OpenAI創業者カーパシー氏、なぜAnthropicへ?

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • OpenAI創業メンバーのアンドレイ・カーパシー氏が、2026年5月19日にAnthropicへの移籍を発表しました
  • 担当はClaudeの「事前学習」チーム。AIを使ってAI開発を加速する新チームを率います
  • 背景には、OpenAI・Google・Anthropicによる激しいAI人材の奪い合いがあります
  • OpenAIを離れる研究者は、Anthropicを選ぶ割合が約8倍という調査もあります
  • 日立の約29万人やNECの約3万人など、Anthropicの日本での存在感も急拡大しています

AI業界で知らない人はいない有名研究者が、ライバル企業へ移りました。なぜ今、彼はAnthropicを選んだのでしょうか。この記事を読むと、移籍の中身と、業界で起きている「人材戦争」、そして日本への影響までわかります。

アンドレイ・カーパシー氏とは何者か

まず、主役の人物を紹介します。

アンドレイ・カーパシー氏は、OpenAIの創業メンバーの1人です。AI研究の世界では、超のつく有名人です。

彼の経歴は華やかです。テスラ(電気自動車メーカー)では、AI担当ディレクターを務めました。自動運転(クルマが自分で走る技術)の開発を率いた人物です。

その後、2024年7月に「Eureka Labs(ユーリカラボ)」というAI教育のスタートアップ(新興企業)を自分で立ち上げました。

カーパシー氏は、AIの仕組みをやさしく教えることでも有名です。たとえば「nanoGPT(ナノGPT)」という、ChatGPTのような仕組みを小さく作る教材を無料で公開しています。2026年2月には、わずか200行のシンプルなプログラムでAIを動かす「microGPT」も発表しました。

さらに、AIにコードを書かせる開発スタイル「バイブコーディング(雰囲気でコードを作る、の意味)」という言葉を作った人でもあります。今やこの言葉は世界中のエンジニアが使っています。

何が起きたのか——Anthropic移籍の中身

2026年5月19日、カーパシー氏はSNSで移籍を発表しました。

移籍先はAnthropic(アンソロピック)。対話AI「Claude(クロード)」を作っている会社です。OpenAIの元メンバーが設立した、安全なAIを重視する企業として知られています。

彼が入るのは「事前学習(プリトレーニング)」チームです。事前学習とは、AIに大量のデータを読ませて、基本的な知識や能力を身につけさせる作業のことです。AIの「賢さの土台」を作る、いちばん重要な工程です。

しかも、ただ参加するだけではありません。Claude自身を使って、AIの事前学習研究をもっと速くする新チームを率いると発表されています。「AIでAIを育てる」という、最先端のテーマです。

カーパシー氏本人はこう述べています。「Anthropicに参加しました。これからの数年、大規模言語モデル(人間のように文章を書けるAI)の最前線は特に重要な時期になると思います。研究開発に戻れることをとても楽しみにしています」。

なお、教育への情熱は変わらないとも語っており、Eureka Labsの活動は完全にやめるのではなく、いったん休止する形のようです。

なぜ移籍したのか——AI人材戦争の正体

この移籍が大きなニュースになった理由は、1人の研究者の話にとどまらないからです。

今、AI業界では「人材戦争」と呼ばれる激しい奪い合いが起きています。トップ研究者を1人確保できるかどうかが、会社の将来を左右するからです。

ある調査では、OpenAIを離れる研究者がAnthropicを選ぶ割合は、ほかの会社の約8倍とされています。Google傘下のDeepMindからの移籍では、その差はおよそ11倍にもなるといいます。

Anthropicは、過去2年に採用した社員の定着率が約80%と、AI業界で最も高い水準です。多くの人が辞めずに残っているのです。

興味深いのは、理由がお金だけではない点です。OpenAIのサム・アルトマンCEOは2025年に、Metaが研究者へ最大1億ドル規模の報酬を提示していると語りました。それでも一流研究者は、必ずしも高給を選びません。

