AMD ROCm 10で推論3.3倍|AIが自動調整

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • AMDが2026年8月27日にGPU向けソフト基盤「ROCm 10」を公開しました
  • 目玉は「ROCm.AI」。AIエージェントがGPUの設定を自動で調整します
  • AMD社内測定で推論が平均3.3倍、学習が2.4倍に速くなりました(同じハードで比較)
  • Claude CodeやCursor、Codexから使える「AMD Skills」も同時公開されました
  • NVIDIAのCUDAとの差は縮まりましたが、まだ埋まっていない部分もあります

AIを動かすGPUといえばNVIDIA、というのが常識でした。その常識にAMDが真正面から挑みます。しかも武器は「AIにAIの土台を調整させる」という新しい発想です。何がどう変わったのか、数字とあわせて見ていきます。

ROCm 10とは?AMDが「10」を名乗った理由

ROCm(ロックエム)は、AMD製GPUでAIを動かすための土台となるソフトウェア群です。

GPU(画像や計算を高速に処理する部品)は、ただ挿しただけでは動きません。AIのプログラムとGPUの間を取り持つ「通訳」が必要です。ROCmがその通訳役を担っています。

AMDは2026年8月27日、この最新版となるROCm 10を公開しました。

面白いのはバージョン番号です。前のバージョンは2025年9月に出たROCm 7でした。つまり8と9を飛ばしています。

理由は10周年です。最初のROCm 1.0が世に出たのは2016年4月。ちょうど10年の節目に、バージョン番号も10に揃えた形になります。

今後は約6週間ごとに細かい更新を出す予定だと説明されています。年に1回の大型更新を待つのではなく、短いサイクルで改善を積み重ねる方針です。

目玉は「ROCm.AI」──3つの部品でできている

ROCm 10の中心にあるのがROCm.AIという新しい仕組みです。

ひとことで言えば、AIエージェント(人の指示なしで作業を進めるAI)にGPUの面倒を見させる仕組みです。ROCm CLI、AMD Skills、Hyperloomという3つの部品でできています。

ROCm CLI:環境構築のハードルを下げる入口

ROCm CLIは、コマンドで操作する管理ツールです。

これまでAMD GPUでAIを動かす最大の壁は「そもそも環境が作れない」ことでした。ドライバのバージョンが合わない、ライブラリが足りない、といったつまずきが日常茶飯事だったのです。

新しいROCm CLIは、あらかじめ組み立て済みのファイルとして配布され、既存のROCmが入っていなくても動きます。WindowsとLinuxの両方に対応しました。

できることは、システムの状態チェック、環境の管理、モデルの配信、不具合の診断、部品の更新など。現時点ではテクノロジープレビュー(お試し版)で、ROCm 7.13以降が対象です。

AMD Skills:コーディングAIにAMDの知識を注入する

AMD Skillsは、AIコーディングエージェントに「AMD製GPUの正しい使い方」を教え込むための知識セットです。

対応しているのはClaude Code、Cursor、OpenAI Codexといった主要なツール。それぞれのマーケットプレイス(拡張機能の配布所)から導入できます。

GitHubにも公開カタログがあり、`npx skills add amd/skills` のようなコマンド1行で追加できます。リポジトリを丸ごとコピーする必要はありません。

収録されている知識は3つの領域に分かれています。手元のPCでAIを動かすためのもの、不具合の診断や最適化に関するもの、そしてサーバー用のInstinct GPUやEPYCプロセッサ向けのものです。

ここが地味に重要です。AIに「AMDのGPUでこのモデルを速く動かして」と頼んだとき、AIがNVIDIA前提の古い情報しか知らなければ、間違ったコードを書いてしまいます。AMDが検証済みの手順をAIに直接渡すことで、その事故を防ぐ狙いです。

Hyperloom:AIが勝手に性能をチューニングする

3つ目のHyperloomが、いちばん攻めた機能です。

AIが自分でプログラムの動きを計測し、遅い箇所を見つけ、書き換え、速くなったかを確かめる。この一連の流れを人の手を介さずに回します。

対応する記述方式はHIP、Triton、FlyDSL。AIモデルを動かす仕組みとしてvLLMやSGLangにも対応しています。

AMDによれば、熟練エンジニアが数週間かけていた最適化作業を数時間に短縮できるとしています。GPUの性能を限界まで引き出す作業は、これまで一部の専門家しかできない職人技でした。そこを自動化しようという発想です。

推論3.3倍・学習2.4倍という数字の中身

今回いちばん目を引くのが性能の数字です。

AMDの発表では、ROCm.AIを組み込んだシステムは推論が平均3.3倍、学習が2.4倍速くなったとされています。しかも同じハードウェアのままです。

推論というのはAIに質問して答えを出させる処理、学習はAIを鍛える処理のことです。

数字を読むときは条件の確認が欠かせません。この測定はAMD Performance Labsが2026年7月7日時点で行ったもので、Instinct MI355Xを8基積んだ構成とROCm 7を比べています。

使われたモデルはGLM-5、Kimi-K2.5、DeepSeek-R1-0528の3つ。指標は1秒あたりに生成できる文字の単位数(トークン/秒)です。

つまりAMD自身による測定であり、比較対象は自社の旧バージョンという点は押さえておきたいところです。それでも、部品を買い替えずにソフトの更新だけで3倍というのは、素直にインパクトがあります。

ちなみに画像・動画生成でおなじみのComfyUIも最適化の対象になりました。手元のRadeonやRyzen AI搭載PCでイラストを生成している人にも、恩恵が届く可能性があります。

