文字起こしAIが「えーと」を自動削除|Gemini新モデル

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Googleが2026年8月26日、新しい音声認識AI「Gemini 3.5 Transcribe」を発表
  • 「えーと」「あのー」などのつなぎ言葉を自動で削除し、言い直しも整えてくれる
  • 単語の誤り率は非ストリーミングで2.6%、処理時間は前モデル比70%短縮
  • 85以上の言語を自動判別。録音音声は1分あたり約0.005ドル(1時間およそ45円)
  • Pixel 11のGboardではすでに日本語で使えて、国内の議事録ツールにも影響しそう

会議の録音を文字起こししたら、「えーと」「あのー」だらけで読めなかった経験はありませんか。Googleの新しい音声認識AIは、その言い淀みを自動で消してくれます。85言語対応で、1時間の音声がおよそ45円。何がどう変わるのかを整理します。

Gemini 3.5 Transcribeとは?「えーと」まで消す新しい文字起こしAI

2026年8月26日に発表された最新の音声認識モデル

Googleは2026年8月26日、新しい音声認識AI「Gemini 3.5 Transcribe」を発表しました。

音声認識AIとは、人の話し声を文字に変換する技術のことです。会議の議事録づくりや、動画の字幕づくりに使われています。

今回のモデルは、Googleがこれまで出してきた中でもっとも精度が高い文字起こしAIだと説明されています。

前のモデルは「Chirp 3」という名前でした。周りの雑音や専門用語、そして言い淀みが苦手だったと言われています。

Gemini 3.5 Transcribeは、その弱点を正面から潰しにきたモデルです。

スマート文字起こしの4つの機能

目玉は「スマート文字起こし」と呼ばれる機能です。公式ドキュメントでは4つの働きが挙げられています。

  • 言い淀みの除去:「えーと」「あのー」といったつなぎ言葉を自動で削除する
  • 言い直しの反映:話の途中の訂正を汲み取り、正しいほうだけを残す
  • 自動の書式づけ:段落や箇条書きなど、読みやすい形に整える
  • 文法の整理:話し言葉のままだと崩れてしまう部分をきれいにする

いちばんわかりやすいのは、言い直しの扱いです。

「火曜日に会いましょう、あー、いや水曜日で」と話したとします。出てくる文字は「水曜日に会いましょう」になります。

録音をそのまま文字にするのではなく、話し手が結局何を言いたかったのかを汲んで書く。ここが従来の文字起こしとの大きな違いです。

WER 2.6%・処理時間70%短縮はどれくらいすごいのか

次は精度の話です。

音声認識の世界では「WER(単語誤り率)」という指標を使います。100語しゃべったうち何語を間違えたかを示す数字で、小さいほど優秀です。

第三者機関Artificial Analysisの計測では、Gemini 3.5 TranscribeのWERは非ストリーミングで2.6%、ストリーミングで4.0%でした。

非ストリーミングは、録音済みの音声をまとめて処理する方式です。ストリーミングは、話しながらリアルタイムに変換していく方式を指します。

2.6%は、100語のうち間違いが3語以下という水準です。急いで書き取る人間より正確な場面も多いでしょう。

速度も伸びました。同じ計測で文字起こしにかかる時間は前モデル比70%短縮されています。

1時間の会議録音を処理するのに10分かかっていたなら、3分で終わる計算です。待ち時間が減ると、会議直後に議事録を確認する運用も現実味を帯びてきます。

リアルタイム側の遅延は1秒未満とされています。相手が話し終わるより先に文字が出てくる速さです。

開発者向けの2つのAPIと料金 — 1時間およそ45円

開発者向けには、用途に応じて2つの入り口が用意されています。

  • Live API(gemini-3.5-transcribe-live):リアルタイムの双方向ストリーミング用。遅延は1秒未満
  • Interactions API(gemini-3.5-transcribe):録音済みファイル用。話者の区別や単語ごとの時刻を付けられる

話者の区別(ダイアライゼーション)は最大8人まで対応します。ただし公式ドキュメントには、3人以上の割り当ては実験的な段階だという注意書きがあります。

専門用語に弱いという昔からの問題にも対策が入りました。カスタム語彙として最大1,000語を登録できる仕組みです。社名や製品名、業界用語を先に教えておけます。

もっとも公式は「100語程度までがもっとも良い結果になりやすい」と書いています。詰め込みすぎは逆効果のようです。

気になる料金です。録音済み音声の処理は1分あたりおよそ0.005ドル。1時間で0.30ドル、日本円にすると1時間およそ45円です(1ドル150円換算)。

リアルタイム側は1分あたり約0.009ドルと、ほぼ倍の設定になっています。

制限もあります。標準のリクエストで扱える音声は最大1時間まで。話者の区別や単語単位のタイムスタンプを使う場合は30分までです。

さらに、スマート文字起こしはタイムスタンプや話者分離と同時には使えません。「きれいに整える」ことと「誰がいつ何を言ったかを正確に残す」ことは、いまのところ両立しない設計です。

