- 千葉銀行グループのIT企業「ちばぎんコンピューターサービス(CCS)」が、VB.NET移行プロジェクトを12.5人月から2.0人月に短縮し81.6%削減を実現
- 新規システム開発でも4.0人月が1.5人月になり、57.8%削減を達成
- 使われたのはCognition AI製の自律エージェント「Devin」と、CCS自社製の生成AIシステム「C-chatSupport」の組み合わせ
- DeNAのAI専門子会社「DeNA AI Link」が伴走支援。提携発表は2026年4月7日
- 富士通の「人月モデル終焉宣言」と並ぶ、日本SI業界の構造変化を象徴する事例
「うちのレガシーシステム、移行しようとしたら12人月って言われた」。日本の中堅企業のIT責任者なら、一度は聞いたことのある絶望的なセリフです。その作業を、AIエージェントがたった2人月で終わらせた事例が登場しました。千葉銀行グループのIT会社「ちばぎんコンピューターサービス」が叩き出した81.6%の工数削減。日本のSI業界の常識を揺さぶる、リアルな数字を見ていきます。
何が起きたのか
2026年4月7日、DeNAのAI専門子会社「DeNA AI Link」が、ちばぎんコンピューターサービス(以下CCS)のAI駆動開発を支援したと発表しました。
CCSは千葉銀行グループに属するIT企業で、金融・公共・法人向けのシステム開発を手がけています。
支援に使われたのは2つのAIです。Cognition AI製の自律型AIエージェント「Devin」と、CCSが自社開発した生成AIシステム「C-chatSupport」。
この組み合わせで、新規システム開発とVB.NETマイグレーション(既存システムの現代化)の2プロジェクトに挑戦しました。
結果は驚異的でした。新規開発で57.8%、VB.NET移行で81.6%の工数削減を実現。あらためて2026年6月1日には@ITが取り上げ、SI業界で話題になっています。
12.5人月→2.0人月の正体
もっとも衝撃的なのは、VB.NETマイグレーションのプロジェクトです。
従来なら半年仕事が、数週間で終わる
従来手法だと12.5人月かかると見積もられていたプロジェクトを、AI活用で2.0人月で完了させました。
削減率にして81.6%。エンジニア1人で換算すると、ほぼ1年がかりの作業が2か月で片付いた計算になります。
VB.NETというのは、Microsoftが2002年に出した古いプログラミング言語です。今でも多くの中堅企業の業務システムで使われています。
しかし扱えるエンジニアの平均年齢は58歳を超えているとも言われ、移行作業は「やりたくてもできない」案件の代表格でした。
新規開発でも57.8%削減
同時に発表されたもう1件、新規システム開発のプロジェクトも見逃せません。
従来4.0人月の見積もりが、AI活用で1.5人月に。削減率は57.8%です。
「新規開発」と「レガシー移行」という、性格の異なる2タイプの案件で同時に成果が出た点が重要です。一発の偶然ではなく、再現性のある効率化だと示せたからです。
使われたAIの中身:DevinとC-chatSupportの役割分担
では具体的に、2つのAIはどう使い分けられたのでしょうか。
Devinが「実装」、C-chatSupportが「判断補助」
Devinは、Cognition AIが開発した自律型のAIエンジニアです。「このシステムを作って」と目標を渡すと、計画立案からコード作成、テスト、デプロイまでを一気にこなします。
VB.NET移行では、Devinが大量のコード変換を自律的に担当しました。
一方のC-chatSupportは、CCSが社内ナレッジを学習させて作った自社専用の生成AIです。社内のドキュメントや過去の判例を即座に引き出す、いわば社内専用の検索エンジン兼アドバイザーです。
エンジニアはVB.NET固有の細かい仕様や、業務ロジックの判断にC-chatSupportを使いました。
人間は「レビュアー」に専念
注目すべきは、エンジニアの役割が「コードを書く人」から「レビューと意思決定をする人」へ変わった点です。
新規開発では、DeNA AI Linkがアーキテクチャ設計を支援し、Devinが個別機能を実装。エンジニアは結果のレビューと方針決定に集中しました。
CCSの宮城和彦社長は「想像を遥かに超えた衝撃」とコメントしています。
なぜVB.NETは「移行できない言語」と呼ばれてきたのか
そもそもVB.NETの移行はなぜ難しいのか。背景を整理しておきます。
扱えるエンジニアが消えつつある
VB.NETやCOBOL、古いAccessマクロを扱えるエンジニアの平均年齢は58歳超とされています。
担当者が退職すれば、保守単価は1.5〜2倍に跳ね上がるとの報告もあります。
つまりレガシーシステムは、放置するほど維持コストが膨らみ、最後には「動かし続ける人がいない」状態に追い込まれます。
「2025年の崖」が現実化
経済産業省は2018年のDXレポートで、レガシーシステムを放置すると2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が出ると警告しました。
いわゆる「2025年の崖」です。崖の年は過ぎましたが、現場のVB.NETやCOBOLは今もそのまま稼働しています。
年間IT予算2,000万円の企業を例にとると、レガシー状態では1,560万円が「現状維持」に消えるとの試算もあります。動かすだけで投資の8割が消えてしまう計算です。
他のAIモダナイゼーション手段との比較
