- アメリカの大学職員が、宗教上の理由で仕事でのAI利用を免除された
- 理由は「人文主義(ヒューマニズム)の信念に反する」というもの
- 根拠は1964年公民権法第7編という、職場の宗教的配慮を求める法律
- ソフトウェア技術者の先行事例や、企業が備えるポイントも整理
- 日本の職場ではどう考えればいいのかも解説
「会社からAIを使えと言われたけれど、どうしても使いたくない」と感じたことはありませんか?アメリカでは、その理由が「宗教」として認められた事例が出てきました。この記事では、何が起きたのか、なぜ認められたのか、日本の職場に関係あるのかを順に解説します。
何が起きたのか:大学職員がAI利用の免除を獲得
ケンタッキー大学のリサーチ・アドミニストレーター(研究費や研究事務を担当する職員)、デビッド・ダーマン氏(45歳)が、仕事でのAI利用について宗教上の免除を申請し、認められました。
報じたのはGIGAZINEです。もとになったのは、2026年10月26日付のReligion News Serviceの記事とされています。
ダーマン氏は人文主義者(神ではなく、人間の理性や倫理を大切にする考え方の人)です。AIに頼ると、考えることも決めることもAIに預けてしまう。それは自分の信念に反する、と説明しています。
さらにダーマン氏は、物事を考え抜く過程は道徳的な人間として成長するために大切だと語っています。それをAIに任せると、道徳的な主体としての自分の力が弱まるという考えです。
免除はどう認められた?手続きと範囲
支援したのはアメリカヒューマニスト協会
ダーマン氏を支えたのは、アメリカヒューマニスト協会です。弁護士のアレクサンドリア・ハイスケンス氏が、1964年公民権法第7編(雇用主に、従業員の宗教に合わせた配慮を求める法律)に基づく書簡を作りました。
その後、大学の関係者と面談しています。話し合いはとても友好的で、大学は速やかに配慮を認めました。所属部署に過度な負担は生じないと判断されたそうです。
免除されるのは「自分の仕事でのAI利用」
免除の範囲は、すべてのAIから逃げられるというものではありません。免除されるのは、自分の業務を終わらせるためのAI利用です。
一方で、会議への出席や、AIを使う同僚との共同作業は求められる場合があります。AI関連のサイトに資料を出すことも、求められる可能性があります。
弁護士は、連邦裁判所がヒューマニズムを宗教に当たると判断していると述べています。だから、ヒューマニストは連邦法のもとで、ほかの宗教団体と同じ権利を持つという説明です。協会は、ヒューマニストとしては初のAI利用の免除だと見ています。
先行事例:ソフトウェア技術者のErin Maus氏
じつは、AI利用の免除はこれが初めてではありません。ノースカロライナ州のソフトウェア技術者、Erin Maus氏が、2026年5月に雇用主から宗教上の免除を得たと報じられています。
Maus氏はカトリック教徒ではなく、ユニテリアン・ユニバーサリストです。Computerworldの記事によると、ローマ教皇レオ14世の回勅(教皇が信者に向けて出す公式の文書)『Magnifica Humanitas』のAIに慎重さを求める一節を、根拠のひとつにしたとされています。
Maus氏は「自分でコードを書き、手作業でレビューしている」と話しています。
ここで、あるソフトウェア会社で働くエンジニアを想像してみてください。上司から「全員がAIコーディングツールを使うこと」と言われました。そのエンジニアが信仰を理由に断り、手で書き続ける。Maus氏の働き方は、まさにそういう形です。
なぜ認められるのか:アメリカの法律の仕組み
鍵になるのは第7編です。誠実に持っている宗教的信念が仕事の要件とぶつかるとき、雇用主は「過度の負担」にならない範囲で配慮する必要があります。
HR Diveによると、信仰に基づく異議は、組織的な教義に裏づけられている必要はありません。本人が誠実に信じていると確認できれば足りるとされています。
