Suno判決が7月31日|欧州初のAI音楽判断

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • ドイツの音楽著作権団体GEMAとAI作曲サービスSunoの裁判で、2026年7月31日午前9時に判決が出る
  • 争点は「AIに曲を学習させるのに、権利者の許可はいるのか」というシンプルで重い一点
  • GEMAは「Forever Young」「Mambo No.5」など有名曲を証拠に、出力が原曲に似すぎていると主張
  • 前哨戦の対OpenAI裁判では、2025年11月にGEMAが勝訴している
  • 日本でも著作権法30条の4の見直し論議が進行中で、この判決は無関係ではない

スマホに歌詞を打ち込むだけで、3分後にはフルコーラスの曲ができあがる。そんな時代を支えるAIの土台が、たった1つの判決でひっくり返るかもしれません。2026年7月31日、ドイツのミュンヘンで欧州初の本格判断が下されます。

7月31日午前9時、ミュンヘンで何が決まるのか

舞台はドイツ・ミュンヘンの司法宮(Justizpalast)270号法廷です。

ミュンヘン地方裁判所の第42民事部が、2026年7月31日午前9時に判決を言い渡します。裁判長はシュヴァーガー判事です。

原告はGEMA(ゲーマ)。ドイツの作詞家・作曲家・音楽出版社の著作権をまとめて管理する団体で、日本のJASRACにあたる存在です。

GEMAが代表するのは、ドイツ国内の権利者だけで9万5000人以上。海外の提携団体を含めると200万人を超えます

被告は、アメリカのAI作曲サービス「Suno(スノ)」。テキストを入れるだけで歌入りの楽曲を自動生成できるサービスです。

争点はとてもシンプルです。AIに既存の楽曲を学習させるとき、権利者の許可と対価は必要なのか。この一点をめぐって、1年半にわたり争われてきました。

判決日は一度延期されている

もともと判決は2026年6月12日の予定でした。

ところが2026年5月26日、裁判所は「内部の事務的な事情」を理由に、判決日を7月31日へ延期すると発表しました。

口頭弁論そのものは2026年3月10日に終わっています。当時、裁判所は「3か月以内に判断する」と示していました。

結果として、審理終結から判決まで約5か月。それだけ慎重に検討されている案件だといえます。

GEMAの主張|有名曲がそのまま証拠になった

GEMAが提訴したのは2025年1月21日です。

訴えの中身は「SunoのAIが、許可も支払いもないまま保護された楽曲を学習し、しかもそれを再現している」というものでした。

証拠として名指しされたのは、世界的に有名な楽曲です。

  • Forever Young(アルファヴィル)
  • Mambo No.5(ルー・ベガ版で世界的ヒット)
  • Cheri Cheri Lady(モダン・トーキング)
  • Daddy Cool(ボニーM)

いずれもドイツ発、あるいはドイツで国民的に知られている曲ばかりです。

法廷で流された「聴き比べ」

2026年3月10日の口頭弁論は、傍聴席が埋まるほどの注目を集めました。

GEMA側の代理人が法廷でやったことは、驚くほど直球でした。原曲とSunoの生成曲を、その場で並べて聴かせたのです。

メロディー、ハーモニー、リズムの要素が原曲と一致している——GEMAはそう主張しました。

「学習しただけ」なら形に残りません。しかし出てきた音がそっくりなら、話は変わります。この聴覚に訴える立証が、裁判の空気を大きく動かしたと言われています。

GEMAが求めているのは「禁止」ではない

ここは誤解されやすいところです。

GEMAはAI作曲そのものを潰したいわけではありません。求めているのはライセンス(利用許諾)と、権利者への対価の支払いです。

実はGEMAは2025年1月の提訴より前、2024年9月27日の時点で「AI向けの音楽ライセンスモデル」を発表していました。

つまり「払う仕組みは用意した。使うなら払ってほしい」という順序です。裁判はその原則を法的に確定させるための手段、という位置づけになります。

Sunoの反論|「似ているだけ」は通用するのか

Suno側の主張は、大きく2つに整理できます。

ひとつは「生成されたのは複製ではなく、似た雰囲気の新しい曲だ」という反論です。

もうひとつは、既存の録音物での学習は変容的利用(元の作品とは別の目的・別の価値を生む使い方)にあたり、著作権の例外規定でカバーされるという主張です。

ただし、この防御にはやりにくい事情があります。Sunoの経営陣は過去に、学習データへ著作物が含まれていること自体は認める発言をしているためです。

「使っていない」ではなく「使ったが違法ではない」という戦い方になり、勝負は法解釈の一点に絞られました。

裁判官の交代を求めて、失敗した

審理の途中、Suno側は珍しい手を打っています。

シュヴァーガー判事の忌避(担当から外すよう求める申し立て)を出したのです。理由は、同判事が過去にOpenAIに不利な判断を下しており、公平性に疑いがあるというものでした。

