ロビンフッド創業者の宇宙DC|Cowboy Space $275M調達

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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  • Cowboy Spaceが2026年5月8日に2億7,500万ドル調達
  • 評価額は20億ドルでIndex Venturesが主導
  • CEOはRobinhood共同創業者のBaiju Bhatt
  • ロケット第2段に800基のGPU・1MW級データセンターを統合
  • 初ロケット打ち上げは2028年末までの予定

「AIの電力が足りないから宇宙にデータセンターを建てる」――そんなSFみたいな話が、本気で動き始めています。2026年5月、Robinhoodを生んだ起業家Baiju Bhattの新会社Cowboy Spaceが275億円規模の資金調達を発表しました。ロケット第2段に丸ごとデータセンターを組み込むという発想は何が新しいのか、SpaceXやBlue Originの動きとどう違うのか、日本企業はどう関わるのか。本記事でやさしく整理します。

何が起きたか|Cowboy Spaceの$275M調達の中身

Robinhood創業者が立ち上げた宇宙ベンチャー

2026年5月8日、米国ベイエリア発のスタートアップCowboy Space CorporationがシリーズBで2億7,500万ドル(約430億円)の調達を発表しました。

同社はもともと「Aetherflux」という社名で2024年に設立されました。当初は宇宙太陽光発電を計画していたのですが、軌道上データセンターへ事業をピボット。今回のリブランドと同時に大型調達を発表したかたちです。

CEOはBaiju Bhatt(バイジュ・バット)。証券アプリRobinhoodを共同創業した著名起業家で、個人投資家にも知名度の高い人物です。

ポストマネー評価額は20億ドル(約3,100億円)。シードから2年でユニコーン企業の仲間入りを果たした計算になります。

主要投資家とラインナップ

主導投資家はIndex Ventures。新規参加にはIVP、Blossom Capital、SAICが名を連ねます。

既存投資家も豪華です。Breakthrough Energy Ventures(ビル・ゲイツ系のエネルギー特化ファンド)、Construct Capital、Andreessen Horowitz(a16z)、NEA、Interlagos、そしてBhatt自身。

気候テック、ディープテック、宇宙、AI――それぞれ強みの異なるファンドが揃っており、「宇宙でAIインフラを作る」というテーマがいかに横断的な投資対象とみなされているかがよく分かります。

人材は元SpaceX・元Blue Originから採用

採用面でも注目されているのが、旧来の宇宙ベンチャー大手から人材を引き抜いていることです。

  • Warren Lamont氏:元Blue Originの推進エンジニア
  • Tyler Grinnell氏:元SpaceXの打ち上げディレクター

つまりロケットを本当に飛ばす力を持った人材が中核に揃っているということです。スタートアップでありながら、業界の実務経験者を集めて本気で打ち上げを目指す布陣になっています。

なぜ宇宙か|「地上が追いつかない」AI計算需要の現実

電力と冷却が限界に達しつつある

そもそも、なぜAIのためにわざわざ宇宙までデータセンターを運ぶのでしょうか。

答えは地上が物理的に限界に近づいているからです。生成AIブームで、ハイパースケーラーが必要とする電力は従来の常識を覆す規模に膨らんでいます。

米国では新規データセンターの送電網接続に数年単位の順番待ちが発生しています。日本でもNTTが国内データセンターのIT電力容量を2033年度に3倍超(約1GW)へ拡張する計画を打ち出しましたが、それでも需要に追いつくか不透明です。

宇宙なら「太陽光が無限に近い」

これに対し、宇宙空間――特に低軌道(LEO)には大きな利点があります。

  • 太陽光がほぼ常時得られる:地上のような夜や曇りの影響を受けにくい
  • 冷却が容易:真空中で熱を宇宙空間に放熱できる
  • 用地取得・電力契約が不要:地上自治体や送電事業者との交渉が要らない

