SpotifyがAI歌手を明示|9月から推薦除外

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Spotifyが「AIペルソナ」バッジを発表。実在しない人物のアーティストに印が付きます
  • バッジ付きの曲は、おすすめやプレイリストからデフォルトで除外されます
  • 自己申告は8月11日開始、リスナーに見えるのは9月中旬から
  • Deezerでは新規アップロードの5割超がAI生成。1日約9万曲という規模です
  • 日本でも同じ仕様。JASRACのAI楽曲ルールと合わせて理解すると全体像が見えます

お気に入りに登録したアーティストが、実は存在しない人だった。そんな経験をしたら、どう感じますか。Spotifyがついに、その「もやもや」に手を打ちました。AI生成のアーティストに専用バッジを付け、おすすめからも外すという発表です。何がどう変わるのか、順を追って見ていきます。

Spotifyの「AIペルソナ」バッジとは

Spotifyは2026年8月11日(日本時間8月12日)、新しいラベル「AI Persona(AIペルソナ)」を発表しました。

これは、アーティストの見た目や名前がAIで作られた架空の人物である、とリスナーに知らせる印です。

ポイントは、「曲の作り方」ではなく「人物像」に対する表示だという点です。

つまり、AIで作曲した人間のミュージシャンにはバッジは付きません。逆に、実在する人間のように見せかけたフォトリアリスティック(写真と見分けがつかないほど精巧な)AI画像をプロフィールに使っている場合が対象になります。

Spotifyは公式発表で、リスナーから「人間だと思っていたアーティストがAI生成だと知って不快だった」という声が明確に寄せられてきたと説明しています。

曲の制作過程については、別に用意された「AIクレジット」や「SongDNA」という機能で確認する形になります。役割がきれいに分かれているわけです。

バッジはどこに出る?付け方は2通り

表示される4つの場所

バッジは目立つ場所に出ます。

  • アーティストプロフィールのバナー(一番上の画像エリア)
  • 「アーティストについて」セクション
  • 検索結果の一覧
  • プレイリスト内の曲名の行

プレイリストを流し見しているときにも目に入る設計です。うっかり見逃す、ということは起こりにくいでしょう。

自己申告と、Spotifyの審査

バッジの付き方は2通りあります。

ひとつはアーティスト本人による自己申告です。管理ツール「Spotify for Artists」から、8月11日にはもう申告できるようになっています。

もうひとつはSpotify側の審査チームによる判定です。名前や画像がAI生成の人物に見えるプロフィールを、独自に調べて付けていきます。

Spotifyは「自己申告だけには頼らない」と明言しています。正直に申告する人だけが不利になる仕組みを避けたかったのでしょう。

リスナー側は、バッジをタップすれば「本人が申告したのか」「Spotifyが判定したのか」を見分けられます。

間違って付いたら異議申し立てできる

審査でバッジが付いた場合、アーティストには通知が届きます。

そのうえで、異議を申し立てる機会も用意されます。人間なのにAI判定されてしまった、という事故への備えです。

さらに数か月以内には、リスナーが「これAIっぽい」と報告できる機能も追加される予定です。

本当のインパクトは「おすすめから外れる」こと

バッジそのものより重いのが、この変更です。

Spotifyは「デフォルトでは、AIペルソナの楽曲をエディトリアルおよびアルゴリズムによるレコメンデーションに含めない」と発表しました。

エディトリアルとは、Spotifyの編集チームが手で作る公式プレイリストのこと。アルゴリズムは、聴取履歴から自動で選ばれる「Discover Weekly」などのおすすめ機能です。

この2つから外れると、新しいリスナーに出会う経路がほぼ断たれます。

音楽ストリーミングでは、再生数の多くがプレイリスト経由で生まれます。そこから除外されることは、事実上の「露出停止」に近いのです。

ただし完全な排除ではありません。リスナーが自分でフォローしたり保存したりしたAIペルソナは、そのユーザーのおすすめには引き続き登場します。

AI音楽が好きな人の楽しみは奪わない。でも、知らないうちに紛れ込むことは防ぐ。そういう線引きです。

なぜ今なのか?背景にある3つの数字

1か月で100万人を集めた「実在しないバンド」

2025年の夏、The Velvet Sundownというバンドが突然人気になりました。

結成からわずか数週間でアルバムを立て続けにリリース。ムード系プレイリストに次々と入り、月間リスナーは100万人を超えたと報じられています。

ところが、メンバーの写真がどうもAIっぽい。ネット上に活動の痕跡もない。そうした指摘が広がり、最終的に運営側は「人間の創作的ディレクションのもとでAIが作曲・歌唱・視覚表現を担った合成音楽プロジェクト」だと認めました。

多くのリスナーは、AIだと知らずに聴いていたことになります。この一件が、業界に「表示は必要だ」という空気を作りました。

アップロードの半分がAI、1日9万曲

規模の話をすると、もっと生々しくなります。

ライバルのDeezerは2026年4月、新規アップロード楽曲の44%がAI生成、1日およそ7万5000曲だと公表しました。

そして2026年7月には、その比率が5割を超えたと発表。1日あたり約9万曲という水準です。

Deezerは2025年6月に業界で初めてAI楽曲へのタグ付けを始めており、2025年だけで1340万曲以上を検出・タグ付けしたとしています。

Spotifyが1年で消した7500万曲

Spotify自身も手をこまねいていたわけではありません。

2025年9月、同社は過去1年で7500万曲以上のスパム楽曲を削除したと公表しています。

狙われていたのは、大量アップロード、メタデータだけ変えた重複曲、30秒をわずかに超える尺で再生回数を稼ぐ手口などです。

同時に、AI利用の表示について業界標準を作る取り組み(DDEX)への参加や、なりすまし・無断の声クローンの禁止も打ち出していました。今回のバッジは、その延長線上にある一手といえます。

他社と比べてどう違う?

