Theorizerとは?AIが論文から科学法則を自動発見

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

taolis.net X note Voicy YouTube

この記事でわかること

  • Theorizer(セオライザー)とは何か、誰が作ったのか
  • 数千本の論文ろんぶんから科学法則を自動で見つける仕組み
  • 精度88〜90%で約3,000の法則を生成した驚きの実力
  • 科学研究のスピードがどう変わるか
  • 今後の課題と注意点

「新しい研究分野を勉強したいけど、論文が多すぎて読みきれない…」。研究者なら誰もが感じる悩みです。

この問題に正面から取り組んだのが、AI研究の名門Allen Institute for AI(Ai2)が2026年2月に公開したTheorizer(セオライザー)です。

Theorizerは、数千本の論文を自動で読み、そこに隠れている科学法則を見つけて「理論」として整理してくれるAIシステムです。これまで研究者が何か月もかけていた作業を、わずか15〜30分で終わらせます。

Theorizerとは?基本をやさしく解説

Theorizerは、Allen Institute for AI(Ai2)が開発したマルチLLMフレームワークです。LLM(大規模言語モデル)とは、ChatGPTのように人間の言葉を理解して文章を書けるAIのこと。「マルチ」というのは、複数のLLMを組み合わせて使うという意味です。

使い方はとてもシンプルです。研究者が「○○について理論を作って」と質問を入力するだけ。あとはTheorizerが自動で論文を集め、読み込み、法則を見つけてくれます。

たとえるなら、超優秀な研究アシスタントが図書館の本を全部読んで、「こういう法則がありますよ」とレポートにまとめてくれるイメージです。

Ai2ってどんな組織?

Allen Institute for AI(Ai2)は、Microsoftの共同創業者ポール・アレン氏が2014年に設立した非営利ひえいりのAI研究機関です。シアトルに本拠地を置き、オープンソースのAIモデル「OLMo」や論文検索エンジン「Semantic Scholar」で知られています。

Ai2は以前にも「CodeScientist」という、AIが実験じっけんを自動設計・実行するシステムを発表しています。Theorizerはその次のステップとして、理論を自動で組み立てる部分に挑戦したものです。

Theorizerの仕組み:3つのステップ

Theorizerは、大きく分けて3つのステップで動きます。

ステップ1:論文を集める

まず、ユーザーの質問に関連する論文を最大100本自動で検索します。Ai2が運営する学術検索エンジン「Semantic Scholar」を使って、無料で読める論文のPDFを集めます。

さらに、集めた論文の参考文献さんこうぶんけんリストからも関連する論文を見つけて、調査範囲を広げます。ちょうど「芋づる式」に情報を集めるイメージです。

ステップ2:データを抜き出す

次に、集めた論文から重要な情報だけを抜き出します。

ここがTheorizerの賢いところです。質問の内容に合わせて「どんな情報を探すか」という抽出ルールを自動で作ります。たとえば「学習方法の効果」がテーマなら、「どんな方法を使ったか」「結果はどうだったか」「対象は何人か」といった項目を自動で決めて、各論文からデータを整理します。

この作業にはGPT-4.5 miniが使われ、大量の論文を効率こうりつよく処理します。

ステップ3:理論を組み立てる

最後に、抜き出したデータを統合とうごうして科学的な理論を作ります。

Theorizerが出力する理論は、3つの要素で構成されています。

  • 法則(LAW):「Xが増えるとYも増える」のような科学的な主張
  • 適用範囲(SCOPE):「ただし○○の条件のときに限る」という制約
  • 根拠(EVIDENCE):「この論文のこの実験で確認された」という証拠

つまり、ただ「こういう傾向がある」と言うだけでなく、どこまで当てはまるか、なぜそう言えるかまでセットで教えてくれるのです。さらに、すでに有名な法則と重複していないかもチェックして、新しい発見だけを残すフィルタリングも行います。

