- AIが答える統計のうち、元の研究にたどり着けたのは40%だけだった
- 「ゾンビ統計」とは、出どころが怪しいのに使い回され続ける数字のこと
- ChatGPTは57%で最も高く、ClaudeとGeminiは38%だった
- 5つのAIが同じ数字を答えても、信頼できるとは限らない
- 数字を使う前に、元の研究まで自分でたどる習慣が大事
AIに「〇〇の割合は?」と聞いて、出てきた数字をそのまま資料に書いたことはありませんか? AI可視化サービスのTrakkrが2026年10月に公表した調査では、その数字の約6割で元の研究を確認できませんでした。
AIが出す統計の6割は出どころ不明だった
テックメディアのGIGAZINEが2026年10月30日に紹介したのは、Trakkrの調査です。タイトルは「ゾンビ統計」でした。
結果は、AIが示した統計のうち、元の研究に行き着けたのは40%だけというものでした。
残りの内訳は次のとおりです。
- 8%は、研究には行き着いたが、数字や条件が変わっていた
- 40%は、出典は示されたが、有料・削除・該当数値なしで確認できなかった
- 11%は、研究そのものが見つからなかった
- 1%は、出典リンクが読み込めなかった
つまり「確かな裏付けがある」と言えるのは、10個中4個ほどです。
「ゾンビ統計」とは何か
ゾンビ統計とは、出典が変わったり、古くなったり、そもそも存在しなかったりするのに、繰り返し使われ続ける数字のことです。
なぜ消えないのでしょうか。各ページが前のページの数字をコピーしているからです。AIはそのコピーされたページを読んで、多くの人に数字を届けています。
44%の営業統計の例
代表的な例が、「営業担当者のうち、1回のフォローアップで諦める人の割合は?」という質問です。
ChatGPT、Perplexity、Gemini、Claude、GoogleのAIによる概要の5つすべてが「44%」と答えました。ここまで揃うと、本当らしく見えます。
ところが、AIによる概要の引用元をたどると、2020年の営業会社の統計ページに行き着きました。そのリンク先は、2017年にフリーライターが書いた記事サンプルで、研究は引用されていませんでした。
94%の「第一印象はデザイン」の例
もう1つは「第一印象の94%はデザインで決まる」という有名な数字です。
元になったのは2004年の研究で、健康系ウェブサイトを拒否した理由についての15人の女性のコメントを分析したものでした。それが時間とともに別の主張に変わり、2026年のAIによる概要では「どのウェブサイトでも」と言い切られていました。
数字そのものより、対象や条件が抜け落ちていくことが問題です。
調査の方法とAIごとの結果
Trakkrの公式ページによると、調べ方は次のとおりです。
- 5つのAIに、数字を求める200の質問を投げた(日常的な160問と有名な統計40問)
- 回答に含まれた統計3,167件から、1,285件を無作為に抽出した
- 引用元を最大5階層までたどり、元の研究を探した
- AIで判定し、150件は人の目でも確認した
元の研究に行き着いた割合は、AIごとに差がありました。
- ChatGPTは57%
- Perplexityは46%
- Googleの「AIによる概要」は39%
- Geminiは38%
- Claudeは38%
ChatGPTが最も高く、1回答あたりの統計数も1.3件と最少でした。逆にClaudeは1回答あたり6.8件と最多でした。たくさん数字を出すAIほど、裏付けの薄い数字が混ざりやすい、という見方もできそうです。
AIは数字を「作って」はいない
誤解しやすい点があります。Trakkrによると、AIが数字を捏造することは少なく、引用したページの82%に、その数字が実際に載っていました。
問題は、そのページが元の研究ではなかったことです。元の研究へのリンクを示していたのは、全体の21%にとどまりました。
引用元の種類でも差が出ています。
- 調査会社は、62%が元の研究に到達
- 政府関連は、61%が到達
- 企業ブログは、37%が到達(引用全体の54%を占める)
- ニュースは、37%が到達
- 統計まとめサイトは、35%が到達
AIが企業ブログを頻繁に引用していて、そこの裏付け率が低い。これがゾンビ統計を生む大きな原因のようです。
