GoogleがGemini「AIマーク」非表示設定を追加 EU規制と真逆の選択

GoogleがGemini・FlowでAI生成コンテンツの目に見えるウォーターマークを非表示にできる設定を追加。EU AI法の透明性義務とユーザーの自由度のバランスを取る。

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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この記事でわかること

  • GoogleがGemini・Flowで生成したコンテンツの「目に見えるウォーターマーク」を非表示にできる設定を追加
  • EU AI法が透明性義務を強化する中、ユーザーの自由度を優先する判断の背景
  • Anthropicが「見えない透かし」を義務化した3日後の発表という絶妙なタイミング
  • 日本のユーザーが実際に設定できることと、できないこと

Googleが追加した「AIマークを消す」設定とは

2026年8月14日、GoogleのVP Josh Woodward氏が、Gemini(ジェミニ、Googleの生成AI)とFlow(フロウ、AI映像制作ツール)で生成される画像・動画・楽曲に付く小さなスパークアイコンを非表示にできる設定を追加すると発表しました。

このスパークアイコンは「これはAIが作りました」と示す目印で、これまでは自動的に表示されていました。つまり、AIで作った画像を友達に見せるとき、必ず「AIマーク」が付いていたわけです。

新しい設定は、gemini.google.com(ジェミニのウェブ版)またはモバイルアプリの設定画面から「Media Watermark」という項目を探し、「Show watermark」をオフにするだけです。

この設定をオフにすると、その後に生成するすべてのコンテンツ(画像、動画、音楽)から目に見えるマークが消えます。ただし、法律でAIマークの表示が義務付けられている国では引き続き表示されます。

見えないマークは残る SynthIDとC2PAの役割

ここで重要なのは、「目に見えるマーク」を消せるだけであって、「AI生成の証拠」まで消えるわけではない点です。

Googleは「SynthID(シンセID)」という不可視の透かし技術と、「C2PA」というメタデータ(ファイルに埋め込まれた情報)の標準規格を使って、すべてのコンテンツに「これはAIが作った」という記録を残し続けます。

つまり、見た目にはAIマークが消えても、専用のツールで調べれば「このファイルはGeminiで生成されました」とわかる仕組みが残るのです。たとえば、写真を投稿するSNSが「このアカウントはAI画像ばかり投稿している」と検出することは技術的に可能です。

なぜ今このタイミング? EU AI法とAnthropicの対照的な動き

この発表のタイミングが絶妙です。というのも、2026年8月2日にEU(ヨーロッパ連合)でAI法の透明性義務が施行されたばかりだからです。

EU AI法の第50条では、AI生成コンテンツに「機械が読み取れる形式でマークを付ける」ことが義務化されました。つまり、ヨーロッパでAIサービスを提供する企業は、画像や動画に「これはAIです」とわかる印を付けなければならないのです。

さらに興味深いのが、Anthropic(アンソロピック、ClaudeというAIを開発する企業)の動きです。Anthropicは8月11日、つまりGoogleの発表の3日前に、Claudeで生成したテキストとファイルに「見えない透かし」を埋め込むと発表しました。

AnthropicはEU AI法に対応するため、透明性を最優先にしてグローバル(日本を含む)に不可視マークを義務化する道を選びました。一方、Googleはユーザーに「見えるマークを消す自由」を与える選択をしたわけです。

この2つの企業のアプローチは真逆に見えますが、実はどちらも「見えないマークは残す」という点では一致しています。違うのは、ユーザーに見せるかどうかの選択肢を与えるか否か、という設計思想です。

ユーザーからの強い要望が後押し

Josh Woodward氏によれば、この機能追加は「7月にまとめたユーザーフィードバックの上位10項目のうち6位」だったそうです。

なぜユーザーはマークを消したいのでしょうか? 考えられる理由はいくつかあります。

  • プレゼン資料や広告素材として使うとき、AIマークが邪魔に感じる
  • 個人のSNS投稿で「AI生成です」と強調したくない場面がある
  • クリエイティブな表現として、完成品に余計な印を付けたくない

つまり、AIを道具として使うとき、最終成果物に「これは道具で作りました」という札を付けるかどうかは、作り手が決めたいという要望です。

Googleはこの要望を受けて、「安全性(SynthIDとC2PAで検証可能にする)」と「自由度(見た目はユーザーが決める)」のバランスを取る設計を選んだと言えます。

日本のユーザーへの影響 実際に何ができるのか

日本では現時点でAI生成コンテンツへのウォーターマーク表示を法律で義務付ける規制はありません。したがって、日本のGeminiユーザーは今回の設定を自由に使えます。

具体的には、以下のようなことが可能になります。

  • Geminiで作った画像をブログのアイキャッチに使うとき、スパークアイコンを消してすっきりした見た目にできる
  • Flowで作った動画を仕事のプレゼンで使うとき、AIマークを非表示にしてプロフェッショナルな印象を保てる
  • Lyriaで作った楽曲を配信するとき、目に見えるマークなしで公開できる

ただし、SynthIDとC2PAは常に埋め込まれるため、ファイルを受け取った側が検証ツールを使えば「これはGeminiで生成された」と判別できます。

また、将来的に日本でもAI生成コンテンツの表示義務が法制化される可能性はゼロではありません。その場合は、設定がオフでも自動的にマークが表示される仕組みがすでに用意されています。

AI生成コンテンツの透明性を巡る業界の今後

今回のGoogleの判断は、AI業界が「透明性」と「ユーザー体験」のバランスをどう取るかという大きなテーマを浮き彫りにしました。

EU AI法のような規制は、偽情報の拡散やディープフェイク(本物そっくりの偽動画)による被害を防ぐために重要です。一方で、クリエイターや企業がAIを道具として自由に使いたいというニーズも現実にあります。

OpenAI(オープンエーアイ、ChatGPTを開発)、Adobe(アドビ、画像編集ソフトで有名)、Meta(メタ、FacebookやInstagramの運営企業)なども、C2PA規格を採用してメタデータによる透明性を確保しつつ、ユーザー向けの表示をどう設計するか試行錯誤しています。

今後は「不可視マークは義務、可視マークは選択」という方向性が業界標準になる可能性があります。つまり、見た目の自由度は保ちつつ、技術的には常に検証可能にするというバランスです。

また、SNSプラットフォーム側が「AI生成コンテンツには自動でラベルを付ける」機能を実装し始めれば、個々のAIサービスがマークを表示するかどうかは相対的に重要性が下がるかもしれません。

まとめ

  • Googleは2026年8月14日、Gemini・Flowの目に見えるAIマークを非表示にできる設定を追加した
  • 不可視の透かし(SynthID)とメタデータ(C2PA)は常に埋め込まれ、検証は可能
  • EU AI法の透明性義務強化と同時期に、ユーザーの自由度を優先する判断を下した
  • Anthropicが「見えない透かし義務化」を発表した3日後という絶妙なタイミング
  • 日本のユーザーは現時点で自由に設定を切り替えられるが、将来の法規制次第で変わる可能性がある
  • 業界全体で「技術的検証は義務、見た目の表示は選択」というバランスが標準になる流れ