• 広告大手WPPが2026年末までにさらに最大1000人を削減すると報じられました
  • 2025年初からの累計削減は約1万1000人。6月末の従業員数は9万7388人です
  • 背景にあるのは「Elevate28」という再建計画と、AI基盤「WPP Open」への一本化です
  • Forresterは2030年までに米国の広告代理店で約3万2000人分の仕事が自動化されると予測しています
  • 日本でも電通が約3400人規模の削減を進めており、対岸の火事ではありません

「AIが仕事を奪う」という話は、これまで予測や不安として語られてきました。ところが広告業界では、それがすでに人数という実数で見えはじめています。世界最大級の広告グループWPPが、年内にさらに最大1000人を減らすと報じられました。何が起きているのかを追います。

WPPが年内にさらに最大1000人を削減

累計1万1000人減、従業員は9万7388人に

2026年9月1日、英広告大手のWPPが年内にさらに最大1000人を削減する見通しだと報じられました。

WPPはロンドンに本社を置く世界有数の広告グループです。オグルヴィやVMLといった有名な広告会社を傘下に持っています。

2025年初からの削減はすでに約1万1000人にのぼります。今回の1000人は、その上に積み増される数字です。

2026年6月30日時点の従業員数は9万7388人でした。かつて10万人を大きく超えていた組織が、1年半で1割以上縮んだことになります。

会社の業績も振るいません。2026年第1四半期の売上は前年比8.9%減、第2四半期は2.8%減と、減少幅は縮まったものの前年割れが続いています。

「Elevate28」という3段階の再建計画

この削減は思いつきで行われているわけではありません。Elevate28(エレベート28)と名付けられた再建計画の一部です。

旗を振るのは、2025年9月に就任したシンディ・ローズCEOです。マイクロソフト出身という経歴の持ち主で、テクノロジー側から広告会社に乗り込んできた人物といえます。

計画は3段階に分かれています。2026年に事業を安定させ、2027年に成長へ戻し、2028年から加速させるという道筋です。

コスト面の目標もはっきりしています。2028年までに年間5億ポンド(約1000億円)の削減を狙い、そのうち2026年分として1億ポンド(約200億円)を見込んでいます。

なぜ広告代理店でAIが人を減らせるのか

4つの事業体に束ね、AI基盤に一本化する

WPPは組織を4つの事業体に再編しています。WPP Media、WPP Creative、WPP Production、WPP Enterprise Solutionsの4つです。

とくに大きいのがWPP Creativeです。オグルヴィ、VML、AKQAという別々に動いてきた広告会社を、ひとつの傘の下に集めました。

そして全体をつなぐのが「WPP Open」というAIプラットフォームです。ローズCEOによれば、顧客企業のデータとWPPが持つ350のデータパートナーからの情報を結びつける仕組みです。

ばらばらの支社がそれぞれ抱えていた道具箱を、全社共通の一台の機械に置き換えたようなものです。同じ作業を各拠点で人手が繰り返す必要がなくなります。

消えるのは「作業」、残るのは「判断」

広告の仕事には、実は定型作業がたくさん含まれています。

たとえば、ひとつのキャンペーン用に用意するバナー広告を考えてみてください。同じデザインでサイズ違いが20種類、対応言語が8か国分、さらにSNSごとの縦横比が3種類。掛け合わせると数百点になります。

この「同じものを条件だけ変えて量産する」工程は、生成AIが最も得意とする領域です。かつて制作部門が数日かけていた作業が、いまは数時間で終わります。

一方で、そのキャンペーンで何を伝えるべきかを決める仕事は簡単には置き換わりません。減っているのは主に手を動かす工程のほうです。

数字で見るAI雇用代替の実像

広告業界の縮小は、WPP1社の問題ではありません。

調査会社Forresterは、2030年までに米国の広告代理店とその関連企業で約3万2000人分の仕事が自動化によって失われると予測しています。これは代理店の全雇用のおよそ7.5%にあたります。

そのうち約3分の1、およそ1万1000人分が生成AIによるものとされています。

なくなる仕事の内訳も出ています。事務・管理系が失われる職の34%、営業まわりが20%、市場調査まわりが19%を占めるという内訳です。

ここで注意したいのは、これが2023年時点の予測だという点です。ところが現実の削減ペースは、その予測を追い越しかねない速さで進んでいます。

実際、オムニコム・電通・WPPの3社だけで、直近18か月に少なくとも1万8000人分の職が失われたと報じられています。

他の広告大手はどう動いているか

競合の状況を並べると、これが業界全体の地殻変動だとわかります。

オムニコム(米国)は2025年11月にインターパブリック(IPG)の買収を完了しました。これにより売上高で世界最大の広告グループとなり、WPPは3位に後退しています。統合にあたって約4000人の削減を発表し、2024年末に両社合計で12万8000人だった従業員を約10万5000人まで減らす方針です。減少率にすると約18%になります。

