文字起こしの誤り52%減|1時間42円に

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • OpenAIが2026年7月28日に「gpt-transcribe」「gpt-live-transcribe」の2モデルを公開
  • 22言語のテストで誤り率が40.37%→19.27%へ、約52%の削減
  • 録音ファイル用は1分あたり0.0045ドル(約0.7円)、前世代より25%安い
  • 専門用語や話題を「ヒント」として事前に渡せる仕組みが最大の新機能
  • タイムスタンプ・話者分離・英訳は非対応で、旧モデルの併用が必要

会議の録音を文字起こしにかけたら、社名も専門用語もぐちゃぐちゃだった。そんな経験はありませんか。OpenAIが公開した新しい音声認識AIは、その悩みを正面から狙い撃ちしています。誤り率は半減し、値段はむしろ下がりました。

OpenAIが文字起こしAIを丸ごと入れ替えた

OpenAIは2026年7月28日、音声を文字に変換する新しいAIモデルを2つ発表しました。

1つ目がgpt-transcribeです。すでに録音が終わったファイルをまとめて処理するタイプです。会議の録音データ、インタビューの音源、コールセンターに残った通話記録などが対象になります。

2つ目がgpt-live-transcribe。こちらは話している最中にリアルタイムで文字を出すタイプです。ライブ配信の字幕や、AIと電話で会話するような用途を想定しています。

注目すべきは、この2つが「おすすめモデル」の座を正式に引き継いだ点です。これまで標準だったwhisper-1とgpt-realtime-whisper-1は、事実上の旧世代に押しやられました。

Whisper(ウィスパー)は2022年にOpenAIが公開した音声認識AIで、無料で使えることもあって世界中の文字起こしサービスの土台になってきました。その看板モデルを、開発元自身が置き換えたことになります。

誤り率40.37%→19.27% 数字で見た進化

今回の発表でいちばんインパクトがあるのは、精度の数字です。

OpenAIが示したテストでは、22言語を含むCommon Voice(世界中のボランティアが録音を寄せ集めた音声データ集)で、文字起こしの誤り率が40.37%から19.27%まで下がりました。旧モデルのwhisper-1との比較で、およそ52%の削減です。

もう1つ、実際の生活音や雑音が混じった「実環境の音声」9言語でのテストもあります。こちらは15.21%から8.98%へ改善しました。減り幅はおよそ41%です。

ここで気をつけたいのは、40%という数字が「Whisperが4割も間違える」という意味ではないことです。Common Voiceには訛りの強い音声や録音状態の悪いデータが大量に含まれます。あくまで難しい条件でのスコアだと考えてください。

それでも、間違いが半分に減るインパクトは小さくありません。1時間の会議で修正が必要な箇所が100か所から50か所になれば、確認作業の時間もおよそ半分になります。

「先にヒントを渡せる」のが最大の変化

これまでのAIは音だけを聞いていた

従来の音声認識は、渡された音の断片だけを見て判断していました。前後に何の話をしていたのか、どんな業界の会話なのかは考慮されません。

だから固有名詞に弱いのです。「アイフレンズ」と言っても「愛フレンズ」になり、薬の名前は近い音の一般名詞に化けます。

新モデルは「前提知識」を受け取れる

gpt-transcribeとgpt-live-transcribeは、音声と一緒に自由な文章のヒント、キーワード一覧、想定される言語を渡せます。

たとえば「これは半導体メーカーの四半期決算説明会です」と説明を添える。さらに製品名や役員名をキーワードとして並べておく。それだけで、AIはその単語を優先的に拾うようになります。

OpenAIが用意した文脈理解のベンチマークでは、この情報を与えることで正確さが3〜6ポイント上がったと報告されています。

録音ファイル向けのgpt-transcribeでは、直前の会話のやり取りも渡せます。長い商談の途中から文字起こしを再開しても、話の流れを見失いにくいわけです。

料金と、あえて削られた機能

1時間の録音が約42円

gpt-transcribeの利用料は1分あたり0.0045ドル(約0.7円)です。1時間の録音なら0.27ドル、日本円でおよそ42円になります。

前世代のgpt-4o-transcribeは1分0.006ドルでした。つまり25%の値下げです。精度が上がって値段が下がる、という珍しい更新になりました。

リアルタイム側のgpt-live-transcribeは1分0.017ドル(約2.6円)。1時間で約158円です。こちらは従来のリアルタイム版と同額に据え置かれました。

月に50時間の会議を録音して文字起こしするとしても、費用は2000円程度。人が聞き直す時間を考えれば、桁違いに安い計算です。

できないことが3つある

ただし新モデルは万能ではありません。旧モデルにあった機能のうち、いくつかが引き継がれていません。

  • 単語ごとのタイムスタンプ(何秒目に何を言ったかの記録)
  • SRT・VTT形式の字幕ファイル出力
  • 話者分離(誰が話したかの区別)と英語への翻訳

動画の字幕を作りたい人は、いまもwhisper-1が必要です。会議で誰の発言かを分けたい場合は、話者分離に対応したgpt-4o-transcribe-diarizeという別モデルを使います。