この申し立ては却下されました。結果として、AI企業に一度厳しい判断を示した裁判官の前で、判決を迎えることになります。

前哨戦はOpenAI|2025年11月の「記憶」判決

今回の裁判を読むうえで外せないのが、GEMAが同じミュンヘンで戦った別の裁判です。

2025年11月11日、ミュンヘン地方裁判所IはGEMAの主張を認め、OpenAIの著作権侵害を認定しました。

問題になったのは、ドイツの国民的ヒット曲の歌詞でした。ヘレナ・フィッシャーの「Atemlos」、ヘルベルト・グレーネマイヤーの「Männer」、ラインハルト・マイの「Über den Wolken」などです。

チャットボットに聞くと、これらの歌詞をほぼ正確に返してきた。裁判所はここを重く見ました。

「モデルの中に作品が入っている」という認定

OpenAI側は「モデルは歌詞を保存していない」と反論しました。

しかし裁判所は、AI研究の知見として学習データがモデル内部に残り、出力として取り出せることは知られていると指摘します。

そのうえで、長い歌詞がほぼ再現できるのは偶然では説明がつかない、と判断しました。

命じられたのは、出力の差し止めだけではありません。モデル自体の中での複製をやめること、そして未払いの使用料を含む損害の賠償まで踏み込みました。

この論理がそのまま音楽の「音」に適用されるなら、Sunoにとっては厳しい展開になります。

Suno・Udio・レコード大手|業界の勢力図はこう動いた

裁判の一方で、産業の側では別の動きが進んでいました。訴訟ではなく、和解と提携です。

プレイヤー立ち位置直近の動き
SunoAI作曲の最大手2026年6月に4億ドル(約620億円)調達、評価額54億ドル(約8300億円)
UdioSunoの直接競合2025年10月にユニバーサルと和解、共同で新サービスを準備
ワーナー(WMG)レコード大手2025年11月にSuno・Udio双方と和解
ユニバーサル/ソニーレコード大手Sunoとは係争継続中
GEMA作詞作曲家側の権利団体和解せず判決へ

レコード大手3社がSunoとUdioを提訴したのは2024年6月でした。

ところが1年あまりで、ユニバーサルはUdioと、ワーナーはSuno・Udio双方と和解。訴訟相手が事業パートナーへ変わりました。

なぜGEMAだけ判決まで行くのか

ここに今回の裁判の本質があります。

レコード会社が持つのは主に「録音」の権利です。ビジネス上の折り合いがつけば、和解して新サービスを一緒に作るという選択ができます。

一方GEMAが守るのは、作詞家・作曲家という個人の権利です。曲を書いた人にお金が回る仕組みそのものが論点になります。

実際、アメリカではミュージシャン組合のAFMが「和解の恩恵が演奏家に届いていない」としてユニバーサルとワーナーを提訴しました。会社同士の握手が、現場の音楽家の納得と一致しないことを示す出来事です。

