- Googleが「Frozen v2」という新しいAIチップを開発中だと報じられました
- GeminiというAIの設計図を、回路に直接「焼き込む」のが最大の特徴です
- これまでのTPU(Google製AIチップ)より、電力あたり6〜10倍も効率がよくなる見込みです
- 登場は2028年ごろ。TPUを置き換えるのではなく、追加する形になります
- Geminiの設計が変わると使えなくなる、という大きな弱点もあります
AIを動かすのに、いま一番足りないものは何だと思いますか。答えは「電力」です。ChatGPTやGeminiが賢くなるほど、裏側の電気代はふくらみ続けています。そんな中、Googleが「AIチップの常識」をひっくり返すかもしれない一手を打とうとしています。GeminiというAIそのものを、半導体の回路に焼き込んでしまうというのです。この記事では、話題の新チップ「Frozen v2」が何なのか、なぜ省エネになるのか、そして私たち日本のユーザーにどう関係するのかを、やさしく解きほぐしていきます。
「Frozen v2」とは?Geminiを回路に焼き込むチップ
2026年7月、アメリカのメディア「The Information」が興味深いニュースを報じました。
Googleが社内で「Frozen v2(フローズン・ブイツー)」と呼ばれる新しいAIチップを開発している、という内容です。
このチップの発案者は、Google DeepMindの主席科学者ジェフ・ディーン氏だと伝えられています。AI業界では知らない人がいない、伝説的なエンジニアです。
「Frozen(凍結)」という名前には理由があります。GeminiというAIの設計を、半導体にそのまま「凍らせて固定する」からです。
ふつうのチップは、AIの計算方法をその都度ソフトウェアで組み立てます。Frozen v2は、その組み立て作業の一部を回路そのものに刻み込んでしまうのです。
なぜ6〜10倍も省エネになるの?
開発に関わる社員たちは、Frozen v2が最新のTPUより電力あたり6〜10倍も効率がよくなると見込んでいます。ここでいう効率とは「同じ電力でどれだけの文章を処理できるか(1ワットあたりのトークン数)」のことです。
計算の「ムダな寄り道」を減らす
AIが文章を作るとき、チップは何度もメモリにデータを取りに行きます。この行き来が、電力と時間を食う大きな原因です。
Frozen v2は、この行き来をまとめてしまいます。バラバラだった複数の計算を、ひとつの回路でいっぺんに済ませるのです。
この工夫は「オペレーター融合」と呼ばれます。ソフトウェアでやると毎回手間がかかる作業を、あらかじめ回路に組み込んでおくイメージです。
「設計図」だけを焼き、中身は差し替え可能
実は最初の「Frozen(初代)」は、AIの中身(重み=学習した知識)まで焼き込もうとしていました。しかし、それでは融通がきかなすぎるとして見送られました。
改良版のv2では、焼き込むのはGeminiの構造(設計図)だけです。知識の部分は後から入れ替えられます。だから、Geminiが賢く学習し直しても使い続けられるのです。
TPUと何が違う?「万能選手」と「専門職人」
Googleにはすでに「TPU」という自社製AIチップがあります。最新世代の「Ironwood」は、前の世代より炭素効率が3.7倍もよくなった優れものです。
では、なぜ新しいチップが必要なのでしょうか。
TPUは、いろいろなAIモデルで使える万能選手です。NVIDIAのGPUと同じく、モデルが変わるたびに処理方法を考え直せる柔軟さがあります。
一方でFrozen v2は、Geminiだけに特化した専門職人です。ひとつの仕事に絞ることで、圧倒的なスピードと省エネを実現します。
大事なのは、Frozen v2がTPUを置き換えるわけではないという点です。Googleは、既存のTPUに新しいチップの家族を「追加する」と見られています。生産量もTPUより少なく、まずは専用チップの「試運転」という位置づけです。
大きな弱点|Geminiが変われば使えなくなる
いいことばかりに見えるFrozen v2ですが、はっきりした弱点があります。
Geminiの基本設計が大きく変わると、このチップは役に立たなくなってしまうのです。設計図を回路に焼き込んだ代償として、柔軟性を失っているからです。
AIの進化はとても速い世界です。数年後のGeminiが今とまったく違う構造になっていたら、高価なチップがムダになるリスクがあります。
だからこそ、Googleはこれを社外に売る製品にはしにくいと見られています。Gemini専用すぎて、他社では使い道がないからです。あくまでGoogle自身のAIサービスを安く動かすための、社内向けの切り札なのです。
なぜ今?背景にある「AIの電力問題」
Googleがこんな大胆な手を打つ背景には、深刻な事情があります。電力不足です。
AIデータセンターが使う電力は、恐ろしい勢いで増えています。アメリカでは2023年に176TWh(テラワット時)だった消費が、2028年には325〜580TWhに達すると予測されています。
これは国全体の電力の6.7〜12%にもなる量です。想像してみてください。国の電気の1割近くを、AIのために使う時代が来ようとしているのです。