なお、gpt-transcribeで一度に送れるファイルは25MBまでです。長時間の録音は分割するか、ストリーミングで流し込む形になります。

他社サービスと比べるとどうか

音声認識の市場は、いまや激戦区です。主要プレイヤーを並べてみます。

ElevenLabs Scribe v2は精度で高い評価を集めています。日本語の誤り率が3〜4%台と報告されており、リアルタイム版は150ミリ秒未満の遅さで応答します。料金は1時間あたり0.22〜0.40ドル前後です。

Deepgram Nova-3は速さとコストのバランス型。1分0.0048〜0.0078ドルで、30以上の言語に対応します。話し終わりの検知が組み込まれており、AI電話応対のような用途で強みがあります。

AssemblyAI Universal-3 Proは英語の平均誤り率5.6%。非同期処理が1時間0.21ドル、ストリーミングが0.45ドルという設定です。

マイクロソフトもMAI-Transcribe-1を投入し、25言語の平均誤り率3.8%を掲げています。

注意したいのは、これらの数字を単純に横並びで比べられないことです。測定に使うデータ集が違えば、誤り率は簡単に数倍変わります。OpenAIの19.27%とScribe v2の3%台は、まったく別の物差しの上の数字です。

むしろ選ぶ基準は、価格・遅延・使いたい機能の3点になります。きれいな英語音声での勝負はすでに横並びに近く、差がつくのは雑音の多い現場の音声や、専門用語の多い会話だと言われています。

日本のユーザーと企業にとっての意味

日本語の数値は公表されていない

今回OpenAIが示した数字は多言語をまとめたもので、日本語だけの成績は公表されていません。日本語は同音異義語が多く、句読点の位置でも意味が変わる難しい言語です。

ただし、ヒントを渡せる仕組みは日本語と相性がいいはずです。「橋」か「箸」か、「機構」か「起工」か。文脈があれば正しく選べる場面は確実に増えます。

現場で効きそうな3つの場面

ある地方病院の外来を想像してみてください。医師が患者と話しながら、電子カルテに入力する時間が診察の3割を占めていました。薬品名を事前にキーワード登録した文字起こしAIを挟めば、下書きが自動で埋まります。

自治体の議会も候補です。議事録の作成は職員が録音を何度も巻き戻しながら進める作業でした。議員名と条例名をヒントとして渡しておけば、固有名詞の取りこぼしが減ります。

中小企業の営業チームにも効きます。訪問の帰り道にスマホで話した内容をそのまま流し込み、商談メモを自動生成する。1件5分の入力作業でも、月100件なら8時間以上の削減です。

国内にはAmiVoiceやNottaといった日本語特化の文字起こしサービスがあり、話者分離や編集画面の使いやすさで強みを持っています。APIは部品、国内サービスは完成品。用途に応じた住み分けは当面続きそうです。

よくある質問(FAQ)

Q1. ChatGPTの画面から使えますか?
いいえ。今回のモデルはAPI(プログラムから呼び出す仕組み)向けの提供です。エンジニアがアプリに組み込んで使う形になります。

Q2. Whisperはもう使えなくなりますか?
すぐ止まるという発表はありません。whisper-1はタイムスタンプや字幕出力を担う役割が残っています。ただし推奨は新モデルに移りました。

Q3. 手元のパソコンで無料で動かせますか?
今回の2モデルはクラウド経由の有料APIです。無料でローカルに動かしたい場合は、公開済みのWhisperを使う選択肢が残っています。

Q4. 録音した音声はAIの学習に使われますか?
OpenAIのAPIは、既定では入力データを学習に使わない方針を示しています。機微な情報を扱う場合は、契約条件と設定を必ず自社で確認してください。

Q5. 誤り率が半分になれば校正はいらない?
いいえ。19.27%はまだ5語に1語が違う水準です。議事録や医療記録など正確さが求められる用途では、人による確認が前提になります。

まとめ

  • OpenAIが2026年7月28日、gpt-transcribeとgpt-live-transcribeを公開した
  • 22言語のテストで誤り率が40.37%→19.27%へ、約52%減った
  • 実環境音声でも15.21%→8.98%と、およそ41%の改善
  • 録音向けは1分0.0045ドル(1時間約42円)で、前世代より25%安い
  • 専門用語や文脈を先に渡せる仕組みが精度を3〜6ポイント押し上げる
  • タイムスタンプ・字幕出力・話者分離は非対応で旧モデルの併用が必要

自社の議事録や通話ログのうち、どこまでを自動化して、どこから人の目を残すのか。まずは1時間分の録音を試して、修正にかかる時間を実測してみてください。

参考文献