脳を模倣するAI『Flourish』に780億円|電力95%削減

脳に着想したAI技術を開発するFlourishが5億ドルを調達、ベゾス氏やGoogleが投資。電力消費を95%削減できる次世代AI技術の可能性

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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この記事でわかること

  • Amazon創業者ベゾスが5億ドルを投資したAIスタートアップ「Flourish」とは
  • Internet Explorer開発者が挑む、脳を模倣した次世代AI技術
  • ChatGPTなどのLLMと何が違うのか
  • AI電力問題の解決策になる可能性
  • 日本のAI市場への影響

Internet Explorer開発者が挑む、25億ドル評価のAI革命

2026年6月4日、AI業界に大きなニュースが飛び込んできました。脳科学に着想を得たAI技術を開発するスタートアップ「Flourish(フローリッシュ)」が、初めての資金調達で5億ドル(約780億円)を獲得したのです。

この資金調達ラウンドには、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏が参加しました。ベゾス氏は当初5000万ドルを投資しましたが、他の有力投資家が参加したことで投資額をほぼ倍増させたと報じられています。

他の主要投資家には、Googleの投資部門GV(旧Google Ventures)、大手ベンチャーキャピタルのLux Capital、ヘルスケア分野に強いCatalio Capitalが名を連ねています。Flourishの企業評価額は25億ドル(約3900億円)に達しました。

Internet Explorer開発者が率いる異色のチーム

Flourishの創業者の一人、トーマス・リアドン氏は、AI業界では異色の経歴を持つ人物です。

リアドン氏は1990年代にマイクロソフトでInternet Explorer(インターネット エクスプローラー)の開発を主導しました。Internet Explorerは、一時期世界で最も使われたウェブブラウザです。

その後、リアドン氏は神経科学(脳の仕組みを研究する学問)に転身。2015年に「CTRL-labs(コントロール・ラボ)」というスタートアップを創業しました。

CTRL-labsは、腕に装着したリストバンドで脳からの神経信号を読み取り、手を動かさずにコンピュータを操作できる技術を開発していました。この技術は、2019年にMeta(旧Facebook)が5億〜10億ドルで買収。現在、Metaのスマートグラス操作に使われています。

つまりリアドン氏は、「脳とコンピュータをつなぐ技術」の第一人者なのです。

Flourishが目指す「脳のコアアルゴリズム」とは

Flourishは、人間の脳の仕組みを解明し、それをAIに応用しようとしています。

具体的には、脳の大脳皮質にある「皮質柱(ひしつちゅう)」と呼ばれる構造を研究しています。皮質柱は、脳が情報を処理する基本単位です。Flourishは社内に神経科学研究所を設置し、電子顕微鏡を使って皮質柱の詳細な構造を調べる予定です。

リアドン氏らは、脳には「コアアルゴリズム(中核となる計算方法)」が存在すると考えています。それを発見できれば、現在のAIとは根本的に異なる、より効率的で賢いAIを作れる可能性があります。

Flourishが開発している「Cortex AI(コルテックス AI)」というシステムは、5年以内に画期的な進展を目指しています。将来的には、スマートフォンやパソコンなどの一般向けデバイスで、継続的に学習し続けるAIを提供する計画です。

ChatGPTとは何が違う?ニューロモルフィックAIの仕組み

現在主流のAIは「LLM(大規模言語モデル)」と呼ばれるタイプで、ChatGPTやGeminiがその代表例です。LLMは膨大なデータを学習し、文章生成や質問応答ができます。

一方、Flourishが開発する「ニューロモルフィックAI(神経模倣型AI)」は、脳の神経細胞(ニューロン)の動きを物理的に模倣します。

主な違いは以下の通りです:

  • 処理方式:LLMは数値計算を順番に処理しますが、ニューロモルフィックAIは脳のように「イベントが起きた時だけ反応」します
  • 電力消費:GPUで動くLLMは大量の電力を消費しますが、ニューロモルフィックAIは必要な部分だけが動くため、電力消費が90〜95%少なくなります
  • 得意分野:LLMは文章理解や生成が得意ですが、ニューロモルフィックAIはリアルタイムの反応が必要なロボット制御や画像認識に強みがあります

たとえば、視覚タスク(画像を見て判断する作業)では、ニューロモルフィックチップは1ジュール(電力の単位)あたり1000回の推論ができます。これに対してGPUは10〜100回しかできません。つまり、10倍以上効率的なのです。

AI業界最大の課題「電力問題」を解決できるか

現在、AI業界は深刻な電力問題に直面しています。

国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のデータセンターが消費する電力は、2022年の約460テラワット時から、2026年には約1000テラワット時に倍増する見込みです。これは日本全体の年間消費電力量に匹敵する規模です。

日本国内でも、データセンターのAI分野における電力消費は、2027年には現在の1.5倍になると予測されています。データセンターの電力消費は、日本全体の約3%に迫る勢いです(2021年時点では約1.5%でした)。

Flourishの技術が注目される理由は、この電力問題を根本から解決できる可能性があるからです。

サーバーグレードのGPU(AIの計算に使う高性能チップ)は、人間の脳より約30倍もエネルギーを消費します。人間の脳は約20ワットで動きますが、現代のAIチップは数百ワットを必要とします。

Flourishの目標は、人間の脳と同じ約20ワットでAIを動かすことです。これが実現すれば、データセンターの電力消費を劇的に削減できます。

日本市場への影響は?ニューロモルフィックAIの将来

日本のニューロモルフィックチップ市場は、2025年に約2億3500万ドル(約367億円)でした。この市場は2026年から2034年にかけて年平均13%の成長が予測されており、2034年には約7億ドル(約1092億円)に達する見込みです。

日本企業は、監視システム、ウェアラブルデバイス、産業用センサーにニューロモルフィック技術を統合し始めています。また、ロボット工学、自動運転車、スマート工場といった分野では、瞬時の判断と低遅延処理が不可欠です。ニューロモルフィックAIは、これらの用途に最適です。

ただし、日本のニューロモルフィックコンピューティング研究は、大学や企業で基礎研究が進んでいる段階です。欧米に比べると、大規模プロジェクトや商業化では遅れをとっているのが現状です。

Flourishのような海外企業が技術開発をリードする中、日本企業がどう対応するかが今後の課題となるでしょう。

まとめ:AI業界の転換点となるか

  • Flourishは脳科学に基づくAI技術で5億ドルを調達し、25億ドルの評価額を獲得
  • 創業者のトーマス・リアドン氏は、Internet Explorer開発者で脳科学の第一人者
  • ニューロモルフィックAIは、LLMと異なり電力消費を90〜95%削減できる
  • 人間の脳と同じ20ワットで動くAIを目指し、電力問題の解決策となる可能性
  • 日本のニューロモルフィック市場は2034年まで年13%成長が予測される
  • Flourishは5年以内に画期的な成果を目指し、コンシューマー向けデバイスでの展開を計画

AIの進化は、これまで「より大きなモデル、より多くのデータ」という方向に進んできました。しかし、電力消費の限界が見え始めた今、Flourishのような「脳の仕組みを模倣する」アプローチが、次世代AI開発の主流になるかもしれません。

ベゾス氏やGoogleといった業界の巨人たちが大型投資を決断した背景には、こうした技術的転換点への期待があると言えるでしょう。

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