XPENGの人型ロボに1300億円|1台130万円へ

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 中国のEVメーカーXPENG(小鵬汽車)のロボット事業が、9億ドル(約1300億円)超を調達しました
  • 調達後の企業価値は63億ドル(約9100億円)超。中国の「具身智能」分野で過去最大の民間ラウンドです
  • 主導はIDGキャピタル。テンセントとアリババも戦略投資家として参加しました
  • 人型ロボット「IRON」は2026年末に量産入り、2027年から中国と海外で販売予定です
  • 試作機は約290万円ですが、量産時は約130万円を目標にしています

人型ロボットが工場ではなく「お店の店員」として働く日は、思ったより近いかもしれません。中国のEVメーカーが、ロボット事業だけで1300億円を集めました。しかも量産開始は今年の年末です。何が起きているのか、順を追って見ていきます。

9億ドル調達、その中身

2026年8月24日、中国のEVメーカーXPENG(小鵬汽車)が発表しました。

同社のロボット事業が、9億ドル(約1300億円、1ドル=145円換算)を超える資金を調達したという内容です。

調達後の企業価値(ポストマネー評価額)は63億ドル、日本円でおよそ9100億円。まだ1台も量産していない事業に、1兆円近い値札がついたことになります。

XPENGによれば、これは中国の「具身智能(エンボディドAI)」業界で、単一ラウンドの民間株式調達として過去最大の金額です。

「具身智能」ってなに?

聞き慣れない言葉かもしれません。

具身智能(エンボディドAI)とは、体を持ったAIのことです。ChatGPTのように画面の中で文章を返すAIではなく、腕や脚を動かして現実の世界に触れるAIを指します。

チャットAIが「考えるだけの脳」だとすれば、エンボディドAIは脳に体をつけたもの。同じ「賢さ」でも、モノを持ち上げたり階段を上ったりできるかどうかで、必要な技術はまるで変わります。

投資家の顔ぶれが豪華

ラウンドを主導したのは、中国の老舗ベンチャーキャピタルIDGキャピタルです。

これに高榕創投(Gaorong Ventures)が加わり、さらにテンセントとアリババが戦略投資家として名を連ねました。中国ネット業界の二大巨頭がそろって支援する形です。

IDGキャピタルは投資理由について、XPENGが「チップから駆動モジュールまでを自前で作れる、統合されたフルスタック能力」を持っている点を挙げています。

資金の使い道も公表されています。ソフトとハードの研究開発、フィジカルAIモデルの学習、高品質なデータ生成、量産拠点の整備、そして海外展開の5つです。

人型ロボット「IRON」の正体

調達の主役となっているのが、人型ロボット「IRON(アイロン)」です。

2025年11月のイベントで公開された第5世代モデルは、公開直後にSNSでちょっとした騒ぎになりました。歩き方が自然すぎて、「中に人が入っているのでは」という疑惑まで出たほどです。

スペックを見てみる

XPENGの公式発表によると、IRONの全身は76の自由度を持ちます。自由度とは「関節が独立して動かせる方向の数」で、多いほど人間らしい動きができます。

片手だけで21の自由度。指を1本ずつ細かく動かせる計算です。

身長は約1.73メートル、体重は約70キログラムと報じられています。成人男性とほぼ同じ体格です。

頭脳には、XPENGが自動運転向けに自社開発したAIチップ「Turing」を3つ搭載。合計で2,250TOPSの計算能力を持ちます。TOPSは「1秒間に何兆回の演算ができるか」を表す単位で、高性能なスマホの数十倍から百倍規模にあたります。

全固体電池という賭け

もうひとつ注目されているのが電池です。

IRONは人型ロボットとして業界初の全固体電池を採用したとされています。全固体電池は、電解質が液体ではなく固体の電池で、発火しにくく軽いのが特長です。

人型ロボットは重心が高く、転んだときの衝撃も大きい機械です。人のそばで働かせるなら、電池が燃えないことは何より重要になります。

ボディには、独自の「完全密閉型フレキシブル格子構造」を採用。品質基準は自動車グレードで管理されています。EVメーカーならではの発想です。

価格は290万円から130万円へ

気になるのは値段です。

報道によれば、現在の試作機は約2万ドル(約290万円)とされています。高級車1台分といったところです。

そしてXPENGが量産時に狙っているのは、約9,000ドル(約130万円)。軽自動車の新車より安い水準です。

この価格が実現すれば、人型ロボットは「研究所の高額な実験装置」から「事業所が買える設備」に変わります。飲食チェーンが券売機を入れるのと同じ感覚で、ロボットを検討する会社が出てくるかもしれません。

