2000年前の巻物をAIが丸ごと解読|開かず読む技術

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • AIが2000年前に炭化した古代ローマの巻物を、開かずに丸ごと解読しました
  • 火山噴火で焼けて触れば崩れる巻物を、X線とAIだけで読み解いた世界初の快挙です
  • 解読されたのは哲学者フィロデモスの「神々について 第8巻」など3つの巻物です
  • 研究は賞金総額180万ドル超(約2.8億円)の国際コンテスト「Vesuvius Challenge」で進みました
  • 日本でも「くずし字AI」が古文書を読む研究が進んでおり、無関係な話ではありません

もし2000年間ずっと閉じたままの本があったら、中身を読みたくありませんか。しかも、開いた瞬間にボロボロに崩れてしまう本です。2026年6月、AIがその不可能を可能にしました。古代ローマの炭化した巻物を「開かずに」全文読んだのです。この記事では、何が起きたのか、どんな技術が使われたのか、そして日本の私たちにどう関係するのかを、やさしく解説します。

何が起きた?AIが2000年前の巻物を「開かずに」読んだ

2026年6月25日、研究チームが歴史的な発表をしました。

西暦79年の火山噴火で焼けた古代ローマの巻物を、一度も開かずにAIで全文解読したのです。

舞台はイタリア・ナポリ近郊の遺跡「ヘルクラネウム」です。ここはヴェスヴィオ火山の噴火で街ごと埋まりました。

そのとき、図書館にあったパピルス(古代の紙)の巻物も高温で炭化しました。真っ黒な炭の塊になったのです。

これまで研究者は、この巻物を開こうとしてきました。でも触れるとボロボロに崩れてしまいます。中身は2000年間、誰にも読めませんでした。

今回すごいのは、物理的に一切開かず、コンピューターの中だけで巻物を「広げて」読んだ点です。

どんな巻物が読めた?解読された3つの中身

今回の発表では、3つの巻物で大きな成果がありました。順番に見ていきます。

1つめ:ストア派の倫理を説いた巻物(PHerc. 1667)

紀元前2世紀に書かれた、人間の本性や道徳の進歩を論じた哲学の文章です。

ギリシャ語で約22段(コラム)、長さ約1.4メートル分が、最初から最後まで全部読めました。1巻まるごと読めたのは世界で初めてです。

文中には、有名な哲学者クリュシッポスのおいである「アリストクレオン」の名前も出てきました。

2つめ:哲学者フィロデモスの「神々について 第8巻」(PHerc. 139)

こちらはタイトルと著者名が判明しました。エピクロス派の哲学者フィロデモスの著作です。

面白いのは、この発見で「神々について」が少なくとも8巻まである大作だったとわかったことです。これまで1巻しか知られていませんでした。

3つめ:精度アップで再確認された巻物(PHerc. Paris 4)

