- 複数のAIに同じ質問をすると、答えがそっくりになる「均質化」という問題があります
- NeurIPS 2025の最優秀論文が、70以上のAIで回答が似通うことを実証しました
- オーストラリアの新興企業がこの問題に挑む新AI「Flint(フリント)」を発表しました
- FlintはアリババのQwen 3をベースに、あえて「意外な答え」を出すよう訓練されています
- 広告やマーケティングの発想支援ツールとして、まず活用が始まっています
ChatGPTとClaude、両方に同じ質問をして「答えがほとんど同じ」と感じたことはありませんか?実はこれ、多くのAIに共通する「均質化(きんしつか)」という深刻な問題です。この記事では、その正体と、問題に挑む新しいAI「Flint」の仕組みをやさしく解説します。
AIの答えが「どれも同じ」になる問題とは
今のAIは、とても便利です。
質問すれば、すぐに答えを返してくれます。
でも、少し不思議なことがあります。
違う会社が作ったAIなのに、答えがそっくりになるのです。
たとえば「時間をたとえてください」と聞くと、多くのAIが「時間は川のようなもの」と答えます。
これを専門家は「均質化」や「グループシンク(集団で同じ考えに寄ること)」と呼んでいます。
つまり、世界中の何十億人がAIを使っているのに、返ってくるアイデアがどんどん似てきているのです。
「時間は川」問題|最優秀論文が暴いた均質化
この問題を科学的に証明した研究があります。
2025年12月のAIの国際学会「NeurIPS(ニューリップス)」で最優秀論文賞を受けた「Artificial Hivemind(人工の集団脳)」という研究です。
ワシントン大学などの研究チームが発表しました。
研究チームは、25種類のAIに「時間のたとえ」を50回ずつ、合計1250回書かせました。
結果はどうだったと思いますか?
そのほとんどが「時間は川」か「時間は機織り(はたおり)」のどちらかだったのです。
チームは70以上のAIも調べ、同じAIの中でも、違うAI同士でも、答えが極端に偏ることを確認しました。
この研究では「Infinity-Chat」という検証用データも作られました。
2万6000件の自由な質問と、3万1000件の人間による評価を集めた大規模なものです。
均質化はなぜ起きるのか
では、なぜAIの答えは似てしまうのでしょうか。
理由はシンプルです。
今のAIの多くが、似たようなデータで、似たような方法で訓練されているからです。
AIは「次に来る確率がいちばん高い言葉」を選ぶように作られています。
だから、みんなが使う無難な答えに引き寄せられます。
「時間は川」は、多くの文章に出てくる定番の表現です。
AIにとっては、いちばん「正解っぽく」見えるのです。
その結果、珍しい発想や、とがったアイデアは切り捨てられてしまいます。
新AI「Flint(フリント)」の挑戦
この問題に正面から挑むのが、新しいAI「Flint」です。
開発したのは、オーストラリアの新興企業Springboards(スプリングボーズ)です。
創業者はピップ・ビンゲマン氏(CEO)とキーラン・ブラウン氏(CTO)らです。
同社はすでに約7.5億円(500万ドル)の資金を集めています。
世界の広告代理店120社が出資に加わりました。
Flintの目標は、はっきりしています。
「70個のAIが時間を川と答えるなら、Flintは71番目の新しいたとえを探す」ことです。
実際、車の種類をたずねると、ChatGPTやClaudeは「トヨタ」や「ホンダ」を挙げました。
一方でFlintは、大型ピックアップトラックの「フォードF-150」を提案したそうです。
Flintの仕組み|「温度設定」との違い
AIの答えに変化をつける方法として、昔から「温度(temperature)」という設定があります。
これはランダムさを上げる調整つまみのようなものです。
でも、これには大きな弱点があります。
温度を上げすぎると、AIの文章がめちゃくちゃになるのです。
実際、あるAIでは文の途中で英語からプログラムのコードに切り替わってしまいました。
Springboardsは、別の道を選びました。
ベースにしたのは、アリババが公開した「Qwen 3(クウェン・スリー)」という無料で使えるAIです。
これを改良し、「文章のどこで意外性を出すと効果的か」をAI自身に見つけさせる訓練をしました。
そして、その場所だけに、少し予想外の言葉を差し込むのです。
全体はちゃんとした文章のまま、必要な部分だけ発想を飛ばす。これがFlintのねらいです。
