AIが53万行を11日でRust移植|Bunの衝撃

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Bunの53万行のプログラムを、AI「Claude」がわずか11日でRustに書き換えました
  • 手作業なら1年かかる作業を自動化し、費用は約2,500万円でした
  • 最大64個のAIが同時に働き、全テストに合格した本物の成果です
  • 一方でZigの作者は「本当に安全なのか」と鋭く反論しています
  • 大規模なコード移植をAIが担う時代が、いよいよ現実になってきました

「AIは短いプログラムなら書けるけど、大きなソフトは無理でしょ?」と思っていませんか。

ところが2026年5月、53万行という巨大なプログラムを、AIが11日で丸ごと別の言語に書き換えました。しかも全テストに合格です。

この記事では、何が起きたのか、なぜすごいのか、そして専門家がなぜ反論しているのかまで、やさしく解説します。

何が起きたのか?AIによる53万行の大移植

話題の中心は「Bun(バン)」というソフトです。

Bunの開発チームは、このソフトの中身をまるごと書き直しました。もとは「Zig(ジグ)」という言語、書き換え先は「Rust(ラスト)」という言語です。

驚くのはその規模とスピードです。

もとのプログラムは53万5,496行。手作業なら小さなチームで丸1年かかるとされていました。

それをAIの「Claude(クロード)」が担当し、2026年5月3日から14日までのわずか11日間で完了させました。

生成されたRustのコードは、なんと約100万行にのぼります。

この事実は、開発者向けメディアや技術ブログで大きな反響を呼びました。「AIはついにここまで来たのか」と、世界中のエンジニアが驚いたのです。

そもそもBunとは?なぜ言語を変えたのか

Bunは「なんでもこなす道具箱」

Bunは、プログラムを動かすための土台となるソフトです。

正確には「JavaScript(Webでよく使われるプログラム言語)を高速で動かす道具」です。実行・整理・テストなどを一つでこなす、便利な道具箱のような存在です。

実はBunは、2025年12月にAI企業のAnthropic(アンソロピック)に買収されました。ClaudeをつくっているあのAI企業です。

ちなみにClaude Code(同社のAI開発ツール)自体がBunで動いています。土台ごと手に入れた、というわけです。

言語を変えた2つの理由

ではなぜ、わざわざ言語を変えたのでしょうか。理由は2つあります。

1つ目は「バグ」です。

もとのZigは、メモリ(プログラムの作業机)を人の手で管理します。ここでミスが起きやすく、使ってはいけない場所を触ってしまうバグが多発していました。Rustはこうしたミスを、動かす前の段階で自動で止めてくれます。

2つ目は「ルール」です。

Zigには「AIが書いたコードは受け付けない」という方針がありました。AIをフル活用したいBunにとっては、相性が悪かったのです。

AIはどうやって53万行を書き換えたのか

ここが今回の一番おもしろいところです。人間が1行ずつ翻訳したわけではありません。

Bunチームは約50種類の「作業の型(ワークフロー)」を用意しました。

そして最大64個のClaudeを同時に動かし、11日間ぶっ通しで走らせたのです。

使われたのは、当時まだ一般公開前だった最新モデル「Claude Fable 5」でした。

気になる費用も公開されています。

AIの利用料は約16万5,000ドル、日本円でおよそ2,500万円(1ドル150円換算)でした。読み込んだ文字数は59億トークンにのぼります。

面白いのが品質チェックの工夫です。

コードを「書くAI」と「チェックするAI」を別々に分けました。自分の答えを自分で甘く採点しないための仕組みです。この方法で、公開前に重大なバグを3件つかまえました。