他の調査と比べると
AIの出典の弱さは、別の調査でも指摘されています。
Ahrefsは、ChatGPTなど6つのAIが引用した約1,600万件のURLを調べました。AI経由の訪問は、Google検索経由より404ページ(存在しないページ)に届く確率が2.87倍高かったそうです。
また、欧州放送連合(EBU)とBBCの調査では、AIのニュース回答の45%に重大な問題がありました。Journalism.co.ukの報道によると、31%は情報源の問題でした。
この3つを並べると、次のように整理できます。
- Trakkrは、数字の出どころをたどれない問題を調べた
- Ahrefsは、リンク自体が存在しない問題を調べた
- EBUとBBCは、ニュースの出典づけの問題を調べた
どれも「AIの答えは、出典を確かめてから使うもの」という点で一致しています。
日本のユーザーと企業への影響
この調査は英語圏の質問が中心だと思われますが、日本でも他人事ではありません。ChatGPTもGeminiもClaudeも、日本で広く使われているからです。
たとえば、中小企業の企画担当者が、来週の会議資料に「顧客獲得コストは維持コストの5〜25倍」と書く場面を考えてみましょう。AIが自信満々に答えたので、そのまま載せました。
ところが、Trakkrの調査では、5つのAIすべてが引用したこの数字ですら、元の研究が見つかりませんでした。会議で「出典は?」と聞かれて、答えに詰まるかもしれません。
学生のレポートや、ブログ記事、広告のコピーでも同じです。数字は説得力が強い分、間違っていたときの信用の傷も大きくなります。
今日からできる3つの対策
Trakkrは、統計を使う側に3つのことを勧めています。
- 引用元をたどり、さらにその先のリンクも確認して、元の研究に行き着くまで続ける
- 調査の対象、人数、実施時期を確認する
- 複数のAIが同じ数字を答えても、裏付けとはみなさない
調査によると、変化の多くは数字そのものより、文脈の側で起きていました。「誰を対象にした数字か」を見るだけでも、危うさに気づけます。
数字を発信する側には、方法(標本、日付、出典リンク)を数字のそばに書くことも勧めています。AIに正しく引用されるための近道になります。
調査の限界も知っておこう
この調査にも限界があります。公式ページには、次の点が書かれています。
- APIで回答を取得しており、普段使うアプリの回答とは違う可能性がある
- 測定は2026年10月25日の1日だけ
- 有料や登録が必要な原典は「確認できなかった」扱い
また、「確認できなかった」は「間違っている」と同じ意味ではありません。結果は、Trakkr単独の調査として受け止めるのがよさそうです。
よくある質問(FAQ)
Q1. ゾンビ統計とは何ですか?
出典が変わったり、古くなったり、存在しなかったりするのに、繰り返し使われ続ける数字のことです。コピーを重ねるうちに、元の研究から離れていきます。
Q2. AIは数字を捏造しているのですか?
調査では、そうではないとされています。引用したページの82%に該当の数字が載っていました。ただし、そのページ自体が元の研究でないことが多いのです。
Q3. 一番信頼できるAIはどれですか?
今回の調査では、ChatGPTの57%が最高でした。ただし、それでも半数近くは確認できていません。どのAIでも出典の確認は必要です。
Q4. 5つのAIが同じ数字を答えたら安心ですか?
安心できません。44%の営業統計は5つのAIが一致しましたが、元の研究は見つかりませんでした。同じ古いページを読んでいるだけかもしれません。
Q5. 数字を確かめる最短の方法は?
AIが示したリンクを開き、そのページが引用している先まで進みます。調査会社や政府機関のページに行き着けば、比較的安心です。
まとめ
- AIが出した統計のうち、元の研究に行き着いたのは40%だった
- AIは数字を作るのではなく、元の研究ではないページから数字を拾っている
- 企業ブログや統計まとめサイトは、裏付け率が低い
- 複数のAIが一致しても、信頼の証拠にはならない
- 調査はTrakkr単独で、測定も1日のみという限界がある
次にAIから数字をもらったら、資料に書く前に、リンクを2つ先までたどってみてください。