他のAIとどう違う?比較で整理
ここで、Flintと一般的なAIの違いを整理します。
ChatGPTやClaude、Geminiなどの主要AIは、正確さと無難さを重視します。
質問に対して、多くの人が納得する「王道の答え」を返すのが得意です。
仕事のメール作成や要約には、これがぴったりです。
一方のFlintは、あえて「意外な答え」を出すことに特化しています。
正解を1つ出すためではなく、アイデアの種をたくさん広げるためのAIです。
実際の使い方もユニークです。
複数のAIが出した文章を1つの作業画面に並べ、ドラッグして組み合わせられます。
まるで、たくさんの発想家を集めた会議室のような感覚です。
つまり両者は敵ではなく、役割が違うと考えるとわかりやすいでしょう。
日本のユーザー・企業への影響
この話は、日本にとっても他人事ではありません。
日本の企業でも、広告のコピーや商品名をAIで考える動きが広がっています。
ある食品メーカーの担当者を想像してみてください。
新商品のキャッチコピーをChatGPTで100個作らせたのに、どれも似た雰囲気で困った——。
これはまさに均質化の問題です。
ライバル企業も同じAIを使えば、広告までそっくりになるおそれがあります。
FlintのベースになったQwen 3は、中国語や日本語にも比較的強いAIです。
将来、日本語で「意外な発想」を出すツールが広がれば、企画や商品開発の現場で役立つ可能性があります。
もう1つ大切な視点があります。
私たちが毎日AIの答えに触れ続けると、人間の考え方まで似てくるかもしれない、という指摘です。
多様な発想を守ることは、これからの社会全体のテーマになりそうです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 均質化(グループシンク)とは何ですか?
複数のAIに同じ質問をしたとき、答えがそっくりになってしまう現象です。似たデータと似た方法で訓練されていることが主な原因です。
Q2. Flintは今すぐ使えますか?
現在は「アルファ版」という開発初期の段階です。主に広告やマーケティングの専門家向けの発想支援ツールとして提供が始まっています。
Q3. FlintはChatGPTの代わりになりますか?
いいえ、役割が違います。正確な回答や要約は主要AIが得意です。Flintはアイデアを広げる場面で力を発揮します。使い分けるのがおすすめです。
Q4. 温度設定を上げれば同じことができませんか?
温度を上げるとランダムさは増しますが、文章が壊れやすくなります。Flintは壊さずに、必要な部分だけ意外性を足す点が違います。
Q5. 日本語でも使えますか?
ベースのQwen 3は日本語にも対応しています。ただしFlint自体の日本語での性能は、今後の展開を見守る必要があります。
まとめ
- 複数のAIは答えが似通う「均質化」という問題を抱えています
- NeurIPS 2025の最優秀論文が、70以上のAIでこの現象を実証しました
- 「時間は川」のように、無難な定番の答えに偏ってしまうのが特徴です
- 新AI「Flint」はQwen 3を改良し、あえて意外な答えを出すよう訓練されています
- 温度設定と違い、文章を壊さずに必要な部分だけ発想を飛ばします
- 広告・企画の現場で、AIの「金太郎飴問題」を解く鍵になるかもしれません
まずは、あなたが普段使うAIに同じ質問を2回してみて、答えがどれくらい似るか確かめてみましょう。
参考文献
- MIT Technology Review「LLMs are stuck in a groupthink rut. This startup is trying to get them out.」
- Springboards「Flint by Springboards: The AI Divergence Model for Creative Novelty」
- NeurIPS 2025「Artificial Hivemind: The Open-Ended Homogeneity of Language Models」
- University of Washington Allen School News「Artificial Hivemind Best Paper Award」
- Mediaweek「The AI sameness crisis has a new challenger: meet Flint」

