AIツール検索で詐欺被害|4000件が削除

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • AIツールを検索していた社員が偽の警告画面にだまされ、約4000件のファイルが削除された
  • 被害を公表したのは愛知県知多市の葬祭事業者エスケーアイマネージメント。氏名や住所を含む顧客情報が対象
  • IPAへの「偽警告」相談は2026年4〜6月だけで1428件。前の3カ月から23.7%増えた
  • 攻撃者はAIブームに便乗し、検索結果や広告に偽サイトを紛れ込ませている
  • 警告画面が出たときの正しい閉じ方と、遠隔操作ソフトを入れてしまった後の手順がわかる

「AIツールを探していただけなのに、パソコンが乗っ取られた」。そんな被害が現実に起きました。削除されたファイルは約4000件。この記事では、実際の手口と、いま日本で急増している偽警告詐欺の実態、そして今日から使える対処法をまとめます。

AIツールを探していた社員に何が起きたのか

2026年8月12日、愛知県知多市で葬祭事業を営むエスケーアイマネージメントが、サポート詐欺の被害を公表しました。

きっかけは、8月7日のごく普通の業務でした。

社員が資料を作るため、業務用パソコンでAIツールに関するWebサイトを検索・閲覧していたのです。

すると突然、画面いっぱいに警告が表示されました。「ウイルスに感染している」という趣旨の表示で、サポートセンターへの連絡を促す内容だったといいます。

社員は指示に従い、サポート担当者を名乗る人物と連絡を取りました。そして遠隔操作ソフト(他人のパソコンを離れた場所から動かせるソフト)をインストールしてしまいます。

その結果、第三者に業務用パソコンを自由に操作され、約4000件のファイルが削除されました。

消えたファイルには顧客情報が含まれていた

削除されたファイルには、顧客の個人情報が含まれていました。

具体的には、氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、メールアドレスです。葬祭事業という性質上、家族構成に近い情報が含まれる可能性もあります。

同社は当日中にネットワーク接続を遮断し、個人情報保護委員会への報告と警察への相談を実施しました。デジタルフォレンジック調査(パソコンに残った痕跡を専門家が解析する調査)も予定しているとしています。

現時点で、外部への情報流出は確認されていません。とはいえ「削除された」だけなのか「持ち出された」のかは、調査が終わるまで断定できないのが実情です。

手口を4つのステップに分解する

今回の被害は、典型的なサポート詐欺の流れをたどっています。順番に見ていきましょう。

ステップ1:入口はいつもの検索。攻撃者はAIツール名などの検索キーワードを狙い、偽サイトを検索結果や広告に紛れ込ませます。ユーザーは怪しいサイトを探しているわけではありません。

ステップ2:全画面の偽警告。サイトを開いた瞬間、ブラウザが全画面表示に切り替わり、警告音とともにエラー画面が出ます。閉じるボタンが見当たらない設計になっているのがポイントです。

ステップ3:電話へ誘導。画面には「サポート窓口」の電話番号が表示されます。ここで電話をかけてしまうと、詐欺師と直接つながります。

ステップ4:遠隔操作ソフトの導入。「調べますのでこのソフトを入れてください」と指示されます。入れた時点で、パソコンの操作権限が相手に渡ります。

つまり、被害が確定するのはステップ3以降です。裏を返せば、電話さえかけなければ実害は出ません。IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)も、この点を繰り返し強調しています。

なぜ「AIツール検索」が狙われるのか

攻撃者がAI関連のキーワードを選ぶのには、はっきりした理由があります。

初めて使う人が圧倒的に多い

AIツールは新しいサービスが毎週のように登場します。

そのため、多くの人が「公式サイトがどれか知らないまま」検索して探します。長年使っているソフトなら偽物に気づけますが、初めてのツールでは判断材料がありません。

Microsoftは、ChatGPT、Claude、DeepSeek、Microsoft Copilotといった有名AIツールの名前やロゴをそのまま流用した偽ページやリポジトリが確認されていると報告しています。

