この記事でわかること
- Tinderの新AI機能「Chemistry」とは何か
- スマホのカメラロール(写真フォルダ)をAIが分析する仕組み
- 「スワイプ疲れ」をAIで解決しようとする背景
- プライバシーへの影響と安全性の注意点
- 日本のマッチングアプリ市場への影響
「マッチングアプリで何百人もスワイプするのに疲れた…」。そんな声に応えるため、世界最大のマッチングアプリTinder(ティンダー)が大きく動きました。
2026年2月、Tinderの親会社Match Group(マッチグループ)のCEO、Spencer Rascoff(スペンサー・ラスコフ)氏が決算発表で新機能「Chemistry(ケミストリー)」を紹介しました。AIがあなたのスマホの写真や会話を分析して、ピッタリの相手を少数だけ提案してくれるという画期的な機能です。
TinderのAI新機能「Chemistry」とは?
Chemistry(ケミストリー)は、Tinderが開発中のAI搭載マッチング機能です。「Chemistry」は英語で「相性」という意味があります。
これまでのTinderは、表示されるプロフィールをひたすら右か左にスワイプして相手を探すスタイルでした。しかしChemistryでは、AIがあなたの趣味や好みを深く理解したうえで、「この人がピッタリですよ」と少数の候補だけを見せてくれます。
たとえるなら、100冊の本が並ぶ本棚から自分で選ぶのではなく、あなたの好みを知り尽くした店員さんが「これがおすすめです」と2〜3冊だけ渡してくれるイメージです。
Chemistryはどう動く?仕組みを解説
Chemistryには、大きく分けて2つの仕組みがあります。
仕組み1:AIとの会話で好みを把握
まず、ユーザーはAIからの質問に答えます。「休日はどう過ごす?」「好きな音楽のジャンルは?」といった質問を通じて、AIがあなたの性格や価値観を分析します。
従来のプロフィールでは「趣味:旅行」と書くだけでしたが、Chemistryは「どんな旅行が好きか」「誰と行きたいか」まで深く掘り下げます。
仕組み2:カメラロールのAI分析
これがChemistry最大の特徴です。ユーザーが許可した場合のみ、AIがスマホのカメラロール(写真フォルダ)を分析します。
たとえば、ハイキングの写真が多ければ「アウトドア好き」、料理の写真が多ければ「グルメ好き」と判断します。自己申告ではなく、実際の生活パターンからAIが趣味を読み取るわけです。
AIは写真から以下のような情報を推測します。
- 音楽の好み:コンサートやフェスの写真
- 旅行スタイル:行き先や旅の雰囲気
- 社交性:友人との集合写真の多さ
- ライフスタイル:ペット、スポーツ、食事の傾向
こうして作られた「あなたの興味マップ」をもとに、相性の良い相手を見つけ出します。
結果は「少数精鋭」で届く
Match GroupのCEOラスコフ氏は、Chemistryの結果について「何十人もの中からスワイプするのではなく、1〜2人だけのおすすめを届ける」と説明しています。量より質を重視するアプローチです。
なぜ今AIが必要?「スワイプ疲れ」問題
Tinderがここまで大胆にAIを導入する背景には、深刻な「スワイプ疲れ」問題があります。
ユーザー離れが止まらない
2025年第4四半期の決算によると、Tinderの状況は厳しいものでした。
- 月間アクティブユーザー数:前年比9%減少
- 新規登録者数:前年比5%減少
- Match Group全体の売上:8億7,800万ドル(約1,300億円)
売上自体は市場予測を上回りましたが、ユーザー数の減少は止まっていません。「何百人もスワイプしても良い出会いがない」という不満が、ユーザー離れの大きな原因です。
6,000万ドルのAI投資と5,000万ドルのマーケティング
この状況を打開するため、Match Groupは6,000万ドル(約90億円)をAIと新機能の開発に投資すると発表しました。さらに、TikTokやInstagramでのクリエイターキャンペーンに5,000万ドル(約75億円)のマーケティング費用をかけて「Tinderは変わった」とアピールする計画です。
つまり、Chemistryは単なる新機能ではなく、Tinderの生き残りをかけた戦略の柱なのです。
プライバシーは大丈夫?気になる安全性
「AIにスマホの写真を見せるなんて怖い」。そう感じる方も多いでしょう。ここでは、安全性について整理します。
ユーザーの許可が必要(オプトイン方式)
Chemistryのカメラロール分析は完全に任意です。ユーザーが明示的に「許可する」を選ばない限り、写真は一切見られません。これを「オプトイン方式」と呼びます。
専門家が指摘するリスク
一方で、プライバシーの専門家からは懸念の声も上がっています。
- 意図しない情報の流出:写真の背景に映り込んだ自宅の住所や、スクリーンショットに含まれる個人情報が分析される可能性
- データ保持ポリシーが不明:Tinderはまだ、分析した写真データをどのくらいの期間保存するか、第三者と共有するかを明確にしていない
- 本当の目的への疑問:ユーザー体験の向上が目的なのか、減少する売上を回復するための施策なのか
現時点ではオーストラリアでのテスト段階で、グローバル展開の時期は未定です。CEOのラスコフ氏は「十分なパフォーマンスが確認できてから広げる」と慎重な姿勢を見せています。
日本のマッチングアプリへの影響は?
日本のマッチングアプリ市場にも、この流れは無関係ではありません。
国内市場は1,094億円規模に成長
2026年の日本のマッチングアプリ市場規模は約1,094億円と予測されています。前年の1,023億円から約7%の成長です。Pairs(ペアーズ)やwith(ウィズ)など、すでにAIを活用したマッチング機能を持つアプリも増えています。
日本でのカメラロール分析は受け入れられる?
ただし、日本ではプライバシーへの意識が非常に高いため、カメラロール分析のような機能がそのまま受け入れられるかは疑問です。
日本のマッチングアプリには「シークレットモード」や「スクリーンショット防止機能」など、プライバシー保護を重視した機能がすでに多く実装されています。写真フォルダへのアクセスを求めるChemistryのような機能は、日本市場ではカスタマイズが必要になると考えられます。
一方で、東京都が運営する「TOKYOふたりSTORY」のようにAIマッチングを自治体が推進する動きもあり、AI×マッチングの流れ自体は日本でも加速しています。
まとめ
TinderのAI新機能「Chemistry」について、ポイントを振り返ります。
- ChemistryはAIが写真と会話から相性を分析する新機能
- カメラロール分析はユーザーの許可が必要(オプトイン方式)
- 大量スワイプではなく少数の厳選候補を提案するスタイル
- 背景にはTinderのユーザー数9%減少という深刻な課題
- Match Groupは6,000万ドル(約90億円)をAI開発に投資
- 現在はオーストラリアでテスト中、グローバル展開は未定
- 日本ではプライバシー意識が高く、そのままの導入は難しい可能性
- ただしAI×マッチングの流れは日本でも加速中
AIがマッチングアプリの世界を大きく変えようとしています。「スワイプ疲れ」に悩むユーザーにとっては期待の機能ですが、プライバシーとの兼ね合いが今後のカギになりそうです。

