Copilotの頭脳が交代|MSが自社AIに切替える狙い

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Microsoftが「365 Copilot」の一部で、OpenAIやAnthropicのAIを自社製「MAI」モデルに置き換え始めました
  • まずはExcelとOutlookが対象。週に数万件の指示がすでにMAIで処理されています
  • いちばんの狙いは「コスト削減」。他社に払うお金を減らすためです
  • 切り替えはサーバー側で自動。ユーザーは設定を変える必要も、気づくこともありません
  • 日本のCopilot利用企業にも、自動で同じ変更が広がっていきます

いつも使っているExcelやOutlookのAI機能。その「頭脳」が、こっそり別のものに入れ替わっていたら驚きませんか?いま、Microsoftがまさにそれを進めています。これまで頼っていたOpenAIやAnthropicのAIを、自社製の「MAI」へ切り替え始めたのです。この記事を読むと、何が起きているのか、なぜなのか、そして日本の私たちにどう関わるのかがわかります。

Microsoftは何を発表したの?

2026年7月7日、経済メディアのBloombergがある報道をしました。

Microsoftが「365 Copilot」の一部で、他社製AIを自社製AIに置き換え始めたという内容です。

365 Copilotとは、ExcelやWord、OutlookなどのOffice製品に組み込まれたAIアシスタントのことです。文章を書いたり、表を分析したり、メールの下書きを作ったりしてくれます。

これまでこのCopilotは、OpenAI(ChatGPTを作った会社)やAnthropic(Claudeを作った会社)のAIを使って動いていました。

それが今回、Microsoftが自社で開発した「MAI(エムエーアイ)」というAIに、少しずつ置き換わっているのです。

まず対象になったのはExcelとOutlookです。報道によると、すでに週に数万件の指示(プロンプト)がMAIモデルで処理されているとのことです。

なぜ自社AI「MAI」に切り替えるの?

いちばんの理由は、はっきりしています。お金を節約するためです。

他社にたくさんのお金を払っていた

Microsoftは、OpenAIやAnthropicのAIを使うたびに、その会社に利用料を払っていました。

CopilotがExcelやOutlookで質問に答えるたびに、少しずつ費用がかかります。これを「推論コスト」と呼びます。使う人が増えれば増えるほど、この費用は雪だるま式にふくらみます。

Microsoft AI部門のトップ、ムスタファ・スレイマン氏は2026年6月にこう語りました。「私たちはAnthropicに多額のお金を払っている。だから、その費用を減らし、最終的にはゼロにするのが目標だ」。

自社で作ったAIを使えば、他社への支払いは減ります。だからMicrosoftは、自前のMAIモデルへの切り替えを急いでいるのです。

「自立」というもう一つの狙い

お金だけではありません。他社に頼りきりだと、その会社が値上げをしたときに従うしかありません。

自社でAIを持てば、価格も性能も自分たちでコントロールできます。「他社に振り回されない」という自立が、もう一つの大きな狙いなのです。

MAIモデルってどんなAI?

MAIは「Microsoft AI」の略で、Microsoftが自社で開発したAIモデルの総称です。

この開発を進めているのが、2025年11月に結成された「MAI超知能(Superintelligence)チーム」です。スレイマン氏がリーダーを務めています。

2026年4月には、最初の3つのモデル(音声、画像、文字起こし用)を公開しました。

さらに6月の開発者会議「Build 2026」では、7つの新しいモデルを一気に発表しています。

代表的なのが、初の「考えるAI」であるMAI-Thinking-1です。難しい数学のテスト(AIME 2025)で97.0%という高い正答率を出しました。

プログラミングの実力を測るテストでは、AnthropicのClaude Opus 4.6という高性能モデルに匹敵する結果を、より安いコストで出したとMicrosoftは主張しています。

つまりMAIは、単なる「安いだけの代役」ではなく、性能面でも他社に迫ろうとしているのです。

OpenAI・Anthropicとの関係はどうなる?

