SLMとは?小さいAIが大企業で選ばれる理由

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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この記事でわかること

  • SLM(小規模言語モデル)とは何か、LLMとの違い
  • なぜ今、大企業がSLMを選ぶのか
  • 法律・金融・医療の現場でどう使われているか
  • 代表的なSLMモデル(Phi・Gemma・Mistralなど)の特徴
  • SLMのメリット・デメリットと今後の展望

「ChatGPTみたいなAIを自社で使いたいけど、機密きみつデータを外部に送るのは怖い…」。そんな悩みを持つ企業が今、注目しているのがSLM(Small Language Model=小規模言語モデル)です。

SLMは、ChatGPTのような巨大AIの「ミニ版」。サイズが小さいぶん、自社のパソコンやサーバーだけで動かせるのが最大の特徴です。2026年に入り、法律・金融・医療といった機密性きみつせいの高い業界で導入が急加速しています。

SLMとは?LLMとの違いをやさしく解説

SLMを理解するには、まずLLM(Large Language Model=大規模言語モデル)との違いを知るのが近道です。

LLMは、ChatGPTやGeminiのように何でもこなせる「万能型」のAIです。インターネット上の膨大なデータで学習しており、パラメータ(AIの脳の細胞のようなもの)の数は数千億〜数兆個にもなります。

一方、SLMはパラメータ数が数億〜100億個程度。LLMの100分の1以下です。たとえるなら、LLMが「百科事典をまるごと暗記した博士」だとすれば、SLMは「ひとつの専門分野を極めたプロ」です。

具体的な違いを表にまとめます。

LLM(大規模言語モデル)

  • パラメータ数:数千億〜数兆
  • 得意なこと:何でも幅広くこなす
  • 動かす場所:クラウド(外部サーバー)
  • コスト:高い
  • 代表例:GPT-5、Gemini、Claude

SLM(小規模言語モデル)

  • パラメータ数:数億〜100億
  • 得意なこと:特定の分野で高精度
  • 動かす場所:自社サーバーやスマホでもOK
  • コスト:LLMの10〜30分の1
  • 代表例:Phi-4、Gemma、Mistral 7B

なぜ今、大企業がSLMを選ぶのか

2026年、SLMの市場規模は約9.3億ドル(約1,400億円)に達し、2032年には54.5億ドル(約8,100億円)に成長すると予測されています。なぜこれほど注目されているのでしょうか。

理由1:データを外に出さなくていい

ChatGPTのようなLLMを使うと、入力したデータがクラウド(外部のサーバー)に送られます。これは患者かんじゃのカルテや裁判の書類など、絶対に外部に漏れてはいけないデータを扱う業界では大きな問題です。

SLMなら、自社のサーバーだけで動くのでデータが外に出ません。2026年現在、企業のAI利用の75%がローカル環境でのSLM運用に移行しているという調査結果もあります。

理由2:コストが圧倒的に安い

70億パラメータのSLMを動かすコストは、700億〜1,750億パラメータのLLMと比べて10〜30分の1です。ある調査では、SLMの導入でAIにかかる費用を最大75%削減できたという報告があります。

たとえるなら、LLMが「高級レストランのフルコース」だとすれば、SLMは「専門店の一品料理」。必要なものだけを低コストで手に入れられるイメージです。

理由3:ウソをつきにくい

LLMには「幻覚げんかく(ハルシネーション)」という弱点があります。もっともらしいウソを自信たっぷりに答えてしまう現象です。

SLMは特定分野の正確なデータだけで学習しているため、この問題が起きにくいです。たとえば医療分野に特化したSLM「Diabetica-7B」は、糖尿病とうにょうびょうの質問においてGPT-4を上回る正確さを示しました。

法律・金融・医療での活用事例

SLMは特に「間違いが許されない」業界で力を発揮しています。

法律:契約書チェックの精度94%

法律に特化した70億パラメータのSLMは、契約書のレビューで精度94%を達成しました。これはGPT-5の87%を上回る数字です。

弁護士べんごしが何時間もかけていた契約書チェックを、SLMが数分で終わらせます。しかも、データは事務所のサーバーから出ないので、守秘義務しゅひぎむを守りながらAIを活用できます。