スケジュールも具体的です。2026年末に量産段階へ移行し、まずXPENGの直営店やキャンパス(自社施設)に配備。2027年から中国と海外市場で正式に発売・納入を始める計画です。

なぜEVメーカーがロボットを作るのか

「車の会社がなぜロボット?」と思ったことはありませんか。

実は、自動運転とヒューマノイドは技術の中身がよく似ています。

自動運転の部品がそのまま使える

自動運転車は、カメラで周囲を見て、状況を理解し、次の動きを決めて、モーターに指示を出します。人型ロボットがやっていることも、まったく同じ流れです。

XPENGはチップ、コントローラー、駆動モジュール、ロボットハンドをすべて自社開発しています。EVで積み上げた「見る・考える・動かす」の技術を、そのまま二本足に載せ替えたわけです。

量産のノウハウも効きます。年間数十万台の車を作る工場の品質管理は、そのままロボットの品質管理に転用できます。

EV本業は苦しい

ただし、背景には切実な事情もあります。

XPENGの2026年第2四半期決算は、売上高197億4,000万元で前年同期比8.0%増。一方で純損失は13億4,000万元と、前年同期の約2.8倍に膨らみました

中国のEV市場は値下げ競争が激しく、売っても利益が出にくい状態が続いています。ロボット事業を別会社として切り出し、外部から資金を集めたのは、本業の赤字と切り離して勝負したいという判断でもあります。

ライバルと比べてどうなのか

人型ロボットの開発競争は、いま世界で最も混み合っている分野のひとつです。主要プレイヤーと並べてみます。

テスラ「Optimus」

最大のライバルはテスラです。Optimusは身長173センチ、体重57キロ。片手22自由度、50個のアクチュエーター(関節を動かす装置)を備えます。

頭脳にはテスラの新型AI5チップを使い、音声にはxAIのGrokを組み合わせています。

ただしイーロン・マスク氏自身が「まだ工場で役立つ仕事はできていない」と認めています。XPENGのIRONと同じく2026年後半の量産を掲げており、真正面からの競争になります。

Figure AI「Figure 03」

実績で先行しているのがFigure AIです。

Figure 03は200時間連続の荷物仕分けを、人間の遠隔操作も手動介入もハードウェア故障もゼロで完走した記録を公表しています。処理した荷物は数万個。

前世代のFigure 02は、BMWのスパルタンバーグ工場で10カ月間、平日シフトに入りました。3万台以上のX3の生産に関わり、9万点を超える板金部品を扱っています。

こちらは「高付加価値な産業タスクを確実にこなす」路線で、安さより精度を売りにしています。

Unitree(宇樹科技)

数で圧倒しているのが、同じ中国のUnitreeです。

2026年7月時点で、人型ロボットの累計生産が約1万8000台に到達。2024年の生産台数はわずか545台でしたが、2025年には5,716台まで伸びました。1年で10倍以上のペースです。

最も安いモデルのUnitree G1は1万3,500ドル(約200万円)から買えます。すでに研究機関や大学が普通に発注できる価格帯です。

XPENGの立ち位置

整理すると、こうなります。

  • テスラ:汎用×低価格を狙うが、実用性はこれから
  • Figure AI:産業用途で実績があるが、高価格
  • Unitree:安さと量産で先行、研究・エンタメ用途が中心
  • XPENG IRON:自動車グレードの品質と自社チップで、商業・サービス向けの量産機を狙う

IRONは「安いだけ」でも「高機能なだけ」でもない、真ん中を取りにいくポジションです。

日本にとって、この話はどう関係するか

日本での発売時期は、現時点で発表されていません。量産は2026年末に始まりますが、まずは中国国内と産業パートナー向けです。規制対応も含めると、日本上陸は早くても2027年以降と見られています。

