「ロボットがAIで自分で考えて動く時代」が、いよいよ日本でも始まろうとしています。
日本政府は2025年12月、人工知能に関する初めての国家計画を決定しました。その目玉が「フィジカルAI」への大規模投資です。5年間で約1兆円という巨額の予算を使い、工場や災害現場で活躍するAIロボットの開発を進めます。
この記事では、フィジカルAIとは何か、なぜ日本政府がこれほどの投資をするのか、私たちの生活にどう関わるのかを、やさしく解説します。
この記事でわかること
- フィジカルAIの意味と仕組み
- 日本政府が1兆円を投じる理由
- ソフトバンクやNVIDIAなど参加企業の動き
- 工場・災害対応での具体的な活用例
- 日本企業が世界で勝てる可能性
フィジカルAIって何?中学生にもわかるように解説
フィジカルAIとは、AIがロボットの「目」と「脳みそ」になって、現実の世界で自分で考えて動く技術のことです。
これまでのロボットは、人間がプログラムした通りにしか動けませんでした。たとえば工場のロボットは「部品Aを右に10センチ動かす」と決められた作業を繰り返すだけ。もし部品がちょっとずれた場所にあったら、お手上げでした。
フィジカルAIを使うと、ロボットはカメラやセンサーで周りの状況を「見て」、AIが「判断して」、最適な動きを自分で決めて「動く」ことができます。つまり、人間のように臨機応変に対応できるロボットが生まれるのです。
たとえるなら、今までのロボットは「レシピ通りにしか作れない料理人」。フィジカルAIを搭載したロボットは「冷蔵庫の中身を見て、自分でメニューを考えられる料理人」のようなものです。
日本政府が1兆円を投じる理由
2025年12月23日、日本政府は「人工知能基本計画」を閣議決定しました。これは日本初のAI国家戦略です。
経済産業省は、この計画の中で5年間で約1兆円の支援を打ち出しました。2026年度の予算案だけで約3,000億円が盛り込まれています。財源にはGX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債が使われます。
では、なぜこれほどの投資をするのでしょうか?理由は大きく2つあります。
理由1:深刻な人手不足への対策
日本は少子高齢化が進み、働ける人がどんどん減っています。特に工場や介護、物流の現場では人手不足が深刻です。AIロボットが人の代わりに働けるようになれば、この問題を大きく緩和できます。
理由2:日本の製造業の強みを活かせる
ChatGPTのような「言葉のAI」では、アメリカや中国に大きく差をつけられました。しかし、ロボットや製造技術では日本は世界トップクラスです。フィジカルAIは、まさに日本の強みが活きる分野なのです。
ソフトバンク・NVIDIAが動く!新会社設立の全貌
この国家プロジェクトには、日本を代表する企業が続々と参加しています。
ソフトバンクが中心となる新会社構想
ソフトバンクを中心に、日本企業10社以上が出資する新会社の設立が2026年春に予定されています。Preferred Networks(プリファードネットワークス)など約100人のエンジニアが参加し、約1兆パラメーターという国内最大級のAIモデルの開発を目指します。
ちなみにパラメーターとは、AIが学習する「知識の量」のようなもの。1兆パラメーターは、世界の最先端AIと同じ規模です。
NVIDIAとの連携
アメリカの半導体大手NVIDIAも、日本のフィジカルAI戦略に深く関わっています。NVIDIAは2026年1月のCES(世界最大の家電見本市)で、フィジカルAI向けの新しいプラットフォーム「NVIDIA Cosmos」やロボット用の「NVIDIA Isaac GR00T」を発表しました。
ソフトバンクはNVIDIAと提携して国家レベルのAIインフラを構築する計画も進めています。さらに、産業用ロボット大手の安川電機とも協業を発表しました。
工場・災害対応で変わる私たちの生活
フィジカルAIは、具体的にどんな場面で使われるのでしょうか?