精度88〜90%!約3,000の法則を自動生成

Theorizerの実力はどれほどのものでしょうか。Ai2が公開した検証けんしょう結果を見てみましょう。

大規模テストの結果

Ai2はTheorizerを使い、13,744本の論文から約3,000の理論を生成しました。100個の幅広い質問をもとに、AI・自然言語処理分野の論文を対象にしたテストです。

その結果、生成された法則の精度は88〜90%に達しました。つまり、AIが見つけた法則の約9割が、実際の論文データに裏付けられていたということです。

「未来の論文」でも検証

さらに面白いのは「バックテスト」という検証方法です。

2024年6月までの論文だけを使って理論を作り、その後に発表された論文で「予測が当たっていたか」を確認しました。これは株式投資の検証けんしょうと似た方法です。結果、生成した理論の約半数が、その後の研究でも正しいと確認されました。

論文を読まずに作った理論との差

Ai2は「論文を読んで理論を作る方法」と「AIの学習済み知識だけで理論を作る方法」も比較しました。

論文を読む方が、具体性・根拠の確かさ・多様性のすべてで上回りました。特に新しい発見を目指す場合、精度が0.34から0.61に大幅アップ。やはり最新の論文を実際に読むことが大事だとわかります。

科学研究はどう変わる?

Theorizerの登場は、科学研究のやり方を大きく変える可能性があります。

新しい分野に入るスピードが激変

これまで研究者が新しい分野を勉強するには、何か月もかけて論文を読む必要がありました。Theorizerを使えば、15〜30分で「この分野にはこういう法則がある」という地図が手に入ります。

たとえるなら、知らない街を歩き回って覚えるか、最初にGoogleマップを見るかの違いです。

分野を超えた発見が生まれやすく

科学の大きなブレイクスルーは、異なる分野の知見を組み合わせることで生まれることが多いです。Theorizerは大量の論文を横断的に分析できるため、人間には気づきにくい分野をまたいだパターンを発見できる可能性があります。

医薬品や材料科学への応用

Ai2は今後、薬学やくがくや材料科学など、膨大な論文が存在する分野への応用を計画しています。たとえば「この化合物はどんな条件で効果を発揮するか」といった法則を、数千本の論文から自動で見つけることが期待されています。

課題と注意点

もちろん、Theorizerにも限界はあります。

  • 無料で読める論文に限られる:有料の論文は読めないため、分野によっては情報が偏る可能性がある
  • AI・自然言語処理分野で最適化:現時点ではオープンアクセスの論文が多いAI分野で最もよく機能する。他分野への汎用性はんようせいはまだ検証中
  • あくまで「仮説」:生成された理論は出発点であり、最終的な真実ではない。人間の研究者による検証が必須
  • ポジティブな結果に偏りがち:科学論文は「うまくいった研究」が多く出版される傾向があるため、Theorizerの法則もこのかたよりを受け継ぐ可能性がある
  • コストが高い:論文を読んで理論を作る方法は、AIの知識だけで作る方法の約7倍のコストがかかる

Ai2もこれらの限界を認めており、「Theorizerの出力は仮説として扱い、必ず人間が検証してください」と注意を促しています。

まとめ

Theorizer(セオライザー)について、ポイントを振り返ります。

  • TheorizerはAllen Institute for AI(Ai2)が2026年2月に公開したAIシステム
  • 数千本の論文を自動で読み、科学法則を「理論」として整理してくれる
  • 「法則・適用範囲・根拠」の3点セットで出力するため、信頼性が高い
  • 13,744本の論文から約3,000の理論を生成し、精度88〜90%を達成
  • 研究者が新分野を理解するのに何か月もかかっていた作業を15〜30分に短縮
  • コードやデータセットはすべてオープンソースで公開されている
  • ただし出力はあくまで仮説であり、人間による検証は必須

AIが実験を自動化する「CodeScientist」に続き、理論の構築まで自動化する「Theorizer」が登場しました。科学研究の全工程ぜんこうていがAIで加速する時代が、すぐそこまで来ています。

参考文献

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です