VB.NET移行を支援するAIツールはCCSの事例以外にも複数あります。整理しておきましょう。
GitHub Copilot App Modernization
マイクロソフトが2026年に正式投入したのが、Visual Studio内で動く「GitHub Copilot App Modernization」です。
こちらは「.NET向けの自動アップグレード支援」が中心。AIがコード解析→移行計画作成→差分適用までを行いますが、人間が要所要所で承認するhuman-in-the-loop方式です。
VB.NETからC#への変換を含む、複数ステップのモダナイゼーションを支援します。
CCSの事例は「自律実行」が違い
違いはどこにあるのか。CCSの事例で使われたDevinは、自律性が一段高いのがポイントです。
Copilotが「アシスタント」だとすれば、Devinは「同僚エンジニア」に近い動き方をします。タスクを渡せば自分で計画を立て、コードを書き、テストし、結果を報告するまで一気に走ります。
料金体系も特徴的です。Devinの基本プランは月20ドルから利用可能で、稼働時間に応じた「ACU(Agent Compute Unit)」で課金されます。1ACUがDevinの約15分の稼働に相当します。
日本市場での選択肢
日本企業がVB.NET移行を考えるとき、現実的な選択肢は次の3つに集約されてきました。
- GitHub Copilot Modernization:マイクロソフト純正、Visual Studio利用者向け
- Devin(CCS型):自律実行重視、新規開発もまとめて任せたい場合
- 富士通・NTTデータ等の国内SIerサービス:マネージドで丸投げしたい大企業向け
CCSが選んだDevinは、社内エンジニアが手綱を握りつつAIに大半を任せる「中間モデル」と言えます。
日本のSI業界への衝撃と人月モデルの行方
このニュースをただの成功事例で済ませてはいけません。日本のSI業界の根本を揺さぶる出来事です。
富士通の「人月モデル終焉宣言」と地続き
2026年6月、富士通は「人月モデル」の終焉を宣言しました。受注金額をエンジニアの人数×期間で決める従来のSI契約から、成果ベースに切り替えると発表したのです。
CCSの事例は、その宣言を裏付ける具体的な数字です。AIで工数が8割削減できるなら、人月で売る契約は成立しなくなります。
SIerが10人月で受注していた案件は、AIで2人月になり、売上は5分の1になる――そんな構造変化が現実化しはじめています。
中堅IT市場が動き出す
PwCの分析によれば、日本の中堅IT市場には5兆円規模の潜在需要があります。
CCSのような中堅IT企業がAI駆動開発で先行することで、地方銀行系・中堅メーカー系のIT子会社にも同様の動きが広がる可能性が高いと見られます。
地方の中堅企業ほど、レガシーシステムと人材不足の両方を抱えています。AIで移行できる証拠が出たことで、踏み切る企業が一気に増える局面です。
CCSが次に狙うのは「型化と外販」
CCSとDeNA AI Linkは、今回の成果をもとに次のフェーズに進みます。
具体的には、AI駆動開発のプロセス標準化と品質管理ルール整備です。社内で型を作った上で、同業界へのソリューション提供を視野に入れています。
つまり、千葉銀行グループのIT会社が「AIを使いこなすノウハウ」を外販する側に回る可能性があるということです。
よくある質問(FAQ)
Q1. ちばぎんコンピューターサービスはどんな会社ですか?
千葉銀行グループのIT企業で、金融・公共・法人向けのシステム開発と運用を手がけています。一般法人や公共領域での実績もあり、グループ外のDX支援も行っています。
Q2. Devinは個人や中小企業でも使えますか?
使えます。基本プランは月20ドル(約3,000円)から利用可能で、エージェント稼働時間に応じたACU課金です。ただし業務システムの本格運用には、CCSのようにアーキテクチャ設計を専門家に任せる伴走支援があると安心です。
Q3. C-chatSupportは外部企業でも導入できますか?
現時点ではCCSの自社開発・自社利用システムで、外販の発表はありません。ただし将来的に同様のAIソリューションを外部提供する可能性は、宮城社長のコメントから示唆されています。
Q4. VB.NET移行の費用感はどれくらい変わるのですか?
従来12.5人月の案件が2.0人月になるなら、単純計算で費用も約5分の1に圧縮できます。エンジニア1人月を150万円と仮定すると、約1,875万円が約300万円になるイメージです。AI利用料を加味しても、大幅な削減が期待できます。
Q5. AIに任せたコードの品質は大丈夫ですか?
CCSの事例では、エンジニアがレビューと意思決定を担当し、Devinが実装を行う役割分担を取っています。完全自動ではなく、人間のレビューが品質を担保する設計になっています。
まとめ
CCSの事例から見えるポイントを整理します。
- VB.NETマイグレーションを12.5人月→2.0人月(81.6%削減)で完了
- 新規システム開発でも4.0人月→1.5人月(57.8%削減)を実現
- 使ったのは自律型AI「Devin」と社内特化AI「C-chatSupport」の組み合わせ
- エンジニアの役割は「実装者」から「レビュアー・意思決定者」へシフト
- 富士通の人月モデル終焉宣言と並ぶ、SI業界の構造変化を象徴する事例
レガシーシステムを抱えている企業の担当者は、まず自社の移行案件を「AI前提」で再見積もりしてみてください。半年が1か月になる可能性は、もう絵空事ではありません。

