リコー、多能工ヒューマノイドを工場で実証へ|人手不足解消の切り札

リコーが工場で実証段階に進めた多能工ヒューマノイドのイメージ。製造業の人手不足解消に向けた先進的な取り組み

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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リコーが「人間のように動けるロボット」を工場で使う取り組みを、いよいよ実用化に向けて進めています。この記事では、リコーが発表した「多能工ヒューマノイド」とは何か、どんな仕事ができるのか、そして日本の製造業にどんな影響を与えるのかを、わかりやすく解説します。

この記事でわかること

  • リコーが披露した「多能工ヒューマノイド」の正体
  • 工場で実際にどんな作業をしているのか
  • PoCから実証段階へ進んだ理由と背景
  • 日本の製造業が抱える人手不足の深刻さ
  • 今後のヒューマノイド市場の見通し

リコーが披露した「多能工ヒューマノイド」とは?

2026年6月25日から26日にかけて東京で開催された「AWS Summit Japan 2026」で、リコーは人型ロボット(ヒューマノイド)のデモンストレーションを公開しました。このロボットは「Unitree G1」という中国製のヒューマノイドに、リコー独自のAI(人工知能)を組み込んだものです。

「多能工」というのは、いくつもの作業を1人でこなせる熟練の工場作業員のことを指します。つまり「多能工ヒューマノイド」は、人間の熟練作業員のように複数の仕事を自分で判断してこなせるロボットという意味です。

Unitree G1は、身長127センチメートル、体重35キログラムという小型サイズのロボットです。価格は約250万円からと、従来の産業用ロボットと比べると手が届きやすい価格帯になっています。連続で2時間動くことができ、人間の動きを見て学ぶ「模倣学習」という技術でAIが制御されています。

工場で実際にどんな作業をしているのか

リコーが公開したデモでは、このヒューマノイドが4つの「ロボットスキル」(ロボットができる技術)を使って作業していました。

  • スキル1:インクジェットヘッド清掃と配置
    プリンターの部品を丁寧に掃除して、正しい位置に置く作業です。
  • スキル2:ホームロボシッピング(目的地への移動)
    工場内を自分で歩いて、決められた場所まで移動します。
  • スキル3:オーバーヘッド操作(検査・データ収集)
    製品を上から確認したり、必要な情報を集めたりします。
  • スキル4:ベースポイントへの復帰
    作業が終わったら、自動で元の場所に戻ります。

これらの作業は、今までは人間の作業員が毎日繰り返し行っていたものです。とくにクリーンルーム(ほこりが入らないようにした部屋)やドライルーム(湿度を低く保つ部屋)といった特殊な環境では、人間が出入りするたびにエアシャワーを浴びなければならず、時間がかかっていました。

ロボットなら、こうした環境でも問題なく動けます。つまり、人間がやるには面倒で時間がかかる作業を、ロボットが代わりにやってくれるようになるのです。

PoCから実証段階へ進んだ理由

リコーは2025年末から、自社の工場でヒューマノイドの「PoC(概念実証)」を始めました。PoCというのは、「この技術が本当に使えるのか」を試す実験のことです。

この実験では、ロボットがクリーンルームからエアシャワーを通ってドライルームまで自分で移動できるか、実際の作業ができるかを確認しました。結果は上々で、今夏(2026年夏)までに「実証段階」へ進む見込みです。

実証段階というのは、実験室ではなく、本物の工場で実際に使ってみる段階のことです。つまり、リコーはヒューマノイドを「使えるかも」という段階から「実際に使ってみよう」という段階に進めたわけです。

この背景には、リコーがAWS(Amazon Web Services)というクラウドサービスや、NVIDIA Isaac Simというシミュレーション技術を活用していることがあります。VR(仮想現実)ヘッドセットとリコーの360度カメラ「RICOH THETA」を使って、工場の様子を360度撮影し、それをもとにロボットの訓練データを作っています。つまり、実際の工場を仮想空間で再現して、ロボットに何度も練習させることができるのです。

日本の製造業が抱える深刻な人手不足

なぜ今、リコーがヒューマノイドにここまで力を入れているのでしょうか。その答えは、日本の製造業が直面している「人手不足」にあります。

2024年のデータによると、製造業の求人倍率は1.67倍です。これは、仕事を探している人1人に対して、1.67件の求人があるという意味です。全産業の平均が1.25倍なので、製造業は特に人手が足りていないことがわかります。

さらに深刻なのは、若い人が製造業を避けるようになっていることです。2002年には32.6万人いた34歳以下の若い工場作業員が、2023年には25.9万人まで減っています。一方で、65歳以上の高齢の作業員は2002年の58万人から約90万人に増えています。つまり、工場で働く人の高齢化が進んでいるのです。

そして2026年以降も、この人手不足は続くと8割の人が予測しています。少子高齢化が進んでいる日本では、これからも働ける人の数がどんどん減っていくからです。

こうした状況の中で、リコーのようにヒューマノイドを使って人手不足を補おうという動きは、今後ますます広がっていくと考えられます。

日本企業のヒューマノイド開発が加速

リコーだけでなく、日本では他の企業もヒューマノイドの開発に力を入れています。

2026年3月には、山善、ツムラ、レオンオートメーション、インソルハイの4社が「J-HRTI(ジャパン・ヒューマノイド・ロボット・トレーニング・アンド・インプリメンテーション)」というグループを立ち上げました。このグループは2026年7月から千葉県でデータ収集センターを稼働させ、2026年末までに実際の現場でヒューマノイドを使うことを目指しています。

また、ドーナツロボティクスというスタートアップ企業は、身長170センチメートル、体重70キログラムの「cinnamon 1」というヒューマノイドを開発し、建設現場や工場向けに提供しています。

世界全体でも、ヒューマノイド市場は急成長しています。2025年に48.9億ドル(約7300億円)だった市場規模は、2026年には62.4億ドル(約9300億円)に拡大すると予測されています。

ヒューマノイド導入の課題

もちろん、ヒューマノイドを工場で使うにはまだ課題もあります。

最大の課題は「訓練データの不足」です。ロボットにいろいろな作業を教えるためには、大量のデータが必要です。たとえば、ロボットに「部品を拾う」という動作を教えるには、何千回、何万回というデータを見せなければなりません。しかし、こうしたデータを集めるには時間とコストがかかります。

また、現在ヒューマノイドが活躍しているのは、まだ一部の実験的な現場だけです。作業できる範囲も限られており、従来の産業用ロボットと比べると、スピードや信頼性の面でまだ追いついていません。

それでも、リコーのように実証段階まで進んだ企業が出てきたことは、大きな前進です。今後、データが集まり、技術が進歩すれば、ヒューマノイドが工場の主役になる日も近いかもしれません。

まとめ

  • リコーが「多能工ヒューマノイド」を工場のPoC段階から実証段階へ進めた
  • 使用しているのは中国製「Unitree G1」にリコー独自AIを搭載したもの
  • 4つのロボットスキルで清掃、移動、検査、復帰といった作業が可能
  • 日本の製造業は深刻な人手不足と高齢化に直面している
  • 2026年のヒューマノイド市場は約9300億円規模に成長見込み
  • 訓練データ不足という課題はあるが、実用化への道は着実に進んでいる

日本の製造業が生き残るためには、ヒューマノイドのような新しい技術を積極的に取り入れていく必要があります。リコーの取り組みは、その先駆けとなる重要な一歩と言えるでしょう。

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