検索結果そのものが汚染されている

この手法はSEOポイズニング(検索結果に悪意あるサイトを上位表示させる攻撃)と呼ばれます。

セキュリティ企業のZscalerは、AI関連キーワードを狙った不正サイト群への誘導が、2025年1月以降で約440万件のアクセスに達したと報告しました。

配布されていたのは、Vidar、Lumma、Legion Loaderといった情報窃取型のマルウェアです。ブラウザに保存したパスワードや暗号資産のウォレット情報を抜き取る種類が中心でした。

広告枠まで買われている

さらに厄介なのが、検索連動広告の悪用です。

「LLMShare」と呼ばれるキャンペーンでは、攻撃者が「ChatGPT」というキーワードで正規の広告枠を購入していたと報告されています。検索結果の一番上に、お金を払って偽サイトを置いていたわけです。

「上位に出ているから安全」という感覚は、もう通用しません。

従来のサポート詐欺と何が違う?

サポート詐欺自体は10年近く前からある古い手口です。ただ、AIブームに便乗した今回のパターンには違いがあります。

  • 従来型:怪しい動画サイトやアダルトサイト、海賊版サイトの閲覧中に発生することが多く、「自分は行かないから大丈夫」と切り分けやすかった
  • AI便乗型:業務中の真面目な情報収集がきっかけになる。会社のパソコンで、就業時間中に踏んでしまう
  • 従来型:被害の中心は個人。クレジットカード決済や電子マネーでの支払いが典型
  • AI便乗型:法人の端末が標的になり、顧客情報の漏えい報告義務まで発展する

フィッシングメールとの違いも押さえておきましょう。

フィッシングは「送られてきたリンクを開く」受け身の被害です。一方サポート詐欺は、ユーザーが自分から検索して、自分から電話をかけるという能動的な流れをたどります。

そのため「不審なメールを開かない」という定番の教育だけでは防ぎきれません。ここが対策の盲点になっています。

日本での被害は今、増えている

この件は特殊な事故ではありません。数字がそれを示しています。

IPAの「情報セキュリティ安心相談窓口」に寄せられた偽警告に関する相談は、2026年第2四半期(4〜6月)で1428件でした。

これは前の四半期から約23.7%の増加です。相談全体に占める割合は37.3%で、寄せられる相談の3件に1件以上が偽警告という計算になります。

ちなみに2位の不正ログインは423件(11.0%)、フィッシングは146件(3.8%)です。偽警告が突出して多いことがわかります。

企業・組織向けの「サイバーセキュリティ相談窓口」でも、同じ期間の相談は302件で前期比6.7%増でした。法人での相談も確実に増えています。

警察庁が2025年5月に日本人被害者に関わる被疑者6人を検挙した後、相談は一時的に減りました。しかしその後は再び増加に転じています。

中小企業ほど影響が大きい理由

従業員10人ほどの会社を想像してみてください。総務担当者が1人で経理も顧客管理も兼務している、よくある体制です。

その人のパソコンには、顧客名簿も請求データも入っています。1台が乗っ取られれば、会社の情報資産のほぼ全部が危険にさらされます。

今回被害を公表した事業者も、地域に根ざした葬祭業でした。専任の情報システム担当者を置ける規模の会社ばかりではありません。

さらに、個人情報が漏えいした恐れがある場合、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が法律で義務づけられています。復旧作業に加えて、この対応コストが重くのしかかります。