こんな場面で効く:3つの活用シーン

週次会議の議事録を書く総務担当者

ある会社の総務担当者は、毎週の定例会議のあと1時間半かけて議事録を作っていました。

録音を再生しては止め、聞き取れない部分を巻き戻す。出てきたテキストから「えーと」を1つずつ手で消していく作業が、地味に時間を食っていました。

言い淀みが最初から入らないなら、この手作業は丸ごと消えます。残るのは事実確認と要約だけです。

取材音源を抱えるライター

60分のインタビューを文字にすると、だいたい2万字前後になります。

ここに言い直しや相づちが混ざると、原稿にする前の下読みだけで疲れてしまいます。

話者を分けたまま整った文章で出てくれば、引用したい部分をすぐ探せます。1時間の音源が45円で片づくなら、すべての取材を文字起こしする判断もしやすくなります。

通話内容を記録するコールセンター

電話応対の内容を記録に残す現場では、リアルタイム性が求められます。

遅延1秒未満のLive APIなら、通話しながら画面に文字が流れます。オペレーターが手でメモを取る必要は減ります。

ただし注意も要ります。応対記録では「誰がいつ言ったか」が重要になる場面が多く、その場合はスマート文字起こしを切る判断が必要です。

Whisper・ElevenLabs Scribeとの比較で見える立ち位置

文字起こしAIの選択肢は、ここ数年で一気に増えました。主要どころを並べてみます。

  • OpenAI Whisper:無料で使えるオープンモデル。読み上げのようなきれいな音声では今も競争力があるが、新しい基盤モデルに追い抜かれつつある
  • ElevenLabs Scribe v2:日本語の精度で高い評価を得ているモデル。WERは2%台前半と報告され、価格も安い
  • Google Chirp 3:Gemini 3.5 Transcribeの前モデル。雑音や専門用語、言い淀みが苦手だった
  • Gemini 3.5 Transcribe:WER 2.6%。整形まで一気に済ませる点が特徴

数字だけ見ると、ElevenLabs Scribe v2が肉薄しています。純粋な聞き取り精度では、まだ横並びに近い争いです。

ではGeminiの強みはどこにあるのでしょうか。「聞き取った後」の処理まで含めて1本で済む点です。

これまでは、文字起こしAIで書き起こしたテキストを、別の生成AIに渡して整形や要約をさせる流れが一般的でした。2段構えです。

Gemini 3.5 Transcribeは、その2段目の一部をモデルの内部で終わらせます。工程が1つ減るぶん、開発の手間も待ち時間も減ります。

もう1つはGoogle製品への組み込みです。API単体の勝負ではなく、Androidや検索といった入り口ごと押さえに来ている点が他社と違います。

日本市場への影響:Pixel 11のGboardと国内議事録ツール

日本のユーザーにとって、いちばん近い接点はスマートフォンです。

Pixel 11シリーズのGboardには、すでにGemini 3.5 Transcribeが入っています。「Rambler」という新機能で、日本語にも対応済みです。

思いついたことを話し続けるだけで、整った文章が入力される。メールやメモを声で書く体験そのものが変わります。

展開先はGboardだけではありません。Search Live、Gemini Live、Geminiアプリへ段階的に広がっています。macOS版のGeminiアプリは英語から対応が始まり、Google Chromeへの搭載も近日予定とされています。

開発者側は、Google AI StudioとGoogle Antigravityでパブリックプレビュー(試用公開)が始まりました。

気になるのは、国内の議事録ツールへの影響です。

日本にはNotta、Rimo Voice、AmiVoiceといったサービスがあります。Rimo Voiceは日本語特化で1時間の音声を5分ほどで処理し、料金は月3万円台から。AmiVoiceは国内シェア上位で、セキュリティ認証の実績を積み上げてきました。

1時間45円のAPIが出てきたことで、「文字起こしそのもの」で差をつけるのは難しくなります。

一方で、企業が本当に見るのはそこだけではありません。データを国内で保管できるか、機密会議に耐えるか、既存の社内システムとつながるか。勝負どころは精度から運用条件へ移っていく可能性が高いでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 日本語の精度はどれくらいですか?

公表されているWER 2.6%は多言語をならした平均値です。2026年8月時点で、日本語だけの数値は公開されていません。Google AI Studioで自分の音声を試して確かめるのが確実です。

Q2. 無料で使えますか?

Pixel 11のGboardやGeminiアプリでの利用は、端末やアプリの機能として使えます。APIで自分のサービスに組み込む場合は、1分あたり約0.005ドルからの従量課金(使った分だけ払う方式)です。

Q3. 「えーと」を消さず、話した通りに残せますか?

できます。スマート文字起こしは切り替え式の機能です。研究用の書き起こしなど、発話をそのまま残したい用途では、この機能を使わない選択になります。

Q4. 何人までの会話を聞き分けられますか?

最大8人までです。ただし3人以上の話者の割り当ては実験的な扱いだと公式が明記しています。人数が増えるほど精度は落ちると考えておくのが安全です。

Q5. 長い録音はそのまま投げられますか?

標準のリクエストで最大1時間までです。話者分離や単語単位のタイムスタンプを使う場合は30分が上限になります。長い音源は分割して処理する必要があります。

まとめ

  • Googleが2026年8月26日に音声認識AI「Gemini 3.5 Transcribe」を発表した
  • 「えーと」の削除、言い直しの整理、自動書式づけまでモデル内部で行う
  • WERは非ストリーミング2.6%、ストリーミング4.0%。処理時間は前モデル比70%短縮
  • 料金は録音音声で1分あたり約0.005ドル、1時間およそ45円
  • 85以上の言語に自動対応し、Pixel 11のGboardでは日本語がすでに使える
  • スマート文字起こしと話者分離・タイムスタンプは併用できない

まずはGoogle AI Studioで手元の会議録音を1本流してみて、いま使っているツールと出力を見比べてみてください。

参考文献