成果は本物?性能アップと「安全性の借金」

結果は、数字で見ても立派なものでした。

  • 6万個以上のテストにすべて合格
  • ソフトの大きさが約20%スリムに
  • 動作速度が2〜5%アップ
  • 通信の処理量も最大で約4.8%改善

まさに「速く・軽く・安全に」を実現したように見えます。

ただし、手放しでは喜べない数字もあります。

それが「unsafe(アンセーフ)」と呼ばれる、安全チェックをあえて外した部分です。

今回のRustコードには、このunsafeが約1万3,000か所も残りました。人が丁寧に書いたRustでは数十か所ほどなので、けた違いに多い数です。

これは「スピードのために先送りにした宿題」のようなものです。動いてはいるけれど、将来の見直しが必要な部分が多い、ということです。

Zig作者の鋭い反論とは

この一件に、Zigの作者アンドリュー・ケリー氏が反応しました。彼のコメントは、AI移植の光と影を考えるうえでとても示唆に富みます。

意外にも、彼はBunが離れたことに「安心した」と述べています。

その一方で、Bunのコードの作り方を「その場しのぎの積み重ね」と厳しく批判しました。

そして、彼はこう問いかけます。

「Zig版のバグを見つけられなかったテストが、なぜ100万行の新しいRustでは十分だと言えるのか?」

つまり「テストに通った=正しい」とは限らない、という指摘です。

人間が1行ずつ確認していない以上、見えないバグが潜んでいるかもしれない。これはAIに大仕事を任せるとき、誰もが向き合うべき問いと言えます。

他のAIコード移植とどう違う?

実は、AIによる大規模なコード書き換えは、これが初めてではありません。比べてみると今回の特徴がよく分かります。

よく知られるのが「COBOL(コボル)問題」です。

COBOLは銀行などで今も動く、古い言語です。2026年2月、AnthropicはこのCOBOLをClaudeで新しい言語に移す技術を発表しました。従来18〜30か月かかった作業が、8〜14か月に縮むとされます。

両者の違いを整理すると、次のようになります。

  • COBOL移植:古い資産の「延命」が目的。人間の専門家が深く関わる前提
  • Bunの移植:最新ソフトの「進化」が目的。AIが主役で、人間は仕組みを整える役

COBOL移植が「慎重に数か月」なのに対し、Bunは「一気に11日」。同じAI移植でも、スピード感がまるで違うのです。

Bunの事例は、AIをどこまで信じて任せられるかの、最先端の実験だったと言えます。

日本の開発現場への影響は?

「海外の一部の話でしょ」と思うかもしれません。でも、日本の開発現場にも関係する話です。

日本には、古い言語で作られた「レガシーシステム」が数多く残っています。銀行、役所、大企業の基幹システムなどです。

作った人がすでに退職し、中身が分かる人がいない、という現場も少なくありません。

ある地方の中堅企業を想像してみてください。

20年前に作った販売管理システムを、誰も怖くて触れない。そんな「塩漬けシステム」の書き換えに、AIが道を開くかもしれません。

ただし注意も必要です。

今回の一件が示すように、AIに任せきりでは「安全性の借金」が残ります。日本語の仕様書を読み解き、最後に人がチェックする体制は欠かせません。

「AIが8割、人が2割」。この組み合わせが、当面の現実的な答えになりそうです。

よくある質問(FAQ)

Q. Bunは今後も無料で使えますか?

はい、使えます。BunはAnthropicに買収された後も、無料で公開され続けると発表されています。誰でも自由に使える状態が保たれる予定です。

Q. なぜRustという言語が選ばれたのですか?

Rustは「メモリ安全性」に強い言語だからです。プログラムを動かす前の段階で、危険なミスを自動で見つけて止めてくれます。バグに悩んでいたBunにぴったりでした。

Q. AIに任せれば、もうプログラマーは不要になりますか?

いいえ、まだ不要にはなりません。今回もAIが書いたコードを人が検証し、仕組みを設計しました。約1万3,000か所の「宿題」も残っています。人の判断は今も欠かせません。

Q. この移植は失敗だったのですか、成功だったのですか?

成功と評価する声が多いです。全テストに合格し、速度も向上したからです。ただし残った課題も多く、「新しい可能性を示した実験的成功」と見るのが公平でしょう。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • AI「Claude」が53万行のプログラムを11日でRustに書き換えた
  • 費用は約2,500万円、最大64個のAIが並行して作業した
  • 全テストに合格し、速度・軽さ・安全性が向上した
  • 一方で約1万3,000か所の「安全性の借金」が課題として残った
  • Zig作者は「テスト合格=安全とは限らない」と鋭く反論した

AIが大規模なコード移植を担う時代が、確かに始まりました。

まずは身近な開発ツールでAIをどう活かせるか、小さく試すところから始めてみてはいかがでしょうか。

参考文献

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