「じゃあMicrosoftはOpenAIと決別するの?」と思うかもしれません。答えは「いいえ」です。

今回の変更は、あくまで一部のタスクをMAIに回すというものです。MAIが処理しているのは、まだ全体のごく一部にすぎません。

Microsoftが目指しているのは、「マルチモデル」という考え方です。

これは、仕事の内容に合わせて最適なAIを選んで使う仕組みのことです。あるときはMAI、あるときはOpenAIのGPT、あるときはAnthropicのClaude、というように使い分けます。

背景には契約の変化もあります。2025年9月にOpenAIとの契約を見直し、Microsoftは独自のAIを自由に開発できるようになりました。それまでは契約でこれが制限されていたのです。

Microsoftは2027年までに、最先端の汎用AIを自社で完成させる計画も掲げています。

他社モデルと自社モデル|何がどう違う?

ここで、3つのAIの立ち位置を整理してみましょう。

  • OpenAIのGPT:ChatGPTでおなじみ。幅広い作業が得意な万能型。ただし利用料は高め
  • AnthropicのClaude:安全性と丁寧な文章に定評。プログラミングにも強い。こちらも高性能ゆえコストは高い
  • MicrosoftのMAI:後発だが、安さが最大の武器。性能も急速に追い上げ中

使う私たちから見ると、大きな違いは「値段」です。

MicrosoftがMAIを選ぶ理由は、同じような答えをもっと安く出せるからです。反対に、より高い品質が求められる難しい作業では、引き続きGPTやClaudeが使われる見込みです。

ちなみに、このコスト意識はMicrosoftだけの話ではありません。Amazon、Uber、Meta、AccentureなどもAI費用の見直しを進めています。「AIは便利だが高い」という現実に、多くの大企業が向き合い始めているのです。

日本のユーザー・企業への影響は?

「海外の話でしょ?」と思った方こそ、知っておいてほしいポイントがあります。

365 Copilotは日本でも多くの企業が使っています。今回の切り替えはサーバー側で自動的に行われるため、日本のユーザーにも同じように広がっていきます。

しかも、切り替えに気づく方法はほとんどありません。設定画面にボタンが増えるわけでも、通知が来るわけでもないのです。

ある日本企業の総務担当者を想像してみてください。毎日Outlookでメールの下書きをAIに手伝ってもらっています。その裏側のAIが、本人の知らないうちにOpenAIからMAIに変わっている、ということが起こり得ます。

気になるのは「品質は落ちないの?」という点でしょう。

Microsoftは、簡単な作業から段階的に置き換えており、品質を保てる範囲でMAIを使うとしています。とはいえ、日本語の細かいニュアンスでどこまで差が出るかは、今後利用者が体感で確かめていく部分です。

企業のIT担当者にとっては、「使っているAIの中身は変わり続ける」という前提で運用を考える良いきっかけになりそうです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 今使っているCopilotの設定を変える必要はありますか?

いいえ、必要ありません。切り替えはMicrosoft側で自動的に行われます。ユーザーが操作することは何もありません。

Q2. MAIに変わると、答えの質は下がりますか?

Microsoftは品質を保てる作業からMAIに切り替えているとしています。難しい作業では、これまで通りGPTやClaudeが使われる見込みです。実際の使い心地は、今後の利用で確かめていくことになります。

Q3. どのアプリが対象ですか?

報道では、まずExcelとOutlookが対象とされています。今後、Wordなど他のアプリにも広がる可能性があります。

Q4. MicrosoftはOpenAIやAnthropicをやめるのですか?

やめません。用途に応じて複数のAIを使い分ける「マルチモデル」方式です。MAIはその選択肢の一つが増えた、という位置づけです。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • Microsoftが365 Copilotの一部で、他社製AIを自社製「MAI」に置き換え始めた
  • まずはExcelとOutlookが対象で、週に数万件の指示を処理している
  • 最大の狙いはコスト削減と、他社に頼らない「自立」
  • 切り替えは自動で、ユーザーが気づくことはほぼない
  • OpenAIやAnthropicとは決別せず、用途で使い分ける「マルチモデル」方式
  • 日本のCopilot利用企業にも自動で影響が広がる

まずは、自分や自社が使っているAIサービスの「中身」に関心を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。

参考文献

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