もちろん打ち上げコスト、放射線対策、メンテナンス困難など独自の課題もあります。それでも「電力と冷却がボトルネック」という地上の根本問題から逃れられるのは大きな魅力です。

Bhatt氏の言葉「ロケットが足りない」

Bhatt氏は調達発表で印象的な発言をしています。「複数の打ち上げ事業者と交渉したが、軌道データセンター事業をスケールさせるのに十分な打ち上げ能力がどこにもなかった」

つまり「宇宙にデータセンターを置こうとしても、運ぶ手段が不足している」という、もう一段深いボトルネックを彼は見抜いたわけです。

だからこそ、衛星だけでなくロケットそのものを自社で作る決断に至りました。「足りないなら自分で作る」――シリコンバレー流の発想がここでも貫かれています。

技術解説|ロケット第2段にデータセンターを組み込む発想

衛星=ロケットの上段という大胆な設計

Cowboy Spaceの最大の特徴は、ロケットの第2段(上段)をそのままデータセンター衛星にしてしまうという発想です。

通常のロケットでは、第2段は衛星を軌道に運ぶための「乗り物」にすぎず、役目を終えればデブリ(宇宙ゴミ)になります。それをそのまま軌道上で稼働させる、というのが彼らの設計です。

各衛星の質量は20,000〜25,000kg(20〜25トン)。出力1MW級の発電能力で、約800基のGPUを搭載する計画です。

800基のGPUは何ができる規模か

1衛星=800GPUと言われてもピンと来ないかもしれません。例えるとこんな感覚です。

  • ChatGPTのような大規模AIサービスを動かす小規模クラスターに相当
  • NVIDIA H100で換算すれば、ある中堅企業が研究用に持つ計算資源と同等
  • これを数百〜数千機の衛星群に展開できれば、地上の中規模データセンター数十棟分に匹敵

もちろん最初の1機ですべてが完成するわけではありません。鍵は「コンステレーション(衛星群)」として展開できるかどうか。1機ではなく数百〜数千機が連携してこそ商用価値が生まれます。

タイムラインと現実的なリスク

同社のロードマップは次の通りです。

  • 2026年中:初衛星の打ち上げ(既存ロケット利用と推測される)
  • 2028年末まで:自社ロケットの初打ち上げ

ロケット開発は通常10年単位で計画されるものなので、2028年というスケジュールはかなり強気です。SpaceXのFalcon 9でさえ、初飛行までに約4年を要しました。

ただBhatt氏はRobinhoodで規制と業界慣行を一気に変えた実績があります。「無理だと言われたものを動かす」という点では実績のある人物だけに、市場の期待値も高めです。

競合・比較|SpaceX、Blue Origin、Starcloudとの違い

SpaceX/xAI:規模と垂直統合で圧倒

最大のライバルは言うまでもなくSpaceX/xAI連合です。2026年2月、両社は合併し評価額1.25兆ドル(約190兆円)の世界最大級の未公開企業になりました。

合併直前にSpaceXは最大100万基の軌道データセンター衛星をFCCに申請しています。Starlinkで培った打ち上げ・通信インフラに、xAIの計算需要が乗る形です。

Cowboy Spaceは「同じ垂直統合戦略を、もっと小さく・早く・特化型で実現する」狙いと言えます。

Blue Origin:Project Sunriseで参戦

Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏のBlue Originも、Project Sunriseで軌道データセンター市場に参入しました。最大51,600基のデータセンター衛星をFCCに申請しています。

さらに通信用のTeraWave(5,408基)と組み合わせ、宇宙でデータと電力を完結させる構想です。

Cowboy Spaceとの違いは、Blue Originが「巨人連合」であるのに対し、Cowboy Spaceは「機動力ある挑戦者」という立ち位置にある点です。

Starcloud:実機を最初に飛ばした先行者

もうひとつ重要な競合がStarcloudです。累計2億ドル(約300億円)を調達し、2025年11月にNVIDIA H100搭載衛星を実際に打ち上げ済みです。

同社は「商用顧客が確定している唯一のピュアプレイ」を自称しています。Cowboy Spaceは資金規模で上回りますが、実機での運用実績はStarcloudが先行しています。

