OpenAIに4.8億円|深夜ラジオで求人隠し

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • 米司法省がOpenAIと子会社に合計320万ドル(約4.8億円)の和解金を課しました
  • 求人を採用サイトに載せず、応募を郵送だけに限り、深夜のラジオで告知していたと認定されました
  • 問題になったのは「PERM」という、外国人に永住権を出すための米国の手続きです
  • 過去にはAppleが2500万ドル、Facebookが1425万ドルで同じ種類の和解をしています
  • 米国子会社を持つ日本企業や、米国就職を狙う日本人エンジニアにも関係する話です

「応募したいのに、求人が見つからない」。もしそれが意図的だったとしたら、どう感じますか。米司法省は2026年8月4日、OpenAIが米国人の求職者に求人を見つけさせない工夫をしていたと認定し、約4.8億円の和解で決着させました。何が問題だったのか、そして日本にいる私たちに何が関係するのかを整理します。

何が起きた?OpenAIが約4.8億円で和解

発表したのは米司法省(DOJ)の公民権局です。日付は2026年8月4日です。

対象になったのはOpenAI OpCo LLCと、その子会社であるStatsig Inc.の2社です。Statsigは2025年9月にOpenAIが約11億ドル(約1650億円)で買収した、機能テストを専門とする会社です。

和解金の総額は320万ドル(1ドル150円換算で約4.8億円)です。中身は2つに分かれます。

  • 民事罰120万ドル(約1.8億円) — 米国政府に支払う罰金
  • 未払い賃金基金200万ドル(約3億円) — 差別を受けた米国人求職者への補償に使う

違反とされたのは移民国籍法(INA)の差別禁止条項です。この法律は、国籍や在留資格を理由に採用で人を選り分けることを禁じています。

司法省公民権局のハーミート・ディロン次官補は「一時就労ビザの保持者を優先して米国人労働者を差別することは違法だ」と述べています。

ちなみに、対象となった求人は10件未満と報じられています。件数は決して多くありません。それでも罰金が動いたのは、手口が具体的だったからです。

「深夜ラジオ」「郵送のみ」3つの手口

司法省が問題視した行為は、大きく3つに整理できます。

1. 自社の採用サイトに載せない

OpenAIは、この手続きで埋めようとしていた求人を外部向けの採用ページに掲載しませんでした

いま転職活動をしている人を想像してみてください。気になる会社の採用ページを毎朝チェックするのは、ごく普通の行動です。

しかしそこに載っていなければ、応募のきっかけそのものが存在しません。

2. 応募は紙の郵送だけ

さらに、この求人への応募は紙の書類を郵送する方式に限定されていました。

他の求人では電子応募を受け付けていたと指摘されています。つまり社内には仕組みがあったのに、この求人だけ使わせなかったということです。

履歴書を印刷し、封筒に入れ、切手を貼って投函する。この一手間が入るだけで応募数は目に見えて落ちます。

3. 深夜のラジオで告知

そしてもう1つ、深夜のラジオ放送で求人を告知していたことも「応募を思いとどまらせる行為」として挙げられました。

ここが微妙なところです。ラジオ広告は、この米国の手続きで認められている告知手段の1つです。ルール違反の広告ではありません。

問題は流す時間帯でした。真夜中に読み上げられた求人情報を聞いている人は、ほとんどいません。形式上は「告知した」ことになりますが、実質的には誰にも届いていない状態です。

PERMとは?外国人採用に必要な手続き

今回の舞台になったのがPERM(永住労働証明)という制度です。聞き慣れない言葉なので、順に見ていきます。

PERMは、米国の会社が外国人社員にグリーンカード(永住権)を取らせるときの最初の関門です。米国労働省に対して、こう説明する手続きだと考えるとわかりやすいです。

「この職種で米国内から人を募集しました。しかし条件に合う人が見つかりませんでした。だからこの外国人を、定められた賃金以上で雇いたいのです」

雇用ベースの永住権は、①PERM申請 → ②I-140(移民申請) → ③永住権申請の3段階で進みます。PERMはその1段目にあたります。

審査は長く、申請から承認まで約496日かかるとされています。1年以上を待つ計算です。

そして重要なのが記録の話です。求人広告や掲載画面の印刷など、募集活動を証明する資料は5年間保存する義務があります。労働省の監査でいつ見られてもおかしくありません。

つまりこの制度は「米国人を本気で探したか」を前提に組まれています。求人を隠す行為は、その前提を崩してしまうわけです。

Apple37.5億円・Facebook21億円との比較

実は、同じ構図の和解は過去にもありました。金額を並べると見え方が変わります。

  • Facebook(2021年):総額1425万ドル(約21億円)。民事罰475万ドル+対象労働者への950万ドル
  • Apple(2023年):総額2500万ドル(約37.5億円)。民事罰675万ドル+未払い賃金基金1825万ドル
  • OpenAI(2026年):総額320万ドル(約4.8億円)。民事罰120万ドル+未払い賃金基金200万ドル

金額だけ見れば、OpenAIの320万ドルは3件で最も小さいです。対象求人が10件未満だったことが影響していると考えられます。

ただし別の見方もできます。今回の和解は、司法省が2025年に再始動させた「米国人労働者保護イニシアチブ」で結ばれた13件のうち最大とされています。現在進行中の取り締まりの中では、いちばん重い案件という位置づけです。

