1180億で1.6兆に勝つ|米国発コーディングAI

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 米スタートアップpoolsideが、コーディング特化のオープンAI「Laguna S 2.1」を公開しました
  • サイズは1180億パラメータ。約14倍大きい中国製「DeepSeek-V4-Pro」を一部テストで上回りました
  • 重みが無料で公開され、自分のパソコンやサーバーでも動かせます(オープンウェイト)
  • CEOは元GitHub(ギットハブ)技術トップ。会社の評価額は約1.8兆円にのぼります
  • 「小さくて賢い」流れは、日本企業のAI導入コストを大きく下げる可能性があります

「大きいAIほど賢い」——そう思っていませんか。2026年7月21日、その常識をくつがえすニュースが飛び込んできました。米国のpoolside(プールサイド)が、ライバルの14分の1ほどの大きさで互角以上に戦うAIを無料公開したのです。しかも自分のパソコンでも動きます。この記事を読めば、何がすごいのか、私たちの仕事にどう関わるのかがわかります。

Laguna S 2.1とは何か?

Laguna S 2.1は、プログラムのコードを書くのが得意なAIです。開発したのは、米サンフランシスコのpoolsideという会社です。

いちばんの特徴は「サイズと賢さのバランス」です。

AIの賢さは、よくパラメータ数(AIの脳みその大きさを示す数字)で語られます。数が多いほど賢いけれど、動かすのにお金と電気がかかります。

Laguna S 2.1のパラメータ数は1180億です。一見多そうですが、最近の最上位AIは1兆を軽く超えます。つまりLagunaは「中くらいのサイズ」なのです。

それなのに、はるかに大きいライバルに勝ってしまった。ここが今回の驚きどころです。

なぜ小さいのに速くて安いのか

秘密はMoE(混合エキスパート)という仕組みにあります。

これは「その道の専門家をたくさん用意して、質問ごとに必要な人だけ呼ぶ」やり方です。

Lagunaの中には256人の「専門家」がいます。でも、ひとつの作業で実際に働くのは、そのうちのごく一部だけです。

結果として、脳全体は1180億でも、1回ごとに動くのはわずか80億パラメータで済みます。だから軽くて速く、電気代も安く抑えられるのです。

ちなみに、一度に読み込める文章の量(コンテキスト)は約100万トークン。文庫本を何冊もまとめて渡せるほどの記憶力です。大きなプログラム全体を一度に把握できます。

1.6兆パラメータの巨人に勝った実力

では、どれくらい賢いのでしょうか。数字で見てみます。

AIの性能は「ベンチマーク」という共通テストで測ります。プログラミングの実力テストでの結果はこうです。

  • Terminal-Bench 2.1(端末操作の実力テスト): 70.2%
  • SWE-Bench Multilingual(多言語のバグ修正テスト): 78.5%
  • SWE-Bench Pro(難しめのバグ修正テスト): 59.4%
  • DeepSWE v1.1(自律的なコード修正テスト): 40.4%

注目は最初のTerminal-Benchです。

このテストで、Lagunaは中国製の巨大AI「DeepSeek-V4-Pro-Max」を上回りました。相手のサイズは1兆6000億パラメータ。Lagunaのおよそ14倍です。

体格で14倍も大きい相手に、小柄な選手が勝ったようなものです。米国製のオープンAIとしては最高性能だと評価されています。

「じっくり考えるモード」がカギ

Lagunaには思考モード(答える前にじっくり考える機能)があります。

難しい問題ほど、頭の中で長く考えてから答えを出します。ときには数時間、数十万トークン分も考え続けるといいます。

この効果は数字にはっきり出ています。思考モードを切ると、Terminal-Benchのスコアは70.2%から60.4%まで下がります。難しいテストでは16.5%まで落ちる場合もあります。

実際のデモでは、ゼロの状態から50分でブラウザエンジン(Webページを表示する土台のプログラム)を作り、画面表示まで成功させました。

開発元poolsideはどんな会社?

poolsideは2023年にできた、まだ新しい会社です。それでも業界の注目を集めています。理由はトップの経歴にあります。

CEOのJason Warner(ジェイソン・ワーナー)氏は、世界最大のプログラム共有サービスGitHubの元CTO(技術トップ)です。プログラマーの世界を知り尽くした人物です。

お金の面でも勢いがあります。これまでの調達額は合計約6億2600万ドル(約940億円)にのぼります。

会社の評価額は、2024年の約3000億円から、2025年には半導体大手NVIDIA(エヌビディア)の出資で約1.8兆円(120億ドル)まで一気に4倍になりました。

