Google医療AIが診断正解91%|ビデオ診察で医師超え

ビデオ通話で診察するAIと肩の可動域を見せる患者のイラスト

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Googleの医療AI「AMIE」が、映像と音声を使ったビデオ診察に対応しました
  • 100の症例シナリオで検証し、診断の正解率は91%。一次診療医の77%を上回りました
  • 患者に体を動かしてもらう「画面越しの身体診察」まで指示できました
  • 一方で眼振の検出は3%、ふるえは24%と、苦手分野もはっきりしています
  • 相手は俳優が演じる模擬患者。本物の患者での検証はこれからです

オンライン診療の画面越しに、AIから「ちょっと肩を回してみてください」と言われる日が来るかもしれません。Googleが2026年8月11日に公開した研究で、医療AI「AMIE」がビデオ通話で診察を行い、診断の正解率で医師を上回りました。何ができて、何がまだ危ういのかを整理します。

Googleの医療AI「AMIE」がビデオ診察に対応

AMIE(エイミー)は、Googleが研究として開発している医療対話AIです。正式名称は「Articulate Medical Intelligence Explorer」といいます。

これまでのAMIEは文字チャットだけで問診をするAIでした。2025年には、その成果がNature誌に掲載されています。

今回発表されたのは、そこから大きく踏み込んだ版です。リアルタイムのビデオ通話で、患者の姿を見ながら診察するようになりました。

土台になっているのは、GoogleのAIモデル「Gemini」と、リアルタイム映像処理の技術「Project Astra」です。論文は2026年8月10日にarXivで公開されました。

つまり、AIの問診が「文字のやりとり」から「顔を見ながらの会話」へ進んだということです。

100シナリオのOSCEで検証|診断正解率91%

検証はどう設計されたのか

今回使われたのはOSCE(オスキー)という方法です。医学教育で実際に使われている実技試験で、訓練を受けた俳優が患者役を演じます。

規模はかなり大きいものでした。

  • 臨床シナリオ:100件
  • 患者役の俳優:15人
  • 診察の総数:300回
  • 関わった医師:合計30人(うち10人が実際に診察、20人が独立した評価者)

扱った領域は5つです。心臓・肺、お腹、HEENT(頭・目・耳・鼻・のど)、神経と精神、そして筋肉と骨。

比べたのは3つのグループでした。AMIE(ビデオ版)、AMIE(テキストのみ)、そして人間の医師(ビデオ)です。評価する医師には、どれがAIでどれが人間かを伏せています。

診断正解率91%、医師は77%

結果は数字ではっきり出ました。

最有力の病名を一発で当てた率(トップ1正解率)は、AMIEが91%、医師が77%。候補3つ以内に正解が入っていた率は、AMIEが98%、医師が90%でした。

臨床評価表(ルーブリック)による総合点でも差がつきました。

  • 総合:AMIE 83% / 医師 68%
  • 臨床推論:AMIE 90% / 医師 76%
  • 問診:AMIE 86% / 医師 78%
  • 治療計画:AMIE 79% / 医師 67%
  • 観察・身体診察:AMIE 74% / 医師 47%

とくに差が大きかったのが、最後の「観察・身体診察」です。画面越しでは人間の医師が苦戦する部分で、AIが27ポイントも上回りました。

画面越しに「肩を回して」——遠隔の身体診察

この研究で目を引くのは、AMIEが患者に体を動かすよう指示していた点です。

実際に行われたのは、こんなやりとりでした。

肩の痛みを訴える患者役には、AMIEが「腕をゆっくり上げてみてください」と伝え、どこまで上がるかを映像で確認します。医師が診察室でやる可動域チェックを、カメラ越しに再現したかたちです。

お腹が痛いという相談では、AMIEが押す場所を指定し、自分でお腹を触ってもらいました。患者役が右下腹部を押して顔をしかめる——その反応をAIが映像から読み取ります。

爪を押して色が戻る速さを見る「毛細血管再充満時間」の確認も行われました。血のめぐりを調べる基本的な手技です。

ちなみに研究チームは、こうした遠隔で観察できる所見の分類表(タクソノミー)も新たに作っています。「カメラ越しに見えるか」「患者に動いてもらう必要があるか」「俳優が演じられるか」の3軸で整理したものです。

3つのAIが同時に働く「非同期マルチエージェント」

ここまで自然に会話できる理由は、その中身にあります。AMIEは1つのAIではなく、役割の違う3体のAIが同時に動く設計です。

  • Talker(トーカー):患者と話す担当。すぐ返事をするため、直近5秒の映像だけを見ます
  • Planner(プランナー):裏方。会話の間ずっと考え続け、病名の候補や治療方針を更新します
  • Perception(パーセプション):映像と音声から、言葉になっていない手がかりを拾います

