BMSG「AIディープフェイク声明」全解説|SKY-HIが示したアーティスト権利保護の新基準

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • BMSG(SKY-HI代表)が所属アーティストのAIディープフェイク無断利用に対し公式声明を発表
  • 生成AIの表現可能性は尊重しつつ、著作権・肖像権・パブリシティ権の侵害を明確に警告
  • 実写に近い肖像、ボイスクローニング、ツーショット捏造など具体的なNG行為を列挙
  • ファンには「静かに通報」を推奨。悪質なケースには法的措置の方針を示唆
  • エンタメ業界全体でAI権利保護の動きが加速。芸能事務所の対応が先行事例に

「テクノロジーの進化がもたらす表現の可能性を尊重する。しかし、アーティストの権利を侵害する行為は許容しない」——SKY-HIが代表を務めるBMSGは2026年2月4日、所属アーティストのAIディープフェイクに関する公式声明を発表しました。

生成AIを使ったコンテンツが「表現の自由」なのか「権利の侵害」なのか。

この問いに対するBMSGの回答は、日本のエンタメ業界全体の指針となりつつあります。

何が起きたのか|ディープフェイクの実態

BMSGが声明を出した背景には、所属アーティストのAIディープフェイクが実際にSNS上で確認されたという事実があります。

  • 画像・動画の捏造 — アーティストの顔写真を基にAIが生成した「偽の写真」が拡散
  • ボイスクローニング — アーティストの声を学習させたAIで、本人が歌っていない楽曲を生成
  • ツーショット捏造 — 実在しない人物とのツーショット写真をAIで生成・拡散

たとえるなら、有名人の「分身」をAIで作り、本人の知らないところで勝手に活動させているようなもの。本人の意思とは無関係に、イメージが傷つけられるリスクがあります。

BMSGの声明|全文のポイント

BMSGの公式声明は、AIに対するバランスの取れた姿勢が特徴です。

生成AIへの基本スタンス

BMSGは生成AIを全否定していません。「テクノロジーの進化がもたらす新しい表現の可能性を尊重しており、生成AIを利用したコンテンツの生成は、表現の一形態である」と認めています。

具体的なNG行為

その上で、以下の行為を「控えていただきたい」と明確に警告しています。

  • 所属アーティストの実写に近い肖像(画像・動画)の生成
  • ツーショット写真の捏造
  • 実際にパフォーマンスしたかのように見える歌唱・ダンス動画の生成
  • ボイスクローニングによる音声の無断複製
  • 公序良俗に反する内容、政治的・宗教的メッセージへの流用

ファンへの呼びかけ

BMSGはファンに対し、「静かに通報」を推奨。

直接の指摘は「ファン同士の穏やかな対話の範囲に留める」よう求めています。

これは、炎上や対立を防ぎながら権利保護を実現するための賢明なアプローチです。

法的な論点|何が違法なのか

AIディープフェイクに関連する法的な権利を整理します。

  • 著作権 — 楽曲や振り付けの無断利用は著作権侵害の可能性
  • 著作隣接権 — 歌唱・演奏の複製はレコード製作者や実演家の権利を侵害
  • 肖像権 — 本人の容姿を無断で使用する行為
  • パブリシティ権 — 有名人の肖像や名前に付随する経済的価値を無断で利用する行為

日本にはAIディープフェイクを直接規制する法律はまだありませんが、既存の権利法で対応可能なケースが多いです。2026年にはAPPI(個人情報保護法)の改正も予定されており、AI関連の権利保護は今後さらに強化される見込みです。

エンタメ業界の動き|他事務所・業界団体の対応

BMSGの動きは孤立したものではありません。

  • ジャニーズ事務所(STARTO) — 所属タレントのAI利用に関するガイドライン策定
  • 日本レコード協会 — AI生成音楽に関する業界指針を検討中
  • NAFCA(日本アニメフィルム文化連盟) — クリエイターの93%がAI利用の透明性を重視
  • 芸団協 — 実演家の権利保護に関するAIガイドラインを議論

世界的にも、米国ではSAG-AFTRA(俳優・声優組合)がAI利用に関する契約条項を交渉で勝ち取り、EUではAI Actで透明性要件が義務化されています。

よくある質問(FAQ)

Q. ファンがアーティストのAIイラストを描くのは違法ですか?

BMSGの声明は「実写に近い肖像」を問題にしています。

明らかにイラスト風のファンアートと、実写と見分けがつかないディープフェイクでは法的リスクが大きく異なります

ただし、アーティストのイメージを損なう内容は避けるべきです。

Q. ボイスクローニングは何が問題ですか?

アーティストの声を無断で複製・利用する行為は、著作隣接権(実演家の権利)の侵害に該当する可能性があります。また、本人が言っていないことを「言った」かのように見せる場合は名誉毀損にもなりえます。

Q. 海外ではどう対応していますか?

米国では2024年にNO FAKES Act(ディープフェイク規制法案)が提出され、個人の声や容姿の無断AI複製を規制する動きがあります。EUのAI Actでは、ディープフェイクの開示義務が規定されています。

Q. 「静かに通報」とは具体的に何をすればいいですか?

ディープフェイクコンテンツを見つけた場合、SNSプラットフォームの通報機能を使って報告することが推奨されています。リプライやコメントで直接攻撃すると、かえってコンテンツが拡散するリスクがあるためです。

まとめ

この記事のポイントを振り返りましょう。

  • BMSGが所属アーティストのAIディープフェイク問題に公式声明を発表
  • 生成AIの可能性は認めつつ、実写肖像・ボイスクローニング・捏造写真を明確に警告
  • ファンには「静かに通報」を推奨。冷静な対応が最も効果的
  • 著作権・肖像権・パブリシティ権の既存法で対応可能なケースが多い
  • エンタメ業界全体でAI権利保護のルール整備が加速中

AIは表現の可能性を広げる強力なツールです。

しかし、その力を他人の権利を侵害するために使うことは許されません。

BMSGの声明は、「AIを楽しむ自由」と「アーティストを守る責任」のバランスを示す重要な先行事例です。

参考文献

  • BMSG. (2026). 生成AIを利用したコンテンツの公開・拡散等に関するご留意事項について. BMSG公式
  • ITmedia. (2026). 「SKY-HI」代表の芸能事務所BMSG、所属アーティストの”AIフェイク”に注意喚起. ITmedia
  • ORICON NEWS. (2026). BMSG、所属アーティストのディープフェイク確認で声明. ORICON
  • Musicman. (2025). BMSG、SNS権利侵害投稿に法的措置実施. Musicman
  • NAFCA. (2025). アニメ業界を対象とした生成AIに関する意識調査の結果. NAFCA

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