- AIの助言を受けられる状態だと、「分からない」と答える人が44%から3%へ激減した
- 同時に正答率は27%から9%へ下がり、逆に自信は30%から76%へ跳ね上がった
- 正解に賞金を出しても「分からない」は8%までしか戻らなかった
- 3132人・5つの実験(うち4つは事前登録)で検証された結果である
- 日本の生成AI利用率は58.8%に達しており、他人事ではない
AIに聞いたあと、なんとなく自信が出てきた——そんな経験はありませんか。実はその自信、中身が伴っていないかもしれません。3132人を調べた最新研究で、AIを使うと人は「分からない」と言えなくなり、正答率が3分の1に落ちるのに自信だけ2倍になることが分かりました。
AIを使うと「分からない」が44%→3%に激減した
2026年7月15日、arXiv(アーカイブ、査読前の論文を公開するサイト)に1本の論文が投稿されました。
タイトルは「AIの助言は、その助言が間違っていて正確さに報酬があるときでさえ、人が『分からない』と言う意欲を抑え込む」というものです。
研究したのは、ミラノ・ビコッカ大学のValerio Capraro氏、パリ高等師範学校のChiara Marcoccia氏、ローマ・サピエンツァ大学のWalter Quattrociocchi氏の3人です。
結果はかなり衝撃的でした。AIの助言が使えない状態では、参加者の44%が「分からない」と正直に答えました。
ところがAIの助言が使える状態になると、その割合はわずか3%まで落ち込みました。
つまり、100人中44人が「知りません」と言えていたのに、AIが横にいるだけで97人が何かしら答えを書くようになったのです。
日本語版のニュースは2026年8月15日にGIGAZINEが報じ、SNSでも一気に広がりました。
実験はどう行われたのか──AIがわざと間違える質問
映画の「細かすぎる」場面を聞いた
この研究のうまいところは、質問の選び方にあります。
研究チームが用意したのは、映画の細かいビジュアルに関するクイズでした。
たとえば「映画『ベッカムに恋して』でチームのユニフォームは何色だったか」といった問題です。
こうした「映像を見ないと分からない細部」は、現在のAIがとても苦手にしています。
つまりAIはほぼ確実に間違った答えを返すように、あらかじめ設計されていたわけです。
なぜ「わざと間違うAI」を使ったのか
普通に考えれば、AIを使って正答率が上がるのは当たり前です。
それでは「AIが賢いから正解した」のか「人が考えなくなった」のかを区別できません。
そこで研究チームは、AIが間違える領域をあえて選びました。
ここで正答率が下がれば、それは「信頼できる道具に任せた合理的な判断」ではなく、人間側の判断そのものが壊れた証拠になります。
実験は全部で5つ行われ、参加者は合計3132人。うち4つは事前登録(実験前に手順と分析方法を公開しておく、結果の後付けを防ぐ手法)済みで、1つは再現実験でした。
正答率は3分の1、自信は2倍──賞金でも戻らない
数字で見ると逆転が起きている
もっとも不気味なのが、正答率と自信の関係です。
AIなしのグループは、正答率27%、自分の答えへの自信は30%でした。
AIありのグループは、正答率9%、自信は76%です。
正解する確率はおよそ3分の1に落ちたのに、自信は2倍以上にふくらんでいます。
Capraro氏はこの点を「参加者ははるかに悪くなったのに、2倍自信を持っていた」と表現しています。
お金をかけても半分しか戻らない
「真剣にやればちゃんと考えるはず」と思うかもしれません。
研究チームも同じことを考え、正解に報酬を出し、不正解に罰を設ける条件を試しました。
結果、「分からない」と答える率は3%から8%まで回復しました。正答率も9%から16%へ改善しています。
それでも、AIなしのときの44%・27%には遠く及びません。
ちなみにこの条件では、参加者はAIに助言を求める回数そのものを減らしていました。お金が絡むと人はAIを疑い始める、ということでもあります。
過去の研究と比べてわかること
Microsoftの調査:AIを信じるほど考えなくなる
似た方向の研究はこれが初めてではありません。
Microsoftとカーネギーメロン大学は、319人のナレッジワーカー(知識を使って働く人)から936件のAI利用事例を集めて分析しました。
そこで分かったのは、AIへの信頼が高い人ほど批判的思考を働かせないという関係です。
特に締め切りに追われているときや、自分の専門外の話題を扱うときに、この傾向が強く出ました。
MITの調査:脳の活動そのものが下がる
MITメディアラボは、54人にエッセイを書かせながら32個の電極が付いた装置で脳波を測りました。
ChatGPTを使ったグループは、検索エンジンだけのグループや何も使わないグループより、脳のつながりが最も弱くなっていたと報告されています。
研究チームはこれを「認知的負債」と呼びました。今は楽ができるけれど、あとで思考力という形でツケを払う、という意味です。
今回の研究が新しかった点
MicrosoftとMITの研究は、主に「考える量が減る」ことを示しました。
今回の研究が突きつけたのは、その先です。考える量が減っただけでなく、間違っているのに確信だけが強まっているという点が新しいのです。
知識の量ではなく、「自分は分かっていない」と気づくセンサーそのものが鈍る。研究チームはこれを、判断を保留するかどうかの心の境界線が動いてしまった状態だと説明しています。
日本への影響──利用率58.8%の国で何が起きるか
2年で2倍以上に増えた日本のAI利用
