処理をV4-Flash-0731に置き換えると、1日約430円、月1万3,000円ほどです。
年間で見れば1,390万円と15万円の差になります。精度が数ポイント落ちても採算が合う業務なら、選択肢に入らないほうが不自然です。
個人の開発者にとっても意味は大きいでしょう。副業でツールを作る人が、月数百円の実験費用で最新のエージェント性能を試せるようになります。
ただし機密情報の扱いには注意が必要
一方で、手放しで導入できるわけではありません。
DeepSeekのAPIは中国のサーバー上で動きます。個人情報保護委員会やデジタル庁は、DeepSeek系サービスについて機密情報を入力しないよう注意喚起を出してきました。
この点で、今回のMITライセンス公開は現実的な回避策になります。重みが手元にあるなら、国内のクラウドや自社サーバーで動かせるからです。データを国外に出さずに済みます。
実際、国内企業では汎用型のV4-Flashと推論特化型のV4-Proを試験導入する動きが出ています。顧客データを扱う業務は自社ホスティング、それ以外はAPIという二段構えが現実的でしょう。
日本語の扱いについても、V4系で品質は上がったと言われています。ただし日本語特有の敬語や業界用語では、国産モデルや商用モデルに一日の長があるという声も残っています。
よくある質問(FAQ)
Q. V4-Flash-0731は本当に無料で使えますか?
モデルの重みは無料です。MITライセンスでHugging Faceからダウンロードでき、商用利用もできます。ただし自分で動かすにはGPU(画像や計算を高速処理する部品)が必要で、その費用は別にかかります。DeepSeekのAPIを使う場合は従量課金です。
Q. スマホアプリのDeepSeekも新しくなりましたか?
いいえ。今回更新されたのはV4-Flash系のAPIだけです。スマホアプリやWeb版で動いているモデル、そしてV4-ProのAPIは従来のままと発表されています。
Q. 個人のパソコンで動かせますか?
一般的なノートPCでは厳しいのが実情です。公式版は約167GBあります。量子化版なら82GB台まで下がるので、大容量メモリを積んだ環境なら可能性はあります。手軽に試すならAPI経由が現実的です。
Q. 業務データを入力しても大丈夫ですか?
APIを使う場合、機密情報の入力は避けるべきです。政府機関からも注意喚起が出ています。どうしても社内データを扱いたい場合は、公開された重みを国内サーバーやローカル環境で動かす方法を検討してください。
Q. なぜ大きくしないで性能が上がったのですか?
後訓練の作り込みを、エージェント作業向けに全面的にやり直したためです。モデルの設計やパラメータ数は変えていません。基礎能力はもともと備わっていて、引き出し方が最適化されていなかったと考えられます。
まとめ
- DeepSeekが2026年7月31日、V4-Flash-0731をMITライセンスで無料公開した
- 総パラメータ2,840億・実行時130億のMoE、コンテキスト100万トークンはプレビュー版と同一
- 後訓練の作り直しだけで、Terminal Bench 2.1が61.8→82.7、DeepSWEが12.8→54.4に上昇
- エージェント系9項目すべてで、5倍以上大きいV4-Proプレビューに勝利した
- Claude Opus 4.8との差は2.3ポイント、出力料金は約89分の1(0.28ドル対25ドル)
- 日本では機密情報の入力に注意が必要。自社ホスティングという逃げ道が用意された
まずはAPIの無料枠や少額課金で、自分の業務に必要な精度が本当に出るかを試してみてください。

