「AIっぽい完璧な顔」は逆効果|347件で判明

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 中国の研究チームがタオバオのライブ配信347回分を分析し、AIの「顔」と反応の関係を調べた
  • 左右対称で整いすぎた「よくある顔」ほど、視聴者の反応が落ちる傾向が見つかった
  • 逆に、少しの左右非対称はエンゲージメントとわずかにプラスの関係だった
  • 効果は商品ジャンルで変わり、娯楽品では非対称の効果が大きく、実用品では逆に働いた
  • 日本でも伊藤園やしまむらがAIモデルを起用済み。「完璧な顔」志向は見直しどきです

AIで作った広告写真、なんとなく「きれいすぎて嘘っぽい」と感じたことはありませんか。その違和感が、実は売上に効いているかもしれません。2026年8月14日、AIの顔立ちと買い物客の反応を347回分の配信データで検証した研究が話題になりました。整った顔ほど有利、という常識が揺らいでいます。

347回のライブ配信を丸ごと分析した研究

どんな調査だったのか

研究チームは中国の重慶工商大学と電子科技大学などの研究者たちです。

分析対象は、中国最大級のECサイトタオバオで2024年2月から7月に行われた347回のライブコマースでした。

ライブコマース(生配信しながら商品を売る販売手法)では、いまAIストリーマー(AIで作られた配信者)が当たり前に使われています。

対象となった配信は全12商品カテゴリーにまたがっており、それぞれ異なるAIの「顔」が登場していました。実験室で作った架空の広告ではなく、本当に商品が売られている現場のデータです。ここがこの研究の強みです。

顔を「68個の点」で測る

研究チームは、AIの顔の魅力を2種類に分けました。

ひとつは身体的魅力です。顔の非対称性と典型性の2つで測りました。非対称性の計測には、目・鼻・口の輪郭などに置く68個のマッピング点(顔の特徴を数値化するための目印)を使っています。

もうひとつは感情的魅力です。表情がどれだけ豊かで、どれだけ強く出ているかを見ました。

そして視聴者側の反応は、いいね・シェア・フォロワー数・メンバー数・コメント数で数えました。「好かれたかどうか」を感覚ではなく、実際の行動で測ったわけです。

意外だった2つの結果

「よくある顔」ほど反応が落ちた

ひとつめの発見は、顔の典型性が高いほどエンゲージメントが下がるという関係でした。

典型性とは「多くの人の平均に近い、見慣れた整った顔立ち」のことです。

これは心理学の常識をひっくり返します。人間の顔については「平均に近いほど魅力的に見える」という研究が長年積み重ねられてきました。ところが相手がAIになると、その法則が効かなくなるのです。

左右非対称はむしろプラスだった

ふたつめは、さらに直感に反します。

顔の非対称性はエンゲージメントの増加とわずかながら正の相関を示しました。つまり、少し左右がずれている顔のほうが、反応が良かったということです。

研究チームはこれを「確立された美の基準が逆転する」現象だと表現しています。

ちなみに、人間の顔はもともと完全な左右対称ではありません。目の高さも口角の上がり方も、よく見れば必ずどこかがずれています。そのズレの欠如こそが「人ではない何か」のサインになっている、という読み方です。

なぜ「完璧な顔」は敬遠されるのか

研究チームが理由として挙げているのが不気味の谷です。

不気味の谷とは、ロボットやCGが人間に似てくるほど好感度が上がるものの、ある一線を越えた途端に強い違和感や嫌悪感に変わる現象を指します。

整いすぎた顔は、この谷に落ちやすいと考えられます。パーツは完璧なのに、どこか人間の温度がない。その落差が、見る人の警戒心を呼び起こします。

実は、この「気味悪さ」を測った研究は他にもあります。2026年に発表されたAI広告の受容研究では、知覚された不気味さが広告への評価を押し下げる主要因として繰り返し登場します。

ライブコマースを対象とした別の2026年の研究でも、AIアバターの配信者は人間より不気味さを強く感じられ、その結果として信頼性・魅力・専門性の評価が下がり、最終的に購買意欲が落ちるという流れが確認されています。

つまり今回の発見は、単発の珍しい結果ではありません。同じ方向を指す証拠が積み上がりつつある、という位置づけです。

商品ジャンルで答えが変わる

ここが実務的にいちばん大事なポイントです。

非対称のプラス効果は娯楽品で特に大きく、実用品では逆効果でした。娯楽品とは、楽しさや気分のために買うもの。ファッション、コスメ、雑貨などが当てはまります。実用品は、機能や効率のために買うもの。日用品や家電、消耗品です。

アパレルECの担当者が新作ワンピースの着用画像を用意する場面を想像してみてください。従来なら「いちばん整った顔」を選びがちでした。この研究に従うなら、少し個性のある顔のほうが保存やシェアを稼げる可能性があります。