総務省の令和8年版情報通信白書によると、日本の生成AI利用経験率は58.8%に達しました。
前年度調査の26.7%から、たった1年で2倍以上です。
もはや「一部の人が使う道具」ではありません。半数以上の人が、この研究と同じ状況に置かれています。
仕事の現場で起きうる3つの場面
ある中小企業の総務担当者が、就業規則の改定をAIに相談したとします。返ってきた条文の説明はもっともらしく、担当者は自信をもって社内に共有します。けれど根拠にした法改正の日付が半年ずれていた——本人が「一応、条文を確認しよう」と思わなかったのは、AIの断定的な口ぶりが原因かもしれません。
営業担当者が、初めて会う業界の顧客に向けて商談前にAIで下調べをする場面もあります。10分で業界用語を覚えた気になり、商談では堂々と話す。ところが顧客から具体的な運用を聞かれた瞬間に答えられない。以前なら「勉強不足なので教えてください」と言えたはずの一言が、出てこなくなります。
大学生のレポートも同じです。参考文献を5件挙げたレポートを提出したのに、そのうち2件は実在しない。AIが作った架空の論文を、疑わずに写してしまった——というケースは日本の大学でも報告されています。
日本語だと問題はさらに大きい
日本語の学習データは英語に比べて量が少なく、AIの回答精度も分野によってばらつきます。
それでも、AIが答える口調の自信満々さは日本語でも英語でも変わりません。
精度は落ちるのに、断定の強さは落ちない。日本語ユーザーは、この研究が示したリスクをより強く受けやすいと言えます。
「分からない」を守る3つの習慣
1. 聞く前に自分の答えを書く
AIに質問する前に、自分なりの答えと確信度を10秒でメモします。
「たぶん青、確信度30%」と書いてからAIに聞けば、AIの答えと自分の見立てのズレに気づけます。
この一手間があるだけで、判断の主導権が自分に残ります。
2. 「分からない」と言わせる聞き方をする
「分からない場合は必ず『分かりません』と答えてください」と最初に指示しておきます。
加えて「その根拠となる出典を示してください」と付けると、あいまいな回答が減ります。
出典が出てこないときは、AI自身も確信がないサインだと考えてよいでしょう。
3. 「外に出す情報」は必ず一次情報で確認する
社内で使うメモなら多少の誤りは許容できます。
しかし顧客への提案書、公開記事、契約に関わる文章は別です。
他人の判断に影響する情報は、必ず一次情報(公式サイトや原典)に当たる。これを線引きにするだけで、事故はかなり防げます。
よくある質問(FAQ)
Q. この研究は査読を通っているのですか?
2026年8月時点では、arXivとPsyArXivに公開されたプレプリント(査読前論文)の段階です。ただし5つの実験のうち4つが事前登録済みで、1つは再現実験という設計になっています。プレプリントの中では信頼性の高い部類だと言えます。
Q. AIが正確なら問題ないのでは?
正確なAIに任せること自体は合理的です。問題は、AIが間違っているときにも人が気づけなくなる点にあります。今回の実験はAIが間違える領域を選んだからこそ、この弱点が可視化されました。
Q. 使うAIを変えれば結果は変わりますか?
実験では複数の主要なAIモデルで、同じ種類の質問に対して誤答が出ることが確認されています。モデルを変えれば多少は改善するかもしれませんが、断定的な口調で答える性質は各社共通です。根本的な解決にはなりにくいと考えられます。
Q. 子どもにAIを使わせるのは危険でしょうか?
Capraro氏は、批判的思考が育つ前の世代がこうしたシステムに触れることに懸念を示しています。禁止するというより、「AIは間違えることがある」と実際に体験させる教育が有効だと言われています。研究チームも、これは教育政策レベルの社会課題だと述べています。
Q. 自分が影響を受けているか確かめる方法はありますか?
直近1週間でAIに聞いたことのうち、「分からないままにした」ものが1件でもあるか思い返してみてください。ゼロなら、判断の保留という選択肢が消えている可能性があります。
まとめ
- AIの助言が使えると、「分からない」と答える率が44%から3%へ激減した
- 同時に正答率は27%→9%へ下がり、自信は30%→76%へ上昇した
- 正解に報酬を付けても、「分からない」は8%、正答率は16%までしか戻らなかった
- 3132人・5実験(4つは事前登録)という比較的しっかりした設計である
- MicrosoftやMITの研究と合わせると、「考えなくなる」だけでなく「誤りに自信を持つ」段階に進んでいる
- 日本の生成AI利用経験率は58.8%で、多くの人が同じ状況にある
まずは次にAIへ質問するとき、聞く前に自分の答えと確信度をメモすることから始めてみてください。
参考文献
- AIの「分かったふり」を見続けていると人間も「分からない」と言えなくなるという研究結果 – GIGAZINE(2026年8月15日)
- AI advice suppresses people’s willingness to say “I don’t know” – arXiv:2607.13562(2026年7月15日)
- Using AI makes people less likely to admit they don’t know something – The Register
- Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt – MIT Media Lab
- 令和8年版 情報通信白書(概要) – 総務省(2026年7月)