電通(日本)も海外事業を中心に約3400人、国際部門のおよそ8%にあたる削減を2026年末までに進めています。6月末時点で約3000人分がすでに実施済みです。

ピュブリシス(フランス)は同業のなかでは比較的堅調とされ、AIを人員削減より提案力の強化に振り向けている点が対照的です。

共通するのは、AIを「コスト削減の道具」と位置づけた企業ほど、削減の数字が大きく出ているという構図です。

日本市場への影響

日本にとって、これは輸入品のニュースではありません。

電通は多額の損失計上とCEO交代を経て、構造改革の最中にあります。年間の営業コストを2027年度までに520億円削減する目標を掲げ、当初計画を上積みしました。同時に、データ・技術・AIへの投資は増やす方針です。

つまり「人を減らし、AIに寄せる」という流れは、すでに日本の広告最大手でも起きています。

影響は代理店の社員だけにとどまりません。日本の広告制作は、代理店の下に制作会社、その下にフリーランスのデザイナーやコピーライターが連なる多層構造で成り立っています。

ある制作会社が、これまで大手代理店からバナー広告の量産案件を月に200本受けていたとします。代理店側がWPP Openのような社内基盤で内製化すれば、その発注はまるごと消えます。減るのは代理店の1000人だけではないのです。

一方で、増えている仕事もあります。AIが出した大量の案から使えるものを選び、ブランドとして問題がないか確かめるチェックの工程です。日本では表現への目が厳しく、AI生成物の炎上リスクも意識されるため、この最終確認を担う人の価値はむしろ上がっています。

広告に関わる人は何をすればいいのか

では、この変化のなかで何が身を守るのでしょうか。

ある中堅代理店のデザイナーの働き方を想像してみてください。以前は指示書どおりにバナーを作る時間が1日の大半でした。いまはAIに30案を出させ、そこから3案に絞り、クライアントに理由を説明する時間のほうが長くなっています。作る人から選ぶ人へ、役割が移っているわけです。

広告を発注する企業側にも変化があります。ある地方メーカーの宣伝担当者は、これまで代理店に頼んでいたSNS用の画像制作を社内で内製化しました。浮いた予算を、商品開発の取材コンテンツに回しています。

整理すると、価値が残りやすいのは次の3つです。

  • 何を伝えるかを決める戦略の設計
  • クライアントとの信頼関係にもとづく交渉と提案
  • AIの出力を見極め、ブランドを守る最終判断

逆に、量産と定型処理だけを担ってきた立場は、置き換えの圧力を最も強く受けています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 今回の1000人削減は決定事項ですか?
報道ベースの見通しです。WPPは再建計画の一環として削減を進めていますが、最終的な人数は今後の業績によって変わる可能性があります。

Q2. 削減の原因はAIだけですか?
いいえ。売上の減少、クライアントの広告費削減、組織の重複解消といった要因が重なっています。AIはそのうち「同じ仕事をより少ない人数でできる」状態を作り出した要因です。

Q3. 日本の広告業界でも同じことが起きますか?
すでに始まっています。電通が国際部門を中心に約3400人の削減を進めており、AIへの投資は逆に増やす方針を示しています。

Q4. 広告業界を目指す学生はどう考えればいいですか?
制作作業のスキルだけでは差がつきにくくなっています。AIを使いこなす前提で、戦略立案や顧客との関係構築といった、判断が求められる領域を意識するとよいでしょう。

Q5. WPPは今後回復するのでしょうか?
会社は2027年の成長回帰を掲げています。2026年第2四半期の売上減少幅は2.8%まで縮まっており、下げ止まりの兆しは出ています。

まとめ

  • WPPが2026年末までにさらに最大1000人を削減する見通しと報じられました
  • 2025年初からの累計は約1万1000人。6月末の従業員数は9万7388人です
  • 背景はElevate28計画で、2028年までに年間5億ポンド(約1000億円)の削減を狙います
  • AI基盤「WPP Open」に一本化し、4つの事業体へ再編しています
  • Forresterは2030年までに米国代理店で約3万2000人分が自動化されると予測しています
  • オムニコムは約4000人、電通は約3400人の削減を進めており、業界全体の動きです

AIによる雇用の置き換えを、予測ではなく実数で確認できる数少ない事例です。自分の仕事のうち「量産している部分」と「判断している部分」を書き出して比べることから始めてみてください。

参考文献