17年放置のシステムを2日で刷新|常石造船のAI

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 常石造船が17年放置したレガシーシステムの刷新を「2年→2日」に短縮しました
  • カギは「AI駆動開発」。AIエージェントが現状分析からリファクタリングまでこなします
  • 担当したのは社内の20代IT担当者わずか2人。外注ではなく内製で実現しました
  • 支えたのはClaude Code・ScalarDB・Kong Konnectという3つの技術です
  • 背景には日本の「2025年の崖」問題。古いシステムが大きな経済損失を生む危機があります

「うちの会社の基幹システム、10年以上前のまま動いている」。そんな話を聞いたことはありませんか。日本では古いシステムが企業の足かせになっています。そんな中、常石造船が17年放置したシステムをたった2日で刷新しました。その秘密と、あなたの仕事への影響をやさしく解説します。

常石造船が成し遂げた「2年→2日」とは

2026年6月、ある事例が話題になりました。

広島県の常石造船が、古い社内システムの刷新に成功したのです。

対象になったのは、資材を調達するためのシステムでした。

このシステムは十数年(報道では17年)も手をつけられず放置されていました。

古すぎて、誰も気軽にさわれない状態だったのです。

こうしたシステムを「レガシーシステム(時代遅れになった古いシステム)」と呼びます。

従来のやり方なら、刷新には約2年、費用は2億円規模かかると見積もられていました。

ところが今回、現状分析とリファクタリング(中身の作り直し)はわずか2日で完了しました。

しかも、AIが実際に動いた時間は約4時間だったといいます。

2年かかるはずの仕事が、ほぼ1日分の労力で終わったのです。

そもそもAI駆動開発とは?従来との違い

今回のカギは「AI駆動開発」という新しい開発スタイルです。

これは、AIエージェント(自分で考えて作業を進めるAI)にプログラム開発の大部分を任せる方法です。

従来の開発を思い浮かべてみてください。

エンジニアが古いプログラムを1行ずつ読み解き、設計し直し、新しいコードを書いていました。

この「読み解く」作業がとても大変です。

17年前のコードは、作った人がすでに退職していることも多いからです。

AI駆動開発では、このつらい作業をAIが肩代わりします。

AIが古いコード全体をざっと読み、構造を理解し、新しい形に組み替える案を出してくれます。

常石造船の事例では、設計・実装・テストの工程が7割以上も削減されました。

人は最終チェックや方針決めに集中できる、というわけです。

17年モノをどう刷新した?3つの立役者

今回の刷新は、3つの技術の組み合わせで実現しました。順番に見ていきます。

1. Claude CodeをベースにしたAIエージェント

開発の主役は、AnthropicのAIコーディングツール「Claude Code」です。

これをベースに、データ管理企業のScalar(スカラー)が独自のAIエージェントを作りました。

このAIが、古いコードの分析と作り直しを担当しました。

2. システムを9つに分けて整理

古いシステムは「モノリス」と呼ばれる、すべてが1つに固まった構造でした。

大きな塊だと、一部を直すたびに全体に影響が出てしまいます。

そこで、システムを9つの業務領域(ドメイン)に分割しました。

これを「マイクロサービス化」といいます。

部品ごとに分かれていれば、AIも人も理解しやすくなります。

領域を分けることで、AIが事実と違う内容を作り出す「ハルシネーション(AIの思い込み)」も減らせます。

3. データの矛盾を防ぐScalarDBとKong Konnect

システムを分けると、新たな心配が生まれます。

領域をまたいでデータをやり取りするとき、食い違い(不整合)が起きやすいのです。

これを防ぐために「ScalarDB」という分散データ管理の仕組みを使いました。

さらに、分けたサービス同士の通信を整理・管理する基盤として「Kong Konnect」を採用しました。

AIが速く作り、土台がしっかり支える。この役割分担が成功のポイントでした。

なぜ20代2人で実現できた?内製化の意味

この事例で特に注目されたのが、担当した人の少なさです。

作業を担ったのは、常石造船の20代のIT担当者わずか2人でした。

外部のベンダーに丸投げするのではなく、社内の人が主役になったのです。