しかも、Lagunaはトレーニング開始から公開まで9週間未満で仕上げたそうです。開発スピードも驚異的です。

「オープンウェイト」で無料公開する狙い

今回いちばん大きいのは、オープンウェイトで公開したことです。

オープンウェイトとは、AIの「重み」(学習した頭脳データ)を誰でもダウンロードできるように公開する方式です。自分のパソコンやサーバーで自由に動かせます。

Lagunaの重みはHugging Face(ハギングフェイス)という共有サイトで配られています。データ量は236GBです。

軽くしたバージョンも用意され、NVIDIAの小型機「DGX Spark」やMac Studioでも動くとされています。

では、なぜ手間ひまかけたAIをタダで配るのでしょうか。背景には激しい競争があります。

オープンAIの世界では、中国のDeepSeekやアリババのQwen(クウェン)が強い存在感を持っています。そこへ米国勢が「西側の答え」として反撃をしかけた、という構図です。

無料で広く使ってもらい、開発者を味方につける。そのうえで企業向けの有料サービスで稼ぐ。これが狙いだと見られています。

他のコーディングAIとの違い

コード生成AIは今たくさんあります。Lagunaはどう位置づけられるのでしょうか。ざっくり整理します。

  • Laguna S 2.1(米poolside): 118Bと中くらいのサイズ。コード特化で「小さく賢い」。オープンウェイト
  • DeepSeek-V4(中国): 1.6兆と超大型。総合力が高いがサイズも巨大
  • Qwen3-Coder(中国アリババ): 商用も無料のApache 2.0ライセンス。日本語に強く日系企業で採用増
  • Claude・GPT系(クラウド型): 最高峰の実力だが、基本はネット経由の有料APIで、重みは非公開

つまりLagunaの立ち位置は「手元で動かせて、しかも大型並みに賢いコード用AI」です。

ClaudeやGPTのようなクラウド型と違い、社外にデータを出さずに使える点が大きな魅力です。

日本の企業や開発者への影響

この話は、遠い海外のニュースではありません。日本の現場にも関わってきます。

ある地方のソフト会社を想像してみてください。お客さんの機密データを扱うため、コードを外部のAIに送るのが不安でした。だからAI活用に踏み切れずにいました。

Lagunaのようなオープンウェイトなら、社内のサーバーだけで完結できます。データは外に出ません。これなら安心して導入を検討できます。

実際、日本ではデータの扱いに厳しい目が向けられています。経済産業省の「AI事業者ガイドライン」も、データ管理の重要性を求めています。

ローカルで動くAIは、この点でとても有利です。

もうひとつはコストの問題です。個人開発者や中小企業にとって、大型AIの利用料は重い負担でした。

「小さく賢い」モデルが広がれば、少ない機材でも高性能AIを使えます。AI活用のハードルが一気に下がるかもしれません。

ただし注意点もあります。専門家は「機密はローカル、難しい処理はクラウド」という使い分け(ハイブリッド)を勧めています。すべてをローカルにするのが正解とは限りません。

よくある質問(FAQ)

Q1. Laguna S 2.1は無料で使えますか?

はい。重みがHugging Faceで公開されており、ダウンロードして自分の環境で動かせます。BasetenやOpenRouterには無料エンドポイントもあります。

Q2. 普通のパソコンでも動きますか?

軽量化した版なら、Mac StudioやNVIDIA DGX Sparkなど高性能な機材で動くとされています。一般的なノートパソコンでは厳しく、ある程度のメモリと性能が必要です。

Q3. 日本語には対応していますか?

多言語のテストで高い成績を出しており、多言語対応がうたわれています。ただし公式は日本語対応の詳細を明記していません。日本語のコード作業でも一定の実力は期待できます。

Q4. ChatGPTやClaudeの代わりになりますか?

Lagunaはコード作成に特化したモデルです。総合的な会話や文章作成では、ChatGPTやClaudeのほうが得意な場面が多いでしょう。用途に合わせた使い分けが現実的です。

Q5. パラメータが小さいと性能は劣らないのですか?

MoEという仕組みと丁寧な学習で、サイズの割に高い性能を出しています。ただし、あらゆる作業で大型AIに勝てるわけではなく、コード分野での強さが際立つAIです。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • poolsideがコード特化のオープンAI「Laguna S 2.1」を2026年7月21日に公開
  • 1180億パラメータで、約14倍大きい中国製DeepSeekを一部テストで上回った
  • MoEと思考モードで「小さく賢い」を実現し、電気代も安い
  • 重みは無料公開。社内サーバーで動かせるため機密データを外に出さずに済む
  • CEOは元GitHub CTO、評価額は約1.8兆円と勢いのある会社

「大きいほど賢い」時代から、「賢く効率よく」の時代へ。まずはHugging FaceでLagunaの存在をのぞいてみることが、次のAI活用への第一歩になります。

参考文献