つまり2026年現在、軌道DCの世界では「規模のSpaceX」「巨人のBlue Origin」「実績のStarcloud」「機動力のCowboy Space」という4極構造が形成されつつあります。

補足:月面DC「Lonestar」も存在

これらに加え、Lonestar Data Holdingsのように月面にデータセンターを置く挑戦者もいます。データ主権やアーカイブ用途に特化した、まったく別アプローチです。

軌道DCひとつ取っても、低軌道・静止軌道・月面と棲み分けが進んでおり、「宇宙DC」という言葉の中身は実は多様です。

日本市場への影響|NTTの宇宙DC研究と国産勢のポジション

NTTが進める「宇宙データセンタ」AI推論技術

日本でも宇宙データセンターの研究は静かに進んでいます。NTT R&D「宇宙データセンタ実現に向けたAI推論技術」と題する研究を公開しており、衛星上でのAI推論処理に焦点を当てています。

地上のNTTグループは2026年4月に「AIOWN」構想を発表し、国内データセンターを2033年度に3倍超(約1GW)に拡張する方針です。

つまりNTTは「地上の拡張」と「宇宙の研究」を並走させており、米国勢が宇宙でブレークしたとき、研究蓄積を生かして遅れずに追従できる体制を整えています。

国内事業者へのインパクト

軌道DCがビジネスとして立ち上がった場合、日本企業に想定される影響を整理してみましょう。

  • クラウド事業者:地上クラウドの一部ワークロードを軌道に移す検討が必要に。米AWSやAzureが軌道DC契約を結べば、日本のクラウドもAPIレベルで連動
  • 半導体・部品:耐放射線GPU、軌道用パワエレ、放熱材など宇宙仕様のAIインフラ部材に新市場が誕生
  • ロケット・打ち上げ:JAXA・三菱重工・IST・スペースワンなどが、軌道DC衛星を抱える顧客を取りに行ける可能性
  • 規制・通信:日本の周波数割当や軌道資源利用ルールが、国際的に追従を迫られる

例えば、ある日本のクラウド事業者が国内顧客に「AIの推論は宇宙でやります、レスポンスは衛星リンクで返します」と言える日が来るかもしれません。荒唐無稽に聞こえますが、Cowboy Spaceのような企業はそれを5年以内に現実にしようとしています。

電力危機の日本にとってのメッセージ

日本でもAI需要のために原発再稼働や送電網増強の議論が再燃しています。宇宙DCは「地上の電力問題を地上で解かなくてもよい」という新たな選択肢を提示します。

もちろん即座に解決策になるわけではありません。ただ「宇宙という選択肢が現実味を帯び始めた」事実は、日本のエネルギー政策の議論にも影響を与えそうです。

課題・批判|本当にビジネスとして成立するのか

レイテンシ(応答遅延)の問題

最大の懸念はレイテンシです。低軌道とはいえ衛星と地上の通信には数十ミリ秒の遅延が発生します。

学習用途のように長時間のバッチ処理ならまだ許容できますが、リアルタイム推論では地上DCに劣る可能性があります。Cowboy Spaceは推論より事前学習・バッチ処理に絞った市場戦略をとると見られています。

メンテナンスと寿命

もう一つの課題が故障時の対処です。地上ならエンジニアが現場に飛んで修理できますが、軌道上では原則として修理不可。寿命が来れば衛星ごと放棄するか、軌道離脱(再突入による焼却)させることになります。

つまり「使い捨て前提」のデータセンターになるわけで、コスト計算が地上とはまったく違います。打ち上げ単価がさらに下がらなければ採算が合いません。

軌道資源の枯渇とデブリ問題

3つ目が軌道資源の有限性です。SpaceX、Blue Origin、Cowboy Spaceが合計すれば数百万基の衛星を低軌道に置こうとしている計算になります。

これは軌道混雑とデブリ増加に直結する問題です。各国の宇宙機関や国連レベルでルール策定が急務になっており、ビジネスチャンスと同時に規制リスクもあります。

よくある質問(FAQ)