それでも、日本への影響は3つの方向で現れそうです。

1. 部品メーカーには追い風になりうる

日本はサーボモーター・精密減速機・センサーといった基幹部品で世界トップシェアを持つ企業を多数抱えています

人型ロボットの世界は「完成品では日本は遅れているが、部品ではリードしている」という二面性を持っています。中国勢が年間数万台を作り始めれば、その部品需要が日本企業に流れ込む可能性があります。

2. 国内の完成品開発には圧力になる

日本にも人型ロボットの開発企業はあります。川崎重工は産業用ロボットの技術を活かした「Kaleido」で実用化を目指し、トヨタは遠隔操作型の「T-HR3」やバスケットボールAIロボット「CUE」を開発してきました。

ただ、量産計画の具体性という点では中国勢が先を走っています。130万円のロボットが2027年に世界市場へ出てくるとすれば、国内メーカーは価格でも速度でも厳しい戦いを強いられます。

3. 人手不足の現場に選択肢が増える

ここは前向きな話です。

たとえば、地方のスーパーで夕方に棚出しをする担当者を思い浮かべてください。段ボールを開けて、商品を並べて、空箱をたたむ。単純ですが体力を使い、募集をかけても人が来ない仕事です。

あるいは、深夜のビル清掃。決まったルートをゴミ袋を持って回り、トイレを掃除して、床を拭く。夜勤を敬遠する人が増え、募集単価だけが上がり続けています。

介護施設の夜間見守りも同じです。2時間おきに各部屋を回り、異常がないか確認する。人でなければできない仕事もありますが、「見て回るだけ」の部分は機械でも代われます。

こうした現場に、1台130万円のロボットが入ってくる。3年働けば月3.6万円の計算です。日本の人手不足の深刻さを考えると、価格が現実に近づいた意味は小さくありません。

よくある質問(FAQ)

Q1. IRONは日本で買えますか?

現時点では買えません。2026年末に量産が始まり、2027年から中国と海外市場で発売予定とされていますが、日本での発売時期は発表されていません。日本の電波法や労働安全衛生法への対応も必要になるため、上陸は早くても2027年以降と見られています。

Q2. 130万円という価格は本当に実現しますか?

あくまでXPENGが掲げる目標値です。現在の試作機は約290万円とされており、3分の1以下まで下げる計算になります。量産台数が伸びれば部品単価は下がりますが、目標どおりになるかは2027年の実績を見るまでわかりません。

Q3. 人型である必要はあるのでしょうか?

目的によります。決まった場所で同じ作業を繰り返すなら、アーム型ロボットのほうが安くて速いです。人型が有利なのは、人間向けに作られた環境をそのまま使える点です。階段、ドアノブ、既存の工具。施設を改造せずに導入できるのが最大の利点になります。

Q4. 中国製ロボットにセキュリティ上の懸念はありませんか?

指摘はあります。人型ロボットはカメラとマイクを常時搭載し、施設内を自由に移動します。取得したデータがどこに送られるかは、導入時の重要な確認事項です。米国はすでに一部の中国製ロボットに禁輸措置を取っており、日本企業が導入する際も調達方針の検討が必要になると言われています。

Q5. 「フィジカルAI」と「生成AI」は何が違うのですか?

生成AIは文章や画像といったデータを作るAIです。フィジカルAI(=具身智能)は、現実世界で体を動かすためのAIを指します。前者は間違えても書き直せますが、後者は間違えるとモノが壊れたり人がけがをしたりします。求められる信頼性の水準がまったく違います。

まとめ

  • XPENGのロボット事業が9億ドル(約1300億円)超を調達。評価額は63億ドル(約9100億円)超に
  • 中国の具身智能業界で過去最大の民間ラウンド。IDGキャピタル主導、テンセントとアリババも参加
  • 人型ロボット「IRON」は全身76自由度、自社チップ3基で2,250TOPS、全固体電池を搭載
  • 試作機は約290万円、量産時は約130万円を目標。2026年末に量産、2027年から発売
  • テスラ・Figure AI・Unitreeとの競争は本格化。日本は部品では強いが完成品では出遅れている

まずは2026年末、IRONが本当に量産ラインに乗るかどうかを確認するところから始めてみてください。この1点が、人型ロボットが「話題」から「商品」に変わる分かれ目になります。

参考文献