これを「内製化(社内で作ること)」といいます。

支援したScalarとKongの専門家が、3か月かけて伴走しました。

内製化には大きなメリットがあります。

システムの中身を社員が理解しているので、あとから直すのも簡単になります。

AIが面倒な作業を引き受けるからこそ、少人数の若手でも大きな成果を出せたのです。

背景にある日本の「2025年の崖」問題

なぜこの事例がこれほど注目されるのでしょうか。

背景には「2025年の崖」という日本特有の課題があります。

これは経済産業省が2018年のレポートで警告した問題です。

多くの企業が古い基幹システムを使い続け、改革が進まないという危機です。

大企業の基幹システムのうち、導入から21年以上たったものが約6割になるとされます。

システムを動かせる人材の不足は、約43万人に達すると予測されています。

もし対策をしなければ、2025年以降に最大で年12兆円もの経済損失が出るともいわれています。

実際に、レガシー刷新に課題を抱える企業は74%にのぼるという調査もあります。

常石造船の事例は、この崖を乗り越える具体的な手がかりとして期待されているのです。

従来手法・他のアプローチとの違い

古いシステムを新しくする方法は、今までもいくつかありました。それぞれと比べてみます。

1つ目は「大手ベンダーへの全面外注」です。

確実ですが、費用が高く、期間も長くかかります。社内に知識が残りにくいのも弱点です。

2つ目は「パッケージ製品への入れ替え」です。

既製品に業務を合わせる必要があり、独自のやり方を捨てる場面が出てきます。

3つ目が、今回の「AI駆動開発による内製」です。

AIが分析と実装の大半をこなすため、少人数・短期間・低コストで進められます。

しかも社内に知識が残ります。

もちろん、AIの出力をチェックできる人材は必要です。

とはいえ、スピードとコストの両面で、これまでの常識を大きく変える方法だといえます。

日本企業とあなたの仕事への影響

この話は、大企業だけのものではありません。

多くの中小企業も、古いシステムに悩んでいるからです。

たとえば、地方の製造業を想像してみてください。

20年前に作った在庫管理システムを、こわくて誰も直せないまま使い続けています。

担当していたベテラン社員はもう退職しました。

こうした会社こそ、AI駆動開発の恩恵を受けられる可能性があります。

また、IT担当者にとっても意味のあるニュースです。

「AIに仕事を奪われる」のではなく、「AIを使いこなす人が活躍する」流れがはっきりしてきました。

今回の主役が20代の若手だった点も心強いポイントです。

ScalarとKongは、この仕組みを国内外の製造業などに広げる計画を発表しています。

近いうちに、あなたの会社でも似た取り組みが始まるかもしれません。

よくある質問(FAQ)

Q1. AI駆動開発を使えば、エンジニアはいらなくなりますか?

いいえ。AIの出した案を確認し、方針を決める人は必要です。今回も2人のIT担当者が中心になりました。役割が「書く人」から「判断する人」に変わるイメージです。

Q2. なぜ古いシステムをそのまま使い続けるのは危険なのですか?

中身を理解できる人が減り、トラブル時に直せなくなるからです。セキュリティの弱点も放置されやすく、会社の事業が止まるリスクが高まります。

Q3. 中小企業でも同じことができますか?

規模は小さくても考え方は同じです。むしろ小さなシステムのほうがAIで扱いやすい面もあります。まずは一部の業務から試すのが現実的です。

Q4. Claude CodeやScalarDBは誰でも使えますか?

はい、いずれも一般に提供されている技術です。ただし本格導入には専門知識がいるため、今回のように支援企業と組むケースが多いです。

まとめ

今回のポイントを振り返ります。

  • 常石造船が17年放置のシステム刷新を「2年→2日」に短縮した
  • カギは、AIエージェントに開発を任せる「AI駆動開発」
  • Claude Code・ScalarDB・Kong Konnectの3技術が支えた
  • 担当は社内の20代2人。外注ではなく内製で実現した
  • 背景には日本の「2025年の崖」という深刻な課題がある

まずは自社の古いシステムが「いつ作られ、誰が管理しているか」を確認してみることから始めてみましょう。

参考文献

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