Q. なぜわざわざ宇宙にデータセンターを置く必要があるのですか?

A. 地上の電力と冷却が限界に近づいているからです。

AI需要の急増で、米国でも日本でも送電網への接続待ちが数年単位に。一方、宇宙では太陽光がほぼ常時得られ、真空中で放熱もしやすい。「地上で電力問題を解く」より「宇宙に逃がす」ほうが現実的、という発想です。Cowboy SpaceやSpaceX/xAIはこの仮説に大金を賭けています。

Q. Cowboy SpaceとSpaceXは敵対する関係ですか?

A. 直接的な競合ですが、当面は共存も想定されます。

軌道DC市場は今後数百億ドル規模に拡大すると見られており、現時点ではSpaceX 1社で需要を全部取れるわけではありません。Bhatt氏も「複数企業が成功できる市場規模」と発言しています。ただし2028年以降、SpaceXが本格的に軌道DCを商用展開したときに、どこまで棲み分けできるかは未知数です。

Q. 日本のAI企業はCowboy Spaceを使えますか?

A. 直接顧客になるのは数年先になりそうです。

初衛星打ち上げが2026年、商用ロケット運用は2028年末以降。本格的な商用サービス提供は早くても2029〜2030年と見られています。それまではNTT R&Dのような国内研究機関が、国産軌道DCの可能性を探る方向で対応していくと予想されます。

Q. 宇宙にGPUを置いて壊れないのですか?

A. 放射線対策と冷却設計が鍵になります。

軌道上は宇宙線や太陽フレアの影響で電子部品が故障しやすい環境です。耐放射線GPUの開発や、シールド設計、定期的な衛星更新が必須になります。Cowboy Spaceは詳細を非公開ですが、専用設計のペイロードを準備中と発表しています。

Q. デブリ問題はどう解決するのですか?

A. 寿命後の軌道離脱(再突入)が前提です。

低軌道衛星は5〜10年で大気圏に再突入させる計画が一般的です。Cowboy SpaceやBlue Originも同様の方針と見られます。ただ、数万〜数十万機規模になれば衝突リスクが桁違いに増えるため、国際的なルール整備が急務です。

Q. 個人投資家はCowboy Spaceの株を買えますか?

A. 現時点では未上場のため、一般投資家は購入できません。

シリーズB調達直後で、IPOの予定は現時点で発表されていません。Bhatt氏自身がRobinhoodで個人投資家フレンドリーな思想を持つだけに、将来的なIPOやトークン化など新しい資金調達手法の可能性は注目されています。

まとめ

  • Cowboy Spaceが2026年5月8日に2億7,500万ドル調達、評価額20億ドル
  • CEOはRobinhood共同創業者のBaiju Bhatt
  • 主導投資家はIndex Ventures、a16zやBreakthrough Energy Venturesも参加
  • ロケット第2段にデータセンターを統合、1機=800GPU・1MW級
  • 初衛星打ち上げ2026年、自社ロケット初打ち上げ2028年末予定
  • 背景にはAI電力需要の急増と地上のインフラ限界
  • 競合はSpaceX/xAI(100万基計画)、Blue Origin(5万基計画)、Starcloud(実機運用済み)
  • 日本ではNTT R&Dが宇宙DC関連研究を進行中
  • 課題はレイテンシ、メンテナンス不能性、デブリ・軌道資源の枯渇
  • 商用利用は早くても2029〜2030年、当面は動向ウォッチが現実的

次のアクション:自社で利用している生成AIサービスのインフラ調達戦略が、今後5年で地上ベース1択のままでよいか議論してみましょう。今週中に1度だけでも「宇宙DCの選択肢」を社内ロードマップに書き加えるだけで、視野が広がります。

参考文献

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