この記事でわかること
- Theorizer(セオライザー)とは何か、誰が作ったのか
- 数千本の論文から科学法則を自動で見つける仕組み
- 精度88〜90%で約3,000の法則を生成した驚きの実力
- 科学研究のスピードがどう変わるか
- 今後の課題と注意点
「新しい研究分野を勉強したいけど、論文が多すぎて読みきれない…」。研究者なら誰もが感じる悩みです。
この問題に正面から取り組んだのが、AI研究の名門Allen Institute for AI(Ai2)が2026年2月に公開したTheorizer(セオライザー)です。
Theorizerは、数千本の論文を自動で読み、そこに隠れている科学法則を見つけて「理論」として整理してくれるAIシステムです。これまで研究者が何か月もかけていた作業を、わずか15〜30分で終わらせます。
Theorizerとは?基本をやさしく解説
Theorizerは、Allen Institute for AI(Ai2)が開発したマルチLLMフレームワークです。LLM(大規模言語モデル)とは、ChatGPTのように人間の言葉を理解して文章を書けるAIのこと。「マルチ」というのは、複数のLLMを組み合わせて使うという意味です。
使い方はとてもシンプルです。研究者が「○○について理論を作って」と質問を入力するだけ。あとはTheorizerが自動で論文を集め、読み込み、法則を見つけてくれます。
たとえるなら、超優秀な研究アシスタントが図書館の本を全部読んで、「こういう法則がありますよ」とレポートにまとめてくれるイメージです。
Ai2ってどんな組織?
Allen Institute for AI(Ai2)は、Microsoftの共同創業者ポール・アレン氏が2014年に設立した非営利のAI研究機関です。シアトルに本拠地を置き、オープンソースのAIモデル「OLMo」や論文検索エンジン「Semantic Scholar」で知られています。
Ai2は以前にも「CodeScientist」という、AIが実験を自動設計・実行するシステムを発表しています。Theorizerはその次のステップとして、理論を自動で組み立てる部分に挑戦したものです。
Theorizerの仕組み:3つのステップ
Theorizerは、大きく分けて3つのステップで動きます。
ステップ1:論文を集める
まず、ユーザーの質問に関連する論文を最大100本自動で検索します。Ai2が運営する学術検索エンジン「Semantic Scholar」を使って、無料で読める論文のPDFを集めます。
さらに、集めた論文の参考文献リストからも関連する論文を見つけて、調査範囲を広げます。ちょうど「芋づる式」に情報を集めるイメージです。
ステップ2:データを抜き出す
次に、集めた論文から重要な情報だけを抜き出します。
ここがTheorizerの賢いところです。質問の内容に合わせて「どんな情報を探すか」という抽出ルールを自動で作ります。たとえば「学習方法の効果」がテーマなら、「どんな方法を使ったか」「結果はどうだったか」「対象は何人か」といった項目を自動で決めて、各論文からデータを整理します。
この作業にはGPT-4.5 miniが使われ、大量の論文を効率よく処理します。
ステップ3:理論を組み立てる
最後に、抜き出したデータを統合して科学的な理論を作ります。
Theorizerが出力する理論は、3つの要素で構成されています。
- 法則(LAW):「Xが増えるとYも増える」のような科学的な主張
- 適用範囲(SCOPE):「ただし○○の条件のときに限る」という制約
- 根拠(EVIDENCE):「この論文のこの実験で確認された」という証拠
つまり、ただ「こういう傾向がある」と言うだけでなく、どこまで当てはまるか、なぜそう言えるかまでセットで教えてくれるのです。さらに、すでに有名な法則と重複していないかもチェックして、新しい発見だけを残すフィルタリングも行います。
精度88〜90%!約3,000の法則を自動生成
Theorizerの実力はどれほどのものでしょうか。Ai2が公開した検証結果を見てみましょう。
大規模テストの結果
Ai2はTheorizerを使い、13,744本の論文から約3,000の理論を生成しました。100個の幅広い質問をもとに、AI・自然言語処理分野の論文を対象にしたテストです。
その結果、生成された法則の精度は88〜90%に達しました。つまり、AIが見つけた法則の約9割が、実際の論文データに裏付けられていたということです。
「未来の論文」でも検証
さらに面白いのは「バックテスト」という検証方法です。
2024年6月までの論文だけを使って理論を作り、その後に発表された論文で「予測が当たっていたか」を確認しました。これは株式投資の検証と似た方法です。結果、生成した理論の約半数が、その後の研究でも正しいと確認されました。
論文を読まずに作った理論との差
Ai2は「論文を読んで理論を作る方法」と「AIの学習済み知識だけで理論を作る方法」も比較しました。
論文を読む方が、具体性・根拠の確かさ・多様性のすべてで上回りました。特に新しい発見を目指す場合、精度が0.34から0.61に大幅アップ。やはり最新の論文を実際に読むことが大事だとわかります。
科学研究はどう変わる?
Theorizerの登場は、科学研究のやり方を大きく変える可能性があります。
新しい分野に入るスピードが激変
これまで研究者が新しい分野を勉強するには、何か月もかけて論文を読む必要がありました。Theorizerを使えば、15〜30分で「この分野にはこういう法則がある」という地図が手に入ります。
たとえるなら、知らない街を歩き回って覚えるか、最初にGoogleマップを見るかの違いです。
分野を超えた発見が生まれやすく
科学の大きなブレイクスルーは、異なる分野の知見を組み合わせることで生まれることが多いです。Theorizerは大量の論文を横断的に分析できるため、人間には気づきにくい分野をまたいだパターンを発見できる可能性があります。
医薬品や材料科学への応用
Ai2は今後、薬学や材料科学など、膨大な論文が存在する分野への応用を計画しています。たとえば「この化合物はどんな条件で効果を発揮するか」といった法則を、数千本の論文から自動で見つけることが期待されています。
課題と注意点
もちろん、Theorizerにも限界はあります。
- 無料で読める論文に限られる:有料の論文は読めないため、分野によっては情報が偏る可能性がある
- AI・自然言語処理分野で最適化:現時点ではオープンアクセスの論文が多いAI分野で最もよく機能する。他分野への汎用性はまだ検証中
- あくまで「仮説」:生成された理論は出発点であり、最終的な真実ではない。人間の研究者による検証が必須
- ポジティブな結果に偏りがち:科学論文は「うまくいった研究」が多く出版される傾向があるため、Theorizerの法則もこの偏りを受け継ぐ可能性がある
- コストが高い:論文を読んで理論を作る方法は、AIの知識だけで作る方法の約7倍のコストがかかる
Ai2もこれらの限界を認めており、「Theorizerの出力は仮説として扱い、必ず人間が検証してください」と注意を促しています。
まとめ
Theorizer(セオライザー)について、ポイントを振り返ります。
- TheorizerはAllen Institute for AI(Ai2)が2026年2月に公開したAIシステム
- 数千本の論文を自動で読み、科学法則を「理論」として整理してくれる
- 「法則・適用範囲・根拠」の3点セットで出力するため、信頼性が高い
- 13,744本の論文から約3,000の理論を生成し、精度88〜90%を達成
- 研究者が新分野を理解するのに何か月もかかっていた作業を15〜30分に短縮
- コードやデータセットはすべてオープンソースで公開されている
- ただし出力はあくまで仮説であり、人間による検証は必須
AIが実験を自動化する「CodeScientist」に続き、理論の構築まで自動化する「Theorizer」が登場しました。科学研究の全工程がAIで加速する時代が、すぐそこまで来ています。