多くの研究者が重視するのは、会社の理念やAIの安全性への姿勢だと言われています。「どんなAIを、どんな価値観で作るのか」が、報酬と同じくらい重要になっているのです。

競合比較——OpenAI・Google・Anthropicの違い

3社の立ち位置を整理してみましょう。読者のみなさんも、名前は聞いたことがあるはずです。

OpenAIは、ChatGPTで一気に有名になりました。一般向けサービスの広がりでは先頭を走ってきた会社です。一方で、有力研究者の流出が課題として指摘されています。

Google(DeepMind)は、検索やAndroidなど巨大な土台を持ちます。ただ、こちらもAnthropicへの人材流出が報じられています。

Anthropicは、企業向けで強さを見せています。企業向けAI市場のシェアは、Anthropicが約40%、OpenAIが約27%、Googleが約21%という調査もあります。Anthropicが企業の現場で選ばれている様子がわかります。

数字も見てみます。Anthropicの会社評価額は、2026年2月の資金調達で約3800億ドルとされました。その後さらに大型の調達が交渉中と報じられています。年換算の売上も、2026年2月時点で約140億ドル、4月には約300億ドルへと急成長しています。

カーパシー氏のような象徴的な人物が加わることは、こうした勢いをさらに後押しする出来事だと受け止められています。

日本市場への影響

「海外の話でしょう?」と思った方もいるかもしれません。実は、日本にも深く関係します。

Anthropicは今、日本での存在感を急速に高めています。2026年4月には、NECがAnthropicの日本初のグローバルパートナーになりました。NECグループの約3万人がClaudeを使えるようになります。

さらに5月には、日立がAnthropicと戦略提携を発表しました。世界中の約29万人の従業員にClaudeを展開する大規模な計画です。野村総合研究所(NRI)も、2026年初めに連携を拡大しています。

Anthropicはアジア太平洋で初となる東京オフィスも開設しました。2026年6月10日には、東京で開発者向けイベント「Code with Claude」も予定されています。

つまり、日本の企業やエンジニアにとって、ClaudeとAnthropicは「遠い海外の会社」ではなくなりつつあります。カーパシー氏のような研究者が支える技術が、日本の職場にも入ってくる流れが強まっているのです。

よくある質問(FAQ)

Q1. カーパシー氏はOpenAIを辞めて移籍したのですか?

A. 彼はすでにOpenAIを離れ、自分の会社Eureka Labsを運営していました。今回はそのEureka Labsをいったん休止して、Anthropicに参加する形です。OpenAIから直接の移籍ではありません。

Q2. Anthropicで具体的に何をするのですか?

A. Claudeの事前学習チームに加わります。さらに、Claude自身を使って事前学習の研究を加速させる新チームを率いるとされています。

Q3. なぜ「お金が理由ではない」と言われるのですか?

A. 一流研究者は、業界最高水準の報酬を断ってまで移籍する例が多いからです。会社の理念やAIの安全性への考え方を重視する人が増えていると言われています。

Q4. 日本のエンジニアや会社に関係ありますか?

A. 関係します。NECや日立、NRIなど日本の大企業がAnthropicと提携し、東京オフィスや開発者イベントも始まっています。Claudeを使う機会は今後さらに増えそうです。

Q5. 「バイブコーディング」とは何ですか?

A. カーパシー氏が広めた言葉です。AIにコードを書かせ、人間は細かい中身を読まずに受け入れて開発を進めるスタイルを指します。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • OpenAI創業メンバーのカーパシー氏が、2026年5月19日にAnthropicへ移籍を発表しました
  • 担当はClaudeの事前学習。AIでAI開発を加速する新チームを率います
  • 背景には、OpenAI・Google・Anthropicによる激しい人材戦争があります
  • 移籍の決め手は報酬よりも、会社の理念やAIの安全性だと言われています
  • NEC・日立・NRIとの提携など、Anthropicの日本での存在感も急拡大しています

次のアクションとして、まずは対話AI「Claude」を実際に触り、ChatGPTとの違いを自分の目で確かめてみることをおすすめします。

参考文献

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