AI音楽への向き合い方は、プラットフォームごとにけっこう違います。

  • Deezer:2025年6月から楽曲そのものにAIタグを表示。検出率の公表にも積極的で、この分野の先行者です
  • Apple Music:2026年3月に「透明性タグ」を導入。ジャケット・楽曲・作詞作曲・ミュージックビデオの4分野が対象ですが、申告は配信代行会社(ディストリビューター)側で行う仕組みで、リスナーの画面には見えにくいと指摘されています
  • YouTube Music:人間の手がほとんど入っていないAI音源を低価値と位置づけ、収益化の対象外や削除の対象にする方針です
  • TIDAL:2026年7月15日から、100%AI生成と判定した楽曲への印税支払いを取りやめると発表しました
  • Amazon Music:リスナー側でAI楽曲を除外する設定は、現時点では用意されていないとされています

並べてみると、Spotifyの立ち位置がはっきりします。

曲を消すのでも、お金を払わないのでもない。「表示する」と「おすすめしない」の2段構えです。

AI音楽を禁止せず、それでいて実在アーティストの取り分は守る。かなり計算された落としどころだと言えるでしょう。

日本のリスナーと音楽制作者への影響

この仕組みは日本のSpotifyにもそのまま適用されます。日本語の公式発表も同日に出ています。

通勤中にお気に入りのプレイリストを流している人を想像してみてください。9月中旬以降、そこに並ぶ曲名の横に、見慣れないバッジが現れるかもしれません。

逆に、これまでなんとなく再生していた「作業用BGM」系のプレイリストから、いくつかの曲が静かに消えることもあり得ます。おすすめ除外が効いてくるからです。

音楽を作る側にも関係します。国内のインディーアーティストが、ジャケットやプロフィール写真をAI画像生成ツールで用意するケースは珍しくありません。

ここで大事なのは、バッジの対象は「実在の人物に見せかけたAI人物像」だという点です。本人が実在していて、アー写だけAIで加工しているようなケースまで一律に対象になるわけではありません。

ただ、線引きが微妙な例は必ず出てきます。プロフィールを作るときは、実在の自分がきちんと伝わる情報を添えておくのが安全策になりそうです。

日本ではもうひとつ、著作権の論点もあります。JASRACは2026年6月、AI生成楽曲の管理方針を公表しました。

簡単な指示だけでAIが自動生成した楽曲・歌詞は著作物にあたらないため管理対象外。作詞か作曲の一方を人間が担った場合は、その人間の創作部分だけを管理するという内容です(詳しくはJASRAC新ルールの解説記事もどうぞ)。

「プラットフォームでの見せ方」はSpotify、「権利とお金の扱い」はJASRAC。2つのルールがそれぞれ動いている、と整理しておくとわかりやすくなります。

よくある質問(FAQ)

Q1. AIで作曲した曲は、すべてバッジが付きますか?

いいえ。バッジはアーティストの「人物像」が対象です。実在する人がAIツールを使って作曲した場合は対象外です。制作方法の情報は「AIクレジット」や「SongDNA」で示される仕組みになっています。

Q2. バッジが付くと、印税はもらえなくなりますか?

Spotifyは印税の停止までは発表していません。ただしTIDALは2026年7月15日から、100%AI生成と判定した楽曲への支払いをやめると公表しています。プラットフォームごとに扱いが異なる点に注意が必要です。

Q3. AIペルソナの曲を、これまで通り聴くことはできますか?

できます。検索して再生することも、フォローや保存もそのまま可能です。フォローしていれば、自分のおすすめにも表示され続けます。変わるのは「知らないうちに勧められる」経路だけです。

Q4. 人間なのにAI判定されたら、どうすればいいですか?

Spotifyから通知が届き、異議申し立ての機会が用意されます。審査による判定か自己申告かはリスナー側からも区別できるため、誤判定は指摘されやすい設計になっています。

Q5. いつから実際に見えるようになりますか?

アーティスト向けの自己申告は2026年8月11日から。リスナーの画面にバッジが出始めるのは9月中旬からで、段階的に展開される予定です。

まとめ

  • Spotifyが「AIペルソナ」バッジを発表。実在しないAI人物のアーティストに表示されます
  • 対象は「曲の作り方」ではなく「アーティストの人物像」です
  • バッジ付きは公式プレイリストとおすすめからデフォルトで除外されます
  • 自己申告は8月11日開始、リスナーへの表示は9月中旬から
  • 背景にはVelvet Sundown騒動、Deezerの「アップロードの5割超がAI」、Spotifyの7500万曲削除があります
  • 日本にも同じ仕様が適用。JASRACのAI楽曲ルールと合わせて押さえておきたいところです

9月中旬になったら、いつも聴いているプレイリストを一度スクロールしてみてください。あなたのお気に入りが誰の手によるものか、答え合わせができるはずです。

参考文献