工場での活用
たとえば自動車工場では、バラバラに置かれた部品をロボットが自分で見つけて、正しい位置に組み立てることができるようになります。今までは人間が1つ1つ部品を並べ直す必要がありましたが、フィジカルAIなら不要です。
また、仮想空間(デジタルツイン)で工場のラインをまるごと再現し、ロボットの動きを事前にシミュレーションすることも可能です。これにより、実際の工場での立ち上げ期間を大幅に短縮できます。
災害対応での活用
地震や台風などの災害が多い日本では、危険な場所での救助活動が課題です。フィジカルAIを搭載したロボットなら、がれきの中を自律的に移動し、被災者を発見する作業を安全に行えます。
政府は災害対応のほか、農業、林業、医療、介護、物流などの分野でもフィジカルAIの活用を計画しています。
物流・食品産業での活用
形がバラバラな野菜や果物、サイズが違う段ボールなど、これまでロボットには難しかった作業も、フィジカルAIなら対応できます。AIが物体の形や傾きを瞬時に認識して、最適なつかみ方を判断するのです。
ファナック・安川電機など日本企業の強み
フィジカルAIの分野で、日本企業には大きなアドバンテージがあります。
ファナック:ロボットがロボットを作る技術
産業用ロボット世界大手のファナックは、NVIDIAと協業してフィジカルAIの実用化を進めています。ファナックはすでに「ロボットがロボットを作る」という高度な自動化を実現しており、ここにAIを組み合わせることで、さらに柔軟な生産が可能になります。
安川電機:世界トップのモーター技術
安川電機は、ロボットの動きを正確に制御する「サーボモーター」で世界トップシェアを持っています。NVIDIAのAIモデル「FoundationPose」を採用し、未知の物体でもその位置と傾きを瞬時に認識して正確につかむ技術を開発しました。
日本の「実績と信頼性」が武器
ChatGPTなどの言語AIではアメリカ・中国が先行していますが、フィジカルAIでは日本の製造業が何十年もかけて積み上げてきた実績と信頼性が大きな強みになります。ロボットは「動けばいい」のではなく、安全に正確に動くことが求められるからです。
海外の動きと日本の勝ち筋
フィジカルAIは世界的な競争が始まっています。NVIDIAのジェンスン・ファンCEOはCES 2026で「フィジカルAIの本格展開」を宣言し、50兆ドル(約7,500兆円)規模の市場になると予測しています。
この巨大市場で日本が勝つためのポイントは3つあります。
- ハードウェアの強み:日本のロボットメーカーは世界シェアの大きな部分を占めています
- 現場のデータ:日本の工場には何十年分もの稼働データが蓄積されています
- 官民連携:政府の1兆円支援で、スタートアップから大企業まで一体となった開発が可能です
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)も2025〜29年度で計205億円をロボット基盤モデルのデータ整備に投じる計画を発表。早稲田大学やトヨタ自動車が参加する「AIロボット協会(AIRoA)」に委託して、研究開発を加速させます。
まとめ:フィジカルAIで日本はどう変わる?
フィジカルAI構想のポイントを振り返りましょう。
- フィジカルAIは、AIがロボットの目と脳になり、現実世界で自律的に動く技術
- 日本政府は5年で1兆円の支援を決定。2025年12月に初のAI国家計画を閣議決定した
- ソフトバンクを中心に10社以上で新会社を設立し、1兆パラメーター規模のAIモデルを開発
- ファナック・安川電機など、日本の製造業の強みがフィジカルAIで活きる
- 工場、災害対応、物流、農業、医療など幅広い分野で実用化が進む
- NVIDIAが予測する50兆ドル市場で、日本企業にも大きなチャンスがある
言葉のAIでは出遅れた日本ですが、フィジカルAIは「ものづくり大国」の底力を発揮できる分野です。2026年は「フィジカルAI元年」と呼ばれるようになるかもしれません。今後の動きに注目です。