なぜ分けるのでしょうか。1つのAIに「自然に会話しながら、深く推論して、映像も見続ける」を同時にやらせるのは、いまの技術では無理があるからです。

効果は待ち時間に表れました。順番に処理していた従来の方式では、返事までの平均が21.4秒。会話としては成立しない長さです。

これを3体の分業に組み替えた結果、2.6秒まで縮まりました。おおよそ8分の1です。

優秀な研修医が問診をしている横で、指導医が黙ってカルテを組み立て続けている。AMIEの構造はそれに近い分業になっています。

苦手もはっきり|眼振3%・ふるえ24%

ただし、いいことばかりではありません。研究チームはできなかったことも具体的な数字で公開しています。

  • 眼振(がんしん/目の細かい揺れ)の検出:わずか3%
  • 振戦(しんせん/手のふるえ)の検出:24%
  • 感情や気分が話の内容と合っているかの判断:29%
  • コミュニケーション・行動の観察:44%
  • 撮影環境やカメラ設定への対応:46%

共通しているのは、細かくて速い動き微妙な感情のニュアンスです。論文でも、この2つが今後の課題として名指しされています。

評価にあたった医師からは、こんな指摘も出ました。見えているはずの手がかりを見落とす。患者が指示どおりに動けていないのに直させない。そして、異常に気づいたのに次の行動につなげないケースがあった、というものです。

技術的なトラブルも時々起きたと報告されています。「正解率91%」という数字だけを見て安心するのは早い、ということです。

他の医療AIと何が違うのか

医療AIは各社が競っている分野です。AMIEビデオ版の位置づけを整理しておきます。

  • AMIE(テキスト版・2025年):159シナリオで検証し、専門医の評価32項目中30項目で医師を上回りました。ただし文字チャットのみで、姿は見えません
  • Microsoft MAI-DxO:症例の文章を読んで診断を組み立てるオーケストレーター型。会話や映像ではなく、書かれた情報が入口です
  • ユビーAI問診(日本):全国の医療機関に導入済み。月額3万円ほどから使え、来院前のWeb問診を効率化します。診断するのは医師です
  • 一般的なWeb問診システム:質問を出して答えを集めるところまで。推論や身体診察の指示はしません

違いは1点に集約されます。AMIEビデオ版だけが「リアルタイムで見て、動いてもらって、その場で判断する」まで踏み込んでいるのです。

ただし公平に言えば、ユビーは実際の医療現場で動いている製品で、AMIEは研究段階です。土俵が違います。

日本のオンライン診療にどう効くか

この話は日本にとって他人事ではありません。制度がちょうど動いているところだからです。

2026年4月から、オンライン診療は医療法にはっきり位置づけられました。都道府県への届出が必要になり、不適切な事例には立ち入り検査も入ります。

厚生労働省の資料によれば、実施件数は初診解禁後も年20〜30%のペースで増え続けています。

そのオンライン診療の最大の弱点が「触れないこと」でした。AMIEの「指示して、動いてもらって、見る」というやり方は、まさにその穴を埋めにいく方向です。

離島や山間部の診療所を想像してみてください。専門医がいない場所でも、患者に膝を曲げてもらいながら所見を集められれば、紹介すべきかどうかの判断材料が増えます。

もっと身近な例もあります。夜中に子どもが発疹を出したとき、翌朝まで待つべきか救急に行くべきか。映像を見て「この部分をもう少し明るいところで見せてください」と誘導できるAIは、その判断を助けるかもしれません。

とはいえ、日本で使えるようになるにはハードルがあります。日本語対応は未定で、医療機器プログラム(SaMD)としての薬事承認も必要です。

現実的な入口は、医師を置き換えることではないでしょう。医師の隣で記録を取り、見落としを指摘し、鑑別の候補を出す——そうした補助役から始まるはずです。

よくある質問(FAQ)

Q1. AMIEはいつから使えますか?

A. 現時点では研究段階で、一般公開の予定は発表されていません。Google自身が「実際の患者での研究が次の段階」と明言しています。

Q2. 医師の仕事はなくなりますか?

A. その心配は当面ありません。今回の相手は俳優が演じる模擬患者で、本物の患者ではないからです。診断の責任を誰が負うのかという問題も未解決のままです。

Q3. 日本語で使えますか?

A. 今回の検証は英語で行われました。日本語対応についての発表はありません。

Q4. 診断正解率91%という数字は信じていいのでしょうか?

A. 数字自体は正しい測定結果ですが、条件を見る必要があります。症例は俳優が演じられるものに限定されており、演技しにくい症状は最初から除かれています。実際の患者はもっと多様です。

Q5. 診察の映像はどう扱われるのですか?

A. 今回は研究用の管理された環境での実施です。実用化するなら、映像という極めて機微な医療情報をどう保護するかが大きな論点になります。

まとめ

  • Googleの医療AI「AMIE」が、ビデオ通話でのリアルタイム診察に対応しました
  • 100シナリオのOSCE検証で、診断正解率91%(医師77%)を記録しました
  • 観察・身体診察は74%対47%と、医師に大きく差をつけました
  • Talker・Planner・Perceptionの3体分業で、返答を21.4秒から2.6秒に短縮しています
  • 眼振3%、ふるえ24%など、細かい動きの検出は明確な弱点です
  • 模擬患者での検証であり、実際の患者での安全性はまだ示されていません
  • 2026年4月にオンライン診療が医療法に位置づけられた日本にも、直接関わるテーマです

まずは一次情報にあたるのがおすすめです。Google Researchの公式ブログと論文には、今回紹介しきれなかった評価項目の内訳も載っています。

参考文献