一方で、洗剤の詰め替えパックを売るページはどうでしょうか。ここで顔の個性を強めると、かえって「怪しい」と受け取られかねません。実用品では、正確さや清潔感を伝えるほうが優先されます。

コスメブランドがInstagram広告のAIモデルを3パターン用意してA/Bテストする、という進め方も現実的です。完璧に整った顔、少しだけ非対称な顔、表情を強めに出した顔。この3本を回すだけでも、自社の商材がどちらのタイプかが見えてきます。

他の研究と突き合わせて見えること

「じゃあAI広告はやめたほうがいいのか」と思うかもしれません。答えは、そう単純ではありません。

広告効果の面では、AI生成画像を使った広告は人が撮った画像よりクリック率が高いというデータがあります。ただし条件がつきます。その画像が「AIっぽく見えない」場合に限る、というものです。今回の研究と、きれいに噛み合います。

透明性の効果も見逃せません。2026年6月に発表されたAHICCモデルの研究では、擬人化の度合いが7段階中4.7のときに最も評価が高い逆U字の関係が確認されました。さらに、AIであることを高い透明性で開示すると、不気味の谷の影響が約60%緩和されたと報告されています。

業界団体IABの調査も示唆的です。Z世代とミレニアル世代の消費者は、広告業界の人たちが思っているよりもAI生成広告に肯定的ではない、という結果でした。同時に、AI利用の開示は受け入れられやすく、購入可能性を高めうるとも指摘されています。

整理すると、勝ち筋は3つに絞られます。①顔を完璧に寄せすぎない ②AI利用を隠さず開示する ③商品ジャンルに合わせて顔を選ぶ。この3点です。

日本市場への影響

日本はこの話題の「先進国」でもあります。

伊藤園は2023年9月、主力商品「お~いお茶」のテレビCMにAIタレントを起用しました。地上波CMにAIタレントが登場した日本初の事例とされ、SNSで大きく拡散されました。ファッションセンターしまむらでも、AIモデル「瑠菜」を使った販促が話題になっています。

その一方で、国内では生成AIの使い方をめぐる炎上事例も積み上がっています。2026年時点では、品質そのものより「使い方」への反発が主な火種になっているとの指摘があります。ブランドへの敬意の欠如や、クリエイターの仕事を奪うのではという懸念です。

成功例として語られるのは、AIを既存タレントの代替として置くのではなく、「年齢を持たない象徴的なキャラクター」として位置づけたケースでした。人の置き換えに見せない設計が効いたわけです。

日本のEC事業者にとっての実務的な結論はシンプルです。AIモデルの顔は「完璧」ではなく「自然」を狙う。そして、AI生成であることを商品ページに一言添える。国内でも「AI生成」表記は実務標準になりつつあると言われています。

地方の小さな雑貨店がAIモデルで商品写真を作る場面を考えてみましょう。予算がないぶん、AIは強い味方です。ただ、そこで「非の打ちどころのない美人」を選んでしまうと、店の温度感と合わずに浮いてしまう。少し親しみのある顔を選ぶほうが、結果的に売上につながる可能性があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. この研究は日本の消費者にもそのまま当てはまりますか?
対象は中国のタオバオのデータなので、日本にそのまま当てはまるとは限りません。ただし不気味の谷は文化を越えて観測される現象と言われています。参考にする価値は十分にあります。

Q2. 「非対称にすればいい」と単純に考えていいですか?
いいえ。研究で見つかったのは「わずかながら正の相関」です。極端に崩した顔が売れるという話ではありません。人間らしい自然なゆらぎの範囲、と捉えるのが安全です。

Q3. AI生成であることは表示すべきですか?
表示を推奨する声が強まっています。透明性の高い開示は不気味の谷の影響を約60%緩和したという報告があり、開示によって購入可能性が上がりうるとする調査もあります。

Q4. 実用品を売っている場合、AIモデルは使わないほうがいいですか?
使わないほうがいい、とまでは言えません。研究が示したのは「非対称のプラス効果が実用品では逆に働く」という点です。実用品では整った清潔感のある顔のほうが向いている可能性があります。

Q5. 既に完璧な顔のAI画像を大量に作ってしまいました。どうすべきですか?
すべて捨てる必要はありません。まずは反応の悪いページから、顔違いのパターンを追加してA/Bテストしてみてください。数字で判断するのがいちばん確実です。

まとめ

  • タオバオの347回のライブコマースを分析した研究で、AIの顔と反応の関係が調べられた
  • 顔の典型性が高いほどエンゲージメントは低下非対称性はわずかにプラスだった
  • 原因として不気味の谷が指摘され、他の2026年の研究とも方向が一致している
  • 効果は商品ジャンル依存で、娯楽品では非対称が有利、実用品では逆効果
  • 日本では伊藤園やしまむらが先行。AI利用の開示が信頼を守る鍵になる

次のアクションはひとつだけです。いま使っているAI生成画像を1枚選び、「少し人間らしいゆらぎのある顔」バージョンを作ってA/Bテストにかけてみてください。

参考文献