裁判所や規制当局は、信仰が本物かどうかを疑うことに慎重です。さらに、2023年のGroff v. DeJoy判決で、企業が「過度の負担」を証明するハードルは上がりました。
では、異議にはどんなものがあるのでしょうか。HR Diveは、次のような類型を挙げています。
- AIの環境負荷やエネルギー消費への懸念
- 人間が自分で決める力を失うことへの懸念(とくに自分で動くタイプのAI)
- AIが人の仕事を奪うことや、違法な使い方への懸念
参考になる過去の例もあります。2012年、西バージニア州の炭鉱労働者が、生体認証の手形スキャナーへの宗教的な異議を理由に解雇されました。長い裁判の末に、50万ドル超の賠償が認められています。
企業はどう備える?他のケースとの比較
宗教的な配慮は、AIが初めてではありません。ワクチン義務化、日曜勤務、ヒジャブの着用など、似た争いが前からありました。AIはそこに加わった新しいテーマです。
比較すると、違いが見えてきます。
- ワクチン義務化は、対象がはっきりしていて、宗教上の免除の前例も多い
- 生体認証スキャナーは、特定の機器を避ければよく、代わりの手段を作りやすい
- AI利用は、メールや検索、表計算にも入り込んでいて、どこまで避けられるか線を引きにくい
HR Diveは、企業向けの対応として次のような点を挙げています。
- 宗教的配慮の依頼を、一貫して扱う社内窓口を設ける
- 異議の中身を具体的に聞き、代わりの案を一緒に考える
- 信仰が本物かどうかを、安易に疑わない
- 理由を含め、判断の過程を文書に残す
また、教皇の回勅とAI免除の関係を論じたGizmodo Japanの記事では、弁護士が「こうした主張が出てくるのは避けられない」とみています。
日本の職場への影響は?
日本には、第7編のように宗教的配慮を雇用主に求める同じ法律はありません。そのため、同じことがそのまま日本で起きるとは限りません。日本での扱いは、今回の調査では確認できませんでした。
ただ、AIの職場導入そのものは進んでいます。労働政策研究・研修機構(JILPT)は、OECDと連携してAIの職場導入が働き方に与える影響を調べる企業調査を行いました。全国2.5万社が対象で、期間は2026年7月3日から10月20日です。
日本企業が「全社員にAIを使わせる」と決めたとき、信条や価値観を理由に断る人が出る可能性はあります。そのとき、一律に命令するのか、話し合うのか。アメリカの事例は、考えるきっかけになります。
たとえば、AIの利用件数が人事評価に入る会社を想像してみてください。使いたくない社員は、評価で不利になるかもしれません。そうなる前に、会社の側が窓口やルールを決めておくことが大事です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「AIが嫌だ」と言えば、誰でも免除されますか?
いいえ。HR Diveによると、本人が誠実に信じているかどうかが問われます。また、雇用主に過度の負担がないことも条件です。
Q2. 免除されたら、AIと完全に無関係で働けますか?
ダーマン氏の場合、免除は自分の業務でのAI利用に限られます。会議への出席や、AIを使う同僚との共同作業は求められる場合があります。
Q3. ヒューマニズムは本当に宗教として扱われるのですか?
弁護士は、連邦裁判所がヒューマニズムを宗教に当たると判断していると述べています。そのため、ほかの宗教団体と同じ権利があるという説明です。
Q4. 日本でも同じように免除を求められますか?
アメリカの第7編にあたる法律は日本にありません。日本での扱いは今回の調査では確認できませんでした。働く場所の就業規則や、社内の相談窓口を確かめてください。
まとめ
- ケンタッキー大学の職員が、人文主義の信念を理由にAI利用の免除を得た
- ソフトウェア技術者のErin Maus氏の先行事例もある
- アメリカでは第7編が根拠で、信仰の誠実さと過度の負担がポイント
- 日本には同じ法律はないが、AI義務化のルール作りは他人事ではない
自分の職場のAI利用ルールを、一度見直してみましょう。