しかも、これから電力を食う主役は「学習」ではなく、AIに質問して答えを得る「推論」の方だと言われています。Frozen v2は、まさにこの推論の電力を減らすための一手なのです。
競合・比較|広がる「専用チップ戦争」
「AIモデルをチップに焼き込む」という発想は、実はGoogleだけのものではありません。似た戦略を掲げるライバルが登場しています。
Etched「Sohu」— Transformer専用の刺客
2026年6月にステルス(非公開開発)を終えたスタートアップ「Etched」は、Sohu(ソウ)という専用チップで注目を集めました。約8億ドルを調達し、10億ドル超の契約を抱えているとされます。
Sohuは、今のAIの土台である「Transformer(トランスフォーマー)」という仕組みだけに特化しています。8枚のチップを積んだサーバーが、NVIDIAのH100を160枚分も置き換えるという主張です。
ただし、Transformer以外のAIは動かせません。用途を絞る分だけ速いが、融通はきかない。Frozen v2とよく似た割り切りです。
GroqやCerebrasなど、群雄割拠
ほかにもGroq(グロック)やCerebras(セレブラス)など、推論に特化したチップを作る会社が次々と現れています。
NVIDIAのGPUという「何でも屋」が支配してきた世界に、「一芸特化」のチップが挑む構図になってきました。GoogleのFrozen v2は、その最前線に立つ一手だと言えます。
日本のユーザー・企業にどう関係する?
「アメリカの半導体の話でしょう?」と思うかもしれません。でも、日本にも大いに関係があります。
まず、Geminiは日本でも広く使われています。スマホのアシスタントや、「ドラゴンクエスト」とのコラボ画像生成など、身近なところで動いています。そのGeminiが安く速くなれば、私たちが受けるサービスの質も上がります。
次に、開発者への影響です。Frozen v2でGoogleの運用コストが下がれば、GeminiのAPI(外部から使う窓口)の料金も下げやすくなります。日本のスタートアップにとって朗報です。
そして、電力問題は日本にとっても他人事ではありません。国内でもデータセンターの電力確保が課題になっています。NTTやソフトバンク、サカナAIといった国産AI勢が、省エネなAI基盤をどう作るか。Googleの挑戦は、その大きなヒントになります。
よくある質問(FAQ)
Q. Frozen v2はいつ使えるようになりますか?
報道によると、実際の運用開始は2028年ごろとされています。まだ開発段階の話であり、正式発表もされていません。
Q. 私たちが直接このチップを買えますか?
買えない見込みです。Gemini専用に作られているため、Googleの社内データセンターで使われるだけで、一般向けには売られないと見られています。
Q. TPUはもう古くなるのですか?
いいえ。Frozen v2はTPUを置き換えるものではありません。いろいろなAIに対応できるTPUは今後も主力として使われ、Frozen v2はその横に「追加」される形です。
Q. 「6〜10倍の効率」はどう測った数字ですか?
「1ワットの電力でどれだけ多くの文章(トークン)を処理できるか」で比べた見込み値です。開発に関わる社員たちの予測であり、まだ実機での正式な検証結果ではありません。
Q. なぜGoogleは電力にこだわるのですか?
AIを動かす一番の制約が、今や「電力」だからです。電気代を減らせれば、AIをより安く、より大規模に提供できます。それが競争力に直結します。
まとめ
Googleの新チップ「Frozen v2」のポイントを振り返ります。
- Geminiの設計図を半導体の回路に焼き込む、新しいタイプのAIチップです
- 最新TPUより電力あたり6〜10倍の効率を見込んでいます
- 登場は2028年ごろ。TPUを置き換えず、追加する形です
- Geminiの設計が変わると使えなくなる、という弱点があります
- 背景には、深刻化するAIの電力問題があります
- EtchedのSohuなど、似た「専用チップ」戦争が世界で始まっています
AIの進化は、もはや「頭の良さ」だけでなく「電力効率」で決まる時代に入りました。次にGeminiを使うとき、その裏で静かに進む半導体競争にも、少し目を向けてみてはいかがでしょうか。
参考文献
- Google’s Frozen v2 Chip Hardwires Gemini Architecture: Up to Tenfold Inference Efficiency(Tech Times)
- Google’s “Frozen v2” chip reportedly bakes Gemini’s architecture directly into silicon(The Decoder)
- Google reportedly developing ‘Frozen v2’ chip — 6 to 10 times more tokens per watt than latest TPUs(Tom’s Hardware)
- Transformer Chip Startup Etched Exits Stealth: $800M Raised, $1B in Contracts(Tech Times)
- Energy demand from AI(IEA / 国際エネルギー機関)