CUDAとどう違う?NVIDIAとの比較

AMDの相手は、NVIDIAのCUDA(クーダ)です。

CUDAはNVIDIA製GPUを動かすためのソフト基盤で、2026年時点で400万人を超える開発者と3000以上のアプリを抱えていると言われています。この分厚い蓄積こそがNVIDIA最大の強みです。

では実力差はどれくらいでしょうか。

外部の比較記事によれば、PyTorchとvLLMを使った標準的な推論では、MI355XはH100の90〜95%の処理量に届いているとされています。ほぼ横並びと言っていい水準です。

ただしTensorRT-LLMやFlashAttention 3といったNVIDIA専用の高速化ライブラリを使う場面では、CUDAが20〜40%リードしています。ROCmには完全な代替がまだありません。

一方でコスト面ではROCmが15〜40%安く済むという指摘もあります。その代わり、扱うには技術的な慣れが必要です。

市場のシェアで見ると、NVIDIAは2024年の約87%から2026年には75%程度まで下がると予測されています。AMDのAI向けGPUのシェアは5〜7%とまだ小さいのが現状です。

ただし追い風もあります。2026年にはAI向け計算費用の3分の2を推論が占めると見られており、推論はCUDA依存度が比較的低い領域だからです。vLLMやSGLangはGPUの違いを吸収してくれます。今回ROCm.AIが推論の高速化を前面に出したのは、この隙間を狙ったものと読めます。

日本のユーザー・企業にとっての意味

この話は海の向こうだけの出来事でしょうか。実はかなり身近です。

日本では以前からGPU不足と価格高騰が続いています。国内クラウド事業者への支援策も打たれていますが、調達するGPU自体は海外依存のままです。選択肢が1社に偏っていること自体がリスクになっています。

AMDという現実的な第2の選択肢が育つことは、日本の企業にとって調達交渉のカードが増えることを意味します。価格でも納期でも、比較対象があるかないかで条件は変わります。

個人にとっての変化もあります。ROCm CLIとAMD SkillsがWindowsに対応したことで、Radeon搭載PCやRyzen AI搭載ノートPCで生成AIを動かすハードルが下がりました

AMDのGPUは、同じ予算ならメモリ容量が大きいモデルを選びやすいという特徴があります。大きなAIモデルを手元で動かしたい人には無視できない利点です。

なお、ROCm 10自体は無料で公開されています。日本から入手する際の制限は特にありません。ただしAMD SkillsやHyperloomの説明は英語が中心のため、そこは慣れが要りそうです。

実際に使うとこうなる:3つの場面

抽象的な話が続いたので、具体的な場面で考えてみます。

ある地方大学の研究室を想像してみてください。予算が限られていて、NVIDIAの最上位GPUには手が届きません。AMDのGPUなら同じ金額でメモリの大きい構成が組めます。これまでは環境構築で1週間つぶれるのが常でしたが、ROCm CLIを使えば準備済みのバイナリを落として初期設定を終えられます。研究に使える時間が増えるわけです。

次は社内向けAIチャットを運用している中堅IT企業のケースです。応答が遅いという苦情が出ていますが、GPUの中身を調整できる人材が社内にいません。Hyperloomに計測から書き換えまで任せれば、専門家を雇わずに改善を試せます。うまくいけば、サーバーを増やさずに待ち時間を減らせます。

3つ目は個人のクリエイターです。Radeon搭載の自作PCでComfyUIを使い、イラストを量産しています。1枚の生成に40秒かかっていたのが短縮されれば、1日に試せる構図の数がそのまま増えます。速度は、そのまま試行回数に直結します

よくある質問(FAQ)

Q1. ROCm 10は無料で使えますか?

A. はい。ROCmはオープンソースとして公開されており、無料で入手できます。必要なのはAMD製の対応GPUです。

Q2. 手持ちのRadeonでも動きますか?

A. 対応するモデルであれば動きます。ただしROCm.AIの性能検証はデータセンター向けのInstinct MI355Xで行われたもので、家庭用GPUで同じ倍率が出るとは限りません。対応機種は公式ドキュメントで確認してください。

Q3. ROCm CLIはすぐ本番環境で使っていいですか?

A. 現時点ではテクノロジープレビュー(お試し版)と位置づけられています。仕様が変わる可能性があるため、まずは検証環境で試すのが安全です。

Q4. NVIDIAから乗り換えるべきですか?

A. 一概には言えません。標準的な推論なら差は小さくなっていますが、TensorRT-LLMなどNVIDIA専用ライブラリに頼った処理では今もCUDAが優勢です。自分の使う処理がどちらに当たるかで判断が分かれます。

Q5. AMD Skillsを使うにはプログラミングの知識が必要ですか?

A. Claude CodeやCursorといったコーディング用AIツールを使える前提の機能です。まったくコードを書かない人向けではありません。

まとめ

  • AMDが2026年8月27日にROCm 10を公開。ROCm 1.0から10年の節目にあたります
  • 中核はROCm.AI。ROCm CLI・AMD Skills・Hyperloomの3部品で構成されています
  • AMD社内測定で推論が平均3.3倍、学習が2.4倍。同じハードのままソフト更新だけで達成しました
  • Claude Code・Cursor・CodexからAMDの検証済み知識を呼び出せるようになりました
  • 標準的な推論ではH100の90〜95%まで接近。ただしNVIDIA専用ライブラリ領域では差が残ります
  • Windows対応が進み、日本の個人ユーザーにも手が届きやすくなりました

AMD製GPUを持っているなら、まずはROCm CLIを入れて自分の環境が対応しているか確かめてみるのが最初の一歩です。

参考文献