今すぐできる3つの対策

難しい設定は不要です。知っているかどうかだけで結果が変わります。

1. 警告画面が出たとき

まず、表示された電話番号には絶対に電話をかけないでください。ここが最大の分かれ道です。

画面が全画面表示で閉じられない場合は、ESCキーを2〜3秒間押しっぱなしにします。全画面が解除され、右上の閉じるボタンが現れます。

それでも閉じられなければ、パソコンを再起動してかまいません。警告音が鳴り続けても、パソコンが壊れているわけではないので落ち着いて対応しましょう。

IPAは、この閉じ方を安全に練習できる体験サイトを公開しています。社内研修で一度触っておくと効果的です。

2. 遠隔操作ソフトを入れてしまったとき

やるべきことは順番が大切です。

最初にネットワークを切断します。Wi-Fiを切るかLANケーブルを抜けば、遠隔操作の接続はその場で断ち切れます。

次に、インストールした遠隔操作ソフトをアンインストールします。ネットワークに戻すのは、削除が終わってからです。

そのうえで、そのパソコンで使っていたIDとパスワードを別の端末から変更します。ブラウザに保存していたパスワードは、すべて見られた前提で動くのが安全です。

クレジットカード番号を伝えてしまった場合は、カード会社にすぐ連絡してください。

3. 会社として備えておくこと

個人の注意力だけに頼る運用は限界があります。

まず、業務用パソコンにソフトを勝手にインストールできない設定にしておくこと。管理者権限を分けるだけで、今回のような被害は途中で止まります。

そして「何かおかしい画面が出たら、電話する前に社内の誰かに相談する」というルールを作ること。相談してもよい雰囲気があるかどうかが、被害額を左右します。

AIツールを業務利用するなら、公式サイトのURLを社内で一覧化して共有しておくのも有効です。検索せずにブックマークから開けば、そもそも偽サイトを踏みません。

よくある質問(FAQ)

Q1. 偽の警告画面かどうか、どうやって見分ければいいですか?

本物のセキュリティソフトの警告に、電話番号は書かれていません。ここが最もわかりやすい判別ポイントです。

また、Webサイトを見ているだけでパソコン全体のウイルス検査が行われることはありません。ブラウザ上に出た警告は、まず偽物を疑ってください。

Q2. 電話をかけてしまいましたが、何もインストールしていません。大丈夫ですか?

ソフトを入れず、個人情報やカード番号も伝えていなければ、パソコン側の被害は基本的にありません。

ただし電話番号は相手に残ります。その後、別の名目で折り返しの電話がかかってくる場合があるため、心当たりのない番号には出ないようにしましょう。

Q3. AIツールの公式サイトを安全に見つけるコツはありますか?

提供元企業の公式アカウントや公式ブログからリンクをたどるのが確実です。

検索する場合は、広告表示のリンクを避けて自然検索の結果を選ぶようにしてください。今回紹介したLLMShareのように、広告枠が悪用される事例が実際にあります。

ドメイン名のつづりが1文字違うだけの偽サイトもあるため、アクセス後にURLを目視で確認する習慣も役立ちます。

Q4. スマートフォンでも同じ被害に遭いますか?

遭います。スマホでも偽警告は表示され、電話へ誘導する手口は同じです。

スマホの場合はタブを閉じるか、ブラウザを完全に終了させれば消えます。表示された番号をタップして発信しないことだけ徹底してください。

Q5. 削除されたファイルは復元できますか?

ケースによります。ごみ箱に残っていれば戻せますし、専門業者の復旧作業で取り出せることもあります。

最も確実な備えは、クラウドや外付けドライブへの定期バックアップです。バックアップがあれば、削除被害は「復旧作業」で済みます。

まとめ

  • AIツールを検索していた社員が偽警告にだまされ、遠隔操作で約4000件のファイルが削除された
  • 被害企業は個人情報保護委員会に報告済み。顧客の氏名や住所が対象となった
  • IPAへの偽警告相談は2026年4〜6月で1428件、前四半期比23.7%増と急増中
  • 攻撃者はSEOポイズニングと検索連動広告でAI関連キーワードを汚染している
  • 被害が確定するのは「電話をかけた瞬間」。かけなければ実害は出ない
  • ESCキー長押しで画面を閉じ、ソフトを入れた場合はネットワーク切断が最優先

今日のうちに、よく使うAIツールの公式URLをブックマークに登録しておきましょう。検索を経由しないだけで、この手口はほぼ回避できます。

参考文献