自治体AIの常識が変わる!Polimillが「LGWAN接続料」を無料化で住民サービス向上へ

常識を打ち破る「無償化」の衝撃

2025年12月8日、日本の行政DX(デジタルトランスフォーメーション)に大きな一石を投じるニュースが飛び込んできました。行政用生成AIのトップランナーであるPolimill株式会社が、同社の提供する自治体向け生成AI『QommonsAI(コモンズAI)』について、LGWAN(総合行政ネットワーク)環境で利用する際の「LGWAN接続料」を無償で提供すると発表したのです 。

このニュースは、一見すると単なる企業のサービス拡充に見えるかもしれません。しかし、日本の自治体におけるAI導入の歴史と、その裏側にあるネットワークの複雑な事情を知る者にとっては、まさに「常識を打ち破る」衝撃的な発表です。なぜなら、これまで自治体がAIを導入する際には、その利用料とは別に、LGWANという特殊なネットワークに接続するための費用、すなわち「接続料」が大きな壁となっていたからです。

Polimill社は、この無償化によって、自治体がこれまで「接続のための費用」に充てていた大切な予算を、「住民のための価値創出」、つまり住民サービスや職員の能力向上といった「成果(アウトカム)」を生み出す領域へ再配分することを可能にすると提唱しています 。本記事では、この無償化が持つ真の意味と、日本の行政の未来にどのような影響を与えるのかを、詳しく解説していきます。

LGWANと「接続料」の壁:これまでの課題

LGWANとは何か?

まず、このニュースの鍵となる「LGWAN」について理解を深めましょう。LGWANとは「Local Government Wide Area Network」の略で、総合行政ネットワークと訳されます。これは、地方公共団体相互間を接続する、高度なセキュリティが確保された閉域ネットワークのことです 。

LGWANの主な目的は、地方自治体間での情報共有や、国・都道府県との連携を安全に行うことです。住民の個人情報や機密性の高い行政データを扱うため、インターネットとは切り離された、非常に厳格なセキュリティ基準のもとで運用されています。

AI導入を阻む「接続料」というコスト

自治体が生成AIのような新しいツールを導入する際、このLGWAN環境で利用できることが必須条件となります。しかし、LGWANに接続するためには、そのネットワークの維持・管理にかかる費用として、サービス提供者側(この場合はPolimill社)が「LGWAN接続料」を負担し、それが結果的に自治体の利用料に上乗せされる構造になっていました。

この「接続料」は、利用する回線やセグメントごとに積み上げられる「回線課金」という旧来のモデルに基づいており、AIの利用そのものの価値とは関係なく発生する、いわば「守りのための費用」でした。高性能なAIを導入しようにも、この接続料の負担がネックとなり、特に財政が厳しい自治体にとっては、AI導入の大きな障壁となっていたのです。

Polimill社の挑戦:「価値対価」モデルへの転換

QommonsAIの無償化が意味するもの

Polimill社が今回発表した無償化のポイントは、以下の通りです 1。

•対象: 自治体向け生成AI『QommonsAI』

•条件: LGWAN環境での利用

•内容: LGWAN接続料を無償で提供

•利用枠: 各自治体1,000人まで無料で利用可能(インターネット接続と同じ条件)

これにより、自治体はQommonsAIをLGWAN上で利用しても、接続料の負担なく、最大1,000人の職員が無料でAIを活用できるようになります。これは、自治体職員がAIに触れる機会を劇的に増やし、行政DXを一気に加速させる可能性を秘めています。

「回線課金」から「価値対価」へ

Polimill社は、この無償化の背景にある考え方を「回線課金」から「価値対価」への転換と表現しています 1。

これまでのモデルは、ネットワークという「インフラ」の利用に対して費用を支払う「回線課金」でした。しかし、新しいモデルは、「行政が手にする知能(AI)の価値」にだけお金を払うという、よりシンプルで透明性の高いものです。

これは、国が描く「公共OS×AI時代」のアーキテクチャを民間主導で先取りするものであり、「LGWANだから高くなる」という旧来の前提をリセットする、非常に戦略的な一手と言えるでしょう。