だからGEMAは、金額交渉ではなくルールの確定を選びました。

負けたときのダメージが大きい理由

ドイツの制度には、日本と違う特徴があります。

第一審の判決でも、控訴中に強制執行できる場合があるのです。

つまりSunoが敗訴すれば、上級審の結論を待たずに欧州でのサービス差し止めが現実になりうる。評価額8300億円規模の企業にとって、無視できない打撃です。

ちなみに世界では現在、AIをめぐる著作権訴訟が125件前後動いており、請求額の合計は500億ドル(約7兆7000億円)を超えると報じられています。

日本の音楽AIにどう跳ね返るか

「ドイツの話でしょ」と思うかもしれません。ところが日本にとっても、そう遠い話ではありません。

日本には著作権法30条の4という条文があります。2018年の改正で入ったもので、世界的に見てもAI学習に寛容な規定として知られています。

ざっくり言うと、「作品を楽しむためではなく、情報解析のために使うなら、許可なく学習させてよい」という内容です。

ただし例外があります。権利者の利益を不当に害する場合は認められません。この「不当に害する」の線引きが、今まさに議論の的になっています。

JASRACはすでに動いている

日本の音楽業界も静観していません。

JASRACは30条の4の改正に向けた取り組みを公式に掲げ、AI関連の音楽団体協議会やAI意見交換会を通じて働きかけを進めています

その主張は、GEMAとよく似ています。AIの発展そのものは否定しないが、前例のない規模の学習が「創造のサイクル」を壊しかねない、という立場です。

文化庁も2024年に「AIと著作権に関する考え方」をまとめ、人の創作的な関与がなければ生成物に著作権は生じないという整理を示しました。

ミュンヘンで「学習には許可がいる」という判断が出れば、この議論の温度は確実に上がります。

身近なところで何が変わるのか

もう少し生活に近い話をします。

たとえば同人音楽を作っている人が、Sunoで作った歌をイベントで頒布したとします。判決の内容によっては、サービス側が学習データを入れ替え、出せる音の傾向が変わる可能性があります。

YouTubeでBGMを自作している配信者も同じです。ライセンス料が価格に上乗せされれば、月額が上がるか、無料枠が縮むかのどちらかになります。

中小企業の担当者がCM用のジングルをAIで作るケースも考えられます。この場合に効いてくるのは、商用利用の可否です。判決後に規約が改定されれば、作った音源を使い続けられるかを確認し直す必要が出てきます。

ちなみに現在のSunoは、無料プランでは商用利用ができません。日本円で月1500円前後のProプラン以上に入り、その契約期間中に作った曲だけが商用利用可、という設計です(料金は変動するため公式サイトでの確認が必要です)。

よくある質問(FAQ)

Q1. 7月31日にSunoが使えなくなるのですか?

日本ですぐ使えなくなる可能性は低いと考えられます。今回の裁判はドイツ国内の訴訟であり、効力が及ぶ範囲も基本的にはドイツです。ただしSunoが敗訴した場合、欧州でのサービス提供に制限がかかる可能性が指摘されています。

Q2. これで判決は確定するのですか?

確定しません。ミュンヘン地方裁判所は第一審にあたり、どちらが負けても控訴する可能性が高いとみられています。ただしドイツでは第一審判決でも執行できる場合があるため、控訴中でも実務への影響が出うる点が特徴です。

Q3. 私がSunoで作った曲は違法になりますか?

今回争われているのは、ユーザーの行為ではなくSunoによる学習と生成です。とはいえ、生成された曲が既存曲に酷似していた場合、その曲を公開・販売する行為が問題になる余地は残ります。公開前に、聴いて明らかに似ていないかを確認する習慣が安全です。

Q4. 日本の著作権法もすぐ変わるのですか?

すぐには変わりません。ただしJASRACが30条の4の見直しを求めて動いており、議論は継続中です。海外で「学習に許可が必要」という判断が積み重なるほど、日本の議論にも影響が及ぶと考えられます。

Q5. なぜドイツの裁判がこれほど注目されるのですか?

欧州でAI音楽の学習に正面から判断を下す、最初の本格的な判決になるとみられているためです。EU域内では各国の裁判所が互いの判断を参照する傾向があり、1件目の結論が持つ重みが大きくなります。

まとめ

  • 2026年7月31日午前9時、ミュンヘン地方裁判所第42民事部がGEMA対Sunoの判決を言い渡す
  • 争点は「AI学習に権利者の許可と対価が必要か」。GEMAは禁止ではなくライセンス化を求めている
  • 証拠は「Forever Young」「Mambo No.5」など有名曲と生成曲の聴き比べ
  • 前哨戦の対OpenAI裁判では、2025年11月にGEMAが勝訴済み
  • ドイツでは第一審でも執行されうるため、敗訴なら欧州でのサービス差し止めもありうる
  • 日本では著作権法30条の4の見直し論議が進行中で、JASRACが改正を求めている

AI作曲を仕事や趣味で使っている人は、7月31日以降にSunoの利用規約と商用利用条件が変わっていないか、一度確認しておくと安心です。

参考文献