2023年に一度読まれた巻物ですが、今回はより高解像度の画像で読み直しました。

その結果、インクの跡がX線のデータの中にはっきり見える形で確認できました。技術が着実に進んでいる証拠です。

どうやって読んだの?X線とAIの合わせ技

「開かずに読む」と聞くと魔法のようですが、しくみは2つのステップに分かれます。

ステップ1:超高性能なX線で中身をスキャン

まず、巻物を壊さずに中身を撮影します。使ったのはフランスのグルノーブルにある研究施設ESRF(欧州シンクロトロン放射光研究所)です。

ここの強力なX線で、巻物の内部を立体的にスキャンしました。病院のCTスキャンの超強力版だとイメージしてください。

データの量はすさまじく、1つの巻物で最大300テラバイトにもなりました。スマホ写真なら何千万枚分にあたる膨大さです。

ステップ2:AIが「見えないインク」を見つける

次が本番です。撮影した立体データから、巻かれたパピルスの層を1枚ずつデジタルで「はがして」平らに広げます。

ここで最大の壁がありました。炭化した黒いパピルスの上に、これも同じく黒い炭素インクで字が書かれているのです。色がほぼ同じで、人間の目では見分けられません。

そこで機械学習(AIが大量のデータからパターンを学ぶしくみ)の出番です。AIがインクのわずかな痕跡を学習し、文字を浮かび上がらせました。

Vesuvius Challengeとは?賞金総額2.8億円のAIコンテスト

この成果は、1つの会社が独占して進めたものではありません。

「Vesuvius Challenge(ヴェスヴィオ・チャレンジ)」という世界中に開かれた賞金コンテストの中で生まれました。

始まりは2023年3月です。ケンタッキー大学のブレント・シールズ教授と、元GitHub CEOのナット・フリードマン氏らが立ち上げました。

仕組みはこうです。スキャンしたデータを世界中の誰でも使えるよう公開します。そして「文字を読めた人に賞金を出す」と宣言したのです。

すると世界中のエンジニアや学生が挑戦を始めました。2023年10月には、当時21歳の学生ルーク・ファリター氏が最初の単語を読み解きました。

2024年には3人のチームが最初の優勝を果たし、賞金70万ドル(約1.1億円)を獲得しました。これまでに支払われた賞金は総額180万ドル(約2.8億円)を超えています。

日本の「くずし字AI」と何が違う?

「古い文字をAIで読む」と聞いて、日本の話を思い出した人もいるかもしれません。

実は日本でも、似た研究が進んでいます。江戸時代などの「くずし字(崩した手書き文字)」をAIで読む取り組みです。

代表例が、国文学研究資料館などが関わる「KuroNet」や、スマホで撮るだけで読める無料アプリ「みを(miwo)」です。2024年には熊本大学とTOPPANが、約90年分の細川家文書をAIで解読しました。

では、何が違うのでしょうか。整理すると次のようになります。

  • 日本のくずし字AI:紙に書かれた「見える文字」を読む。難しいのは字の「崩し方」
  • Vesuvius Challenge:そもそも巻物を開けない。X線で中身を撮るところから始める

つまり日本の課題が「読みにくい字を読む」ことなら、今回は「見ることすらできない字を見る」という、もう一段難しい挑戦だったのです。

日本の私たちにどう関係する?

「古代ローマの話でしょ」と思うかもしれません。でも、私たちにも関わりがあります。

第一に、日本にも開けない・読めない古い資料が大量にあるからです。火災で焼けた古文書、虫食いの巻物、巻いたまま固まった経典などです。

今回の「触らずにX線とAIで読む」技術は、こうした日本の文化財にも応用できる可能性があります。

第二に、賞金コンテストで世界の知恵を集める手法そのものが参考になります。データを公開し、誰でも挑戦できるようにする。この進め方は、日本の研究や企業の課題解決にも使えます。

第三に、AIが「人間に不可能なこと」を助ける良い例だという点です。仕事を奪うAIの話が多いなか、人類の知識を増やすAIの姿は希望になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 巻物を本当に一度も開いていないのですか?

はい。物理的には炭の塊のままです。X線で撮影したデータを使い、コンピューターの中だけで「広げて」読みました。

Q2. なぜ今までできなかったのですか?

炭化したパピルスと炭素インクは、どちらも黒くて見分けがつかないからです。AIがこの「ほぼ見えない差」を判別できるようになり、初めて実現しました。

Q3. 解読されたデータは見られますか?

はい。Vesuvius Challengeはデータやプログラムを公開しています。誰でもダウンロードして研究に使えます。

Q4. これからもっと多くの巻物が読めますか?

その可能性が高いです。ヘルクラネウムには未解読の巻物が数百巻あるとされ、技術の進歩で今後も解読が進むと期待されています。

Q5. 日本語のくずし字AIも無料で使えますか?

はい。アプリ「みを(miwo)」などは無料で公開されており、スマホで古文書の写真を撮ると解読してくれます。

まとめ

今回のニュースの要点を振り返ります。

  • 2026年6月、AIが炭化した古代ローマの巻物を開かずに丸ごと解読した
  • 哲学者フィロデモスの「神々について 第8巻」など3つの巻物で成果が出た
  • 超高性能X線で撮影し、最大300テラバイトのデータをAIが解析した
  • 成果は賞金総額2.8億円超の国際コンテストVesuvius Challengeで生まれた
  • 日本でも「くずし字AI」が進み、文化財の解読に応用できる可能性がある

まずは無料アプリ「みを」で、身近な古い文字をAIに読ませてみると、この技術のすごさを実感できますよ。

参考文献

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