背景にある国の大きな方針転換:「三層分離」から「ゼロトラスト」へ

この無償化の動きは、日本の行政ネットワーク全体で進む、より大きな方針転換と深く結びついています。それが、「三層分離」の廃止と「ゼロトラスト」への移行です 。

三層分離の限界

2015年に発生した年金情報流出問題を受けて、自治体の情報システムは「三層分離」という強靭化モデルが導入されました 。これは、インターネット接続系、マイナンバー利用事務系、LGWAN接続系の三つのネットワークを物理的または論理的に分離し、セキュリティを確保する仕組みです。

しかし、この三層分離は、職員の利便性を著しく損ない、クラウドサービスの利用を困難にするなど、行政DXの大きな足かせとなっていました。

ゼロトラストへの移行

デジタル庁は、この課題を解決するため、2020年代後半を目途に三層分離を廃止し、「ゼロトラストアーキテクチャ」へと移行する方針を示しています 2 3。

ゼロトラスト(Zero Trust)とは、「何も信頼しない」という考え方に基づいたセキュリティモデルです。ネットワークの場所に関係なく、「誰が・何に・どうアクセスするか」を常に検証し、アクセスを制御します 。これにより、LGWANのような閉域網にこだわる必要がなくなり、インターネット経由で安全にクラウドサービスを利用できるようになります。

Polimill社の無償化は、まさにこのゼロトラスト時代を見据えた動きです。セキュリティの担保を「回線」ではなく「AIの価値」と「アクセス制御」に求めるという、新しい時代の行政DXの方向性を示しているのです。

自治体と住民へのメリット:予算を「守り」から「攻め」へ

今回の無償化が実現することで、自治体と住民にもたらされるメリットは計り知れません。

予算の再配分:住民サービスへの直接的な還元

最も大きなメリットは、これまでLGWAN接続料に充てられていた予算を、「成果(アウトカム)」を生み出す領域へ再配分できることです 。

項目旧来の「回線課金」モデル新しい「価値対価」モデル
AI利用AI利用料 + LGWAN接続料AI利用料(無料枠あり)
予算の使途接続のための「守り」の費用住民サービス向上のための「攻め」の費用

浮いた予算は、以下のような分野に活用されることが期待されます。

1.職員向けの生成AI活用研修: AIを使いこなせる職員を育成し、業務効率をさらに向上させる。

2.窓口・相談業務の質的向上: AIを活用したFAQシステムやチャットボットを導入し、住民の待ち時間を短縮し、より質の高い情報提供を行う。

3.EBPM(証拠に基づく政策立案)への投資: AIによるデータ分析を活用し、より科学的根拠に基づいた政策決定を行う。

これにより、自治体は単に業務を効率化するだけでなく、「住民のための価値創出」に予算をまっすぐ届けることができるようになります。

行政DXの加速と持続可能性

QommonsAIが1,000人まで無料で利用可能になることで、自治体職員は部署や役職を問わず、気軽にAIを試すことができます。これは、AI活用の裾野を広げ、組織全体でのDXを加速させます。

また、Polimill社が民間主導で新しい料金・アーキテクチャを実証的に踏み出すことは、2030年に向けて国が進めるガバメントクラウドやエリアデータ連携基盤といった新しいネットワーク像との整合性を高め、持続可能な行政DXの実現に貢献します。

まとめと展望:日本の行政の未来

Polimill株式会社によるLGWAN接続料の無償化は、単なる価格競争ではなく、日本の行政ネットワークの構造的な課題に切り込み、「行政が何に価値を見出し、どこに予算を投じるべきか」という本質的な問いを投げかけるものです。

この動きは、自治体がAIを導入する際のコスト障壁を大きく下げ、行政DXを加速させる起爆剤となるでしょう。そして、これまで「守り」に回っていた予算が「攻め」に転じることで、住民一人ひとりにとって、より迅速で質の高い行政サービスが実現される未来が、一歩近づいたと言えます。

日本の行政の未来は、技術革新と、それを受け入れる柔軟な制度設計にかかっています。今回のPolimill社の発表は、その明るい未来を予感させる、非常に重要なニュースと言えるでしょう。

参考文献

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000599.000088829.html

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