金融:ローン審査の公平性向上

金融機関では、ローン審査にSLMを導入する動きが広がっています。金融データに特化したSLMは、審査基準を統一して判断のばらつきを減らします。

銀行はGDPR(EU一般データ保護規則)やSOX法(企業会計の法律)など厳しい規制を受けます。SLMなら社内だけでデータを処理できるので、規制をクリアしながらAIを使えるのです。

医療:診断支援と電子カルテ要約

医療現場では、SLMが電子カルテ(EMR)の内容を要約したり、診断のヒントを提示したりしています。医療用語に特化して学習しているため、一般的なLLMより正確です。

アメリカではHIPAA(患者のプライバシーを守る法律)の関係で、患者データを外部クラウドに送ることが難しい医療機関いりょうきかんが多くあります。SLMなら院内のサーバーで完結するので、この問題を解決できます。

代表的なSLMモデル5選

2026年現在、注目されている主なSLMモデルを紹介します。

1. Microsoft Phi-4(38億パラメータ)

Microsoftが開発した最新さいしんのSLMです。わずか38億パラメータながら、推論や多言語対応で70〜90億パラメータのモデルに匹敵する性能を発揮します。高品質な合成データを使って学習しているのが特徴です。

2. Google Gemma(20億/70億パラメータ)

Googleが公開したオープンソースのSLMです。画像や音声も処理できるマルチモーダル対応が強みで、スマートフォンでもリアルタイムに動作します。安全性を重視した設計で、企業利用に適しています。

3. Mistral 7B(73億パラメータ)

フランスのMistral AI社が開発したモデルです。73億パラメータながら、はるかに大きなモデルを上回るベンチマークスコアを記録。翻訳やリアルタイム対話システムに強く、コミュニティから「最も効率的で信頼性の高いSLM」と評価されています。

4. Meta Llama 3.2(10億/80億パラメータ)

Meta社のオープンソースモデルです。10億パラメータ版はスマートフォンでも動作し、4ビット量子化でわずか650MBのメモリで実行できます。オフラインの翻訳や音声アシスタントに最適です。

5. Qwen 2(各種サイズ)

中国のAlibaba社が開発したSLMです。多言語対応に優れ、日本語を含むアジア言語の処理能力が高いのが特徴。ビジネス文書の要約やカスタマーサポートの自動化で活用されています。

SLMのデメリットと注意点

もちろん、SLMにも弱点はあります。導入を考えるなら知っておくべきポイントです。

  • 汎用性はんようせいが低い:特定分野では強いが、「何でもできる」わけではない。雑談や創作文章はLLMの方が得意
  • 専門データの準備が大変:SLMを効果的に使うには、その分野の正確なデータを大量に集める必要がある。特に医療や法律のデータは入手が難しい
  • 最新情報への対応が遅い:学習データを更新しないと古い知識のまま。定期的な再学習さいがくしゅうが必要
  • 複雑な質問が苦手:複数の分野にまたがる質問や、長い文脈を必要とするタスクはLLMに軍配が上がる

つまり、SLMは「LLMの代わり」ではなく、「LLMと使い分ける」のが正しい考え方です。重要なのは、自分の業務に合ったモデルを選ぶことです。

まとめ

SLM(小規模言語モデル)について、ポイントを振り返ります。

  • SLMはパラメータ数が少ない「小さなAI」で、特定分野に特化した高精度を持つ
  • 自社サーバーで動くので機密データが外に漏れない
  • LLMの10〜30分の1のコストで運用できる
  • 幻覚げんかく(ハルシネーション)が起きにくい
  • 法律では契約書レビューで精度94%、医療では診断支援に活用
  • 代表的なモデルはMicrosoft Phi-4、Google Gemma、Mistral 7Bなど
  • 2026年の市場規模は約9.3億ドル、2032年には54.5億ドルに成長予測
  • LLMの代わりではなく「使い分け」が正しい活用法

「大きいAIが正義」という時代は終わりつつあります。自社のデータを守りながら、必要な分野で高い精度を出す。SLMは、AIを「安全に・安く・正確に」使いたい企業にとっての最適解になりつつあります。

参考文献

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