そしてもう1つ気になる点があります。Appleに指摘された手口は「採用サイトに載せない」「郵送応募のみ」で、今回のOpenAIとほぼ同じでした。3年前に前例が公表されていたにもかかわらず、同じパターンが繰り返された形です。

なお、和解は一般に違法性を認めた判決とは異なります。企業は争いを終わらせるために支払いと再発防止に同意する、という整理です。

なぜ今、取り締まりが強まっているのか

背景には、米国のビザ政策の急な引き締めがあります。

2025年9月、トランプ大統領は大統領令に署名しました。一部のH-1Bビザ(専門職の一時就労ビザ)申請に10万ドル(約1500万円)の手数料を課す内容です。

従来の基本申請料は780ドル程度でした。桁が2つ以上変わったことになります。

この手数料には司法の待ったがかかりました。2026年6月8日、マサチューセッツ州の連邦地裁は「違法な課税にあたる」として無効と判断しています。政権側は控訴する方針を示しており、決着はついていません。

H-1Bの承認枠は、Google、Meta、Amazonといった大手テック企業が大きな割合を占めてきました。つまりAI・IT業界は、この政策の直撃を受ける位置にいます。

OpenAIはこれまで、米国内に雇用を生み出す企業として自らを語ってきました。その主張と今回の認定内容のギャップが、米国メディアで厳しく指摘されています。

日本への影響:日系企業と日本人エンジニア

遠い国の話に見えますが、日本にも3つの接点があります。

米国子会社を持つ日本企業

米国で人を雇い、社員の永住権をサポートする日本企業は少なくありません。その場合、この手続きの当事者になります。

ある日本のメーカーが、シリコンバレーの子会社でインド出身のAIエンジニアを長期雇用したいと考えたとします。永住権を取らせるには、まず米国内で同じ職種の募集をかける必要があります。

このとき「形式だけ整えればいい」と考えると危険です。掲載場所、応募方法、告知の時間帯まで審査の対象になると、今回の件が示しました。記録は5年保存です。

米国就職を狙う日本人

米国で働きたい日本人エンジニアには、良い面と悪い面の両方があります。

悪い面は、企業がビザ支援に慎重になることです。手数料の高騰と当局の監視が重なれば、「外国人採用は面倒だ」と判断する会社が増えかねません。

良い面は、求人が公開されるようになることです。和解条件としてOpenAIは、この手続きの求人を公開の採用サイトに掲載し、電子応募を受け付けることを約束しました。隠れていた枠が表に出るなら、応募機会そのものは増えます。

日本国内の採用実務へのヒント

日本でも外国人材の採用は年々増えています。日本には日本の求人ルールがありますが、「国籍や在留資格で入口を分ける」設計はトラブルの種になりやすいという教訓は共通です。

たとえば同じ職種なのに、片方の応募者にだけ紙の書類を求める運用があるとします。悪意がなくても、後から見れば説明が難しい形になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. OpenAIは違法だと認めたのですか?

この種の和解は、企業が違法性を認めるかどうかとは切り離して結ばれるのが一般的だと言われています。今回OpenAIは金銭の支払いと、採用手続きの改善に同意しました。報道時点でOpenAIは取材にコメントしていません。

Q2. 320万ドルはOpenAIにとって大きい金額ですか?

財務面のインパクトは限定的とみられます。同社が2025年にStatsigを買収した金額は約11億ドルで、今回の和解金の300倍以上です。金額より、監視と報告義務が続く点が実務的な負担になります。

Q3. 未払い賃金基金の200万ドルは誰が受け取れますか?

対象は、差別的な募集によって応募機会を奪われた米国人求職者です。司法省が対象者を特定し、基金から補償される仕組みです。

Q4. 深夜のラジオ広告そのものが違法なのですか?

いいえ。ラジオ広告は認められた告知手段の1つです。問題とされたのは、応募を思いとどまらせる意図で使われたと判断された点です。手段ではなく使い方が争点でした。

Q5. 日本の会社も同じように調査される可能性はありますか?

あります。この法律は米国内での雇用に適用され、会社の本国は関係ありません。米国に拠点を持ち、永住権のサポートをしている企業はすべて対象になり得ます。

まとめ

  • 米司法省は2026年8月4日、OpenAIと子会社Statsigに総額320万ドル(約4.8億円)の和解を発表した
  • 内訳は民事罰120万ドルと、被害者補償のための未払い賃金基金200万ドル
  • 認定された手口は「採用サイトに載せない」「郵送応募のみ」「深夜のラジオ告知」の3つ
  • 舞台は永住権取得の第1段階であるPERM。審査は約496日、記録は5年保存が必要
  • 過去のFacebook(1425万ドル)やApple(2500万ドル)より金額は小さいが、現行の取り締まり13件では最大
  • 米国子会社を持つ日本企業と、米国就職を目指す日本人の双方に影響がある

米国で人を雇う予定がある企業の方は、求人の掲載場所と応募方法が「本当に誰でも応募できる形か」を一度確認してみてください。

参考文献